「看護師の離職が止まらない」を解決する、新しい師長像とマネジメント
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
病院経営において、看護職員の離職や定着不良は大きな課題となっています。特に若手や中堅層の離職が多く、常に採用に追われている、現場の師長が疲弊している、改善活動が定着しないといった悩みを抱える医療機関は少なくありません。本記事では、看護部を「コスト」ではなく「収益のエンジン」と捉え直す視点の転換や、現場の負のスパイラルを断ち切る新しい師長の役割、そして組織全体で取り組む改善活動の進め方について解説します。
- 病院経営を揺るがす「看護職員の離職」と「現場の疲弊」
- 看護部を「コスト」ではなく「最大収益のエンジン」と再定義する
- 離職の連鎖を断ち切る!「定着する組織」の新しいマネジメント
- やりっぱなしを防ぐ!効果が出る「改善活動」の進め方
- まとめ:現場への共感と正しい仕組みづくりが病院を救う
病院経営を揺るがす「看護職員の離職」と「現場の疲弊」
若手・中堅の離職が止まらない現状
日本医療労働組合連合会の公表データによると、看護職員の勤続年数別の離職率は「5〜10年未満」の中堅層が19.4%と最も高く、次いで「1〜3年未満」が14.6%となっています。この傾向から、初期の定着支援だけでなく、現場の中核を担う中堅層の離職防止が喫緊の課題と言えるでしょう。※1
経営層と現場でズレている「退職理由」の認識
離職対策を行う上で注意したいのが、退職理由に関する「管理者」と「現場」の認識のズレです。「日本看護協会の2024年病院看護実態調査 報告書」を見ると、看護管理者は退職理由を「健康上の理由(精神的疾患(52.5%)」や「自分の看護職員としての適性への不安(47.4%)」であると捉えがちな傾向があることが分かります。※2しかし、日本労働調査組合の2021看護師の退職動機に関するアンケートの現場の看護師を対象とした調査では「給与・待遇不満(49.3%)」や「ワークライフバランス(36.9%)」が上位に挙がっています。この認識のズレを埋めないまま対策を講じても、根本的な解決にはつながりにくいと考えられます。※3
師長がボトルネックに?個人の頑張りに依存した「負のスパイラル」
環境変化や業務量の増加に対して、現場の責任者である師長が自ら業務に入り込んで「さらに頑張る」ことで対応しようとするケースがよく見られます。しかし、師長が現場業務に追われると、本来のマネジメントや改善活動に手が回らなくなり、結果的に師長自身が業務のボトルネックとなってしまう「負のスパイラル」に陥りがちです。これは個人の能力不足ではなく、既存のやり方で対応しようとする構造的な問題と言えます。
看護部を「コスト」ではなく「最大収益のエンジン」と再定義する
看護部が病院経営の要となる理由
厳しい病院経営の環境下において、看護部を単なる人件費(コスト)として捉えるのではなく、病院の医業収益を最大化する「エンジン」として位置づける視点が重要です。看護職員は病院全体の人件費の約6割を占める最大の組織であり、病床稼働を左右するベッドコントロールや、多職種連携の調整役(キーパーソン)でもあります。患者の傍に24時間365日いる看護部が変わることで、病院全体の経営改善に直結する可能性が高まります。
事務部門と看護部門の「見えない壁」を乗り越える
経営を改善する際、「病床を空けたい・収益を上げたい事務部門」と「現場が疲弊していて受け入れられない看護部門」の間で対立が生じることがあります。これはお互いに「分かっている私」と「分かっていないあなた」という前提でコミュニケーションをとってしまうことが原因の一つです。この壁を乗り越えるには、事務部門が現場(病棟)に入って一緒に観察(ラウンド)を行い、「患者さんに何が起きているか」という共通の視点を持つことが第一歩となります。
離職の連鎖を断ち切る!「定着する組織」の新しいマネジメント
「スーパースター」から「サポーター」へ。新しい師長像
これまでの師長は、自らが背中で引っ張る「スーパースター型」のリーダーシップが求められがちでした。しかし、これからはスタッフが自律的に動けるよう支援し、働きやすい環境を整える「ファシリテーター&コーチ型(サーバントリーダーシップ)」への役割転換が求められます。師長がすべてを抱え込むのではなく、メンバーを主役にする仕組みづくりが重要です。
「選抜型」から「全体型」へ育成の視点を変える
人材が豊富だった時代は、生き残った者だけを育てる「自然淘汰(選抜型)」の育成でも組織が回っていました。しかし、採用が難しい現在の環境下では、全員をサポートし、個々のペースや特性に合わせて柔軟に関わり方を変えていく「全体型の育成」へのシフトが必要不可欠です。
やりっぱなしを防ぐ!効果が出る「改善活動」の進め方
失敗する改善活動の共通点とは?
