病院のコスト削減・経営改善の具体的な方法を解説|医療機関ができる経費削減3つのステップ
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
昨今の物価高騰は、医療機関を支える医薬品や診療材料、業務委託費の急激な上昇を招き、多くの病院で収益を圧迫する深刻な課題となっています。現場の調達担当者は、相次ぐ値上げ要請に対し、十分な検討材料を持たないまま対応を迫られているのが実情ではないでしょうか。しかし、不可抗力に見えるコスト増のなかでも、購買データの適切な管理と戦略的なアプローチによって、経費削減の余地は必ず見つかります。病院経営を健全化するためには、単なる単価交渉に留まらず、院内の合意形成や競争環境の創出といった、組織全体での取り組みが欠かせません。
本レポートでは、病院のコスト削減に向けた具体的な方法を、ベンチマーク分析、医療職との合意形成、競争環境の創出という3つのステップで詳しく解説します。診療の質を維持しながら、いかに無駄をカットし経営改善を実現するか。明日からの実務に役立つ病院コスト削減成功への道筋をご紹介します。
物価高騰に直面する病院経営。診療材料費などのコスト削減は可能か?
医療機関の購買・調達担当者は、今まさに物価高騰の荒波に直面しています。毎日のように届く診療材料の値上げ案内、契約更新のたびに提示される委託費の増額、そして仕様は変わらないのに半ば自動的に引き上げられる各種保守契約―。
「値上げ幅は妥当なのか」「このコスト増が病院経営、あるいは特定の診療行為の収益性にどう影響するのか」と、十分な検討の余裕もないまま、売り手側から一方的な条件を突きつけられている担当者も多いはずです。しかし、これらすべての値上げが不可抗力であると諦めるのは早計です。適切な管理と戦略的なアプローチ次第で、経費削減の余地は必ず残されています。
売り手である企業側は、買い手の体制を実によく観察しています。もし、担当者が企業と粘り強い交渉を繰り返し、院内の調達需要を厳格に一元管理し、各部門からの安易な購入稟議を差し戻すような動きができていないのであれば、そこには売り手側の利益最大化が潜む隙間があります。
この隙間こそが、病院にとっての経費削減の余地となります。では、具体的にどの程度の削減が見込まれるのか。また、収益改善を実現するためにどのような方法があるのか。ここからは、コスト削減を成功に導くための「3つのステップ」を具体的に解説していきます。
病院のコスト削減を成功させる具体的な3つのステップ
病院の経営改善に向けたコスト削減は、単なる値切りではありません。客観的な指標に基づき、組織が一丸となって取り組む戦略的なプロセスです。ここでは、物価高騰の影響を最小限に抑え、収益を確保するために必要な「3つのステップ」の全体像を解説します。
まず着手すべきは、自院の立ち位置を客観視することです。
①ベンチマーク分析による診療材料・経費の「下げ代」を把握
コスト削減の取り組みは、目標の明確化と現状とのギャップ認識から始まります。まずはベンチマーク分析を行い、他院と比較して自院の購入価格が適正かどうかを把握しましょう。
診療報酬が全国一律である以上、価格の地域性や公立・民間といった経営形態の差を過度に気にする必要はありません。まずはどの費用項目にどれだけの削減余地(下げ代)があるかを客観的なデータで理解することが重要です。
用度課や管財課などの事務職の中には、分析結果が自らの業務評価に直結することを懸念する方もいるかもしれません。しかし、価格が高いのは決して事務職だけの責任ではありません。医療職の協力や厳格な稟議体系があって初めて、適正な価格での購入が実現するのです。
データによって削減のポテンシャルが明らかになったら、次に行うべきは、現場の医師や看護師と協力して「代替品・サービスも選択肢に含めた、柔軟な協力体制」を築くことです。どれほど安価な製品であっても、実際に使用する現場の納得感がなければ、経営改善は長続きしません。
②医師や看護師など医療現場との合意形成
院内の合意形成には、大きく分けて二つの側面があります。
