投稿日:2026年8月17日

多職種協働を実現する!前提の違いを“見える化”する組織づくり~令和8年度診療報酬改定「看護・多職種協働加算」時代の組織変革~

レポート要約

  • デジタル化と組織変革による多職種協働型組織の実現
    令和8年度診療報酬改定が推進する「デジタル化×多職種協働」において、DXの成果(患者経験価値の向上やコスト構造変革)を出すには、単なるシステム導入だけでなく、真の多職種協働型組織へ変革(CX)することが不可欠です。

  • 階層間・工程間・職種間の「視座・視野・視点」の見える化
    職種や階層、工程間で異なる「視座・視野・視点」の差がコミュニケーションのギャップを生みます。これを解消するには、トヨタ生産方式のように前提の違いを「見える化」し、相互に認識させることが有効です。

  • 「構造的無能化」を防ぐ“対話”と“気づき”の仕組み
    前提の違いを放置して組織が適応力を失う「構造的無能化」を防ぐには、違いを顕在化させた上での「対話」が必要です。また、日常業務の中で他者に意識を向ける「気づき」を得るための「見える化」の仕掛けが重要となります。

#令和8年度診療報酬改定 #多職種協働 #チーム医療 #病院DX #DX=D×CX #トヨタ生産方式 #カイゼン #構造的無能化 #気づき

令和8年度診療報酬改定では、「ICT等の活用による看護業務効率化の推進」による看護職員配置の緩和と、多職種協働の評価がセットで導入されました。デジタル製品を導入するだけでは成果は出ず、”真の多職種協働型組織”への変革(CX)が不可欠です。

本稿では、トヨタ生産方式のカイゼンを導入する病院の視察から得た気づきをもとに、職種間・工程間・階層間の「視座・視野・視点」の違いを”見える化”する組織づくりについて、株式会社日本経営のお役立ち情報で過去に公開した下記2つのレポートも踏まえて、「多職種協働を実現する!前提の違いを“見える化”する組織づくり」というテーマで論考してみます。

トップ方針を代弁する将来人材をどう育成するか?
 ~“武者修行”で活き活きしたミドル・幹部を育てる?~(2025年3月5日)

多職種協働を実現する医師マネジメント(2022年10月20日)

多職種協働型組織の実現がカギ

株式会社日本経営お役立ち情報の下記レポートでも繰り返しお伝えしてきたように、令和8年度診療報酬改定(厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」)※ⅰでは、“ICT活用による看護配置緩和”と“看護・多職種協働加算”はセットであり、“デジタル化×多職種協働型組織化”が推進されています。まさに株式会社日本経営がこれまで提唱してきた“DX=D(デジタル化)×CX(組織変革)”が求められています。

令和8年度診療報酬改定を勝ち抜く収益改善シミュレーション!
 ~多職種シェアリングと看護ICT化がもたらす「真の病院DX」~(2026年3月12日)

真の病院DX「DX=D×CX」が始まった!
 ~デジタルによる医療職代替を認める令和8年度診療報酬改定?~(2026年1月30日)

詳細は上記レポートに記載していますが、ICT機器等の導入によって看護要員の業務が軽減され、適切な看護体制が確保されている場合、一日に勤務する看護職員・看護補助者の数、看護要員と入院患者の比率、および看護師比率の3基準について、施設基準に対し1割以内の減少であれば、入院基本料等の算定要件を満たすと認めるものです。

この成果を実現するには、“少ない看護師数でも円滑に業務を遂行できる病棟運営体制を構築できるか?”が論点となります。まさに「看護・多職種協働加算」を算定できる多職種協働型組織に移行し、“看護業務の多職種シェアリングができるか?”が成否を分けるポイントです。

また、骨太方針2026(内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026 について」)※ⅱにおいても、6月末に出された原案にはなかった“多職種連携を含むチーム医療等による”という文言が閣議決定版には追加されています。やはり重点ポイントになると考えられます。

重要なことは“真の多職種協働型組織をどう実現するか?”です。デジタル製品やサービス自体は購入・導入すれば足りますが、それらを有効活用してDXの成果であるPX(患者経験価値)向上やコスト構造変革を実現するには、現場がデジタルを使いこなし、真の多職種協働型組織へと生まれ変わる(CX)ことが不可欠です。

違いを“見える化”する?

