「クリニック 赤字」という言葉で情報を探している方の多くは、自院の収支や資金繰りに漠然とした不安を感じているのではないでしょうか。病院全体では医業利益ベースで7割超が赤字という調査結果もあり、クリニックも同様の構造的な課題を抱えています。
本レポートでは、赤字経営のクリニックがどの程度存在するのかという実態を整理したうえで、資金繰りが悪化する原因と、会計上は黒字でも現金が不足する仕組みを解説します。そのうえで、赤字を防ぎ黒字化へ転じるための具体的な改善策をお伝えします。
赤字経営のクリニックはどのくらい多いのか
まず、クリニックの赤字がどの程度一般的な現象なのかを、医療機関全体の状況とあわせて整理します。
開業から黒字化までは時間がかかるのが一般的
クリニックの収入は「患者数×診療単価」で決まりますが、開業直後は地域での認知度が低く、患者数が計画どおりに伸びないことも珍しくありません。一方で家賃や人件費といった固定費は開業当初から発生します。
開業から一定期間は収入が固定費を下回りやすく、赤字期間を経て黒字化していくのが一般的な流れです。この時期を乗り越えるための運転資金を確保できているかどうかが、経営の安定を左右します。
開業後数年は資金繰りが不安定になりやすい
開業時に借り入れた設備投資資金の返済は、長期にわたって毎月の固定支出となります。厚生労働省の「医療施設調査」では、一般診療所の施設数は増加傾向にある一方、地域によって患者数や受診状況には差があります。そのため、クリニック経営では全国平均よりも、自院の診療圏における患者数や受療動向を把握することが重要です。
患者数を安定的に確保できない期間は、借入返済と固定費が重なり、資金繰りが不安定になりやすい傾向があります。特に借入金の返済が続く開業初期から中期にかけては、注意が必要です。
廃止・休止する診療所も一定数存在する
帝国データバンクの調査では、2024年の医療機関(病院・診療所・歯科医院)の休廃業・解散件数は過去最多となりました。経営環境の厳しさや後継者不足などを背景に、医療機関でも廃業が増加しています。
医療機関では、地域医療の維持や後継者不足などを背景に、経営改善が課題となるケースが指摘されています。また、厚生労働省も医療提供体制の維持や医師の高齢化、事業承継を地域医療における重要課題として挙げています。
クリニックの資金繰りが悪化する主な原因
一般的にクリニックの資金繰りが悪化するのは、前述のような開業時の立ち上げ時期に加えて、事業のペースを落とし始めた縮小期、あるいは事業拡大のために積極的な投資をしている時期などが考えられます。どの事業ステージでも、事業の収支が悪化するのはめずらしいことではありません。例えば、次のようなケースが考えられます。
| 要因 | 具体的な内容 | 影響 |
| 収入側 | 集患不足、診療単価の低下、算定漏れ | 売上が計画に届かない |
| 支出側 | 固定費の過大、設備投資の過剰負担 | 収入減に対する耐性が低い |
| 資金面 | 運転資金の不足、借入金返済の負担 | 赤字を補填しきれない |
集患不足で収入が計画に届かないケースが多い
患者数は、地域の人口動態や医療需要、医療機関の立地など複数の要因によって左右されます。また、厚生労働省は地域ごとの人口構造の変化に応じて医療需要も変化すると示しており、地域特性を踏まえた診療体制や情報発信が重要です。
収入が計画に届かない最大の要因は集患不足であり、これが赤字の起点になりやすい点を押さえておく必要があります。
人件費やテナント代など固定費が高すぎる
家賃、人件費、リース料、システム利用料などの固定費は、患者数の多少にかかわらず毎月一定額が発生します。都市部の駅近テナントを高額な家賃で借りたり、高額な医療機器を多数リースしたりすると、固定費が収入に対して高額になります。
固定費÷売上で計算する固定費率が高い状態では、患者数や単価が少し下がっただけでも赤字に転落しやすくなります。開業時の投資規模を、想定患者数と単価に見合った範囲に抑えることが重要です。
運転資金の準備不足で赤字を補填しきれない
開業直後で手元資金が潤沢でない時期や、過剰投資で経営のバランスが崩れた際には、資金ショートが起こりやすくなります。診療報酬の入金には後述するタイムラグがあるため、その間の支払いをまかなう運転資金が欠かせません。
