投稿日:2026年9月3日

公立病院の赤字をどう改善するか 交渉スキルに頼らないチーム型コスト適正化

現在、全国の公的・公立病院の多くが深刻な赤字経営に直面しています。物価高騰や人件費上昇、診療報酬改定など厳しい環境下で、赤字解消に向けた重要施策となるのが「コスト適正化」です。
しかし、赤字に悩む多くの公的・公立病院では、用度課任せの単なる価格交渉にとどまり、十分な効果が出ないケースが散見されます。

公的・公立病院におけるコスト適正化の本質は、買い叩きや一方的な削減ではありません。
数年での人事異動や入札手続きなど公的・公立病院特有の制約を踏まえ、経営層・事務職・医療職・取引先を巻き込んだ「院内一体のマネジメント(チームプレー)」の構築こそが、赤字脱却と収益改善の鍵となります。

本記事では、全国1,700件以上の支援実績を持つ株式会社日本経営が、公的・公立病院が実践すべきコスト適正化の手法を具体的な事例とともに徹底解説します。

【関連するお役立ち情報】
▶大規模病院の構造的赤字を脱却するには?組織の構造改革が導く黒字化への転換戦略
▶病院のコスト削減・経営改善の具体的な方法を解説|医療機関ができる経費削減3つのステップ

本記事の目次

  1. なぜ公的・公立病院のコスト削減は「購買担当だけ」だと失敗するのか?
  2. 公的・公立病院が赤字から脱却する「価格交渉」から「マネジメント」への転換
  3. 公的・公立病院の購買・事務担当者が果たすべき役割
  4. 【実践事例】医師・看護師・技師を味方につけて赤字を削減した成功パターン
  5. 公的・公立病院の赤字を膨らませない 現場の反対・停滞を打開する運用方法と買わない決断
  6. まとめ:院内調整を制した公的・公立病院こそが、赤字脱却へ

なぜ公的・公立病院のコスト削減は「購買担当だけ」だと失敗するのか?

病院のコスト削減というと、ベテランの用度課職員が業者と厳しく対峙したり、経営トップの一声で急遽取引先を切り替えたりする姿をイメージされるかもしれません。しかし、これは自由度の高い民間病院の一部でしか成立しない特殊なスタイルです。

公的・公立病院の赤字問題を解決しようとする際、民間病院とは異なる2つの構造的制約が存在します。

  • 定期的な人事異動: 購買担当者が数年周期で交代するため、職員個人の製品知識や交渉スキルが組織に定着しにくい。
  • 手続きの厳格性(公平性の担保): 公金を取り扱う性質上、透明性のある手続き(入札等)が求められ、トップの独断による急な取引先や内容の変更が許されない。

このような環境下で用度課だけにコスト削減を押し付けても、現場の医療職からは「現場の使い勝手を無視して安いものを押し付けられた」と反発が起き、取引先側も医療職の意見を優先せざるを得ません。結果として、いくら用度課が単発の価格交渉を重ねても、公的・公立病院の赤字構造から脱却することは不可能なのです。

公的・公立病院が赤字から脱却するためには、用度課の個人の交渉力に頼る単なる「価格交渉」をやめ、病院全体で取引先とも目標を共有して進める「チームプレー型マネジメント」へ思考を転換しなければなりません。両者の違いは主に以下の4点に表れます。

  • 交渉の主体の変化: 購買部署(用度課)単独の交渉から、「経営層・事務・医療職」が一体となったチーム交渉へ。
  • 現場(医療職)の立場の変化: コスト削減を他人事として捉えていた現場が、エンドユーザーとしての交渉力を自覚して、コスト適正化に協力する。
  • 価格交渉の根拠の明確化: 単なる値引きの要求ではなく、メーカーごとの償還差益のばらつきや、ベンチマークなどの客観的データに基づく納得感のある交渉へ。
  • 取引先との関係性: 単に値下げを求める相手ではなく、病院の将来的な診療計画や成長目標を共有し合える関係へ。

公的・公立病院が赤字から脱却する「価格交渉」から「マネジメント」への転換原則

医療職を巻き込み、院内一体となった購買マネジメントを構築するためには、意識すべき重要な原則があります。

エンドユーザー(医療職)に「自分たちの選択が病院経営を支える」と気づかせる
 医師や看護師は日々目の前の診療に集中しており、自分たちが使う材料の価格や、それが公的・公立病院の赤字にどう影響しているかを知る機会がほとんどありません。
そのため、一方的に削減を命じるのではなく、償還価格と仕入価格の差額データを可視化して提示し、「自分たちの選択が赤字削減(病院経営の支援)に直結することを伝えて当事者意識(貢献意欲)を醸成します。

現場と購買部署が密に連携し、院内を一枚岩にする
取引先は医療現場のニーズに応えるため、常に最新・高品質な製品を提案します。
しかし、現場が事前に院内調整を経ないまま購入意向を伝えてしまうと、事務方が後から経営全体の予算枠に合わせた交渉を行うことが難しくなってしまいます。
「契約や価格の最終決定権は購買部署が担う」という役割分担を明確にし、事前に現場と事務方が密に方向性をそろえておくことが大切です。

