国際相続とは?国外と国内の違いや主な対象者とその義務をわかりやすく解説

海外に資産を持つ家族が亡くなった場合や、米国在住の親族から財産を引き継ぐ場合、通常の相続とは異なる複雑な手続きが必要になります。このような国境をまたぐ相続を「国際相続」と呼びます。国際相続では、日本と海外の法律や税制が同時に関わるため、課税範囲の判定や申告手続きが大きく変わります。

本レポートでは、国際相続の基本的な仕組みから、国内相続との具体的な違い、納税義務者の判定基準、そして手続き上の注意点までをわかりやすく解説します。特に米国に資産を保有している方や、帰国を検討中の方が押さえておくべきポイントを整理しています。

この記事でわかること

  • 国際相続の定義と、該当する主なケース
  • 国内相続との制度的な違いと手続きの流れ
  • 無制限納税義務者・制限納税義務者の判定基準と課税範囲
  • 準拠法の選択や二重課税対策など、手続き上の注意点

国際相続に関するお問い合わせ・ご相談はこちら

国際相続とは

国際相続とは、被相続人や相続人の居住地・国籍、あるいは相続財産の所在地が複数の国にまたがる相続のことです。はじめに、国際相続が発生する代表的なケースと、国内相続との違い、手続きの全体像を確認します。

国際相続はどのような時に発生する?

今回は米国と日本で国際相続するケースを参考として解説します。国際相続は、相続に「米国」の要素が一つでも加わると発生します。最も典型的なのは、日本在住の被相続人が米国のコンドミニアムや現地の証券口座、外貨預金などの米国財産を保有しているケースです。

また、被相続人が米国に住んでいた場合も国際相続に分類されます。例えば、米国で長年勤務していた親が現地で亡くなり、日本にいる子どもが相続人になるようなケースです。財産が国内のみであっても、海外に住んでいる相続人がいる場合は、国際相続の扱いになる可能性もありますので、十分な注意が必要です。

さらに、外国籍の配偶者がいる方、グリーンカードを保持して日米を行き来している方なども対象となります。以下は、国際相続に該当する主なパターンです。

  • 被相続人が海外不動産・海外預金・海外証券などの国外財産を保有している
  • 被相続人が米国など海外に居住していた
  • 相続人の一部が海外に在住している
  • 被相続人または相続人が外国籍である
  • 日米間などで二拠点生活を送っている

国内相続との違い

国内相続と国際相続の最も大きな違いは、複数国の法律と税制が同時に適用される可能性がある点です。日本国内だけの相続であれば、日本の民法と相続税法に従って手続きを進められます。一方、国際相続では、日本の法律に加えて財産所在地国の法律や、場合によっては租税条約の規定まで考慮しなければなりません。

手続き面でも大きな違いがあります。米国をはじめとする英米法圏では「プロベート」と呼ばれる裁判所の監督下での遺産管理手続きが必要になることがあります。プロベートとは、遺言の有効性確認から遺産の分配承認までを裁判所が管理する制度で、完了まで1年から3年を要するケースも珍しくありません。日本にはこれに該当する制度が存在しないため、米国に資産を持つ方にとっては大きなハードルとなります。

比較項目 国内相続 国際相続
適用法令 日本の民法・相続税法 複数国の法律・税法・租税条約
相続人の確定 戸籍謄本で確認可能 戸籍制度のない国では調査が困難
財産の名義変更 遺産分割協議書等で手続き 現地法に基づく手続きが別途必要
裁判所の関与 原則不要(遺言検認等を除く) 英米法圏ではプロベートが必要な場合あり
所要期間 数か月から半年程度 1年以上かかるケースが多い

国際相続の一般的な流れ

国際相続の手続きは複数の国での作業が並行するため、全体の流れを事前に把握しておくことが大切です。特に国際相続に特有なのは、日本側の手続きと現地側の手続きを同時に進行させる必要がある点です。

まず、被相続人の死亡後、日本国内では死亡届の提出と相続人の確定を行います。これと並行して、海外資産の所在確認と評価に着手します。特に米国の金融機関に対しては、早い段階で被相続人の死亡を通知し、口座凍結の手続きを進める必要があります。

次に、遺産分割協議と各国での名義変更手続きを行います。米国に不動産がある場合はプロベート手続きが必要になることが多く、この工程だけで相当な時間を要します。

最後に、日本および該当する国での相続税・遺産税の申告と納付を行います。日本の相続税申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内ですが、海外の手続きがこの期限内に完了しないケースも多いため、暫定的な申告と後日の修正申告を視野に入れてスケジュールを調整する必要があります。

  1. 被相続人の死亡届提出・相続人の確定
  2. 海外資産の所在確認と評価
  3. 遺産分割協議の実施
  4. 日本国内の財産の名義変更手続き
  5. 海外資産のプロベート手続き・名義変更
  6. 日本および現地での相続税申告・納付

国際相続において相続税の納税義務者はどのように決まる?

