韓国法には4つの遺産分割方法!在日韓国人の方の遺産分割と相続手続きを解説
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韓国法には4つの遺産分割方法!在日韓国人の方の遺産分割と相続手続きを解説
日本経営ウィル税理士法人顧問 親泊伸明
日本では、亡くなられた方(被相続人)の財産の分割について、遺言書がない場合には、「遺産分割協議」により定めることになります。 では、韓国籍である在日韓国人の方が亡くなられた場合、遺産分割はどのようにして行われるのでしょうか。今回は、韓国籍の方の遺産分割の流れや手続き方法について詳しく解説します。
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この記事の目次
相続人確定後の遺産分割方法
1. 指定分割
2. 協議分割
3. 調停分割
4. 審判分割
遺産分割後の相続手続き
1. 指定分割の場合
2. 協議分割の場合
3. 調停分割の場合
4. 審判分割の場合
5.相続税の申告と相続税の納付
相続人確定後の遺産分割方法
韓国法には遺産分割の方法が4つあり、1.指定分割、2.協議分割、3.調停分割、4.審判分割の4つの方法が、民法等で定められています。これらの分割方法は、日本民法の場合と同様です。
それでは、遺産分割の方法についてそれぞれ詳しくみていきます。
1 指定分割
指定分割とは、被相続人の遺言があり、遺産分割の方法について具体的に指定されている場合には、遺言に示された被相続人の意思が尊重され、その指定に基づいて分割する方法です。
2 協議分割
協議分割とは、「遺言書が無い」場合、または、遺言書があっても遺産分割に関する具体的な指定がない場合には相続人全員で話し合って分割を決める方法です。
3 調停分割
相続人の間で遺産分割協議がまとまらない場合や、協議に応じようとしない相続人がいる場合には、家庭裁判所(家庭法院)に対して、遺産分割の調停を申立て、裁判所(法院)を通じて、遺産分割を話し合う方法です。
4 審判分割
調停分割でも、遺産分割の話し合いがまとまらない場合があります。
纏まらない場合には遺産分割調停は不成立となり、遺産分割の審判となり裁判官が遺産の分け方を決めることになります。これを審判分割といいます。
このように、遺産分割の方法については、日本の場合も韓国の場合も同様の方法が定められています。
遺産分割後の相続手続き
遺産分割が決まったあとはどのような手続きが必要なのでしょうか。ここでは、それぞれの遺産分割の方法に応じて、遺産の分割が決まった後の手続きについて解説します。
1.指定分割の場合
被相続人の遺言があり、遺産分割の方法について具体的に指定されている場合には、遺言の指定に基づいて分割することになります。
公正証書遺言では不要ですが、自筆証書遺言の場合には、家庭裁判所において検認の手続きを受ける必要があります。公正証書遺言又は、検認を受けた自筆証書遺言に基づいて、相続財産の相続人への名義変更手続きを行います。
遺言書記載の相続財産が一義的に明確でないと、形式的審査権しかない法務局で、相続登記が受け付けられない場合がありますので、遺言書を作成する場合には、相続財産が一義的に明確となるように注意して記載する必要があります。
なお、韓国にも相続財産がある場合には、日本の家庭裁判所の検認手続きでは韓国での相続手続きができないので、韓国の家庭裁判所(家庭法院)でも検認手続きを行う必要があります。
公正証書遺言であれば、それが日本で作成されたものであったとしても翻訳のうえ、翻訳証明やアポスティーユなどを付けることにより韓国でも相続手続きが可能です。
しかしながら、韓国の登記所や金融機関において手続きに関する知識が不足していることなどにより、実務上、問題が生じるケースも見られますので、韓国に多額の財産を所有されている場合には、韓国財産については、韓国において韓国語による公正証書遺言を作成しておくことをお勧めしています。
2.協議分割の場合
遺言書が無い場合や、遺言書があっても遺産分割に関する具体的な指定がない場合には、相続人全員で話し合って分割を決めることになります。遺産分割が決まると、遺産分割協議書を作成し相続人の全員が署名して実印により押印を行います。相続人に未成年者や行為制限者がいれば、家庭裁判所に特別代理人の選任を申請しなければなりません。
遺産分割協議書は日本語で作成しますが、韓国にも財産がある場合には韓国財産の相続手続き(相続人への名義変更手続き)をスムーズに行うため、韓国財産のみの遺産分割協議書を韓国語(ハングル)で作成する方が、翻訳の手間が省け、翻訳証明も省略できることになります。
遺産分割協議書ができますと、それに基づいて相続財産の相続人への名義変更手続きを行います。不動産については司法書士に依頼して相続登記を行うことが多いと思います。
銀行預金や証券会社に預けている有価証券については、各金融機関に所定の用紙があることが多いので、その用紙を取り寄せて名義変更の手続きを行います。
相続人全員が集まって、遺産分割協議書を作成する際に、事前に金融機関から名義書換に必要な所定の書類を取り寄せておくとともに、司法書士にも同席をしてもらい、相続登記に必要な書類も用意しておくことで、遺産分割協議書への署名押印や遺産分割に必要な手続きを一度に済ませることができます。
3.調停分割の場合
相続人の間で遺産分割協議がまとまらない場合や、協議に応じようとしない相続人がいる場合には、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てて、裁判所を通じて、遺産分割を話し合うことになります。
裁判所で話し合いが纏まりますと、裁判所が調停調書を作成して交付してくれますので、この調停調書に基づいて、相続財産の相続人への名義変更を行います。