一つ目は、「取り組むべき経費項目の優先順位」に対する合意です。数値上の分析だけでなく、従来の取引背景や現場の温度感も考慮すべきです。「過去のトラブル時に助けてもらった経緯がある」といった背景を尊重しつつ、当事者が納得した上で企業との交渉に臨むことが、結果的にスムーズな改善に繋がります。
二つ目は、「製品や委託先の切り替え」に対する医師や看護師など現場スタッフとの合意です。これが競争環境を作るための重要な「地ならし」となります。「この製品以外は認めない」というエンドユーザーの固執は、売り手側の値下げ動機を奪います。経営改善のために「条件次第では切り替えも辞さない」という姿勢を医療職に示してもらうことが、企業からより良い条件を引き出す強力な武器となります。
院内の結束が固まり、切り替えの選択肢を持てた段階で、いよいよ最終ステップである「複数社による比較検討」のフェーズに移ります。
③委託先・卸間の競争環境の創出
診療材料や医薬品の場合、卸を通じてメーカーと交渉を行います。この際、事前の院内調整(ステップ②)が済んでいれば、「単価が折り合わない場合は製品を切り替える」という強い交渉が可能になり、メーカー間の競争を促せます。
また、病院のパートナーとして十分な交渉を行えない卸に対しては、変更を検討する姿勢を見せることも必要です。個人的な人間関係を「法人の資金管理」と混同してはいけません。優秀な卸であれば、病院の収益を考え、自ら製品集約やコストダウンのアイデアを提案してくれるはずです。なお、メーカーとの直接交渉も効果的ですが、まずは卸にその機能(メーカー交渉)を発揮してもらうことが肝要だと考えています。
業務委託についても同様です。委託先の会社に対し「どうすればコストを抑えられるか」を問いかけてみてください。協力的な会社は、仕様の最適化などの具体的な提案をくれますが、非協力的な場合は不可能な条件を突きつけてくることがあります。そのような態度は、委託先選定を見直す一つの判断基準となるでしょう。
また、新規参入やシェア拡大を狙う意欲的な企業を応援することも有効な策です。事務職が現場の医療職への橋渡しを行うなど、企業の営業活動に協力する姿勢を見せることで、病院側の交渉力は飛躍的に高まります。
病院全体の収益改善に向けた継続的な取り組み
病院のコスト削減は単なる買い叩きではありません。院内全体で経営意識を共有し、最適な調達構造を築き上げるプロセスそのものです。
具体的には、まずベンチマーク分析で客観的な現状を把握し、そこから得られた知見をもとに医師や看護師といった医療現場スタッフと丁寧な意思疎通を重ねます。その上で、最終的に複数社による比較検討(コンペ)が機能する健全な競争環境を維持していくことが重要です。こうしたステップを一つずつ着実に積み重ね、継続的に取り組むことこそが、物価高騰が続く厳しい環境下においても、診療の質を落とさずに収益性を維持・向上させる唯一の道となります。
まずは本レポートで解説した手法を参考に、貴院の状況に合わせた改善に着手してみてください。しかし、実際の現場では「データ分析の手法がわからない」「現場スタッフとの調整がうまくいかない」「既存業者との関係が深く、切り替えの提案がしにくい」といった、院内だけでは解決しきれない課題に直面することも多いでしょう。
もし、貴院のコスト削減の取り組みが停滞している、あるいは具体的にどこから手をつければよいか迷っているという場合は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。豊富な事例と専門的な知見に基づき、貴院のパートナーとして最適な経営改善をサポートいたします。
単なる価格交渉から、組織全体での戦略的調達へ。
本稿の監修者

辰井 雄(たつい ゆう)
株式会社日本経営 戦略コンサルティング部 課長
コスト適正化サービス責任者
医療機器ディーラーおよび外資系経営コンサルティングファームを経て現職。「売り手の論理の理解」を土台に分析から実行(企業交渉)までの全てを支援する。公立病院、公的病院での実績多数。手術材料費に関する学会発表、病院経営専門誌への寄稿実績も有する。
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。


