お役立ち情報

物価上昇に対応する“損益”を軸にした医師マネジメント

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 ホワイトペーパー

診療報酬改定が吸収できないレベルの物価上昇

 以前、以下のレポートを弊社お役立ち情報で公開しましたが、私は医師マネジメントシステムや病院DXを担当しており、「DPC特定病院群」や「大規模病院グループ」など、支援先の多くが経営的に優良な病院です。
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-94999/
出所:「優良病院のマネジメントの共通項/医師マネジメントレポートol.06」

 2024年に入って、こうした優良病院でも「事業計画上の新入院患者数目標を達成したのに財務的に厳しい・・・」という話を耳にすることが増えてきました。先日、弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しましたが、最低賃金の引き上げなど賃上げの影響も大きく出てきているためと考えます。

https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-112906/
出所:「最低賃金引き上げが迫る組織変革としての病院DX」

 また、以前のレポートでも指摘したように建築単価も高騰しています。

https://nkgr.co.jp/useful/hospital-quality-organization-96193/
出所:「物価高騰の中で、建て替えを実現するための病院DX」

 こうした人件費や建築単価だけでなく、材料費や水道光熱費も高騰しています。これらの物価高騰に診療報酬改定が追い付いていないことが、前述した優良病院にも財務的な影響が出てきている要因だと思います。
 そこで、これまでの診療報酬改定の本体改定率と消費者物価指数の時系列比較をしてみました。2020年を100として、2011~2023年度の各年度の変化をまとめると下図のようになります。

出所:総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2023年度(令和5年度)平均」および厚生労働省「診療報酬改定について」から弊社作成

 こうして比較すると、2022年度以降は消費者物価指数が急上昇し、診療報酬改定が追い付いていないことが顕在化します。京セラ創業者の故・稲盛和夫氏の言葉に「値決めは経営」というものがありますが、病院経営は“制度ビジネス”のため、値決めには制限があります。各種コスト増の価格転嫁が難しいことが、昨今の病院経営に影響を与えています。

売上を極大に、経費を極小に (入るを量って、出ずるを制する)

 こうしたマクロ環境が変化する中で病院は、どのようにしていくべきかについては、以前の弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しています。売上(医業収益)や患者数だけでなく、診療科別や病棟別などの“損益ベースでのマネジメント”を進めていくことが、特に物価高騰の中では重要になります。
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-91195/
出所:「多職種協働を実現する医師マネジメント/医師マネジメントレポートvol.03」

 故・稲盛和夫氏はこうも言っています。「売上げを極大に、経費を極小に (入るを量って、出ずるを制する)」。前述したように、診療報酬改定が物価高騰を吸収できなくなってきているので、この考え方が重要になります。そのためには、病院全体の損益計算書だけでなく、実際の医療サービスの単位(採算単位)での損益計算書が必要になります。故・稲盛和夫氏と言えば小集団単位での管理会計である“アメーバ経営”が有名ですが、同様の考え方が必要になります。

 ただし、私見ですが、病院の採算単位は、昨今増えている“多職種協働型組織”や“(同一臓器の内科系・外科系を統合した)センター化”などを踏まえると、その規模はもう少し大きくなります。つまり、急性期機能では診療科やセンター、その他の病床機能では病棟が採算単位になると思います。こうした診療科別原価計算や病棟別原価計算を元に、その損益ベースでマネジメントを進める必要があります。

 当然、こうした採算単位での損益計算書を見ていくと、その売上や費用を作り上げているのは、各採算単位に属する院内の多職種です。そのため、前述したレポートのように“多職種検討により採算性を高めていく”ことが求められます。

こうした採算の改善活動を行う際にキーパーソンとなるのは、やはり“医師”です。
医師がオーダーを出し、それを他の職種が実行するという事業特性を踏まえると、“医師を巻き込み、医師にリーダーシップを発揮してもらった多職種検討”が、病院の採算を高める上でカギになります。

 そのような中で、医師マネジメントシステムの必要性が高まっています。前述したように、診療報酬改定率が物価上昇率に追い付いていません。従来、急性期病院では「新入院患者数」が一定の数値を上回っていれさえすれば、(過度な設備投資などがなければ)概ね経営状況は安定していました。

