お役立ち情報

OODAループを実現できる組織とは?

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

2023年1月に弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しました。

【優良病院のマネジメントの共通項】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-94999/

このレポートでは優良病院の共通項としてOODAループについて、下記のように触れています。

ポイントは、「異常を早く察知」して「早く対処」している点だと思います。
従来からの改善手法であるPDCAサイクルも、昨今は「OODAループ」へと、マネジメントの考え方も変わってきています。

OODAループとは、観察(Observation)・情勢判断(Orientation)・意思決定 (Decision)・行動(Action)の略で、朝鮮戦争時の空中戦で考案され、一番激戦地に敵前上陸する米国海兵隊で確立しました。現在はビジネススクール(経営大学院)などで研究されて、ビジネスでも活用されています。

素早く対処している優良病院を見てみると、こうしたOODAループのステップを踏まえた取り組みをしていると感じることがあります。

OODAループのように経営学では、軍事組織での知見をベースに理論やフレームワークが組み立てられていることが多くみられます。経営学における「“戦略”と“戦術”」や「“ライン”と“スタッフ”」などの用語は、軍事組織からそのまま引用されていることもしばしばあります。

また、2025年1月に亡くなられた日本を代表する経営学者である故・野中郁次郎先生の著書として有名な「失敗の本質」(※ⅰ) も旧日本軍の組織論的研究をもとに、当時の日本企業への提言を行った内容です。
加えて、野中先生は「知的機動力の本質」(※ⅱ) という著書でアメリカ海兵隊の組織論的研究もされています。この書籍の「はじめに」は、以下の言葉で締めくくられています。

日本企業は、日本的組織の強みと弱みを自覚しながら、最強の軍事組織に進化したアメリカ海兵隊に学んで、二十一世紀の自己革新組織を作りだしてほしい。

野中先生の言葉を踏まえてアメリカ海兵隊をウォッチしていると、2020年代に入って新たな組織変革(CX)をしていることに気づきます。

西太平洋・インド洋地域の地政学的な変化に対応して、新たに遠征前進基地作戦(EABO)という戦略コンセプトを打ち立て、「海兵沿岸連隊」という新たな組織形態を生み出しています。沖縄に所在する第12海兵連隊は2023年11月に部隊の名称変更が行われ、2025年までに第12海兵沿岸連隊へと改編される予定 (※ⅲ) です。

この海兵沿岸連隊という組織形態は、敵の脅威下の島嶼部へこれまでより小規模化した部隊を“分散展開”する、対艦攻撃・対空防御能力を有する“諸兵科連合部隊”です。

このアメリカ海兵隊の組織変革を頭に置きながら、最近の病院組織を振り返ると共通項が見えてきます。昨今、「セル」と呼ばれる小規模ユニットを構成し、そのベッドサイドへスタッフを“分散展開”し、看護師・セラピストなど“多職種協働”の組織へ変革する事例が増えています。チームを「小規模化」して、「多職種混成(軍事組織でいう“諸兵科連合”)」し、現場近くに「分散配置」という面では、非常に似ています。

多職種協働型のチーム医療をどう作るか?

最近の病院組織のあり方の変化やアメリカ海兵隊の組織変革を踏まえると、チームを「小規模化」して、「多職種混成」し、現場近くに「分散配置」というコンセプトは、今後の組織形態のトレンドになりそうです。

こうした組織形態は、病院事業においては患者経験価値向上の面でも重要になります。2023年4月に以下のレポートを弊社お役立ち情報で公開しました。

【患者経験価値(PX)の向上を実現するDX】
https://service.nkgr.co.jp/dx/report/dYoBc9vg

上記レポートでも述べたように、患者経験価値(Patient Experience、以下PX)を実現するためには多職種協働型のチーム医療が必須であり、それを支えるツールとしてデジタル化を進め、“組織変革×デジタル化”による真のDXが求められています。

それでは、こうした組織をどうやって作るべきでしょうか。野中先生は、これまで列記したような書籍を通じて「SECIモデル (※ⅳ)」と呼ばれるナレッジ・マネジメントの考え方を提唱したことで、日本を代表する経営学者とされています。

SECIモデルは、個人が持つ暗黙的な知識(暗黙知)は、「共同化」、「表出化」、「連結化」、「内面化」という4つの変換プロセスを経ることで、集団や組織の共有の知識(形式知)となるという考え方です。

