- 施設部分と外付けサービスの収支分離:家賃・食費などの「施設実費部分」での赤字を、併設する訪問介護・通所介護などの「介護保険収入」で補填する健全な収支構造へ組み直します
- 保険請求割合の可視化による算定漏れ解消:区分限度額に対する実際のサービス消化率(保険請求割合)を個別管理表で徹底的に可視化し、現場の善意によるボランティアケアを正当な対価(報酬)へと変換します
- 「稼働表(ライン表)」に基づく人員配置の適正化:感覚的な人手不足を脱却。職員の1日の動きをタイムラインで可視化(空白時間の特定)し、介護職以外の業務を分業化(タスクシフト)することで、現場のゆとりと適正な人件費率を両立させます
- 収益改善への3ステップ・ロードマップ:高入居率に潜むリスクを暴き、満室でも利益が出ない「構造的赤字」を脱却するための具体的な実践プロセスを提示します
入居率は高く、現場も忙しい。それでも赤字に陥る理由
「入居率(稼働率)が90%を超えていて、常に満室に近いはずなのに、なぜか利益が残らない」
「現場のスタッフは朝から晩までバタバタと忙しく働いているのに、毎月の収支が赤字になる」
現在、多くの有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の経営層・施設長から、このような切実なご相談をいただきます。
激化する競合環境や相次ぐ報酬改定、さらには物価・人件費の高騰といったマクロ環境の波に抗い、有料老人ホームが健全な利益を確保するためには、「稼働率」の先にある本当の経営指標に目を向けなければなりません。今、必要なのは現場のさらなる努力ではなく、「現在の収益構造が、今の時代に合っているか」を客観的に見直すことです。
本記事では、高稼働でも利益が出にくい構造上の課題を解き明かし、5年、10年先も地域に必要とされ続けるための改善ステップを解説します。
1. 稼働率が高いのに利益が出ない3つの罠
なぜ、満室に近いホームが赤字経営に喘ぐことになるのでしょうか。そこには、有料老人ホームやサ高住特有の「構造的な罠」が存在します。
① 経済性の不整合(インフォーマルサービスの無償提供)
介護現場のスタッフは非常にホスピタリティが高く、ご利用者様のために一生懸命ケアを行います。しかし、「介護保険請求ができないサービス(インフォーマルサービス)」を無償で過剰に提供してしまっているケースが後を絶ちません。ケアの量(労働量)が増えているにもかかわらず、それが報酬単価に全く連動していないことが、忙しくても利益が出ない最大の原因です。
② 現場リーダーの現状認識の欠如
現場の施設長やリーダー層は「稼働率(入居率)」には非常に敏感ですが、それ以外のKPI(重要業績評価指標)を把握していない、あるいは経営層から知らされていないことが多くあります。人件費や食材費、水道光熱費といった「費用」の推移が見えていないため、現場レベルでのコスト意識が働きにくい土壌を作り出してしまいます。
③ 何をすれば黒字になるかが現場に共有されていない
「赤字を望む職員は一人もいない」というのは間違いありません。ご自身の賞与や処遇改善加算に直結するため、できれば黒字にしたいと誰もが願っています。しかし、「具体的に自分たちがどう行動を変えれば数字が改善するのか」という道筋(アクションプラン)が現場に共有されていないため、従来のやり方から脱却できないのです。
2. 有料老人ホームの命運を分ける「外付けサービス」の収支構造
特定施設(介護付き)とは異なり、住宅型有料老人ホームやサ高住の収支モデルは、「施設部分(家賃・食費などの自費)」と「外付けサービス(併設する訪問介護や通所介護などの介護保険収入)」の2つに分解して捉える必要があります。
健全な収支構造のモデル
家賃や食費などの自費部分は、地域の相場があるため高額な設定が難しく、施設単体(実費部分)では人件費や管理費を賄いきれずにマイナスが出がちです。
健全な事業所は、施設部分のマイナスを、併設する訪問介護や通所介護などの「外付け介護保険サービス」で得た黒字で相殺し、全体で利益を残す構造を確立しています。
赤字に陥る施設の構造
一方で、赤字から抜け出せない事業所は、保険請求できない「施設部分」に過剰な人員を配置してしまっています。結果として、外付けサービスでいくら保険収入を上げても、施設部分で膨らんだ人件費をカバーしきれなくなり、ホーム全体が赤字に沈んでしまうのです。
この構造から脱却するために重視すべき本当の指標が、「保険請求割合(区分限度額に対する実際のサービス消化率)」です。