 弊社でも“1床あたり月間新入院患者数”をKPIとして目標設定することをお勧めしていました。例えば、目標病床稼働率85%・平均在院日数15日(≒月2回転)ならば0.85×2=@1.7名/床となります。250床の病院の場合、月間新入院患者数425名(=@1.7名/床×250床)を医師人事制度の目標値として設定します。これを達成しておけば、目標の売上(医業収益)が実現し、健全経営となっていました。いわば、「売上げを極大に」さえ押さえておけばよかったわけです。

 しかし、ここまで外部環境が変化すれば「売上を極大に、経費を極小に」の“経費を極小に”も重要になってきます。そこで、新入院患者数だけでなく、損益基準でのマネジメントが重要になってくるのです。

医師の“納得感やワークエンゲージメント”と“採算性”の両立

 前述したように、採算の改善活動を行う際にキーパーソンとなるのは、やはり“医師”です。弊社では、前述の外部環境・コスト構造の変化を踏まえた医師マネジメントシステムの導入支援を行っています。

病院経営層の皆さんも心配されるように、従来、医師は院内でも“聖域”として、医師人事制度の導入・見直しは難しいとされていました。特に、急性期病院では、大学医局からの派遣も多く、勤務医師は法人・病院よりも大学医局を向いている傾向があります。

 また、病院経営層の皆さんは、反発・ハレーションによる離職を危惧して、医師人事制度などのマネジメントシステム導入・見直しに二の足を踏んでいるケースも散見します。医師の納得感やワークエンゲージメント向上につながるマネジメントシステムでなければ、導入が難しくなります。

 昨今は、医師マネジメントシステムでも“複線型人事制度”を導入して、育児・介護との両立がしやすいWLB(ワークバランス)コースや、大学院に通いながら勤務して研究と臨床を両立するコースなど、“働き方を選択できる人事コース”を設計する病院が出てきています。今回は損益がメインなので詳述はしませんが、弊社は、複線型人事制度以外にも人事評価制度の作り込みや、医師のワークエンゲージメントに工夫を凝らしたり、各種福利厚生制度を活用した医師マネジメントシステムの支援を行ったりしています。このように医師の“納得感やワークエンゲージメント”と“採算性”の両立が求められます。

 本日のテーマである損益基準のマネジメントで考える際には、医師マネジメントシステムにおける目標設定の納得度が重要となります。トップダウンで一方的に設定するのではなく、目標の妥当性を医師に納得いただくことがポイントです。

医師の納得感を高める内的妥当性・外的妥当性

 弊社および弊社グループでは、病院経営分析システム「Libra」および診療科別・病棟別原価計算ができる財務・管理会計システム「KEYbird」を提供しています。
【病院経営分析システム「Libra」】
https://sdb-libra.jp/

【財務・管理会計システム「KEYbird」】
https://byoin.nkgr.co.jp/fap/keybird
 弊社が医師マネジメントシステムを構築する際には、これらのシステムを用いて、下図のような妥当性の担保を行い、目標設定するようにしています。

 「赤字にならないためには●名の患者が必要」といった目標については、診療科別・病棟別原価計算の損益分岐点で“内的な妥当性”を。「同じ診療科での相場を上回ろう」といった目標については、同一診療科・同規模・同機能の他院のベンチマーク値という“外的な妥当性”という2種類の指標を提示して、目標設定してもらうようにしています。
 こうした根拠あるデータを示すことで、ノルマや押し付けではなく、医師に納得感を持って目標設定してもらうことが可能となります。また、こうした目標設定を行う場合、診療科別・病棟別原価計算の損益分岐点が目標設定の下限値となっているので、損益基準でのマネジメントも実現します。

医師マネジメントが必須の時代に

 前述した診療報酬改定の本体改定率と消費者物価指数の時系列比較のように、物価高騰が急速に進んでいる中では、損益基準でのマネジメントが必須となります。そのキーマンは医師です。医師を巻き込んだ、マネジメントが重要になると思います。
 弊社では、累計200病院以上の医師マネジメント支援実績(2024年4月時点)があります。本レポートで一部をお伝えした原価計算やBSC(バランスト・スコアカード)を活かしてメカニズムを体系化した“演繹的なアプローチ”と、多数の実績での知見を活かした“帰納的なアプローチ”を組み合わせてご支援しています。

 詳細は下記リンクの弊社専門サイトをご覧ください。
【医師マネジメントの実務専門サイト】
https://hhr.nkgr.co.jp/dmgt

「医師マネジメントの専門サイト」も、ご活用ください

このレポートの解説者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社 日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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