投稿日:2026年9月30日

病院がすべき地震対策とは?もしもの時に備える医療機関向け防災ガイド

大きな地震が起きたとき、多くの施設が一時的に機能を止めるなかで、病院は建物やライフラインが被害を受けても、入院患者や救急搬送される負傷者への対応を続けなければなりません。そのため病院の地震対策は、単なる耐震工事だけでは不十分だと指摘されています。

ポイントは、建物や設備を壊れにくくすることと、診療を止めないためのルールや訓練をセットで考えることです。特に災害拠点病院では、災害時にも診療機能を維持できるよう、非常用電源の燃料や食料・飲料水・医薬品などを3日分程度確保することが厚生労働省の「災害拠点病院指定要件」などで示されています。本レポートでは、病院の地震対策で優先すべき備えと、災害時に診療を継続するための考え方を整理します。

この記事でわかること

  • 病院で地震対策が特に重視される3つの理由
  • 耐震化や備蓄など優先すべきハード面の備え
  • BCPや初動マニュアルなど運用体制づくりの要点
  • 災害拠点病院の要件と地域連携の考え方

病院で地震対策が欠かせない理由

病院の地震対策は、他の施設とは異なる事情から重視されています。まずは、なぜ病院に高い水準の備えが求められるのかを整理します。

地震時も医療を止められないから

地震が発生すると、多くの企業や店舗は営業を止めて安全を確保します。しかし病院は、人工呼吸器や透析装置につながれた入院患者を抱えており、医療を簡単に止められません。

むしろ災害時は負傷者が増え、平時以上の医療需要が生まれます。そのため病院は「止まらないこと」を前提に地震対策を設計する必要があるという点が、他施設との大きな違いです。診療の継続そのものが、病院に課された役割といえます。

患者と病院スタッフの安全確保のため

病院には自力で避難することが難しい入院患者が多くいます。手術中の患者や集中治療室の患者もおり、揺れによる転倒や設備の落下は命に直結します。

熊本地震では、建物そのものだけでなく、天井などの非構造部材や医療機器にも被害が発生し、医療機関の機能に影響を及ぼしました。まず守るべきは人命であり、患者と病院スタッフの安全確保が地震対策の出発点になります。安全な院内環境がなければ、医療も継続できません。

地域の救急医療を支えるから

災害時には、周辺地域から重症者が集中します。特に災害拠点病院は、多数の傷病者を受け入れる中核として位置づけられています。

そのため病院の地震対策は、自院を守るだけでなく、地域の災害時医療体制を支える視点が欠かせません。1つの病院が機能を失うと、周辺の医療需要を吸収しきれなくなります。地域全体の医療を止めないという意識が、病院の備えの基盤にあります。

病院で優先すべき地震対策

ここでは、病院の地震対策で優先度が高い備えを整理します。「建物」「設備」「備蓄」の3つが基本の柱です。

病院建物の耐震化と設備の安全性

病院の耐震化は地震対策の土台です。多くの災害拠点病院では、耐震構造を備えた診療施設であることが指定要件になっています。

さらに一部の病院では、揺れを建物に伝えにくくする免震構造を採用し、MRIや手術器具などの精密機器の損傷を抑えています。地震対策では、建物の構造だけでなく、天井や配管などの非構造部材・設備についても、地震時の被害が診療機能に与える影響を確認することが重要です。構造の安全性と非構造部材の安全性を一体的に確保することが、機能停止を防ぐ鍵となります。

ベッドや医療機器の転倒防止

建物が無事でも、院内の什器や機器が倒れると診療を続けられません。地震後も院内を安全に使うための転倒防止対策が求められます。

主な対策として、次の点が挙げられます。

  • 棚や医療機器を床や壁に固定し、転倒や移動を防ぐ
  • 薬品や注射針など危険物が飛散しない収納方法を採る
  • 天井材や照明器具の落下を防ぐため、点検を行う
  • 停電時に備えて、懐中電灯やバッテリー照明を確保する

これらは、外来や入院患者を受け入れ続けるための最低条件と位置づけられています。避難経路の確保も同時に進めることが望まれます。

食料・飲料水・医薬品の備蓄

災害時は物流が止まり、外部からの供給が途絶えます。病院は自前の備蓄で当面の診療を維持する想定が必要です。

災害拠点病院で示されている防災備蓄の目安を整理します。

備蓄項目 目安ポイント
水・食料・医薬品 少なくとも3日分 入院患者、被災者、スタッフの最大人数を想定
非常用電源 3日分前後 通常時の約6割の電力確保が要件
飲料水の確保 受水槽の補強や井戸の利用 断水時の代替水源として整備