先日、職種間の関係性がフラットで多職種協働型組織を実現しており、かつトヨタ式のカイゼンを導入している先進的な病院を視察する機会がありました。院内でのプレゼンテーションや見学では、各施策について詳細な解説をいただきました。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)や個人のウェイの掲示、地域を巻き込んだ多職種育成プログラム、そしてトヨタ自動車の協力を得て進めているカイゼン活動について、テーマごとにエリアを分けてご案内いただきました。個々の取り組みはどれも非常に示唆に富むものでしたが、最後に拝見したカイゼン現場において、これら一連の施策がすべて一本の線でつながったような強い印象を受けました。

在宅・訪問診療部門で訪問時に使用するバッグについて、トヨタ生産方式に基づきバッグ内の配置・運用の標準化や在庫管理の定量化などを徹底されていました。その標準化や定量化を進める過程で、トヨタ生産方式の肝の一つである“見える化”が徹底されていました。この“見える化”の成果として、階層間・工程間・職種間の“視座・視野・視点の違い”を顕在化させて、前提の違いを視覚的に認識し合えるようになっていることが、最大の発見(気づき)でした。

冒頭の2つのレポートでもお伝えしたように、人間は一人ひとり価値観が違います。また、階層間のトップとミドルや現場の“視座”“視野”“視点”の違いもあります。

一般的に“視座”“視野”“視点”は以下のように整理されます。

  • 視座:「どの立場で」物事を見るか/考えるか
  • 視野:「どの範囲で」物事を見るか/考えるか
  • 視点:「どの観点で」物事を見るか/考えるか

【図表】視座・視野・視点のイメージ

よく登山の例で説明されますが、視座は高さなので、高い視座になれば視野が広がります。山頂と登山口の平地では標高(視座)が異なるので、目に入る範囲(視野)が大きく変わります。視野が広がれば、観点(視点)も変わってきます。これから登る山道の大変さなのか?山頂からの風景の美しさなのか?というように視点も異なってきます。まさに、トップとミドルや現場の“視座”“視野”“視点”の違いがあります。

これに加えて、特に職種間ではプロフェッショナルの定義も教育プログラムも異なります。こうした前提の差が「どの観点で物事を見るか?」という“視点の違い”を生み出します。また、同じ職種の中でも医師では内科系・外科系など診療科単位によっても前提が異なり、その結果としての視点が大きく異なってしまっているということが考えられます。

さらに、今回の視察では職種の論点だけでなく、工程間という論点も明確に認識することができました。トヨタ生産方式では「前工程は神様、後工程はお客様」※ⅲという言葉をよく使うと言われますが、まさに“自工程の状況を後工程へ視覚的に伝える”ことで、在庫の使用を“見える化”して在庫管理に活かしていました。この前工程・自工程・後工程という「どの範囲で物事を見るか?」という“視野の違い”が出てきます。訪問診療部門でこの導入プロセスの話を担当者に伺う中で、多職種協働型組織を作り上げるヒントがあったように感じます。

職種間や階層間、さらには工程間では職務の目的もその前提や背景も大きく異なります。その結果、視座・視野・視点の違いがあるので、認識やコミュニケーションのギャップが生まれます。こうしたギャップを乗り越えるためには、その前提の違いを“見える化”しておくことが有効なのだと思います。

視察した病院では、カイゼンにより違いが“見える化”されていました。こうして職種間・工程間・階層間の前提の違いを“見える化”して顕在化させることで、視座・視野・視点の違いを相互に認識させています。その結果、カイゼンの対話が生まれていました。

違いを顕在化させて“対話”を促進する?

多職種協働型組織を作るために、職種間・工程間・階層間の前提の違いを“見える化”して顕在化させるというのは一見、矛盾しているように感じると思います。しかし、違う箇所と論点を“見える化”しないと、対話の糸口と論点が定まりません。

以前、株式会社日本経営お役立ち情報の下記レポートで経営学者の宇田川元一氏が著書(「企業変革のジレンマ」-「構造的無能化」はなぜ起きるのか)で提唱する「構造的無能化」※ⅳについて解説しました。

グループ病院ほど“構造的無能化”が発生しやすい?(2025年6月12日)

【図表】構造的無能化のメカニズム

環境適応と無能化のメカニズム

図表のように「断片化」⇒「不全化」⇒「表層化」のメカニズムにより、「組織が考えたり実行したりする能力を喪失し、環境変化への適応力を喪失していく」という組織劣化の問題を、宇田川氏は「構造的無能化」と定義しています。企業が環境に適応して成熟していくことで“分業化・ルーティン化(断片化)”し、“部門間・階層間の隔たり(不全化)”が起き、“変わらない組織ルーティン”により表層化します。まさに、これまで述べたような職種間・工程間・階層間の前提の違いを放置しておけば、分業による「断片化」が進みます。多職種協働型組織の正反対の状況です。そこで、違いを“見える化”して、その違いを認識した上で解決策を考える“対話”が必要になります。

