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Withコロナ時代の医療機関の危険手当「新型コロナ対応への手当支給等実態調査」

  • 業種 病院・診療所・歯科
    介護福祉施設
  • 種別 レポート

新型コロナ手当支給等の実態調査から見えてきた苦悩

Withコロナ時代の医療機関の危険手当  解説

株式会社日本経営 / 取締役 橋本 竜也

新型コロナ対応への手当の支給状況

新型コロナウィルスの第二波到来かと思われ始めたころから、「他の医療機関の危険手当の支給状況はどうか」というご相談が増えてきました。

そこで、弊社では2020年8月20日~8月28日にかけて、「新型コロナ対応に関わる手当支給等の実態調査」を緊急で実施しました。

この調査はWebでの調査で、376病院の有効回答を得ました。その詳細な結果はアンケート回答者にのみお返ししていますが、ここではこの調査結果の概要と考察を述べたいと思います。

調査の結果、「新型コロナ感染患者の診療を何らかの形で受け入れている病院のうち、約45%が手当を支給しており、約15%が手当の支給を検討中である」ということが分かりました。

また、「入院を受け入れている病院に至っては、約65%の病院が手当を支給している」ことがわかりました。

逆に言えば、約35%の病院は、新型コロナ感染患者の入院を受け入れていても、手当を支給していないということが言えます。

この調査結果からは、各病院が新型コロナ対応関連の危険手当の支給に大変悩まれていることがよくわかりました。

状況の変化と「危険手当」という選択肢

私は2020年4月17日に「問われる意思決定、新型コロナ危険手当を支給する」の中で、以下のように述べました。

  • 社会的価値と価格的価値で見た場合、現状は社会的価値が圧倒的に勝っている。
  • 社会的価値が圧倒的に勝っている状況で手当を支給すると逆にモチベーションダウンにつながる恐がある(アンダーマイニング効果)。
  • 危険手当は支給せず、必要であれば賞与に一時金を加算するのがよいのではないか。

このレポートは非常に多くの方に読んでいただき、このレポートを材料にして、危険手当を支給しないと判断された法人も少なくなかったようです。

ところが、2020年8月を過ぎてまた危険手当の相談が増えてきた背景は、2020年4月時点とはだいぶ状況が変わってきたことの影響が大きいでしょう。

2020年4月当時は新型コロナ感染患者の受け入れをしている病院は限られていました。

しかし、徐々に医療機関の体制も整えられてきて、患者を受け入れる病院も増え、帰国者接触者外来に対応する病院や自費のPCR検査に対応する病院なども増えてきました。

得体のしれない恐怖の感染症との戦いから、ある程度相手のことが分かり始めた、まさにwithコロナの状況へと変化してきたと考えられます。

このような状況の変化により、新型コロナ感染患者または疑い患者の対応が特殊な例外ではなくなりつつある中(もちろん、危険で恐ろしい状況であることは変わりませんが)では、関わっている人と関わっていない人の差が目に付いたり、いつまで続くかわからない状況に不満が出始めたりするようになり始めます。

こうした中では、「危険手当の支給も有力な選択肢になり得ている」と考えられます。

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危険手当はいくらが妥当か?

それでは、危険手当を支給するとすれば、いくらが妥当なのでしょうか。

残念ながら根拠を設定するのは困難です。前述の調査では、1日あたり2,000~5,000円程度がほとんどでしたが、他病院と同額であればいいかというと、そうではないでしょう。各病院の事情にもよると思います。

金額設定は難しいところですが、新型コロナ対応で危険手当を支給する場合は、次のことに注意していただければと思います。

  • 担当のローテーションなどがあることを考えると、金額設定は1日あたりが望ましい。
  • 職種や基本給の高さによってではなく、危険度や負担度に応じて金額設定する。
  • 低すぎず、高すぎない金額設定にする(現実的には1日1,000~4,000円程度か)
  • 非常勤職員も対象業務に該当すれば公平に支給する

危険手当を支給する「目的」は何か

危険手当をすでに支給されている病院、またはこれから支給しようと考えている病院では、どのような目的で危険手当を支給されるでしょうか。

大別すると、目的は次の二つでしょう。

①新型コロナ患者対応業務に就いてもらうため(インセンティブ的)