3日分を基準にしつつ、地域や病院の役割に応じてそれ以上の備蓄が望ましいとされています。具体的な数量は病院ごとに異なるため、自院の想定人数から逆算することが大切です。

病院の地震対策における運用体制づくり

ハード面の備えを整えても、それを使いこなす仕組みがなければ機能しません。ここでは運用体制づくりの要点を整理します。

初動対応マニュアルを作る

地震直後は混乱が起きやすいため、誰が何をするのかを事前に決めておく必要があります。この役割を担うのが、事業継続計画(BCP)です。

BCPは、緊急事態が起きても重要な診療を止めず、停止した場合も短期間で再開するための計画を指します。災害拠点病院では、病院のBCP策定が指定要件に位置づけられています。作成の基本的な流れは次のとおりです。

  • 目的と基本方針を定め、診療の優先順位を決める
  • 救急、手術、透析など重要業務と許容停止時間を洗い出す
  • 地震や停電などのリスクが業務に与える影響を評価する
  • 指揮命令系統と連絡網を文書化して共有する

初動の判断基準を明文化しておくことで、担当者が不在でも対応できる体制を構築できます。緊急時対応マニュアルには、誰が見ても動ける具体性が求められます。

訓練を繰り返して対応力を高める

計画は作って終わりではなく、訓練を通じて現場に浸透させることが欠かせません。実際に動いてみて初めて課題が見えてきます。

避難訓練だけでなく、停電や断水時の診療フロー、電子カルテ停止時の紙運用、多数傷病者の災害時トリアージなどを含む総合的な災害訓練が望ましいとされています。電子カルテが使えない場合に備え、紙の診療録や手書きの薬袋などアナログな手順もマニュアル化しておくと安心です。訓練の振り返りをもとにBCPを更新することが、対応力の向上につながります。

地域機関との連携を確認する

災害時に、一つの病院だけで対応できる範囲には限りがあります。平時からの連携体制が、いざというときの支えになります。

災害拠点病院では、警察や消防、自治体の対策本部、近隣医療機関と連携する体制が要件として示されています。通信が途絶した場合に備え、衛星電話や災害時優先電話など複数の連絡手段を確保する例も多く見られます。自院が使えない場合の代替施設や、近隣病院との患者受け入れの取り決めも、あらかじめ確認しておくことが望まれます。

よくある質問

Q. 病院の地震対策で最初に取り組むべきことは何ですか?

A. まずは病院建物の耐震性の確認と、什器や医療機器の転倒防止から着手するのが基本です。人命に直結する院内の安全確保を出発点とし、その上でBCPや備蓄などの体制づくりを進めると効果的です。

Q. 災害拠点病院にはどのような要件がありますか?

A. 耐震構造の診療施設、通常時の約6割の電力を確保できる自家発電設備、3日分程度の水や食料や医薬品の備蓄、BCPの策定、地域機関との連携体制などが要件として示されています。地域の救急医療を支える役割が求められます。

Q. 大地震のあと病院はいつも通り受診できますか?

A. 直後は救急や重症患者への対応が優先され、予約診療や予定手術が一時的に止まることがあります。安全に来院できる方に受診を絞る場合もあるため、病院の公式サイトや自治体の情報発信で最新の診療体制を確認することが重要です。

まとめ

病院の地震対策は、建物の耐震化だけでなく、設備やライフラインの確保、医療機能を継続するためのBCPの整備まで含めて考えることが重要です。さらに、実際の災害時に計画に沿って対応できるよう、定期的な訓練を通じて職員の役割や対応手順を確認しておく必要があります。

災害時には、限られた人員や物資、電力などの資源をどのように配分し、どの診療機能を優先して継続するかをあらかじめ整理しておくことが求められます。自院の建物や設備などの物理的な対策だけでなく、診療継続のための体制や手順といった運用面の対策も含め、総合的に備えることが大切です。

日本経営グループでは、医療機関の経営課題に対して、BCPの策定・見直しをはじめ、組織体制の整備や人材育成など幅広い支援を行っています。自院の地震対策やBCPに不足している点がないか、災害時にも診療を継続できる体制が整っているかを確認したい場合は、専門家への相談を通じて現状の課題を整理することをおすすめします。

この記事のまとめ

  • ✓病院は地震時も医療を止めにくく高い水準の備えが必要
  • ✓耐震化、転倒防止、3日分の備蓄がハード面の柱
  • ✓自院のBCPと訓練の実施状況を見直す
  • ✓地域機関との連携体制と代替施設を平時から確認する

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