最低でも3か月分程度の運転資金をストックしておくことで、突発的な支払いや一時的な赤字にも慌てず対応できる資金体質を構築できます。
会計上は黒字でも資金が足りなくなる仕組み
ところで、赤字経営と資金繰りは、必ずイコールではありません。赤字経営でも収支がプラスになることもあれば、黒字経営でも収支がマイナスになることもあります。大きく利益が出ているのに資金が残らないということは、クリニック経営ではよく見られることです。
診療報酬は入金まで約2か月のタイムラグがある
クリニックは毎月レセプトをまとめて国保連や支払基金に提出し、審査を経て通常2か月後に診療報酬が入金されます。窓口での自己負担金は当月現金化(一部カード決済などのケースもありますが)されますが、保険請求分は現金化が大きく遅れる構造です。
売上が計上されても実際の入金は2か月後になるため、その間の支払いが資金繰りを圧迫します。この制度上の前提を理解することが、資金管理の出発点になります。
医療機器の減価償却で利益と現金がズレる
減価償却費は会計上の費用ですが、その時点では現金支出を伴いません。そのため損益計算書上の利益と、実際の手元資金の増減にはズレが生じます。
一方で、減価償却の裏側にある開業時の借入金の返済やリース料の支払いは、現金支出です。設備投資の負担は、減価償却費・リース料・借入金の返済という複数の側面から資金繰りに影響を与える点を意識する必要があります。
借入金の返済が利益を圧迫して手元資金が残らない
借入金の元本返済は、損益計算書上の費用にはなりませんが、現金支出です。会計上は利益が出ていても、元本返済を差し引くと手元に現金がほとんど残らないという状況が起こり得ます。
このように損益計算書上の利益と資金繰りは、一致しないことが多いです。収支ベースで黒字ラインを考える際には、診療単価×患者数から変動費、減価償却費を除く固定費、税金、借入金の元本返済を差し引いて、ちょうどトントンになる患者数が何人か。これを把握しておくことで、実態に即した経営判断ができます。
赤字が続くとクリニックに起こるリスク
赤字を放置すると、資金面だけでなく信用や組織にも影響が広がります。主なリスクを整理します。
- 金融機関の与信低下による追加融資の困難化
- リース会社や取引先からの信用低下
- スタッフの不安増大による離職リスク
金融機関の与信が下がり追加融資を受けにくくなる
赤字が続くと、金融機関は返済能力を慎重に判断するようになり、追加融資を受けにくくなります。資金繰りが厳しくなってから相談しても、対応が難しくなるケースは少なくありません。返済が本当に困難になってからではなく、先の資金繰りを見越して、早めに対応・相談することが得策です。
リース契約や取引先との信用が揺らぐ
医薬品や診療材料の仕入れ代金、リース料の支払いが遅れると、取引先やリース会社との信用関係が揺らぎます。信用が低下すれば、支払条件の悪化や取引停止につながるリスクもあります。
医薬品などの仕入れ代金の支払いは診療報酬の入金より先に発生するため、支払サイトの交渉や在庫の適正化を通じて、支払いの負担を管理しておく必要があります。
スタッフの不安が広がり離職を招きやすい
経営状況の悪化は、給与や賞与への影響を通じてスタッフの不安を招きます。院内の雰囲気が悪くなりスタッフが辞めていくと、採用コストがかさむうえ、診療の質や接遇が低下し、さらなる患者離れを招く悪循環に陥ります。
スタッフとの対話の機会を持ち、シフトの偏りや業務量、人間関係の不安を確認することが、組織の土台を守るうえで重要になります。
クリニックの赤字を防ぐ資金繰り改善策
赤字や資金ショートを防ぐには、損益と資金の流れを分けて管理し、コストと収入基盤を整えることが基本です。
損益と資金繰りを分けて毎月モニタリングする
会計上の損益と実際の現金の流れは別物です。月次で損益計算書と貸借対照表を確認するだけでなく、ごく簡単でもいいので資金繰り表を作成して「いつ・いくら・なぜ」お金が動くかを把握することが不可欠です。
数字を後からまとめて見るのではなく、リアルタイムで経営状態を把握し早めに手を打てる体制が、赤字予防の鍵になります。新患数や再診率、診療単価などのKPIをあわせて管理すると、赤字の予兆に早く気づけます。
