- 「人手を増やせば黒字になる」とは限らない:黒字事業所と赤字事業所の職員数の差は約2人。人手不足が収益を圧迫するケースはあるものの、職員数だけで黒字・赤字の差を説明することはできません。訪問介護では、訪問件数だけでなく、サービス内容・提供時間・移動時間・担当する職員などを組み合わせて収益構造を捉えることが重要です
- 黒字化の鍵は「どのサービスを、誰が提供するか」という収益構造の設計:低単価のサービスを人件費の高い職員が担い続ければ、訪問件数を増やしても利益が残らないことがあります。まずサービス別・人員別の収支を可視化し、利益が残るサービス構成と人員配置を設計したうえで、必要な人材の採用や利用者獲得を進めることが重要です
- 訪問介護の経営改善は「可視化→仕組み化→還元」の循環をつくること:現場にさらなる努力を求めるのではなく、経営側が稼働設計や人員配置を見直し、利益が残る仕組みをつくることが必要です。そして、生み出した利益を給与や働きやすさとして職員に還元することで、人材定着と安定した事業運営につながる好循環を生み出すことができます
現場は限界まで働いているのに、なぜ利益が出ないのか?
「現場のヘルパーはこれ以上回れないほどスケジュールが埋まっているのに、なぜか利益が残らない」「人材が増えれば利益が出ると現場からは言われるが、人材不足の中で人手を増やすことは難しく、別の手段はないのか」といったご相談を、訪問介護事業所の経営層や管理者の方からよくいただきます。
赤字が続く背景には、スタッフの努力不足ではなく、「ビジネスモデルの設計と管理の仕組み」に課題があるケースが少なくありません。本記事では、実際の改善事例を交えながら、現場の頑張りはそのままに、収益性を改善させるマネジメントの本質をお伝えします。
1. 「人手を増やせば黒字になる」という思い込み
訪問介護の黒字化を、「人を増やし、訪問件数を増やす」という一本の軸だけで考えるのは十分ではありません。
実は、全国の訪問介護事業所のデータを分析しても、黒字事業所と赤字事業所の職員数の差は、約2人にすぎません。※
訪問介護の収支は、以下のような要素が複雑に絡み合う仕組みになっています。
- サービス内容:(身体介助/生活援助/身体生活の混合/総合事業(予防))
- 提供時間と移動時間:(提供時間と移動時間のバランス)
- 基本報酬の改定動向:(2024年度改定では基本報酬マイナス改定・減算の整備)
例えば、同じ「月100件の訪問」であっても、単価の低い生活援助中心のスケジュールなのか、単価の高い身体介助中心なのかによって、事業所が得られる収益は数十万円単位で変わります。
つまり、単に総訪問件数だけを追うのではなく、「どのサービスをどのヘルパーがどのような組み合わせで届けるか」という適正なKPI設定と稼働設計が不可欠なのです。
2.【事例】「これ以上回れない」事業所を黒字化した4つの改善ステップ
では、すでに「限界」という現場を、どうやって安全に黒字化すればよいのでしょうか。ある訪問介護事業所の改善事例をご紹介します。
【事例】年間約200万円の赤字を抱えていた特養併設型事業所
- 現状:サービス提供責任者(サ責)および常勤ヘルパー4名、非常勤ヘルパー1名で運営。1人あたりの訪問件数は「1日5~6件」程度
- 課題:現場は「これ以上増やされたら体がもたない」と限界を訴えており、経営者も無理な増件を命じられない状態
収支に着目すると、赤字であっても現場がもっと頑張ることで黒字化できるように思われていましたが、現状の職員の動きや、いつ・どのようなサービスを実施しているかを可視化したところ、現状の体制のままでは改善が難しいことが明らかになりました。
【赤字の原因】そもそも「利益が残る構造」になっていなかった
この事業所を分析すると、現場の頑張り以前に、そもそも利益が残りにくい収益構造になっていることが分かりました。その背景には、訪問介護特有の次の2つの条件があります。
- 介護保険制度であるため報酬単価に自由度が低いこと
- 施設系や通所系と異なり、提供するサービスの内容・時間等によって基本報酬が異なること
訪問介護の収益構造を簡単に言えば、「どのサービスを、誰が、どれくらいの時間をかけて提供するか」で大きく変わります。
では、こうした前提の中で、どのような場合に利益が残りにくくなるのでしょうか。
その典型が、「サービスから得られる収益」と「そのサービスを提供する職員の人件費」が見合っていない状態です。
例えば、比較的単価の低いサービスを人件費の高い職員が担い続けると、訪問件数を増やしても十分な利益が残らない場合があります。「3,000円の売上をつくるサービスに、3,000円以上の人件費・移動コスト・間接コストがかかっていれば、訪問件数を増やすほど赤字が拡大する」ということです。
一見当たり前のように感じることですが、実はこの構造に陥っている事業所は少なくないのです。

この構造に陥ってしまう理由はさまざまで、個別性が高いですが、例えば以下のようなケースをこれまでに目にしてきました。
