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コロナ禍にあって病院職員の満足度はなぜ下がっていないのか?

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

コロナ禍にあって病院職員の満足度はなぜ下がっていないのか?

株式会社日本経営 / 乾 遼一郎

新型コロナの感染拡大により、すでに医療崩壊であるという報道が連日のようにされています。

いつ終わるとも分からない厳しい環境下で、職員の方々は疲弊し、満足度や意欲度は大きく下がってしまっているのではないか。

私たちは、このたび、病院職員の方々のコロナ前後の意識調査の結果を分析しました。

・対象病院:従業員意識調査「ES Navigator Ⅱ」の実施病院、うちコロナ禍前後2年間のデータが揃う61病院
・対象期間:コロナ禍前(2019年1月~12月)とコロナ禍中(2020年1月~12月)を比較

コロナ禍前後で、満足度や意欲度はどう変化したか?

病院職員の満足度や意欲度は下がっていない

結論から申し上げると、コロナ禍前後では職員の満足度や意欲度はほとんど変化がありませんでした。

ES Navigatorでは、各設問(全60設問)について「非常にそう思う」から「全くそう思わない」までの7段階回答となっています。

この7点方式の結果について分析すると、約70%の病院が60設問の平均で前年比±0.2の範囲内に収まっているのです。

つまり、全体として病院職員の満足度や意欲度は、コロナ禍前後で大きな変化はないという結果となりました。

コロナ禍前よりも向上している設問もある

大きな変化は認められませんが、コロナ禍前よりもむしろ点数が向上している設問もありました。

60%以上の病院が向上し、なおかつそのうち50%以上の病院が0.2点以上向上していた設問が以下の14設問です。

①私は、当院の職員であることに満足している
②理事長は、当院の将来を考えた判断・決断をしている
③当院は、理事長の方針に従って行動している
④当院の給与は、個人の仕事上の努力や貢献を反映している
⑤当院の昇進は、個人の仕事上の努力や貢献を反映している
⑥私の勤務体系・日時(シフト)は、私の希望に近い
⑦私は、適切な時間で仕事を終えることができている
⑧私は、必要な時に休暇を取ることができている
⑨個人の仕事上の努力や貢献について、当院の評価基準は明示されている
⑩私の部署では、仕事上のマニュアルや業務フローが仕事の役に立っている
⑪私が当院で働き続ける重要な理由の一つは、当院が好きだからである
⑫私が当院で働き続ける重要な理由の一つは、当院をやめると私にとって失うものが大きいからである
⑬私は、これからも当院で働き続けたい
⑭私は、より多くの人に当院の利用をお勧めしたい

なぜ、コロナの前後でこれらの設問に対するスコアがむしろ伸びたのか。
考察していきたいと思います。

コロナ禍で際立つトップのリーダーシップ

トップのリーダーシップに関係する設問が向上しています。

②理事長は、当院の将来を考えた判断・決断をしている
③当院は、理事長の方針に従って行動している

これらの設問に対して回答するにあたっては、コロナ禍における理事長(または病院)の意思決定や方針を振り返りながら回答したと思われます。

そうした中でこれらの設問が向上しているということは、理事長(または病院)が、困難な状況の中でも職員や患者のことを考えながら様々な手を打ってこられていることを、職員も理解しているということだと推察されます。

トップの意思決定やリーダーシップは、現場の職員にとっては分かりにくいものです。しかし、平時は当たり前に思っていたことが、有事においてその重要性や効果が実感できたのではないでしょうか。

これらの設問が向上した病院は、トップが素晴らしいリーダーシップを発揮されているということだと推察されます 。

努力や貢献の違いが明らかになりやすくなっている

処遇や評価に関する項目も向上しています。

④当院の給与は、個人の仕事上の努力や貢献を反映している
⑤当院の昇進は、個人の仕事上の努力や貢献を反映している
⑨個人の仕事上の努力や貢献について、当院の評価基準は明示されている

コロナ禍において、職員は自ら感染するリスクと患者に感染させてしまうリスクの両方にさらされながら、細心の注意を払って業務を遂行しなければなりませんでした。

しかし担当業務や職種によって、リスクや精神的・肉体的負担の程度に大きな差が生じることもあったと考えられます。ある意味では、危機下において、職員それぞれの努力や貢献の差が分かりやすくなっているとも考えられます。