宇田川氏は、構造的無能化を乗り越える方法として“対話”の重要性を主張します。上記レポートでも述べましたが、優良病院では、多職種ディスカッションでのBSC※ⅴを活かした事業計画やその策定ワークショップ研修が広く導入されています。多職種が持ち寄ったデータをもとに、ディスカッションを行うことで、以下のような気づきが生まれます。

「え、この薬剤こんなに高かったの?」
「○○(薬剤名)って、15mgと7.5mgでこんなに値段違うの?それなら15mgの方を分割できない?」

こうした異なる職種の視点で対話を行うことで気づきを促すという、年次ルーティンを採り入れています。こちらも同じく違いを顕在化させることで“気づき”を生み、改善行動につなげる取り組みです。BSC策定ワークショップ研修では年次の事業計画作りやその診療科別アクションプラン策定を行いますが、多職種協働型組織ではさらに高頻度の日次・週次・月次などのサイクルで対話を重ねる必要があります。そこで、日々の業務プロセスの中に、意識して見ようとせざるを得ない“見える化”を組み込むことがポイントになります。

“無意識の「構造的無能化」”をどう防ぐか?

この“気づき”は株式会社日本経営が社内でも、お客様先での新入社員研修や役職者・幹部研修でも一貫してお伝えする「5つの基準行動(① 気づきと挨拶/② 早起きと認識即行動/③ 約束と計画/④ 報告・連絡・相談/⑤ 整理・整頓・清掃・清潔)」の第1番目の項目です。

【図表】5つの基準行動

特に“気づき”は、レーダーのように自ら意識を向けないと気づくことができない内容です。レーダーが電波を向けることで雨雲や飛行機を発見(気づき)するように、他者に自ら意識・関心を向けておくことがポイントになります。

【図表】自ら意識を向ける“気づき”のイメージ

気づきの具体例として、株式会社日本経営が実施する新入社員研修や役職者・幹部研修では、研修内のワークの一つとして、受講者が日々利用しているサービスのロゴを1分間で書いてもらうことがあります。皆さん日常的、かつ一日に何度も利用していて、そのロゴを目にしています。しかし、意識していないものは視覚に入っても記憶に残っていません。そのため、そのワーク中にロゴを書ける人はほぼいません。つまり、“意識して見ていないものは気づけない”ということです。

これを今回の論点に置き換えれば、職種間・工程間・階層間の前提の違いがあることは皆さん知っていますが、それを自ら意識しておかなければ、そこに気づけずに“無意識の「構造的無能化」”を引き起こすのです。これが職種間・工程間・階層間、ひいては個人間で様々な認識の違いによるトラブルを起こす原因だと思います。

だからこそ、ただ情報を掲示するだけでなく、日常業務の中で“自然と視界に飛び込んでくるような仕掛け”が必要になります。これは、鉄道や医療現場における“指差し確認”と同じ役割を果たすものです。スタッフの意識や注意をその瞬間、確実に1点に集中させるための“見える化”こそが、極めて重要になります。

まとめ:真の多職種協働型組織を作るために

“デジタル化×多職種協働型組織化”が推進されています。まさに株式会社日本経営がこれまで提唱してきた“DX=D(デジタル化)×CX(組織変革)”が求められています。その一番のポイントは“真の多職種協働型組織をどう実現するか?”です。デジタル製品・サービス自体は購入・導入すれば良いですが、その成果は真の多職種協働型組織を実現しなければ得られません。

多職種協働を掲げる組織は増加傾向にあり、パーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の中にその文言を見る機会も増えました。しかし、それを浸透させるのは容易ではありません。今回、訪問診療部門のカイゼンという一例からの気づきを踏まえて、弊社がこれまでも取り組んできたBSC策定ワークショップ研修や新入社員研修、役職者・幹部研修でも一貫してお伝えする「5つの基準行動」と関連付けて論考してみました。“無意識の「構造的無能化」”への対応は、真の多職種協働型組織を作り上げる上で重要となるでしょう。

Q&A 例

Q1:令和8年度診療報酬改定において、病院DXを推進する上で重要となるポイントは何ですか?

