【全3回】高稼働赤字の罠を暴き、収益構造を再構築するマネジメントの本質【第3回デイサービス(通所介護事業所)編】 | 日本経営

投稿日:2026年7月17日

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  • 収益構造を再構築するマネジメントの本質

【全3回】高稼働赤字の罠を暴き、収益構造を再構築するマネジメントの本質【第3回デイサービス(通所介護事業所)編】

この記事の要約・ポイント
  • 最大化志向から最適志向への転換:売上最大化を目指して無理に稼働率を追求することは、現場の疲弊と固定費の増大を招きます。地域需要を見据えた適正規模での運営が不可欠です
  • 勤務時間単位での配置管理が鍵:デイサービスは時間区分によるサービス提供を行うため、施設系のような大まかな配置管理では不十分です。人件費コントロールを緻密に行う必要があります
  • 利用者の単価構造の適正化:要支援者と要介護者のバランスや受け入れ基準を明確に設定することで、稼働率に頼りすぎない健全な収支構造を確立できます

稼働率は高いのに利益が出ないデイサービス(通所介護事業所)の解決策

毎日たくさんのご利用者様が来ているし、現場は休む間もないほど忙しい。それなのに、なぜか利益が出ない。通常規模型や地域密着型のデイサービス(通所介護事業所)を運営する経営者や施設長、現場リーダーの皆様のなかには、このような悩みを抱えている方も少なくないのではないでしょうか。

実は、多くの介護現場で忙しいのに赤字に喘ぐというケースが散見されます。その背景には、従来の稼働率さえ高ければ利益が出るという経営手法が、現在のマクロ環境や制度に通用しなくなっているという介護経営の落とし穴があります。 

本記事では、黒字の事業所と赤字の事業所を分かつ本当の指標を解説します。地域の需要から逆算した最適志向の運営と、勤務時間単位での緻密な人員配置率の管理によって、持続可能な高収益モデルを確立するための具体的なステップを掴んでいきましょう。 

1. 多くのデイサービス(通所介護事業所)が陥る忙しいだけの赤字経営の背景

かつての介護経営では、施設のキャパシティ限界まで稼働率を追求する売上こそ全てという最大化志向が一般的でした。しかし、現在のデイサービス(通所介護事業所)を取り巻く環境は大きく変化しています。

現場がこれほど忙しいにもかかわらず、利益が残らない背景には、以下の3つのマクロ環境(PEST) の変化があります。

  • Politics(政治):加算取得の重要性増大
    介護報酬改定のたびに各種加算の重要性が増しており、国の制度・メッセージに合わせた柔軟なサービス設計が不可欠になっています
  • Economy(経済):コストの高騰
    最低賃金の上昇による人件費の増加に加え、送迎車に不可欠な燃料費(ガソリン代)や物価・エネルギーコストが高騰しています。従来のコスト管理手法のままでは、利益の維持が困難です
  • Society/Technology(社会・技術):人材の希少化
    生産年齢人口の減少により、スタッフの採用・確保自体が大きなリスクとなっています。ICT活用による生産性向上や、必要人数そのものの見直しが明暗を分ける時代です

赤字を望む職員はいませんが、現場は何をすれば黒字になるのかを共有されていないケースがほとんどです。まずは、この構造的な課題を正しく認識することが収益改善の第一歩となります。

2.黒字と赤字を分かつ本当の指標とは?

売上を高めるためにとにかく稼働率を上げろと号令をかけるだけでは、無理な受け入れによって現場が疲弊し、結果として人件費などの固定費が膨らんで利益を削る結果になりかねません。

黒字事業所と赤字事業所のデータを比較すると、収益性を左右する決定的な要因が見えてきます。

大規模事業所と通常規模・地域密着型事業所の構造的な違い

前提として、定員数の多い大規模型のデイサービス(通所介護事業所)はスケールメリットが働きやすい特徴があります。管理者や生活相談員の配置義務人数は定員規模にかかわらず一定であるため、規模が大きいほど固定費を多くの利用者で薄めることができます。また、急なキャンセルやスタッフの欠勤が発生しても、互いにバックアップが利きやすい利点があります。