また、処遇や評価に対する設問がスコアアップしているということは、こうしたリスクや負担の差に対して、賞与や手当等で少しでも報いようとしていることが肯定的に受け止められているのではないかと推察されます。

病院の経営が急速に悪化していることについては、多くの医療従事者が院内情報や報道等で知っているはずです。そのような中で賞与が支給されること等について、納得や理解をされているということだとも考えられます。

患者減により、勤務に余裕が生まれた可能性も

勤務時間や休暇取得についてのスコアも向上しています。

⑥私の勤務体系・日時(シフト)は、私の希望に近い
⑦私は、適切な時間で仕事を終えることができている
⑧私は、必要な時に休暇を取ることができている

一昨年から急速に働き方改革が進行していましたが、そのような中で、突如コロナ禍となり、それまでの働き方改革に加えて患者数も減少。

この影響により、勤務体系に関する設問のスコアがアップした可能性があります。

コロナ禍で業務フローの重要性がクローズアップ

業務フローの重要性が再認識されたと考えられる結果もありました。

⑩私の部署では、仕事上のマニュアルや業務フローが仕事の役に立っている。

新型コロナという誰も経験したことのない緊急事態に直面し、各病院では感染対策マニュアルの見直しや業務フローの組立て直しなどが急速に行われたと考えられます。

スコアがアップしたのは、これらの効果が実感できたということが第一の要因ではないでしょうか。

臨機応変に判断しながら行動しなければならない一方で、マニュアルや業務フローを拠り所にして業務を進めていく重要性がクローズアップされたのではないかと推察されます。

病院への信頼が高まっている

病院に対する愛着が高まっていると考えられる結果もありました。

⑪私が当院で働き続ける重要な理由の一つは、当院が好きだからである。

このスコアがアップした理由は、「経営者は我々のことを考えて、様々な取り組みを実施してくれている」という安心感、信頼感が高まった結果だと推察します。

危機に直面しているからこそ、病院の意思決定や方針に込められた思いを、直に感じられたのではないでしょうか。多くの病院が職員のことを考えた経営をされた証だと思います。

働き続ける理由に、現実的な切実な問題も

一方で、下記の設問もスコアがアップしています。

⑫私が当院で働き続ける重要な理由の一つは、当院をやめると私にとって失うものが大きいからである。

コロナ禍によって雇用不安が現実的な問題となっていると推察されます。他業界で倒産が相次いでいる中で、職を失うかもしれないという職員の不安が、昨年よりも増した可能性があります。自院への愛着が高まったことと同時に、生計を立てていくための拠り所として職員が法人を頼る傾向が強まった可能性があると考えられます。

意欲・満足度の変化は、経営を左右する

今回の分析結果は、単にスコアが変わらなかった(内容によってはアップしている)ということではなく、コロナ禍という厳しい環境にあって、心を一つにして前向きに取り組まれている医療従事者の方々の姿が浮き彫りになったのだと思います。そして、病院も職員の安全・安心を第一に考えて経営されていることが読み取れるのではないでしょうか。

もっとも、今回、2年連続でアンケートを実施して頂いた法人(全61法人)のデータが母数になっていますので、必ずしも全ての病院でこのような結果になるというわけではありません。新型コロナウィルス感染患者を受け入れている病院とそうではない病院など、病院の機能や役割などの違いも考慮されていません。また、分析対象の病院は、コロナ禍においても職員意識調査を継続して実施している病院であり、日頃から職員満足度を重視している病院であるということも影響しているかもしれません。

ただ、スコアが激減してもおかしくない環境にあって、職員満足度を維持、向上させている病院があるという事実に、大きな驚きと感動を得ました。

職員の意欲・満足度の変化は、他の業種にも増して、医療機関においては今後ますます重要になり、経営を大きく左右すると考えます。

ES NavigatorⅡで何が分かるのか、どのような仕組みで「組織の活性度」を分析するのか、自分たちの組織の活性化のポイントがどこにあるのか。

ご興味をお持ちいただけた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

このレポートの解説者

乾 遼一郎(いぬい りょういちろう)
株式会社 日本経営 コンサルタント

組織人事コンサルタント。ES NavigatorⅡによる組織活性度の調査、RPAによる現場業務の効率化などを手掛ける。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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