- マネジメントスキルとして、「1人当たり収支」や「サービス提供別収支」の考え方を持っていない
- ケアマネジャーとの関係性維持や構築のため、高スキル者が低単価サービスを提供せざるを得ない状況になっている
なぜこのような構造になっているのかは、数値だけでは十分に把握できません。ヒアリングなどを通じて、現場の事情やケアマネジャーとの関係性など、定性的な背景まで丁寧に確認する必要があります。
【解決策】構造の見直しから利益を生み出す
十分に頑張っている現場(ここでは、これ以上の勤務が残業につながる状態)に、「根性論」で件数を増やすよう指示しても、離職を生むだけです。そこで同事業所では、構造改革を行うことで、負担はそのままに黒字化を実現する改革を行いました。
手順と主な内容は以下の通りです。
- 収支構造を可視化する
サービス別・職員別収支の可視化
職員ごとの訪問件数、担当サービス、サービス提供時間、移動時間、人件費などを整理し、「誰が・どのサービスを担当したときに利益が残っているのか」を確認 - 理想のサービス構成・人員配置を設計する
シミュレーション
1時間当たり賃金が高い職員には、高単価または高難度のサービスを中心に組み合わせ、他の職員へ委譲可能なサービスを精査。その体制を前提に、理想とする提供体制・提供回数について、業務負担・利益・人件費をシミュレーションし、複数のシナリオを作成 - 不足する人材を採用する
登録ヘルパー等の雇用促進
地域の採用相場を踏まえて賃金設定の見直しを行うとともに、上記の委譲できるサービスを担うことができるヘルパーを雇用 - 必要な利用者・サービスを獲得する
ケアマネジャーアプローチ
すでに関係性があり多くのケアマネジャーが在籍している事業所や接点のない事業所へのアプローチを通じて、新たなご利用者を獲得
結果として、スタッフに過度な負担をかけることなく、見事に赤字からの脱却を果たしました。
さらに業績に応じた賞与の増額についても検討の余地が生まれ、職員への還元が促進されたことで、離職防止につながり、好循環が回り始めました。
3.訪問介護マネジメントの本質は「現場の努力」を「仕組み」に昇華させること
訪問介護の経営改善において共通して言えるマネジメントの本質は、現場の努力だけに頼らず、経営層が適切な仕組み(稼働設計・人事制度・給与体系)を構築することにあります。
- 可視化:自事業所の外部環境・財務・機能性を正しく分析し、課題の所在を特定する
- 仕組み化:根性論ではなく、利益が残る仕組みに落とし込む
- 還元:創出した利益を現場の給与や働きやすさへ還元し、定着率を高める
訪問介護の収支改善は、単純に「人を増やす」「訪問件数を増やす」だけで実現するものではありません。重要なのは、自事業所の収益構造を可視化し、「どのサービスを、誰が、どのように提供するのか」を設計することです。
「訪問件数は多いのに利益が残らない」「どのサービスを誰が担うべきか分からない」「現場にこれ以上負担をかけずに収支を改善したい」とお悩みの方は、まずは自事業所のサービス別・人員別の収支を可視化し、稼働設計を見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。
訪問介護の現状を客観的に把握し、未来に向けた収支最適化の一歩を踏み出したい方は
ぜひお気軽にお問い合わせください
※出典:独立行政法人福祉医療機構(WAM)「2024(R6)事業年度決算 経営分析参考指標(訪問介護編)」p.21「9. 訪問介護黒字・赤字別の概況」
本稿の監修者

宇野 明人(うの あきひと)
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部
課長代理
2020年、日本経営に入社。福祉・介護事業所や行政を中心にコンサルティングを行い、収益の改善・人事制度の構築・採用力強化・研修の企画実施・部門別採算制度の導入・地域包括ケアシステムの推進支援などに取り組む。定量面と定性面の両側面を重視した実践的な支援を特徴としている。
また、医療・福祉事業所の経営者および経営幹部を対象とした養成講座のコーディネーター・講師を務め、これまでに延べ100名以上の卒業生を輩出している。
【資格等】
MMPGマスター・認定SOUNDコーチ・経営品質セルフアセッサー・ワークショップデザイナー
【執筆・登壇】
第87回日本情報経営学会論題発表「介護コンサルティングにおけるAI活用」
第18回 KMO2025 論題発表「Assessing the Effect on Management Education for the Nursing Staff in Elderly Care Facilities」
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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