取引先もチームの一員として「互恵関係(Win-Win)」を築く
 取引先は病院経営と医療の質を支えるパートナーです。
単に一方的なコスト削減を求めるのではなく、「当院は今後この診療科の患者数を増やしていく計画があるため、製品集約に協力してもらうことで、御社の取引規模も拡大するのではないか」といった将来像を共有します。お互いにメリットがある関係性(互恵関係)を提示することこそが、中長期的な公的・公立病院のコスト削減(赤字縮小)を可能にします。

 公的・公立病院の購買・事務担当者が果たすべき役割

チームプレー型マネジメントにおいて、購買・事務担当者は組織を動かす司令塔です。公的・公立病院の赤字解消に向けて機能するチームを作るため、以下のような役割を果たす必要があります。

院内でベンチマークを示して「共通目標」を設定する:
 院内の意思統一がないまま表面的な他院の価格データを提示しても効果はありません。まずは院内で共有できる目標を設定します。

現場の持つ交渉力に気づかせ「貢献意欲」を醸成する:
 現場が「自分たちの選択次第で価格が変わる」という事実に気づくことで、主体的な協力が得られるようになります。

経営目標・事業計画を示して取引先に価格協力を仰ぐ:
病院が目指す明確な事業計画を提示することで、取引先からも病院の方向性に合わせた実効性の高い提案を引き出すことができます。

互恵関係の構築を通じて取引先の「貢献意欲」を育む:
病院側が共に歩む姿勢を示すことで、取引先の担当者も社内で調整を行い、病院にとってより有利な条件や特別価格を引き出しやすくなります。

日頃の雑談や迅速な報連相で「良好な人間関係」を育む:
 日頃の信頼関係がないままでは、いざという時の契約条件や金額に関する深い交渉を進めることはできません。日常的なコミュニケーションがすべての土台となります。

【実践事例】医師・看護師・技師を味方につけて赤字を削減した成功パターン

実際に現場の医療職を巻き込むことで、大幅なコスト削減と公的・公立病院の赤字縮小を達成した具体的な事例をご紹介します。

事例①【整形外科医師×事務】データ開示によるインプラント費(赤字要因)の適正化

整形外科のインプラント製品は、患者の症例に合わせた製品選択が必要であり、医師とディーラーが日常的に密なコミュニケーションを行っている専門性の高い領域です。
そこで事務方は一方的な要請を避け、メーカー別の「償還差益額(保険点数と仕入値の差額)」をデータ化して医師に共有しました。
「同じ臨床結果が得られるのであれば、病院経営に貢献できる製品を優先してほしい」と協力を求めたところ、医師がこれを快諾。
医師が経営状況を考慮して製品を選び始めたことを受け、メーカー側からも自発的に大幅な値引き案やリベートプランが提示され、年間300万円(約3%)のコスト削減(赤字改善)が実現しました。

事例②【循環器内科医師×トップ層】院長主導の集約方針でカテーテルを値下げ

循環器内科で使用するカテーテル類においても、あらかじめ院長や事務長といった経営トップから医師へ「公的・公立病院の赤字解消に向けた材料費集約の協力」を正式に依頼し、事前の合意を固めました。
購買担当者がディーラーとの交渉に臨んだ際、医師側から「病院経営に資するのであれば、他社への製品切り替えや1社への集約も辞さない」という毅然とした姿勢が提示されました。
既存ディーラーにとっても、病院側の明確な運用方針と真剣に向き合う契機となり、中長期的な取引継続を見据えて価格を再提示いただくことができました。結果として年間400万円(約5%)のコスト適正化につながりました。

事例③【看護部×購買】丁寧な根回しによる病棟消耗品(輸液ルート類)のスムーズな切り替え

病棟で大量に消費される輸液ラインなどのルート類は、単価こそ安いものの数量が膨大なため、非常に大きな削減効果を秘めています。
しかし、現場看護師の慣れた運用が変わるため、調整が極めて難航しやすい分野です。
この事例では、購買担当者が感染管理認定看護師や看護副部長、薬剤部といったキーパーソンの間を細やかに行き来し、現場の不安や要望を念入りに吸い上げる「根回し」を行いました。
事務方がスムーズな意思決定の段取りを整えたことで、現場の混乱を起こすことなく製品切り替えを成功させ、大きな材料費削減を達成しました。

事例④【臨床工学技士×メーカー】CPAP(在宅呼吸器)の全患者切り替えで240万円削減

在宅酸素やCPAPなどの機器は、「患者の使い勝手が変わるため既存患者のメーカー変更は不可能であり、新規患者からしか変えられない」という固定観念が根強く存在していました。
臨床工学技士と協議を重ねる中で「過去に同一メーカー内でモデルチェンジした際は問題が起きなかった」という事実に着目。
新メーカーと交渉し、「メーカー側が責任を持って全患者の自宅を訪問し、機器の入れ替えと操作説明を行う」という手厚いサポートを取り付けました。結果として既存患者100名超の完全移行に成功し、クレームゼロで年間240万円の削減を実現しました。

