投稿日:2026年10月2日

  • 老健(介護老人保健施設)

老健の赤字を病院の利益で埋めない!「老健単体黒字化」への改革ロードマップ

この記事の要約・ポイント
  • 経営課題の本質:目標値から逆算した「数値管理(逆算KPI)」の仕組みを構築することが黒字化の鍵となる
  • 黒字と赤字の差:黒字施設(法人)は稼働率、単価、人件費率などを適正にコントロールしていることはもちろん、財務に対する意識や業界トレンドの把握など、定性面での違いも見受けられる
  • 戦略モデルの選定:自施設の「地域ポテンシャル」を見極め、「4つの戦略モデル(重度化・特養型など)」から最適な方向性を選ぶことが重要
  • 現場を動かすアプローチ:改革への抵抗を抑えるには、スモールステップでの試行と、既存業務の棚卸しによる負担削減が不可欠

なぜ老健の赤字は埋まらないのか?努力不足ではなく「逆算KPI」の不在が原因

人件費の高騰や物価高が続く中、医療法人・介護事業者における老健(介護老人保健施設)の経営環境は厳しさを増しています。「介護事業の赤字を病院の利益で穴埋めする」という従来の経営モデルは限界を迎えており、老健単体での収支改善・黒字化は喫緊の課題です。

しかし現場では、「職員が努力しているのに稼働率が上がらない」「超強化型などの上位類型に移行できない」といった悩みが絶えません。この問題の本質は、現場の努力や人手不足だけに原因を求めるのではなく、「データに基づく明確な数値管理(逆算KPI)」という経営の仕組みが不足していることにあります。

本記事では、黒字施設と赤字施設を分ける定量・定性データの差をはじめ、自施設の地域性に応じた4つの戦略モデル、そして現場の抵抗を抑えながら数値目標を達成する改革のプロセスを詳しく解説します。

1. データで判明した「黒字施設」と「赤字施設」の構造的ギャップ

老健の経営状況を定量データと運用実態から分析すると、収益を出せている施設と赤字に苦しむ施設には明確な差が存在することが分かります。

利用率・単価・費用率における定量的ギャップ

  • 独立行政法人福祉医療機構(WAM)のデータによると、赤字施設は黒字施設と比較して入所利用率が低く、事業収益対人件費率が高い状態にあります。利用者の平均要介護度自体には大きな差がないものの、稼働率の低さや加算の取得漏れが影響し、1施設あたりの事業収益総額で見ると、基本型〜超強化型までの全類型において黒字施設と赤字施設の間で年間4,000万円以上の大きな開きが生じています。

【データ比較】老健における黒字施設と赤字施設の主要経営指標

比較指標 黒字施設 赤字施設 黒字と赤字の差・特徴
入所利用率 91.3%〜93.0% 86.2%〜88.7% 赤字が 3.0〜5.1pt低い
通所利用率 58.2%〜68.9% 54.3%〜63.4% 赤字が 最大9.6pt低い
1施設あたり事業収益 5.3億円〜7.0億円 4.8億円〜6.2億円 全類型で年間4,000万円以上の開き
事業収益対人件費率 56.8%〜60.5% 65.1%〜67.2% 赤字が 最大8.3pt高く利益を圧迫

※出典:独立行政法人福祉医療機構(WAM)「2024年度 介護老人保健施設の経営状況について」より作成

2. 地域ポテンシャルと施設内努力で選ぶ「4つの戦略モデル」

老健の類型向上(加算型・在宅強化型・超強化型等)を目指す際、知っておくべき重要な前提があります。それは、経営成果は「地域ポテンシャル(外部環境)」と「施設内努力(内部環境)」の掛け算で決まるということです。

  • 地域ポテンシャル: 周辺地域の高齢者人口、医療機関との連携度、サ高住や有老ホームなどの在宅復帰リソース(自施設では変えられない環境)
  • 施設内努力: 稼働率管理、加算の取得、営業活動、人件費・経費の適正コントロール、現場の業務整理(自施設の取り組みで変えられる要素)

「地域ポテンシャルが低いから上位類型は無理だ」と諦める必要はありません。自施設の地域特性を見極めた上で、日本経営では各施設の置かれた環境に適した「4つの戦略モデル」を提唱し、黒字化へのロードマップ策定を支援しています。 