- 個別アセスメントに基づくケア状況の可視化: ご利用者様一人ひとりの個別アセスメントと多職種連携に基づき、最適なケアプランが十分に届いているかを「ケア管理表」で可視化。支給限度額に対する自社サービスの提供割合(保険請求割合)を把握することで、計画通りの適切な支援が行われているかを一目で確認できます
- ケアの最適化と正当な報酬の確保:有料老人ホームでは、「介護保険領域」「自費領域」「包括サービス料領域」が曖昧になっていることが多くございます。サービスの利用が少ないご利用者様に対して、「必要なケアが不足していないか」「生活課題に対して最適なサービス(フォーマル・インフォーマル)が提供できているか」を再検証します。アメントに基づいた真に必要なケアを徹底して届けることで、結果としてケアへの正当な対価(保険報酬)を得られる健全な経営体質へと導きます
3. 現場の反発を招かない「人員配置適正化」3つの視点
収支改善において、最もインパクトが大きいのは「人件費(人員配置)」の見直しです。しかし、現場に対して単に「今日からシフトを1人減らします」と伝えても、「今だって忙しいのにこれ以上無理だ」と猛反発を招き、離職の引き金になりかねません。
現場が納得感を持って業務効率化に取り組むためには、以下の3つの視点で業務を可視化することが不可欠です。
| 視点 | 具体的なアプローチ | 期待される効果 |
| ① インフォーマルの視点 | 生活相談や安否確認などの無償業務を、訪問介護等の「保険請求できるサービス」へ極力組み直す | 労働量をそのままに、確実な売上(報酬)へ変換できる |
| ② 空き時間(手待ち)の視点 | 職員の1日の動きを「稼働表(ライン表)」としてタイムラインで可視化し、特定の時間帯に生まれる空白の時間を特定する | 余剰人員の時間を、周辺業務や教育、別サービスの時間へ補填できる |
| ③介護職以外の業務視点 | ゴミ集め、掃除、洗濯、配膳といった「資格がなくてもできる業務」を洗い出す | 介護補助や事務員へのタスクシフト(分業化)により、介護職が専門業務に集中できる |
現場の職員は「人が足りない」と感じていても、稼働表(ライン表)で時間ごとの動きを徹底的に可視化すると、ケアが集中しない時間帯の過剰配置(ムダ)がデータとして浮かび上がります。この客観的な事実をもとに、現場主導でシフトを再設計していくことが成功の鍵となります。
4.収益改善への3ステップ・ロードマップ
- Phase 01:可視化
自社の加算取得率や人件費率、保険請求割合を全国平均と比較し、客観的なデータから「自流」では気づけなかった改善の伸びしろを特定します - Phase 02:意識改革・構造改革
実態に合わせた「保険請求割合」の引き上げ、稼働表に基づく人員再配置、介護職以外の分業化など、本記事で解説した具体的な打ち手を現場を巻き込んで実行します - Phase 03:定着化
「なぜこの利益が必要か」を全職員に共有し、現場主導でPDCAを回しながら、効率化による利益を適切に職員へ還元できる組織文化(伴走型経営)を醸成します
まとめ:収支構造の再構築が組織に「ゆとり」をもたらす
「高稼働(満室)なのに利益が出ない」という悩みは、これまでの経営スタイルが新しいステージへ進むためのサインです。
施設部分と外付けサービスの収支を切り分け、保険請求割合や稼働表(ライン表)を用いて現場の動きを徹底的に可視化すること。これによって、これまで見えなかった「赤字に陥る真の原因」が浮かび上がり、現場のゆとりを生むための具体的なヒントが見つかります。現場の頑張りが正当に報われ、笑顔で本来のケアに集中できる、そんな強固な経営基盤を、今こそ一緒に形にしていきませんか。
有料老人ホームの現状を客観的に把握し、未来に向けた収支最適化の一歩を踏み出したい方は
ぜひお気軽にお問い合わせください
本稿の監修者
住山 大樹(すみやま だいき)
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部
2023年に株式会社日本経営に入社、介護福祉コンサルティング部に配属。入社後は介護事業所の経営分析、収益改善、経営改善計画策定支援などを専門とし、医療法人や社会福祉法人を中心に数々のコンサルティングに従事している。近年では事業統合を伴う事業再編支援など意思決定支援を行う。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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