投稿日:2026年7月17日

老健の類型転換と稼働率向上のポイント  経営改善につながる戦略の考え方

介護老人保健施設(以下、老健)を取り巻く経営環境は、大きな転換期を迎えています。

物価や人件費の上昇、人材不足への対応に加え、介護報酬改定では老健本来の役割を果たす施設がより評価される方向へ制度が見直されています。こうした変化に対応し、持続的な経営改善を実現するためには、これまでと同じ運営を続けるだけでは十分とは言えません。

老健の経営改善というと、類型転換や加算取得を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、重要なのは「どの類型を目指すか」を考えることではありません。

自施設は地域のなかでどのような役割を担う施設を目指すのか。その役割を実現するために、どのような経営戦略を選択するのかが、これからの老健の経営改善では問われています。

本記事では、老健経営を取り巻く環境の変化を整理するとともに、自施設に適した戦略の考え方や、持続的な経営改善につなげるポイントを解説します。

老健経営は「現状維持」が難しい時代へ

高齢者は増える一方で、介護人材は減少している

今後しばらくは高齢者人口の増加が続き、介護サービスへの需要も高まると予測されています。一方で、生産年齢人口は減少を続けており、介護従事者の確保はこれまで以上に難しくなっています。

つまり、「利用者は増えるが、支える人材は減る」という状況が進んでいきます。

そのため、人材不足を前提とした施設運営や業務改善を進めなければ、これまでと同じサービスを維持することも難しくなります。

老健だけが競合ではなくなっている

施設経営を考えるうえで、競合環境も変化しています。

これまで老健は、他の老健や特別養護老人ホームとの比較で考えられることが多くありました。しかし近年は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の整備が進み、高齢者の住まいの選択肢は大きく広がっています。

利用者や家族は、「老健だから選ぶ」のではなく、「自分たちに合った施設だから選ぶ」という視点で施設を比較しています。

つまり、老健も地域のなかでどのような役割を果たす施設なのかを明確にしなければ、選ばれ続けることは難しくなっています。

制度改正が求めているのは「役割を果たす老健」

介護報酬改定では、老健本来の役割である在宅復帰支援や在宅療養支援を評価する方向性が年々強まっています。

実際に、上位類型の施設割合は増加し、基本型は減少しています。これは単に加算を取得する施設が増えたというだけではなく、制度が老健本来の機能を重視する方向へ変化していることを示しています。

また、収支差率が改善しているといっても、それはすべての施設の経営が改善していることを意味するわけではありません。

地域ニーズに応え、自施設の役割を明確にした施設と、従来の運営を続ける施設では、今後さらに経営状況の差が広がる可能性があります。

類型転換はゴールではなく経営改善を実現するための手段

老健経営では、「まずは類型を上げたい」と考える施設も少なくありません。

確かに、類型が上がれば基本報酬は増加します。しかし、類型転換だけを目的にしてしまうと、本来目指すべき施設運営との間にズレが生じることがあります。

例えば、在宅復帰率やベッド回転率を高めるために退所者数を増やしても、新規入所が追いつかなければ稼働率は低下します。報酬単価が上がっても空床が増えれば、施設全体の収益は期待したほど改善しません。

反対に、稼働率だけを重視して長期利用が増えれば、老健に求められる在宅復帰支援機能を十分に果たせなくなる可能性があります。

つまり、重要なのは「どの類型になるか」ではありません。

まず考えるべきなのは、自施設が地域でどのような役割を担う施設になるのかという経営戦略です。

その戦略を実現するために必要な結果として、類型転換や加算取得を位置付けることが重要になります。

さらに、戦略を検討する際には、現在の施設の状況を客観的に把握することも欠かせません。

例えば、

  • 現在の稼働率は十分に確保できているか
  • 在宅復帰率やベッド回転率はどの水準にあるか
  • 地域ではどのような利用者ニーズが増えているか
  • 病院や居宅介護支援事業所との連携は十分か