固定費と人件費率を見直してコストを最適化する
クリニックは固定費率が高くなる傾向にあり、収入減に弱い体質です。医療機器などの保守管理費、車両のローン、交際費、通信費、水道光熱費などが適正かを確認し、固定費が膨らまないようにコントロールする必要があります。
人件費は、給与を下げることから考えるのではなく、採用コストやシフト・業務効率に無駄がないかを見直すことが大切です。募集案内で診療方針や求める職員像を具体的に示せば、ミスマッチによる短期退職を減らし、長期的な採用コスト削減につながります。
再診率を高めて安定的な収入基盤をつくる
新規集患だけでなく、来院した患者に継続して通ってもらう再診率の向上が、安定した収入につながります。診察終了時に次回の予約を確実に取る運用や、予約システムの導入が効果的です。
問診票やカルテを活用して来院のきっかけや患者の状況を分析し、再診案内や他メニューの提案に活かすことで、患者一人当たりの価値を高めることができます。
赤字経営から黒字化するための見直し
すでに赤字に陥っている場合は、収支・資金繰り・集患・組織を同時に見直すことが立て直しの起点になります。
| 見直し領域 | 主な施策 | 期待できる効果 |
| 収益向上 | 診療単価の見直し、自由診療の導入 | 売上単価の底上げ |
| 取りこぼし防止 | レセプト査定・返戻の削減 | 診療報酬の確実な回収 |
| 資金管理 | 資金繰り表の作成と活用 | 資金ショートの予防 |
診療単価や自由診療の導入で収益を底上げする
収入を増やすには、患者数を増やすだけでなく、単価を高める視点も重要です。予防接種や健診、栄養指導、点滴など、自院のコンセプトに合った自由診療メニューを段階的に導入することで、診療報酬改定に左右されにくい収益源を育てられます。
材料費の高騰分を適切に価格へ反映させることも、事業継続のために妥当な経営判断です。ただし理念や事業戦略と一貫しないメニューの安易な導入は避け、少数のメニューから検証しながら拡大するのが現実的です。
レセプト査定・返戻を減らして取りこぼしを防ぐ
診療報酬の算定漏れや返戻、査定は、本来得られるはずの収入を取りこぼす原因になります。取得可能な加算を漏れなく請求する体制を整え、返戻・査定の内容を分析してミスが起こりやすい箇所を把握することが有効です。
算定漏れ・返戻・査定を定期的に確認し院内で共有するだけでも、収益改善につながる可能性があります。診療報酬改定のたびに最新の点数表を確認する作業も欠かせません。
資金繰り表を作成して先々の入出金を把握する
資金繰り表では、窓口一部負担金と保険請求分を分けて記入し、診療報酬の入金タイミングを織り込みます。給与、家賃、税金、借入金の返済、リース料などの主要支出を先に並べ、入金予定と照合することで、数か月先の資金不足を早めに把握できます。
ところで多くのクリニックでは、事業資金と事業主の生活資金は完全に切り離せない状況だと思います。事業で資金が不足すれば事業主がお金を入れるし、逆に教育資金など生活費が大きく膨らむ時期もあるでしょう。
資金繰り表を作成し、それらお金の流れを把握することが、資金繰り改善の近道だと考えます。
まとめ
赤字経営のクリニックは決して珍しい存在ではなく、医療機関全体が厳しい収益環境にある中で、多くのクリニックが構造的な課題を抱えています。集患不足による収入減、固定費の過大、運転資金の準備不足、事業主の生活資金などが、資金繰り悪化の主な原因です。
事業資金にせよ、生活資金にせよ、事業計画・ライフプランの中で大きな波があることは十分に予測できます。事業やライフステージが変わるときには、同じように経営をするのではなく、収支構造の見直しが不可欠です。
同時に、赤字経営は赤字経営になってから考えるということではなく、黒字経営のときにこそ、いかに内部留保を厚くして赤字経営に備えるか。こちらのほうが、本質的な対策と言えます。
歯診療所の経営とライフプランの実現。
税務会計の側面から、事業収支と財産形成をサポート
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。