実務的には、不動産登記が関係する条項については、登記が問題なく行えるように、登記を担当していただく司法書士を通じて、事前に法務局に確認をしておき、裁判所に法務局の了解を得た内容で作成して貰えるように意見を述べておくことが重要です。有価証券や預金の名義変更などについては、裁判所作成の条項で問題になることは余りないようですが、念のために金融機関に条項を確認してもらう方法も考えられるところです。
韓国にも財産がある場合、2022年7月5日の韓国国際私法改正法の施行後は、原則として、韓国の裁判所(法院)に管轄権がありますので、日本の裁判所の調停調書では、相続財産の名義変更を行うことはできません。
ただ、日本で調停が成立したということは、相続人間で話し合いがついたということですから、韓国の財産については、調停成立の際に、併せて相続人間で遺産分割協議書も作成しておき、その協議書に基づいて名義変更手続きを行うことが合理的です。
4.審判分割の場合
調停分割でも、遺産分割の話し合いがまとまらない場合は、遺産分割の審判となり裁判官が遺産の分け方を決めることになります。これが審判分割です。
審判分割になると、裁判所が審判書を作成して交付してくれますので、この審判書に基づいて、相続財産の相続人への名義変更を行います。
不動産登記が関係する条項については、調停分割の場合と同様に、法務局の了解を得た内容で作成してもらえるように意見を述べておくことが重要です。
韓国にも財産がある場合ですが、2022年7月5日の韓国国際私法改正法の施行後は、韓国の裁判所(法院)に管轄権がありますので、日本の裁判所の審判書では、相続財産の名義変更を行うことはできません。そのため、改めて、韓国の裁判所(法院)で審判を求める必要があります。
なお、国際私法改正法の施行前の審判書であっても、日本の裁判所の審判書で相続財産の名義変更を行うためには、韓国の裁判所(法院)で執行(承認)判決を得ることが必要です。
5.相続税の申告と相続税の納付
相続人への名義変更手続きと並行して、相続税の申告の準備を進めます。申告書が完成しますと相続人全員が署名をして税務署に提出をします。
日本の場合、相続税の申告期限は、相続が発生したことを知った日の翌日から10か月以内とされています。また、相続税の納付しなければならない期限も同日です。なお、この相続税の申告期限及び納付期限は、相続財産の分割が纏まった場合でも纏まらず話し合いが続いている場合でも変わりはありません。
申告書の提出に合わせて相続税の納付を行います。手持ちの現金や相続した現金で納税ができる場合はよいですが、それらで足りない場合には、どのようにして納税するかが大きな問題となります。
有価証券を処分して納税するのであれば、納税に間に合うように相続人への名義書換手続きを行い名義変更後、売却の手続きを進める必要があります。
不動産を売却して納税する場合も同様ですが、不動産の売却で売り急ぐことは不利益になることが多いので、とりあえず延納を申請しておいてタイミングをみて売却して納税することも考えられます。
不動産や有価証券を売却して納税した場合には、相続税とは別に譲渡所得に対する申告が必要な場合もあり、譲渡所得に対する所得税などの税負担も発生する場合もあります。
このように、相続財産の名義変更ができた場合には、売却代金で相続税を納めることもできますが、遺産分割が纏まらない場合でも相続税は納付しなくてはなりませんので、納税資金の手当てに、さらに苦労することになります。
まとめ 韓国にも相続財産がある場合や相続人が韓国にいる場合
韓国にも相続財産がある場合や、韓国にも相続人がいる場合もあります。
被相続人が在日韓国人など韓国の非居住者で制限納税義務者に該当する場合で、韓国にも相続財産がある場合には、その財産額が一定額(基礎控除である2億ウォン)を超える場合には、韓国にも相続税の申告が必要となります。韓国の場合、相続税の申告期限は、相続が発生した日の属する月の月末から9か月以内とされており、納税期限も同日となります。
また、韓国にも相続人がいて、その相続人が、被相続人の所有していた含み益(取得時より値上がりしているような場合)のある有価証券などを相続すると、相続財産である有価証券などの総額が一定(1億円)の金額を超える場合には、時価で譲渡したものと見做して譲渡所得税を課税する出国税(国外転出時課税)の対象になる場合もありますので注意が必要です。
このように、日本だけではなく、韓国にも相続財産がある場合や相続人がいる場合には、相続の手続き(申告や相続財産の名義変更など)も日本と韓国の両国で行わなくてはならず、手続きが増加するとともに、専門的な知識が求められることになりますので、両国の制度や税法・民法に長けた専門家に依頼されることをお勧めします。
相続人が韓国にいる場合や韓国にも相続財産がある場合の相続については、実際に支援させていただいた事例を基に「日韓国際相続の支援事例/在日韓国人・帰化された方の相続vol.12」で詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
このレポートの解説者
親泊伸明(しんぱくのぶあき)
日本経営ウィル税理士法人顧問
税理士・社会保険労務士・一級建築士・行政書士
昭和52年、菱村総合税務会計事務所に入社。
平成14年、税理士法人関西合同事務所(現・日本経営ウィル税理士法人) を設立し代表社員に就任。その後、税理士法人日本経営と合併し、日本経営ウィル税理士法人の代表社員に就任。
令和元年12月、同法人顧問に就任。NIHON KEIEI (INDIA) PRIVATE LIMITEDの取締役も務める。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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