「評価制度は導入しているのに、社員が辞めていく」「退職面談で本音を聞けず、原因がわからない」といった悩みを抱える経営者や人事責任者は少なくありません。離職率の改善に取り組むには、まず自社の現状を正しく把握したうえで、人事制度・評価・職場環境の3つの視点から構造的にアプローチすることが不可欠です。
本レポートでは、離職率を改善するための原因分析の進め方から、評価制度の見直し、職場環境の整備まで、実務で活かせる具体的な手順と考え方を解説します。
実態を正確に把握する
離職率の改善に取り組む前に、まず自社の実態を正確に把握することが出発点です。しかし、退職理由を個人に問いただしても、本音や真の原因を特定することは困難です。感覚的な判断や個人の問題に終始せず、データを用いて「組織構造のどこに目詰まりが生じているのか」を客観的に分析することが、効果的な施策設計の土台になります。
離職率の定義と計算方法を統一する
離職率は「一定期間に退職した社員数÷期初の社員数×100」で算出するのが一般的です。ただし、社内で離職率の定義と計算方法を統一しなければ、年度間の比較や部署間の比較が正しくできません。厚生労働省の「雇用動向調査」に算出方法を合わせておくと、業界平均との比較も容易になります。
退職理由の定性データと定量データを組み合わせる
退職面談だけでは「一身上の都合」とされ、本当の理由を引き出しにくいのが実情です。個人の退職理由を特定しようとするのではなく、退職者アンケートや在職者向けのエンゲージメントサーベイを組み合わせることで、「経営層の意図と現場の意識の間に生じているズレ」を定性と定量の両面から構造的に捉えられます。
属性別の離職傾向を可視化する
全社平均だけを見ていると、特定部署での深刻な離職や、属人的なマネジメントの歪みが埋もれてしまいます。部署別・年代別・勤続年数別にデータを分解し、どこに組織の負荷(目詰まり)が集中しているかを可視化しましょう。
| 分析の切り口 | 着目すべきポイント | 想定される施策例 |
|---|---|---|
| 部署別 | 特定部署への離職集中 | 独自の役割基準に基づくマネジメントの適正化・配置転換 |
| 年代別 | 若手の早期離職 | 経営ストーリーと役割のリンク・独自のプロセス(ノウハウ)習得支援 |
| 勤続年数別 | 3年目・5年目の離職増加 | キャリアの見通しを支える等級・昇進ルールの透明化 |
| 退職理由別 | 評価不満・人間関係の割合 | 客観的な物差し(評価制度)の見直し・未来志向の対話の活性化 |
人事制度と評価を見直して離職率を改善する
離職の原因分析で浮かび上がることが多いのが、人事評価制度への不満です。制度の形骸化や「何を基準に評価されているのか分からない」という不透明さは、社員の納得感や貢献実感を著しく低下させ、離職へとつながります。
評価基準を明確にする
「何をすれば評価されるのかわからない」という状態は、不信感を生む最大の要因です。目先の売上数値(ノルマ)だけで裁くのではなく、経営戦略から逆算された「客観的な役割の物差し(評価基準)」を等級ごとに明文化し、運用の現場で機能する透明性のある仕組みを実現することが最優先課題です。
目標管理で評価を運用する
評価制度は「設計」よりも「運用」で差がつきます。目標管理(MBO)を単なる査定(処遇決定)の道具として終わらせず、定期的な1on1面談を通じて上司と部下が対話を重ねることで、制度を「生きた仕組み」にする必要があります。
- 目標設定は経営のストーリーと個人の役割をリンクさせ、合意のもとで行う
- 1on1は過去の評価ではなく、「次にどうやって何をするのか」を導き出す未来志向の場として月1回以上の頻度で実施する
- 評価面談では「良い点(組織への貢献度)」と「改善点(次の役割に向けた課題)」を具体的に伝える
評価と昇進要件を連動させる
評価が高いのに給与が変わらない、あるいは昇進基準が不明確な状態は、優秀な人材の離職を招きます。評価結果と、原資に裏付けられた賃金テーブル(絶対額管理など)・昇格要件を明確に連動させ、社員が「努力の方向」と「報われ方」の確かな見通しを持てるようにしましょう。
| 連動すべき要素 | 具体的な施策 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 評価と賃金 | 評価ランク別の昇給額テーブルの公開 | 処遇への納得感向上と不公平感(衛生要因の悪化)の排除 |
