お役立ち情報

人件費単価が“1.5倍”に! ~最賃引上げが迫る“働き手に選ばれる職場”への組織変革~

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

最低賃金が5年で約1.5倍へ

先日、最低賃金引上げに関連して、以下のレポートを弊社お役立ち情報で公開しました。

【最低賃金引き上げが迫る組織変革としての病院DX】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-112906/

その直後、内閣総理大臣が交代し石破内閣が発足しました。石破内閣総理大臣就任の記者会見および所信表明演説では、最低賃金を「2020年代に全国平均1,500円」という数値目標が示されました。

https://www.kantei.go.jp/jp/102_ishiba/statement/2024/1001kaiken.html
出所:首相官邸「石破内閣総理大臣記者会見(更新日:令和6年10月1日)」

前述したレポートでは、岸田内閣での骨太方針2024の「2030年代半ばまでに全国加重平均を1,500円」という最低賃金引上げの流れをまとめました。しかし、石破内閣に変わって、この期限が前倒しされています。つまり、2020年代ということは残り5年間で1,500円を達成しなければなりません。これを下記のように予測してみました。

2024年の最低賃金全国加重平均が1,055円なので、2029年まで毎年平均89.0円の引上げが継続することになります。最低賃金が1,500円になるインパクトは前述のレポートでお伝えしましたが、今回着目したいのは“5年で賃金単価が約1.5倍”になることです。もちろん医療職では、賃金水準の高い医師などの職種も多いので、そのまま病院全体の賃金単価が1.5倍になるわけではありません。しかし、前述したレポートのように、今後の賃金上昇のトレンドは確定的です。

上記のケースで考えると全国平均の年平均成長率は、7.29%となるので、“7%以上の賃上げが5年継続”することになります。今年上半期の病院経営の主要テーマであった“ベースアップ評価料:2.3%賃上げの3倍以上“になります。こうした中期の賃金トレンドを考えると、病院も定期昇給からベースアップを軸にした賃金体系に変わっていくと考えられます。

定期昇給 ⇒ ベースアップへ

日本では、以前の日本的経営の名残で“定期昇給”の概念が広く浸透しています。近年かなり緩和されてきましたが、医療業界ではまだ勤続年数に応じて毎年昇給することが労働慣行となっています。一方、昨今は“ジョブ型雇用”が注目されており、岸田内閣でもジョブ型雇用が、年始の施政方針演説や骨太方針などで何度もキーワードとして出てきました。ジョブ型雇用になればジョブに対して値決めがなされ、物価上昇などの外部環境の変化に応じて、そのジョブの値決めを更新するベースアップ(賃金表の改定)がされるようになります。

今回の最低賃金引き上げは、“定期昇給⇒ベースアップ”へ人件費原資の配分方法を抜本的に変革するように迫ることになります。従来もジョブ型雇用を目指して、ベースアップを含む賃金制度の見直しに取り組む病院はありました。しかし、現場のスタッフから「近隣の他院では●円の定期昇給があったのに当院は無いのですか?」という声が挙がるとそれに抗しきれず、ベースアップしたのに定期昇給せざるを得なくなるケースがありました。医療業界ではまだ定期昇給が一般的で、それを行わないことが、従業員軽視のように捉えられてしまう風潮があります。その結果、ベースアップしたとしても定期昇給せざるを得ないので、そもそものベースアップを抑える(又は実施しない)という選択をしてきた病院もありました。弊社がご支援した先でも、こうした背景から長年、賃金表を改定しておらず、賃金相場と賃金制度との乖離が激しくなって相談いただく先があります。

今回、石破内閣の最低賃金を「2020年代に全国平均1,500円」という方針を推進する場合、ベースアップへ人件費原資をシフトさせていきます。その上昇幅が大きいため、従来のように定期昇給との併用は財務的に難しくなります。結果として“定期昇給⇒ベースアップ”という抜本的な変革が求められていきます。このように賃金制度など人事制度のあり方が変わっていきます。

価格転嫁が制限されている病院経営

一方、病院経営は制度ビジネスのため値決めに制限があります。先日、以下のレポートをお役立ち情報で公開しましたが、2022年度以降は消費者物価指数が急上昇し、診療報酬改定が追い付いていません。そのため、“各種コスト増の価格転嫁が難しい”ことが、昨今の病院経営に影響を与えています。