前掲の「知的機動力の本質」で野中先生は、海兵隊のジョブローテーションに着目しています。海兵隊は部隊を「展開前」「展開」「展開後」の各プロセスを6ヵ月基準としてローテーションし、「展開後」には次に「展開」する部隊へ2週間の引継ぎを行う中で、暗黙知の形式知化を行うこと。また、引継ぎ後の休息期間には管理部門へ異動し、現場で獲得した暗黙知をマニュアル化やデジタル化して形式知へ変換する場にしています。

このように、単に多職種が同じ場で一緒に仕事をするだけではなく、PX向上という目的を実現するためには、真のチーム医療を行い、SECIモデルを回してナレッジを共創していく必要があります。このナレッジ共創があるので、OODAループの情勢判断が上手く機能します。

つまり、OODAループを実現するためには、SECIモデルを効果的に回すことが重要となるのです。野中先生の考えに基づくと、“ジョブローテーションを通じた、SECIモデルの実践が真のチーム医療実現”のポイントになると考えられます。

ジョブローテーションをどう実現するか?

このジョブローテーションという観点で考えると、2つのパターンが考えられます。“法人内ジョブローテーション”と“法人外のジョブローテーション”です。まず、前者については「複線型(コース別)等級制度」の活用が考えられます。

先日、以下のレポートを弊社お役立ち情報で公開しました。このレポートの中段で「複線型(コース別)等級制度」について触れています。

【4つの経営機能”を具体化させる各種フレームワークの使い方】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-118069/

働き方コースで基本給に差をつける場合、同一労働同一賃金の論点が出てくるので“同一の労働か?”の判断基準となる「責任の程度」と「職務の内容及び配置の変更の範囲」を踏まえてコースを設計する必要があります。この「配置の変更の範囲」で基本給に差をつけることで、法人内の拠点間異動や事業部門間異動を推進することが考えられます。

また、後者については、先日弊社お役立ち情報で公開した以下のレポートが参考になると思います。

【トップ方針を代弁する将来人材をどう育成するか?】
~“武者修行”で活き活きしたミドル・幹部を育てる?~
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-118126/

このレポートで論考したように、異なるエリアや医療機能の他院で勤務することで、“視座”“視野”“視点”が変化し、その経験が新たな暗黙知を生み出すのだと思います。

OODAループを実現するSECIモデルを実践した組織づくり

法人の内外にかかわらずジョブローテーションを行うことが暗黙知⇔形式知というSECIモデルの実践を通じてOODAループを実現し、PX向上を目指す真のチーム医療の実現につながると考えます。そのためには、直近で公開した2つのレポートのように組織システムを刷新し、法人の内外にかかわらずジョブローテーションを実現する組織システムが必要になると思います。

「“4つの経営機能”を具体化させる各種フレームワークの使い方」レポートでも論考したように、経営の各種機能は連関しています。

今回論考したOODAループの観点だけでなく、生産年齢人口が急減する“2040年問題”や2030年までに“最低賃金全国加重平均1,500円達成”という政府目標などを踏まえると、病院組織へ影響する内外要因が今後も多数控えています。こうした組織変革(CX)と、それをサポートするデジタル化(D)を組み合わせた真のDX(DX=D×CX)が求められるでしょう。
その際、OODAループを確立させたアメリカ海兵隊など、業界や国境も越えた異文化組織も参考に検討してみてはいかがでしょうか。

なお、弊社ではこうした人事制度の整備や医師マネジメントシステムの整備、さらには病院間の連携・人事交流に関するご相談などに対応しています。下記のように各種サービス案内をまとめていますので、ご参考になさってください。

■グループ病院ガバナンス強化パッケージ
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/250125A4.pdf

■医師マネジメント強化パッケージ
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/10/6d70ba3d46821142607fb26de721573e.pdf

■医師人事マネジメント事例集
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/09/cd2ff598dc066a512d2127b149198423.pdf

■病院DX支援
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2025/03/02207325137ab679e450d54f7c13b836.pdf

■職員アンケート(ESナビゲーターⅡ)事例集
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/11/85be7e4643a8ae9999ce3f2e1fcf346d.pdf

以上

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※ⅰ 出所:野中郁次郎ほか「失敗の本質-日本軍の組織論的研究」(1984年)
※ⅱ 出所:野中郁次郎「知的機動力の本質-アメリカ海兵隊の組織論的研究」(2017年)
※ⅲ https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2024/w2024_00.html
   出所:防衛省「令和6年版防衛白書」
※ⅳ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11667.html
   出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「SECIモデル」
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私たちは、医師マネジメントを高次化し
貢献行動促進」「モチベーション向上」「病院収益の向上」に貢献します

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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