一方で、皆様が運営されることの多い通常規模型や地域密着型のデイサービス(通所介護事業所)は、利用者1人、スタッフ1人の変動が経営に与えるインパクトが非常に大きいという特性があります。そのため、より精緻な管理戦略が求められます。 

着目すべきは従事者1人当たりの収益性

独立行政法人福祉医療機構(WAM)の統計調査に基づくと、赤字事業所と黒字事業所の間で、従事者1人当たりの人件費の差(約19万2,000円差)に比べ、従事者1人当たりのサービス活動収益には約102万3,000円もの大きな開きが見られます。

指標 黒字事業所   赤字事業所
利用率(稼働率) 73.7% 63.9%
登録者数 81.7人 70.1人
利用者10人当たり従事者数 5.08人 5.93人
従事者1人当たり人件費 3,539千円 3,731千円
従事者1人当たりサービス活動収益 5,848千円 4,825千円

独立行政法人福祉医療機構(WAM)「2023年度 通所介護の経営状況について」より抜粋
(https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/250627_No003.pdf)
同レポートでは、赤字事業所の方が人件費がやや高い理由として、長期勤続によるベテラン職員が多い傾向にあるためと推察されています。

注目すべきは、利用者10人当たりの従事者数と従事者1人当たりサービス活動収益(売上)の差です。 

多くの施設系サービス(24時間対応)では利用者10名に対して職員〇名という大まかな人員配置の把握で十分な場合もありますが、時間区分(3〜4時間、5〜6時間、7〜8時間など)によってサービスを提供するデイサービス(通所介護事業所)において、無駄のない人件費コントロールを行うマネジメントの観点からは、この大まかな管理だけでは不十分です。 

どれだけ効率のよい配置ができるかが、そのまま従事者1人当たりのサービス活動収益(収益性)の約100万円もの差として表れているのです。

3.デイサービス(通所介護事業所)収益改善における2つの鍵:最適稼働と人員配置率

デイサービス(通所介護事業所)の収益を健全化させるためには、常に稼働率100%を目指す最大化志向から、外部環境から逆算して最も効率よく利益が出るポイントを狙う最適志向へと舵を切る必要があります。

  • 最大化志向
    思考の焦点:売上第一
    行動特性:無理な受け入れや無計画な増員
    結果:固定費増大と現場の疲弊

  • 最適志向
    思考の焦点:外部環境からの逆算
    行動特性:適正規模での人員配置とリソース配分
    結果:高収益と持続的な成長

具体的には、以下の2つのアプローチが鍵となります。

① 地域の需要供給バランスから最適稼働を割り出す

まずは、自社の商圏内にどれだけの要介護者がおり、競合となるデイサービス(通所介護事業所)が何件あるのかという、需要と供給のバランスを客観的に分析します。

たとえば、将来的な人口推計から5年後・10年後に地域需要の縮小が見込まれるのであれば、無理に高い稼働率目標を追い求めてスタッフを増員すべきではありません。その地域の実情に合わせ、この稼働率(例:75〜80%)を維持しながら最大の利益を残すにはどうすべきか、という逆算の戦略設計を行うことが、結果として無駄なコストを抑えることにつながります。

② 法令基準ではなく自社の「人員配置率」を可視化する

適正な人件費コントロールの足かせとなっているのが、参考となる指標(ものさし)がないという問題です。多くの現場では、法令上の下限である人員配置基準を満たしているかどうかの確認にとどまり、客観的な稼働データではなく現場が「提供したい業務」に合わせて感覚的に人を充てる形で人員を配置してしまいがちです。これが結果として人員の過不足を生み、人件費高騰を招く一因となっています。 

これを打破する独自の指標が人員配置率です。

人員配置率=総提供時間÷総職員配置時間

デイサービス(通所介護事業所)において、この配置率が2.0以上に保たれているかどうかが、利益を出せるかどうかの重要な分岐点となります。 この指標を導入することで、年単位だけでなく、週次・日次単位での細かな予実管理(勤務時間数単位での細かな人件費コントロール)が可能になり、現場の全職員に対しても、今、適切な配置ができているかを共有しやすい共通言語となります。

4.【実例】指標の導入と適正化で黒字化を達成した事業所

実際に最適稼働の再定義と人員配置率の管理によって劇的な収益改善を遂げた2つの事例を紹介します。

事例A:稼働率は上げず、人員配置の適正化で利益を創出した過疎地域のデイサービス(通所介護事業所)