国際相続の税務で最初に確認すべきことは、相続人がどの区分の納税義務者に該当するかです。この判定によって、課税対象となる財産の範囲が大きく変わります。

無制限納税義務者と制限納税義務者の違い

日本の相続税法では、納税義務者を「無制限納税義務者」と「制限納税義務者」に区分しています(※02)。無制限納税義務者とは、国内財産と国外財産の両方に対して日本の相続税が課税される人のことです。一方、制限納税義務者は、日本国内にある財産のみが課税対象となります。

どちらの区分に該当するかは、被相続人と相続人それぞれの「住所」と「国籍」の組み合わせによって決まります(※02)。例えば、被相続人が日本に住所を有していた場合、相続人がどこに住んでいても原則として無制限納税義務者に該当し、全世界の財産が日本の相続税の対象になります。これは米国在住の相続人であっても同様です。

納税義務者の区分 課税対象 該当する主なケース
無制限納税義務者 国内財産+国外財産 被相続人が相続開始前10年以内に国内に住所を有していた場合、または、日本国籍を有する相続人が相続開始前10年以内に国内に住所を有していた場合
制限納税義務者 国内財産のみ 被相続人・相続人ともに10年超海外居住、かつ一定の要件を満たす場合

居住地や国籍で変わる課税対象の範囲

納税義務者の判定でよく話題になるのが「10年ルール」です。これは、被相続人と相続人の両方が相続発生前10年を超えて日本国内に住所を有していない場合、制限納税義務者として国内財産のみが課税対象になるというルールです。

ただし、このルールには注意すべき点があります。被相続人が相続発生前10年以内に日本に住所を有していた場合は、相続人が外国籍であっても海外財産が課税対象に含まれる可能性があるのです。米国のグリーンカードを保持しながら東京にも拠点を持つ二拠点生活者の場合、日本における「住所」の有無がどう判定されるかは、個別の事実関係によって結論が変わります。

さらに米国側の課税も考慮が必要です。米国では、市民権保持者やグリーンカード保持者に対して全世界所得課税の原則が適用されます。相続・贈与の場面でも、連邦遺産税の課税対象となるかどうかは在留資格や居住期間によって異なるため、日米双方の制度を踏まえた判定が求められます。

二重課税を防ぐための租税条約と外国税額控除

国際相続で避けて通れないのが、日本と現地国の両方で相続税が課税される「二重課税」の問題です。
例えば、米国にある不動産を相続した場合、米国で連邦遺産税や州の遺産税が課され、さらに日本でも相続税が課税される可能性があります。この問題に対処する仕組みの一つが「外国税額控除」です。海外で支払った相続税相当額を、日本の相続税から一定の範囲で差し引くことができます。

なお、日本は所得税・法人税に関する租税条約は多数の国と締結していますが、相続税に関する租税条約については、現在は米国とのみ締結しています。
そのため、相続税に関しては租税条約による調整が限定的であり、特に米国以外の国との間では、基本的に外国税額控除によって二重課税の調整を行うことになります。

一方、米国との間では相続税条約が存在するものの、適用関係や計算は複雑です。課税対象財産の所在地や評価方法が日米で異なるため、実務上は外国税額控除の適用を含め、専門的な検討が不可欠となります。

  • 外国税額控除により、海外で支払った相続税を日本の相続税から一定額控除できる
  • 相続税に関する租税条約については、現在は米国とのみ締結しています。(※01)
  • 米国の連邦遺産税と州の遺産税では控除の取り扱いが異なる場合がある
  • 控除限度額は日本の相続税額に占める国外財産の割合に基づいて算出される

国際相続に関するお問い合わせ・ご相談はこちら

国際相続の手続きで注意すべきポイント

国際相続では、法律の適用ルールや財産評価の方法が国内相続とは大きく異なります。ここでは、実務上特に重要となる三つのポイントを取り上げます。

準拠法の選択で変わる相続ルール

国際相続で最初に問題となるのが「準拠法」、つまりどの国の法律に基づいて相続を進めるかという点です。日本の「法の適用に関する通則法」第36条では、「相続は、被相続人の本国法による」と定めています。これは「相続統一主義」と呼ばれる考え方で、被相続人の国籍国の法律を相続全体に適用するという立場です。

一方、米国や英国などの英米法圏では「相続分割主義」を採用しています。この立場では、不動産は所在地の法律を、動産は被相続人の住所地の法律を適用します。つまり、米国に不動産を持つ日本人が亡くなった場合、その不動産については米国の州法が適用されるのに対し、日本の預金については日本法が適用されるという、財産ごとに異なる準拠法が適用される場合があります

なお、ここでいう準拠法はあくまで民事上の相続ルール(遺産分割や相続分)を決める基準です。一方で、相続税の課税関係については別途検討が必要となります。特に日米間では、相続税に関する租税条約において財産の所在の判定ルール(条約第3条)が定められており、どの国で課税権を有するかの判断に影響します。そのため、実務上は「準拠法」と「租税条約による課税関係」の双方を切り分けて検討することが重要です。