②リスクのある業務に就いてくれたことに報いるため

現実的には①の目的もあるのですが、これが強く出すぎるとアンダーマイニング効果といって、やる気を失ったり、しらけたりしてしまう恐れがあります。

大事なことは②で、リスクのある業務に就いてくれたことに対する感謝という意味合いを強く打ち出すことです。

ただ、結局、月給で支給する以上は、①であっても②であっても、支払い方と金額は一緒になってしまいます。だからこそ、手当を支給している目的は折に触れて伝える必要がありますし、経営幹部や管理職の言動にも注意を払う必要があります。

例えば、「手当が出るから、担当に入ってよ」とか、「担当に入れば稼げるよ」とか、「手当を払っているんだから、文句言わないでほしい」といった発言を管理職がしてしまうと、リスクのある業務に就いてくれたことへの感謝という意味合いは失われてしまうでしょう。

また、高額すぎる手当の設定はインセンティブの要素が強くなってしまうので、注意が必要です。

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コロナ禍で職員満足度を上げる病院

ところで、弊社が提供している従業員意識調査のデータを分析したところ、コロナ禍以前と職員満足度がほぼ変わらず、むしろ上がっている病院が多いということが分かりました。
(詳しくはこちら「コロナ禍にあって病院職員の満足度はなぜ下がっていないのか?」)

これらの病院が職員満足度を維持し、また向上させている要因は様々ですが、一つに職員重視の経営を貫いているということがあるのではないかと考えられます。

従業員満足度調査の結果は、経営陣にとっては必ずしも喜ばしいものばかりではありません。それでも定期的に従業員満足度を調査し、結果に向き合い、満足度向上に取り組んでいるということ。

また、「コロナ禍なので今回は従業員満足度調査はやめておこう」と考える病院も少なくない中、こういう時こそきちんと調査しようと取り組んでいることなどが、職員重視の経営であることを示していると考えられます。

従業員重視の経営は、信頼の貯金と言えます。

危険手当がなければ動かないのか、危険手当がなくても動いてくれるのかは、信頼の貯金の大きさにもよるでしょう。

危険手当がなくても動いてくれるとしても、危険手当を支給するという判断もあります。
その場合は、危険手当の効果がより大きくなるでしょう。
職員の受け止め方が「ここまで考えてくれるんだな」となります。

危険手当が発するメッセージと効果は、信頼の貯金の大きさに影響を受けるということがポイントです。

結局、危険手当は支給すべきか

ここまで危険手当の支給状況と支給する場合の注意点を述べてきましたが、危険手当を支給するかどうかは、2020年4月当時とはまた違った難しさが生じています。

①いつまで支給し続けるのか、支給し始めたら止め時が予想できない(止められないかもしれない)

②病院の収益が悪化しており、人件費の増加に耐えられない可能性がある

モチベーションの問題に加えて、このような財務的な問題も大きくなってきました。

こうしたことも含めて、私はやはり、「支給するのであれば、賞与で一時金として報いる」という方法を奨励したいと思います。

もし可能であれば、従業員の安全面、安心面への配慮を加えたいところです。例えば、次のようなことです。

  • 職員や家族がプライベートで使えるマスクや消毒液の配布
  • 職員や家族が濃厚接触疑いになった場合のPCR検査費の補助(負担)
  • 事業所命令での自宅待機時の法定基準(60%)を超える給与保障
  • 特別休暇の付与

ただ、危険手当を支給することも有力な選択肢です。地域での感染状況、病院が担っている役割、病院の財務状況などによっても判断が変わると思います。従業員と病院の信頼関係によって、同じ対応でも職員の受け止め方に違いが生じるということもあると思います。

大変な困難な状況の中での難しい判断になると思われますが、上記のようなポイントが意思決定の参考になれば幸いです。

※「新型コロナ対応に関わる手当支給等の実態調査」の詳細結果は、調査にご協力いただいた方にのみお送りしています。今回376病院という、非常に多くの病院に回答していただきましたが、今後も皆様にとって関心の高いテーマの調査を実施していきますので、調査協力をご案内した際にはどうぞご協力をお願いいたします。


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このレポートの解説者

橋本竜也(はしもと たつや)
株式会社 日本経営 取締役

入社以来、人事コンサルティング部門にて、一貫して病院・企業の人事制度改革に携わる。2006年には調剤薬局に出向し、収益改善と組織改革を実現。コンサルティングにおいては、人事改革、組織改革のほか、赤字病院の経営再建にも従事。2013年1月福岡オフィス長に就任。2017年10月より株式会社日本経営取締役。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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