医療現場での改善活動が定着しない理由として、主に以下の3点が挙げられます。
- 師長一人に背負わせ、周囲を巻き込めていない
- 計画(Plan)と実行(Do)ばかりで、効果検証(Check)と改善(Action)が行われていない
- 病院からの丸投げで、現場の状況や目的意識が考慮されていない
成功の鍵は「4つの役割分担」
改善活動を成功させるには、組織全体でバックアップする体制が必要です。具体的には以下の4つの役割分担を明確にすることが効果的です。
- スポンサー(副院長・看護部長):資源(時間や人)の提供やリスク管理など、活動を組織的にバックアップする幹部層
- プロセスオーナー(病棟師長):現場の導入責任者として全体設計や方向性を示す役割
- チャンピオン(主任など):実働リーダーとして現場でスタッフを巻き込み推進する役割
- ホームチーム(現場スタッフ):自分たちの問題として解決策を実行する役割
「患者の視点」でムダを見つけるVSM分析
業務改善の第一歩として、VSM(バリューストリームマップ:価値の流れ図)を用いた分析が有効です。これは職員の業務手順ではなく「患者の体験・工程」を軸に、どこで待ち時間や不具合が発生しているかを可視化する手法です。ある病院の外来診察の例では、患者の滞在時間96分のうち、実際に価値が提供されている時間は38分(約39%)に過ぎなかったというデータもあります。患者視点を持つことで、部門間の共通言語が生まれます。
短期PDCAを回す「赤信号・青信号ルール」改善活動の進捗管理には、会議の時間を短縮し、早期介入を可能にする「赤信号・青信号ルール」がおすすめです。
- 赤信号:計画の遅れや相談が必要な状態(上層部が介入・サポートする)
- 青信号:順調な状態(報告のみで承認する)
期限を区切ってこのルールで振り返りを行うことで、やりっぱなしを防ぎ、組織としてPDCAを回す仕組みが定着します。
まとめ:現場への共感と正しい仕組みづくりが病院を救う
看護師の離職防止と組織の成長を実現するためには、個人の努力や精神論に頼るのではなく、構造的なアプローチが欠かせません。看護部を経営のエンジンと捉え直し、経営層、事務部門、現場が「患者」という共通の主語を持って協働することが、持続可能な病院経営の仕組みづくりにつながります。
※1 出典:日本医療労働組合連合会「2022年 看護職員の労働実態調査報告書」
※2 出典:日本看護協会「 2024 年 病院看護実態調査 報告書」
※3 出典:日本労働調査組合「看護師の退職動機に関するアンケート」PR TIMES、2021年10月20日配信、2026年6月10日閲覧
看護部を起点に、働きやすく成長する組織づくりへ
看護師の定着や師長の負担軽減には、現場の努力に頼るだけでなく、業務の流れを可視化し、組織全体で改善を進める仕組みづくりが重要です。
日本経営の「NKリーンコンサルティング」では、看護部を起点とした業務改善・人材育成・病院経営改善を支援しています。
本稿の監修者
兄井 利昌(あにい としまさ)
株式会社日本経営 業務プロセス改善コンサルティング部 部長
米国認定リーンコンサルタント。これまで100床〜300床規模の病院の人事制度改革に携わる。人事制度を単なる管理のツールではなく、組織が期待する職員を引き上げ、更なる貢献を引き出す仕組みとするコンサルティングを行っている。また、研修など職員教育の領域では、それぞれの組織に合わせた研修を設計し、再現性と実効性を重視した研修を行っている。
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