地域ポテンシャル(外部環境)
※自施設では変えられない要素
  • 在宅指標:周辺地域の高齢者人口、復帰先リソース等
  • 利用者特性:要介護度、医療依存度等の地域ニーズ
施設内努力(内部環境)★
※数値管理(逆算KPI)で改善できる要素
  • 稼働率:営業活動 / 問い合わせ・見学対応の可視化
  • 利用者単価:加算の積極取得 / 受け入れ基準の見直し
  • 人件費:制度・手当見直し / 時間外(残業)の削減
  • 経費:アライアンス見直し / 日々の消耗品削減
戦略モデル 地域ポテンシャルの特徴 必要な「施設内努力」とポイント
① 重度化モデル 地方など周辺に高齢者受け入れ先が少なく、老健に広い役割が求められる地域 喀痰吸引・経管栄養者の受け入れ体制構築、24時間看護体制の維持、病院との密な営業連携
② 特養型モデル 在宅復帰率を高めることが地域特性上極めて難しいエリア 人員配置や人件費・経費の厳格なコントロール、長期入所による高稼働の維持
③ サ高住・有老連携モデル 近隣にサ高住や有料老人ホームなどの高齢者住まいが豊富な地域 退所先ルートとなる施設への継続的な営業アプローチ、入退所プロセスの迅速化
④ 地域包括型モデル 病院・通所リハ・居宅介護支援事業所が集積しているエリア 入所時からのクリティカルパス作成、多職種によるリハ・ケアマネジメントの徹底

3. 逆算KPIによる数値管理と現場の動かし方

戦略モデルを現場に定着させ成果を出すには、勘や経験だけに頼らない「逆算のKPI管理」と、現場職員の心理的負担を抑える工夫が必要です。

①「在宅指標」と「営業プロセス」の数値化

  • 目標の落とし込み: 「在宅復帰率50%」「回転率10%」といった類型要件に対し、自施設の定員規模から「1か月あたり何名の居宅退所・新規入所が必要か」を実人数へ換算して管理します
  • 営業のプロセスマネジメント: 獲得したい新規人数から逆算し、契約率・体験利用率・見学率・問い合わせ数を可視化します。「目標の紹介数を獲得するために、今月何件の営業訪問が必要か」を行動計画(日次・週次)へ落とし込み、定期的にPDCAを回します
老健の営業プロセス

② 現場の「3つの抵抗」を解消する運用アプローチ

改革を進める際、現場からは「負担増への不安」「現状維持バイアス」「失敗への恐怖」といった抵抗が生じやすくなります。これらを乗り越えるためには、段階的な展開が有効です。

  • スモールステップでの試行: いきなり全館導入せず、協力的なリーダーのいる1ユニット限定・3ヶ月間などの実証(トライアル)から開始します
  • 業務整理の同時実施: 新規業務を追加する際は、既存業務の棚卸しを行い、無駄な記録や作業を廃止・縮小することで総負担量を調整します
  • プロセスと成果の共有: 小さな成功事例や達成された数値を全体会議で可視化し、挑戦した職員やチームを適切に評価・称賛します

まとめ:老健単体での黒字化に向けたファーストステップ

老健の単体黒字化は、現場へ精神論的な努力を求めるのではなく、自施設を取り巻く地域性の把握、適切な戦略モデルの選択、そして「逆算KPI」による日々の数値管理体制を整備することで実現します。

まずはあなたの施設が目標とする類型要件に対し、「1か月あたり何名の入退所が必要か」「それを達成するための営業行動量は足りているか」という定量的な現状把握から着手する必要があります。

しかし、「施設の周辺地域にどれだけの需要や強みがあるのか(地域ポテンシャル)」、「競合状況に対してどの類型を目指すべきか」を客観的に分析・判断するのは容易ではありません。

自力での分析や現場の巻き込みに不安を感じる場合は、内部のリソースだけで抱え込まず、専門機関の定量データを活用して客観的な現状把握と戦略策定を進めることが有効な選択肢となります。


現状の課題整理や次期改定に向けたロードマップ作成のファーストステップとして
ぜひお気軽にお問い合わせください

本稿の監修者

馬場 豊磯(ばば とよき)
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部

所属する介護福祉コンサルティング部では、「地域で介護福祉を持続可能にする」という想いのもと、主に収益面の改善支援に携わっております。デイサービスでの現場経験を活かし、数字だけでは見えない課題を拾い上げ、現場目線に立った実地支援を行うことを強みとしています。まずは法人の現状を丁寧に分析し、課題を明確にしたうえで、将来に向けた方向性を描くことに注力しています。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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