公的・公立病院の赤字を膨らませない 現場の反対・停滞を打開する運用方法と買わない決断

チームプレー型マネジメントを推し進める中で避けて通れないのが、現場の意見がまとまらず協議が停滞する問題や、公的・公立病院の赤字を悪化させる高額機器の安易な購入稟議です。

「全会一致ルール」の廃止と決議ルールの見直し

看護部などで製品切り替えを検討する際、よく陥りがちなのが「現場の全員や全師長が賛成しなければ変更できない」という全会一致ルールです。しかし、誰もが100%満足する製品は存在しないため、このルール下では議論が永久に停滞してしまいます。

これを打破するには、材料委員会などの規約をあらかじめ改定し、「全会一致ではなく、3分の2の賛成をもって意思決定とする」といった明確な採決ルールを定めておくことが極めて有効です。ルールとして明文化しておくことで、現場の感情的な不満を抑えつつ、決定スピードを劇的に早めることができます。

高額医療機器における「買わない削減(やらない選択)」の検討

物価高や円安で高額医療機器の価格が高騰する中、現場から上がってくる「更新時期だから」「医師を確保したいから」という稟議に対し、購買・事務部門は厳しい牽制機能を果たさなければなりません。無計画な購入は公的・公立病院の赤字をさらに深刻化させるからです。

稟議を検証する際は、以下のようなステップを踏む必要があります。

  • ステップ1(経営戦略との適合性確認): 単なる前例踏襲や他院追従ではなく、当院の経営計画を推進する機器か?
  • ステップ2(人員体制の持続可能性確認): 機器を扱える医師や技師が今後10年スパンで確保できる見通しがあるか?
  • ステップ3(精緻なROI試算): 工事費や保守費、消耗品代まで含めて投資対効果(ROI)を試算しているか?
  • ステップ4(購入後の目標KPI設定): 投資額の回収に必要な目標検査件数や紹介患者数を経営計画や月次のモニタリング対象に反映させているか?

検証の結果、経営戦略に合致しない場合や人員体制の見通しが立たない場合は、「本当に今、当院で導入する必要があるのか」と踏み込んだ問いを投げかけ、時には「買わない決断(その医療は提供しないという選択)」を経営陣に提案すること。これこそが、公的・公立病院の赤字を防ぐ購買マネジメントにおける極めて重要な役割となります。

まとめ:院内調整を制した公的・公立病院こそが、赤字脱却へ

公的・公立病院におけるコスト適正化は、決して「用度課による単なる値切り交渉」ではありません。病院長や事務長が強いリーダーシップを発揮し、医師や看護師、そして取引先までを巻き込んだ「院内一体のマネジメント(チームプレー)」を構築することこそが本質です。

  • トップ方針: 経営層がコスト適正化を全院的な経営方針として明確に打ち出す。
  • 戦略・計画: 削減目標や契約更新スケジュールを可視化し、医療職を巻き込んだチームを組む。
  • 役割・権限: 現場の医療職に「自分たちの選択が病院経営を支えている」と気づかせ、購買部署に適切な調整権限を与える。
  • 実行プロセス(互恵関係): 取引先を「チームの一員」とし、病院の将来計画を共有しながら、お互いにメリットのある良好な関係(互恵関係)を築く。

これら「共通目標・貢献意欲・コミュニケーション」がそろったマネジメントが機能して初めて、病院のコスト適正化は大きな成果へとつながります。現場任せ・用度課任せのやり方を見直し、院内全体で取り組むマネジメントへシフトすること。それこそが、収支改善を目指す公的・公立病院にとって極めて再現性の高い道筋なのです。

病院のコスト適正化・購買マネジメントのご相談は日本経営へ

株式会社日本経営では、全国1,700件以上の病院支援実績をもとに、各医療機関様の現状に合わせた「医療職を巻き込む院内体制づくり」や「具体的な材料費・委託費の削減実行支援」を行っています。

「院内一体のマネジメントを構築したい」「赤字脱却に向けて医師や看護師にどう協力を仰げばいいか分からない」といった課題をお持ちの経営層・事務長様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

公立病院コンサルティングの専門サイト
地域医療構想の推進支援 公立病院の経営改善

本稿の監修者

株式会社日本経営 戦略コンサルティング部 課長
コスト適正化サービス責任者
辰井 雄(たつい ゆう)

医療機器ディーラーおよび外資系経営コンサルティングファームを経て、株式会社日本経営に入社。「売り手の論理の理解」を土台として、データ分析から企業との交渉・実行支援までを一貫して担当する。公立病院・公的病院の支援実績を多数有し、手術材料費に関する学会発表や病院経営専門誌への寄稿も行っている。

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