A1:デジタル製品やサービスの導入(D:デジタル化)だけでなく、それを有効活用して真の多職種協働型組織を作り上げる「CX(組織変革)」をあわせて実現することが重要です。

Q2:骨太方針2026において、チーム医療や多職種連携はどのように位置づけられていますか?

A2:閣議決定版において「多職種連携を含むチーム医療等による」という文言が明記され、令和8年度診療報酬改定と並んで組織変革の重点ポイントとして位置づけられています。

Q3:職種間や階層間で認識やコミュニケーションのギャップが生まれる原因は何ですか?

A3:職種によるプロフェッショナルの定義や教育プログラムの違い、階層(トップ・ミドル・現場)ごとの立場の違いなどにより、物事を見る際の「視座(どの立場で)」「視野(どの範囲で)」「視点(どの観点で)」に差が生じることが原因です。

Q4:組織が適応力を喪失する無意識の「構造的無能化」を防ぐためには、どのような取り組みが有効ですか?

A4:職種間や工程間の前提の違いを「見える化」して対話の糸口を作るとともに、自ら他者に意識を向ける「気づき」を得るため、見えやすい場所に掲示するなどの意識的な仕掛けを日常業務の中に組み込むことが有効です。

Q5:「視座」「視野」「視点」の違いとは何ですか?

A5:「視座」はどの立場で物事を見るか、「視野」はどの範囲で見るか、「視点」はどの観点で見るかを指します。登山に例えると、視座は標高、視野は目に入る範囲、視点は何に注目するかにあたり、視座が高くなるほど視野が広がり、視点も変化します。

Q6:経営学者の宇田川元一氏が提唱する「構造的無能化」とは何ですか?

A6:分業による「断片化」から「不全化」「表層化」へと進み、組織が考え実行する能力を喪失し、環境変化への適応力を失っていく組織劣化の問題を指します(宇田川元一「企業変革のジレンマ」)。職種間・工程間・階層間の前提の違いを放置すると、この断片化が進行します。

Q7:株式会社日本経営が提唱する「5つの基準行動」とは何ですか?

A7:①気づきと挨拶 ②早起きと認識即行動 ③約束と計画 ④報告・連絡・相談 ⑤整理・整頓・清掃・清潔の5項目です。株式会社日本経営が新入社員研修から役職者・幹部研修まで一貫してお伝えしている行動指針で、多職種協働型組織づくりの土台となります。

医師マネジメント専門サイト」もご活用ください


※ⅰ)厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」

※ⅱ)内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026 について」

※ⅲ)福岡藤乃「世界標準のトヨタ流病院経営」(2011年)

※ⅳ)宇田川元一「企業変革のジレンマ」-「構造的無能化」はなぜ起きるのか(2024年)

※ⅴ)グロービス経営大学院 MBA用語集「バランスト・スコアカード(BSC)」


本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

【略歴】
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012年病院経営コンサルティング部門に異動。
医師人事制度と他院ベンチマークデータ・診療科別原価計算を組み合わせて「医師マネジメントシステム」と定義し高次化。現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。
また、医療情報システム導入支援および組織人事コンサルティング経験を踏まえて、「DX=D×CX」(デジタル化×組織変革)と定義して真の病院DX支援も推進。
その他、優良病院とヘルスケアスタートアップの共創イベント『病院経営イノベーションピッチ』を発案し、その企画・運営責任者としても取り組んでいる。
第1回病院経営イノベーションピッチ
第2回病院経営イノベーションピッチ

【学位・登録】
・2005年 西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了
・2017年 グロービス経営大学院MBAコース修了
・2023年~ 総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー

【論文・寄稿】
データドリブンアプローチのための病院DX人材育成(2025年)
建築費高騰時代に,建て替えを実現するための病院DXの活用(2025年)
タスクシフティングのための事務作業効率化(2020年)
事務長は病院IT化を幹部職員育成の場に活かすべき(2014年)
中小規模病院での組織マネジメントの脆弱性がHIS導入への障壁となる(2012年)

【講演等】
産経新聞社主催「地域医療DX戦略フォーラム」基調講演(2026年)
第10回JCHO地域医療総合医学会 ランチョンセミナー(2025年)
第75回 日本病院学会 ランチョンセミナー(2025年)
第22回 日本医療マネジメント学会高知県支部学術集会ランチョンセミナー(2026年)
第67回全日本病院学会in埼玉ランチョンセミナー(2026年)

 以上

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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