医師のタスク・シフティングと補助金/医師マネジメント・コンサルティングVol.01
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
本レポートは2020年10月15日当時のレポートです。関連するレポート「医師労働時間短縮計画の概要と提出に向けたポイント(2021年4月21日公開)」もご参照ください。
タスク・シフティング等勤務環境改善推進事業補助金を活用する
株式会社日本経営 / 副部長 太田昇蔵
医師の時間外労働時間の上限規制まで残り3年半を切った。しかし、医師の労働時間短縮は大きな難題として残っている。
このような中で、医師の働き方改革を進めるため、「タスク・シフティング等勤務環境改善推進事業」という支援策が行われている。
公募はすでに始まっており、申込み期限は2020年11月30日までとなっていることから、活用の検討をお勧めしたい。
医師の労働時間短縮という難題
新型コロナの感染拡大を受けて、現在、多くの業界で働き方改革が一気に進みました。テレワークの導入やWeb会議など、これまで技術はあってもほとんど進まなかったことが、もはや当たり前になり、場所と時間を問わない働き方が可能になってきています。
一方、医療機関における働き方改革、医師の労働時間短縮は、まだ十分に進んでいるとは言えず、解決困難なテーマとして残されていると言っても過言ではないでしょう。
医師の時間外労働時間の上限規制については2024年4月まで猶予措置がとられていますが、それも残り3年半を切りました。あまり猶予はない状況です。
医師の労働時間短縮を進めていくための具体的方向性として、2019年3月に出された「医師の働き方改革に関する検討会 報告書」では、例えば次のような内容が示されています。
医療機関内のマネジメント改革
- 管理者・医師の意識改革
- 医療従事者の合意形成のもとでの業務の移管や共同化(タスク・シフティング、タスク・シェアリング)
- ICT等の技術を活用した効率化や勤務環境改善
これらを参考に、医師の労働時間短縮に向けた具体的な取り組みのスケジュール化と合意形成、現場の再構築が急務となっています。
コンサルティングの現場での、医師の労働時間短縮
実際に私たちのコンサルティングの現場でも、医師の労働時間短縮を進めていくため、次のような取り組みをご支援しています。
- コース別(複線型)人事制度を導入し、特定看護師等のスペシャリストを新たなコースとして設計するなどのご支援
- 育児や介護など様々な家庭環境や多様な価値観を踏まえて、ワークライフバランスや貢献度に応じて賃金水準も変化させる人事コースの設計(働き方改革と経営の両立)
- RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入支援。
RPAの導入については、ここ何年か多くのご相談を頂いています(詳細は「コンサルティング・レポート『勤務医負担軽減のためRPAを導入』」をご参照ください)。
現実には新型コロナへの対応や、経営難・資金繰りの対応、地域におけるサプライチェーンの再構築などに追われる中、労働時間を顧みないほどの現場の貢献・犠牲の上に、我が国の医療が成り立っているという一面もあるでしょう。
しかしそのような危機に直面しているからこそ、組織の中で医師の参画も得ながら、新しい取り組みが確かに進められているという現実を、私たちは数多く目にしています。
タスク・シフティング等勤務環境改善推進事業(補助金)
こうした中、厚生労働省から「医師の労働時間短縮」の支援に繋がる施策が出されているのですが、ご存じでしょうか。
「令和2年度 タスク・シフティング等勤務環境改善推進事業」です。
事業背景として、「医師の働き方改革を進めるため、医療機関等による勤務環境改善の取組の実施及び普及活動に対する支援を行うとともに、その取組事例の周知等を行う」と謳われていますが、時間外労働が多い医師が存在する病院に対して、「RPAの導入支援や医師の業務量調査」「労働時間の抑制につながる人事システム構築のためのコンサルティング料」などを補助してくれるものです(「直近の月の時間外労働が80 時間を超える医師がいる」などの要件も含めて、当該ページをご参照ください)。
補助の上限は、事業の上限額(27,200千円)の1/2(13,600千円)。公募はすでに始まっており、申込み期限は2020年11月30日までとなっています。
現在こちらの受付は終了しております。
労働時間短縮やタスクシフトに、生産性改善は不可欠
RPA導入、ビーコンカードを用いた医師の業務量調査、医師の人事システム構築など、私たちがご支援している範囲でも、医師の勤務環境改善に資する取り組みは様々です。
特に医師人事システムの構築については、例えば次のような取り組みで、医師の生産性改善に大きな成果が見られています。
- 病院のBSC(バランス・スコア・カード)に準拠した定性評価(行動評価)の設計による、医師の行動変容。
- 診療科別原価計算による診療科別の損益分岐点の算出、それをベースにした目標値の最低ラインの設定。同規模・同機能の優良病院のベンチマークをあるべき値(目指すべき値)に設定する定量評価(目標達成度評価)。
- 多職種による多面評価(360度評価)の導入による、医師の納得感の醸成。目標設定面談におけるコンサルタントの同席(院長・事務長とともに各医師と面談)
このように、「医師の労働時間短縮」や「タスク・シフティング」を実現するためにはは、生産性の改善は不可欠です。
私たちは長年、多くのお客様と共に「医師人事システム」に取り組み、知見を蓄積してきました。それにより収益性を高める数多くの経験もして参りました。医師の生産性改善については、多くのケースでお役に立てることと確信しています。
補助の対象・スケジュールの見直し
医師の時間外労働時間の上限規制まで、残り3年半を切りました。
今回は国の支援策として、「令和2年度 タスク・シフティング等勤務環境改善推進事業」をご紹介しました。
しかし公募期間が限られており、かつ実現に向けてはセンシティブな内容も多々あると思います。やると決めて、翌月からスタートできるような簡単なものではありません。
補助の対象となる取り組みやスケジュールなどを急ぎ見直しをしていただき、早めに取り組みを始めていかれることをお勧めします。
このレポートの解説者
太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社 日本経営 コンサルタント
民間急性期病院の医事課を経て2007年、日本経営グループに入社。医療情報システム導入支援、医療関連企業のマーケティング支援を経て、グロービス経営大学院MBAコースを修了。現在は、病院経営コンサルタントとして医師人事制度構築支援・経営計画策定支援、役職者研修などに携わる一方、後進の育成を担う。
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