  • 課題: 過疎地域に位置しており、地域全体の高齢者数が減少しているため、営業活動を強化してもこれ以上の稼働率向上が見込めない状況でした。高すぎる目標稼働率に合わせて人員を配置していたため、収益が圧迫されていました
  • ご提案した打ち手: 客観的な外部環境分析に基づき、無理な高稼働率を目指すのをやめて現在の稼働率(約70%)を前提とした最適志向へ舵を切りました。日次の人員配置率を明確なKPIとして設定し、勤務時間単位での人員配置の適正化(無駄な人員過多の解消)を徹底しました
  • 成果: 稼働率はほぼ横ばいのままであったにもかかわらず、常勤換算人数の適正化や時間外労働の削減により、年間で約800万〜900万円の収益改善(黒字化)を達成しました

事例B:要支援者の受け入れ上限設定と単価コントロール  

  • 課題:地域密着型のデイサービス(通所介護事業所)において、稼働率は97%とほぼ満床であるにもかかわらず、登録者の約5割を単価の低い要支援者が占めていたために、提供する労働量に対して全体の利用者単価が著しく低下し、赤字に陥っていました
  • ご提案した打ち手: ケアマネジャーとの連携を強化し、現在の利用者のうち状態像から区分変更の対象となり得る方への申請アプローチを促しました。同時に、新規受け入れ時における要支援者の上限値(受け入れ基準)を明確に設定するルール作りを行いました 
  • 成果: 一時的に全体の稼働率は下がったものの、要介護者比率が高まったことで利用者単価(売上)が大きく向上し、効率的に利益が残る体制へと生まれ変わりました

5.収益改善への3ステップ・ロードマップ

  • Phase 01:可視化
    まずは自施設の報酬単価、人件費率、加算取得率、そして人員配置率を、全事業所横断的に可視化し、強みと課題をKPIとして策定します
  • Phase 02:意識改革・構造改革
    要介護度別の受け入れ基準、人員の配置基準、消耗品費等の活用基準を再定義します。さらに人事制度の見直し、加算取得の仕組み化、ICTや介護ロボットの導入による業務効率化など、仕組みとして最適な配置が回る環境を設計します
  • Phase 03:定着化
    現場主導での改善活動、日次の数値管理を定着させます。創出した利益を職員へ還元することで、持続可能な高収益モデルを完成させます

まとめ:現場の意識が変われば、組織は必ず強くなる

デイサービス(通所介護事業所)の経営改善は、現場にもっと頑張れ、利用者を増やせと精神論を押し付けることでは解決しません。

客観的なものさし

・自社の商圏データに基づいた最適稼働を設定する
・勤務時間単位の人員配置率を算出し、人件費をコントロールする
・要介護度別のバランスを考慮した受け入れ基準を明確にする

これらの客観的なものさしを導入し、現場の管理者やリーダーと共通認識(コンセンサス)を持つことが、健全な黒字経営への確実な道筋となります。

まずはあなたの施設の立ち位置を知ることから、人件費コントロールの第一歩を踏み出してみませんか?


デイサービスの現状を客観的に把握し、未来に向けた収支最適化の一歩を踏み出したい方は
ぜひお気軽にお問い合わせください

本稿の監修者

宇野 明人(うの あきひと)
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部
課長代理

2020年、日本経営に入社。福祉・介護事業所や行政を中心にコンサルティングを行い、収益の改善・人事制度の構築・採用力強化・研修の企画実施・部門別採算制度の導入・地域包括ケアシステムの推進支援などに取り組む。定量面と定性面の両側面を重視した実践的な支援を特徴としている。
また、医療・福祉事業所の経営者および経営幹部を対象とした養成講座のコーディネーター・講師を務め、これまでに延べ100名以上の卒業生を輩出している。
【資格等】
MMPGマスター・認定SOUNDコーチ・経営品質セルフアセッサー・ワークショップデザイナー
【執筆・登壇】
第87回日本情報経営学会論題発表「介護コンサルティングにおけるAI活用」
第18回 KMO2025 論題発表「Assessing the Effect on Management Education for the Nursing Staff in Elderly Care Facilities」

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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