こうした現状を整理したうえで、どの方向へ進むのが自施設にとって最適なのかを考える必要があります。

経営戦略が曖昧なまま類型転換だけを進めても、一時的に点数や報酬は改善するかもしれません。しかし、地域ニーズや施設の強みに合っていなければ、その状態を維持することは難しくなります。

だからこそ、類型転換はゴールではなく、施設の将来像を実現するための手段として考えることが重要です。

老健の経営改善につながる4つの経営戦略

老健に求められる役割は、地域によって異なります。

急性期病院が多く医療依存度の高い利用者が多い地域もあれば、在宅復帰を支える機能が求められる地域、長期利用ニーズが高い地域もあります。そのため、すべての施設が同じ方向を目指す必要はありません。

重要なのは、自施設が置かれた環境や強みを踏まえ、最も効果を発揮できる戦略を選択することです。

ここでは、老健の経営戦略を4つの方向性に整理して紹介します。

重度化モデル

重度化モデルは、医療依存度の高い利用者を積極的に受け入れることで、地域における医療・介護の受け皿としての役割を担う戦略です。

近年は病院の在院日数短縮が進み、医療的ケアが必要な状態で退院する高齢者も増えています。一方で、その受け皿となる施設は十分とは言えません。

こうした地域では、看護師や医師との連携体制を充実させ、重度利用者への対応力を高めることが施設の強みになります。

病院との連携が強化されれば、新規入所の安定にもつながりやすくなります。また、重度者への対応体制を整備することで、制度上の評価にも結び付きやすくなります。

一方で、この戦略では看護体制や医療機関との連携体制など、高い専門性が求められます。人材育成や職種間連携も含めた体制づくりが前提となります。

特養型モデル

地域によっては、在宅復帰率やベッド回転率を高めること自体が難しい場合もあります。

例えば、高齢化率が高く、在宅サービスが十分に整備されていない地域では、利用者が長期間入所するケースも少なくありません。

このような地域では、長期利用を前提に高い稼働率を維持しながら経営を安定させる戦略が現実的になる場合があります。

ただし、国は老健に在宅復帰支援機能を期待しており、今後も施設機能の分化が進むことが予想されます。

そのため、このモデルを選択する場合でも、「今後5年、10年先も同じ環境が続く」と考えるのではなく、地域ニーズや制度改正の方向性を踏まえながら、中長期的な施設のあり方を検討することが重要です。

サービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム連携モデル

サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)や有料老人ホームが多い地域では、これらの施設との連携を強化する戦略も有効です。

在宅復帰率やベッド回転率を維持しながら、退所先としてサ高住や有料老人ホームを活用することで、病院からの受入れと退所の流れを円滑にできます。

このモデルでは、施設内のケアだけではなく、地域とのネットワークづくりも重要になります。

居宅介護支援事業所や地域包括支援センター、近隣施設との関係づくり、家族への説明、病院への営業活動など、施設の外に向けた取組が経営成果を左右します。

利用者の生活を地域全体で支えるという視点が、このモデルでは特に重要になります。

地域包括型モデル

地域包括型モデルは、老健本来の役割を最も重視した戦略です。

病院から在宅へ戻る利用者を支援するため、入所前から退所後まで一貫した支援体制を構築します。

入所前のアセスメントで生活課題を整理し、多職種で在宅復帰に向けた目標を共有する。その目標に基づいてリハビリやケアを実施し、退所後も通所リハビリや訪問サービスなどと連携しながら生活を支えていきます。

このモデルでは、リハビリ職、看護職、介護職、相談員など、多職種が同じ目標を共有することが欠かせません。

また、新規入所を継続的に確保するためには、病院や居宅介護支援事業所との関係づくりも重要になります。

求められるレベルは高くなりますが、地域包括ケアシステムの中核を担う老健として、その価値を発揮しやすい戦略と言えるでしょう。

戦略に「正解」はない

4つの戦略のうち、どれが最も優れているということではありません。

同じ地域であっても、法人の理念や人材、これまで築いてきた地域との関係によって、選ぶべき戦略は変わります。

重要なのは、「どの類型を目指すか」から考えるのではなく、「地域からどのような役割を期待されているのか」「自施設はどのような価値を提供できるのか」という視点から戦略を組み立てることです。