| 評価と昇格 | 昇格要件・役割基準の明文化 | 将来への安心感とキャリアパスの明確化 |
| 評価と育成 | 自社独自のプロセス(ノウハウ)習得支援 | 自身の役割をアップデートしていく成長実感の提供 |
職場環境を整備して従業員の定着を高める
制度面の改善と並行して、日々の職場環境を整えることも欠かせません。ただし、これは福利厚生や手当で社員を過度に「甘やかす」ことではなく、一人ひとりが自らの役割に誇りを持ち、自律的に動ける土台を整えることを意味します。
ハラスメント対策を確立する
人間関係の問題、特にハラスメントは退職理由の上位に常にランクインします。防止規程の策定や相談窓口の設置、管理職向けの定期研修を通じて、単なる馴れ合いではなく、健全な指摘(直言)や意見を率直に発言しても関係性が壊れない「心理的安全性」のある環境を作りましょう。
柔軟な働き方を定着させる
フレックスタイム制やリモートワークといった多様な働き方は、社員が「共通の物差し(役割)」を果たしていることを前提に、実際に活用できる運用に落とし込むことが不可欠です。現場の運用負荷やルーティンへの定着を考慮した設計は、社員が安心して働き続けるかどうかの判断に直結します。
福利厚生と環境で働きやすさを向上させる
物理環境の整備や業務プロセスの見直しなど、現場の「足枷」となっている阻害要因を排除する小さな改善が、満足度の向上につながります。会社が用意した環境と、現場が求めている支援に「ズレ」がないか、定期的にサーベイなどを通じてデータで計測し、確認することも重要です。
| 施策カテゴリ | 具体例 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 福利厚生 | 独自のプロセスを学ぶ資格取得・教育支援 | 役割のアップデートによる成長実感の提供 |
| 物理環境 | 集中ブース・リフレッシュスペースの設置 | 部署間コミュニケーションの促進と心理的安全性の土台 |
| 時間管理 | アナログ事務作業の効率化・適正な時間管理 | 管理職や優秀な人材への過度な業務集中の解消 |
| 対話促進 | 未来志向の会議体・部門横断プロジェクト | 経営のストーリー共有と組織の一体感醸成 |
社員の成長が組織の成長につながる仕組みの構築へ
離職率の改善は、一つの施策だけで解決するものではありません。正確には特定できない個人の退職理由に一喜一憂するのではなく、データによる客観的な実態把握を行い、「人事制度」「評価」と「職場環境」の3軸から原因に応じた施策を段階的に進めていきましょう。
特に評価制度については、日常的なフィードバックを通じて「運用し続ける」ことが、現場の納得感と貢献実感(エンゲージメント)を高める鍵になります。どこから手をつければよいかわからない場合は、まず離職データの分析と評価制度の棚卸しから始めてみてください。
自社の課題がどちらの段階にあるかを見極め、施策を連動させるのは容易ではありません。だからこそ、まずは現状を客観的に整理し、無理のない最適なロードマップを見出すことが、自走する組織づくりへの確実な第一歩となります。社員の成長が組織の成長につながる仕組みを、今日から一歩ずつ構築していきましょう。
「自社に合った評価・育成の仕組みをどう形にすればよいか分からない」「まずは現状の課題を整理したい」という場合は、ぜひお気軽にご相談ください。
それぞれの課題に深く寄り添い、制度の設計から現場への定着までトータルで伴走いたします。
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本稿の監修者
玉利 裕希(たまり ゆうき)
株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部
新卒で日本経営に入社後、人事コンサルティングを中心とし、人事評価制度の導入・見直し、賃金制度の改革、M&Aにかかる人事・労務デューデリジェンスなどの業務に携わる。その他、看護学校設立の是非を検討する調査業務、経営計画策定や収益改善を経験。また、役職者に対する研修の講師を務めるなど幅広く活動している。
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