【物価上昇に対応する“損益”を軸にした医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-113337/

ここに今回検討した、抜本的な人事制度の抜本的な改定が加わってきます。材料費・水道光熱費などに加えて、人件費単価の大きく上昇するトレンドが継続します。やはり、従来と同じ組織のあり方では、持続することが難しくなります。

“働き手に選ばれる職場”を目的にテクノロジーやエンゲイジメントを考える

弊社では「DX=D(デジタル化)×CX(組織変革)」という公式で、真のDXの必要性を解説してきました。また、生産年齢人口が急減する2040年問題を踏まえて、以下のレポートのようなエリア別組織戦略を解説してきました。

【働き手不足時代の病院エリア別組織戦略】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-103598/

前述したように外部環境が激変するだけでなく、いわゆる“Z世代”が代名詞となるように働き手の価値観という内部環境も大きく変わってきています。

その結果、組織マネジメントの領域でも、従来の“職員満足度”から“ワーク・エンゲイジメント”へトレンドが変わってきています。令和6年度版厚生労働白書でも“「働きがい」と「働きやすさ」が実現できる職場環境”の重要性がうたわれており、その中で「働きがい」を示す指標の一つとしてワーク・エンゲイジメントが取り上げられています。

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/23/dl/zentai.pdf
出所:厚生労働省「令和6年版厚生労働白書(令和 5 年度厚生労働行政年次報告)
―こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に―」

ワーク・エンゲイジメントとは、組織・法人⇔従業員の双方向の信頼性が高まり、結果として“活力”“熱意”“没頭”などの働きがいが高まった状態です。少ない人数で現場のオペレーションを回すという効率性の視点だけでなく、働き手に選ばれるワーク・エンゲイジメントが高い職場になることが求められます。そのため、組織・法人は、従業員が安心して働くことのできる環境や、働きやすい環境を整備する必要があります。こうした目的から逆算して、デジタルやロボットなどのテクノロジーを導入すべきでしょう。例えば、建て替えの際なども、従業員の就業環境の整備、特に宿直室や休憩室、トイレなどの環境が論点になってきます。こうしたハード面だけでなくソフト面としては、人間関係を含めた“心理的安全性”も求められます。

賃上げ競争にならないマネジメント

前述したような賃上げのトレンドを踏まえて、単に賃金を上げて従業員を集める時代は終わりました。国が強制力をもって賃上げを進めるので、むしろ、組織・法人としては、それ以外の論点を踏まえて”働き手に選ばれる職場”づくりに取り組む必要があります。

そこで、前述した「働き手不足時代の病院エリア別組織戦略」のレポートで詳述していますが、“複線型人事制度”を導入する病院が増えています。また、「物価上昇に対応する“損益”を軸にした医師マネジメント」のレポートでも触れたように、“医師にも複線型人事制度を導入”する病院も出てきています。

これも価値観の多様化の中で、多様な働き方を選択できることが求められているのだと思います。賃上げは不可逆的に進むので、それに加えてワーク・エンゲイジメントも含めた“働き手に選ばれる職場”づくりが必要なのだと思います。

なお、弊社では上記の「DX=D×CX」という意味での病院DX支援やそれを下支えする医師マネジメントシステム構築支援などを行っています。特に医師マネジメント支援は、全国200病院を超える実績(2024年4月時点)があり、弊社の特徴的な領域となっています。関心があれば、下記専門サイトをご覧ください。

【医師マネジメント特設サイト】
https://hhr.nkgr.co.jp/dmgt

【病院DX特設サイト】 
https://service.nkgr.co.jp/dx

「医師マネジメントの実務専門サイト」にて
各種レポートをご覧いただけます

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー(「DXの取組」領域)。民間急性期病院の医事課を経て弊社に入社。医療情報システム導入支援を皮切りに業務を行い、東京支社勤務時には医療関連企業のマーケティング支援を経験。現在は、医師人事評価制度構築支援やBSCを活用した経営計画策定研修講師、役職者研修講師を行っている。2005年に西南学院大学大学院で修士(経営学)を取得後、2017年にグロービス経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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