その方向性が明確になれば、類型転換や加算取得も、戦略を実現するための手段として位置付けやすくなります。

経営改善を実現するには、日々のKPI管理が欠かせない

経営戦略を決定しても、日々の運営がその方向へ向かわなければ成果にはつながりません。そのためには、施設の現状を客観的に把握できる指標(KPI)を継続的に管理することが重要です。

老健では、在宅復帰・在宅療養支援等指標を毎月確認している施設も多いでしょう。しかし、数値を報告すること自体が目的になってしまうと、本来の改善にはつながりません。

例えば、在宅復帰率やベッド回転率は、施設運営の「結果」を示す指標です。一方で、入所前後訪問指導や退所前後訪問指導は、その結果につながるプロセスが適切に実施されているかを確認する指標と言えます。また、リハビリ職や支援相談員の配置、重度者への対応状況などは、必要な体制が整っているかを評価するものです。

つまり、これらの指標は個別に存在しているのではなく、「体制」「プロセス」「結果」が一連の流れとしてつながっています。

例えば、在宅復帰率が伸び悩んでいる場合でも、単純にリハビリ量を増やせば改善するとは限りません。入所前のアセスメントが十分に行われているか、退所後の生活を見据えた支援計画が作成されているか、多職種間で目標が共有されているかなど、結果につながるプロセスを確認することが必要です。

また、現場職員が施設の目標を理解していなければ、日々のケアも経営戦略と結び付きません。「今月あと何人が在宅復帰すれば目標を達成できるのか」「新規入所を何件確保する必要があるのか」といった目標を実人数で共有することで、経営目標を現場の行動へ落とし込みやすくなります。

経営層だけが数字を把握するのではなく、現場も同じ目標を共有することが、戦略を実現する第一歩になります。

戦略を定着させるには、現場の理解と段階的な取組が重要

どれほど優れた戦略であっても、現場が納得しなければ継続的な成果には結び付きません。

新たな取組を進める際には、「業務負担が増えるのではないか」「今のやり方を変える必要があるのか」といった不安や抵抗感が生まれることがあります。特に介護現場では、利用者の安全を最優先に考えるからこそ、変化に慎重になることも少なくありません。

そのため、一度に施設全体で取り組むのではなく、まずは一部のフロアやユニットで試行し、成果や課題を検証しながら段階的に展開する方法が有効です。

また、新しい業務を追加するだけではなく、不要な業務や過剰な支援を見直すことも重要です。利用者自身ができることまで職員が行っていないか、記録業務が重複していないかなどを見直し、「業務を増やす」のではなく「業務全体を最適化する」という視点が求められます。

小さな成功事例を積み重ねながら施設全体へ広げていくことで、現場の理解も得やすくなり、戦略は組織に定着していきます。


まとめ

老健を取り巻く環境は、人材不足や制度改正、地域ニーズの変化などにより、大きく変わりつつあります。

こうした環境のなかでは、「類型を上げること」や「加算を取得すること」を目的にするのではなく、自施設が地域のなかでどのような役割を担うのかを明確にし、その実現に向けた経営戦略を描くことが重要です。

戦略が決まれば、必要な類型や管理すべきKPI、営業活動、人材育成の方向性も自然と見えてきます。

一方で、地域の状況や法人の強みは施設ごとに異なるため、すべての施設に共通する正解はありません。

だからこそ、自施設の現状を客観的に分析し、地域ニーズや将来の制度動向を踏まえながら、自施設に最も適した戦略を選択することが、持続的な経営につながると言えるでしょう。

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