コンサルタントの視座・着眼「同一労働同一賃金の衝撃!」

2019.02.25

同一労働同一賃金の衝撃!

株式会社 日本経営 取締役 橋本竜也

同一労働同一賃金は、比べ物にならないくらい経営にインパクト

4月より「働き方改革関連法」が順次施行されていますが、大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月より、「同一労働同一賃金」が適用されるのをご存知でしょうか。

働き方改革と言うと、どうしても時間外労働の削減、有給休暇の取得促進、さらには業務効率化などばかりが注目されますが、いわゆる同一労働同一賃金(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の施行は、それらに比べ物にならないくらい経営にインパクトがあるものです。

私はおよそ80ページにわたるこの法律の基発を読みながら、怒りのような感情と強い使命感を覚えました。

同一労働同一賃金に怒りがあるわけではありません。法基準のハードルが高すぎ、また内容が細かすぎて、多くの中小企業で対応が相当困難だと考えられるからです。

そして、「この法対応における経営リスクからお客様を守らなければならない」という使命感を、強く覚えました。それが、「顧客の正しい防衛と経営発展のため祈りをこめて奉仕する」という、弊社の五信条の第一条に掲げる我々の使命です。

同一であるか否かは、決められた手順に沿って判断する

同一労働同一賃金とは、「同一企業内における正社員と非正規社員の間で不合理な待遇の差を設けてはならない」という法律です。

非正規社員とは一般的には、パート、契約社員、嘱託社員などが該当します。これらの非正規社員が、正社員と職務の内容や人材活用・配置において同一であれば、雇用契約の違いや勤務時間の違い等を理由として、正社員と処遇や福利厚生等に不合理な差をつけてはいけないということです。

「そりゃ、正社員とパートでは責任が違うよ。」という考えは当然あると思われますが、職務内容や人材活用・配置が同一であるか否かは、決められた手順に沿って判断する必要があります。いくら事業主が「違う」と言っていたとしても、実態として同じと判定されれば、処遇や福利厚生に不合理な差をつけることはできません。

また、各種手当等も問題になりやすくなります。

例えば、資格手当。資格手当は資格に払っているという基準であれば、正社員にだけ払うというのは、合理性がないと判断される可能性が高くなります。

同様のことでいえば、家族手当、住宅手当等も、正社員にのみ支給するのは合理性がないと判断される可能性があります。

正社員が正社員である意味がなくなり、これはこれで不公平

こうしたなか、最近では非正規社員が正社員と給与や賞与、退職金等が違うのは(または非正規社員は対象外)、不合理だと訴え、原告である労働者側が勝訴する事例が続いています。

こうしたことを踏まえると、同一労働同一賃金への対応により、当然ながら人件費は上がっていくでしょう。

私は、非正規社員が正社員と同じ仕事と責任を負っているのであれば、正社員と同じ処遇であるべきだと考えます。パートや契約社員という形態で契約し、正社員と同等の仕事をさせることで人件費を抑える経営手法は、健全だとは考えられません。こうした経営は、今後、明らかに維持できなくなるでしょう。

しかし、実際に違いがあるのであれば、それは給与等に違いがあるのは合理的だと考えます。そうでなければ、正社員が正社員である意味がなくなり、正社員からの不満も膨らむことでしょう。これはこれで不公平なのです。

雇用形態でなく、仕事基準・役割基準で賃金を考える

そこで、経営者の方々にぜひとも考えていただきたいことが二つあります。

①非正規社員が担っている役割や仕事が正社員と違うのであれば、違うということを法律に沿って明確に説明できるように改めて整理する。

②非正規社員の給与を考えるのではなく、役割や仕事の内容、責任に応じた給与を考える。

②については、あえて荒っぽい言い方で分かりやすく述べますと、

  • 「パートだから賃金が安い」はダメです。
  • 「この仕事の内容と責任だから、この賃金水準だ」という考え方です。

同じようなことをいっているようですが、違います。

賃金の考え方を雇用形態で見るのではなく、仕事基準、役割基準で考えていく必要があるのです。

経営者の経営観、人材観に基づく意思決定が必要

将来的には全社員が職務給で、時給になる時代が来るとも考えられます。

ですので、働き方改革は、ある意味では働く人にとっても厳しい。企業は職務の内容や成果で給与を決める傾向を強めていくはずですから。

同一労働同一賃金の対応については、法律に合わせて基準を変えていく程度の対応では乗り越えられない部分があります。経営者の経営観、人材観に基づく意思決定が必要なことが多くなると考えています。

ですので、この分野についての情報も収集しつつ、実務は専門部署や担当者に任せるとしても、ぜひ経営者の方々が大所高所から関わっていただきたいと思います。

弊社はこの同一労働同一賃金について、人事コンサルティング部門、社労士部門が総力を上げて研究し、お客様の経営と従業員の方々を守り、健全なご発展につながるよう支援体制を整えています。

この労務倒産にもつながりかねない危機を、皆様のパートナーとして共に乗り越え、皆様の成長発展に貢献していく所存です。

本稿の執筆者

橋本竜也(はしもとたつや)
株式会社 日本経営 取締役

入社以来、人事コンサルティング部門にて、一貫して病院・企業の人事制度改革に携わる。2006年には調剤薬局に出向し、収益改善と組織改革を実現。コンサルティングにおいては、人事改革、組織改革のほか、赤字病院の経営再建にも従事。2013年1月福岡オフィス長に就任。2017年10月より株式会社日本経営取締役。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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