この準拠法の違いは、相続人の範囲や相続分の決定にも影響を及ぼします。例えば、日本の民法では法定相続分が明確に定められていますが、米国では州ごとに異なるルールが存在します。準拠法の判断を誤ると、遺産分割そのものがやり直しになるリスクもあるため、早い段階での法的検討が不可欠です。

項目 相続統一主義(日本等) 相続分割主義(米国・英国等)
基本的な考え方 被相続人の本国法を全財産に適用 不動産は所在地法、動産は住所地法を適用
採用している主な国 日本、ドイツ、フランス等 米国、英国、オーストラリア等
相続手続きの特徴 相続人が直接財産を承継 プロベートを経て遺産管理人が分配

海外資産の把握と評価

国際相続では、海外にある金融資産や不動産の正確な把握と評価が大きな課題になります。特に米国の場合、被相続人名義の銀行口座・証券口座・不動産などについて、金融機関ごとに残高証明や評価証明の取得方法が異なるため、実務的な対応力が問われます。

海外不動産の評価

海外不動産の評価は特に注意が必要です。日本の相続税申告では、原則として国税庁の定める財産評価基本通達に基づいて評価しますが、海外不動産については路線価が存在しないため、売買実例価額や不動産鑑定評価額などを参考に「時価」を算定することになります。米国と日本で評価手法や市場背景が大きく異なるため、適切なエビデンスの確保が申告の妥当性に直接影響します。

外貨建て資産の換算ルール

外貨建て資産については、日本円への換算が必要ですが、その時期や方法は法令等により定められています。

換算基準日: 原則として、被相続人が亡くなった日(課税時期)の相場を用います。納税者が有利な時期を任意に選択することはできません。

適用レート: 原則として、納税者が取引している金融機関が公表するTTBを適用します。 例外的な対応: 課税時期が金融機関の休業日にあたる場合は、その日前の最も近い日の相場を採用します。

為替変動が大きい時期に相続が発生した場合、円換算後の評価額が予想外に変動し、税負担に影響を及ぼす可能性があります。そのため、基準日における正確なレート把握と、それに基づく迅速な税額シミュレーションが極めて重要となります。

  • 海外の金融機関から残高証明書や取引履歴を取得する
  • 海外不動産は現地の鑑定評価や売買実例を基に時価を算定する
  • 外貨建て資産は相続発生日のTTBレートで円換算する
  • 国外財産調書制度により、5,000万円超の国外財産は毎年の報告義務がある

相続の専門家への相談が必要な理由

国際相続は、通常の相続に比べて関与する法域が多く、手続きの複雑さと所要期間が格段に増します。特に米国に資産がある場合、プロベート手続き、連邦遺産税・州遺産税の申告、さらに日本での相続税申告を並行して進める必要があり、個人だけで対応することは現実的ではありません。

戸籍制度のない国での相続人調査、現地銀行口座の解約、不動産の名義変更といった実務は、日本国内の相続実務とは根本的に異なるスキルと現地ネットワークを必要とします。また、リビングトラスト(生前信託)が設定されていた場合の受託者としての対応や、プロベートの回避策の検討など、米国特有の制度への理解も欠かせません。

こうした国際相続に対応するためには、日本の相続税務に精通した税理士と、現地の法律に詳しい弁護士や会計士との連携体制が重要です。税理士法人のなかには、米国をはじめとする海外の専門家と提携し、相続人調査からプロベート対応、リビングトラスト設定まで一貫してサポートできる体制を整えているところもあります。国際相続に直面した際は、早い段階で実績のある専門家に相談することが、手続きの遅延や想定外の税負担を防ぐ最善の方法です。

よくある質問

Q. 米国にある財産を相続する場合、日本と米国の両方で相続税がかかりますか

A. はい、二重課税が生じる可能性があります。米国では連邦遺産税(および州によっては遺産税)が課され、日本でも相続人が無制限納税義務者であれば、米国の財産を含む全世界の財産が日本の課税対象となります。 この二重課税を回避・軽減するためには、主に以下の2つの検討が必要です。

● 外国税額控除の適用
日米両国で課税された場合、米国で支払った税額を日本の相続税から一定限度で差し引くことができます。

● 日米相続税条約の考慮
日米間では相続税に関する租税条約が締結されており、財産の所在に応じた課税権の配分ルールが定められています。この規定により、一定の金融資産などについては結果として米国で課税されない場合がありますが、これは条約に基づく課税関係の調整によるものです。実務上は、条約の適用関係を踏まえた上で外国税額控除を適用することとなり、資産構成や評価方法によって税負担が大きく異なります。

なお、日米相続税条約(※01)を適用した場合であっても、必ず米国の遺産税が課されるわけではありません。被相続人の居住地や、資産の種類・所在地などの要件を満たすことにより、結果として米国の遺産税が免除される場合もあります。


Q. プロベート手続きを回避する方法はありますか

A. 米国では、リビングトラスト(生前信託)を設定しておくことでプロベートを回避できる場合があります。また、不動産をジョイント・テナンシー(合有不動産)の形態で保有していれば、一方の死亡時に自動的にもう一方へ所有権が移転するため、プロベートの対象外となることがあります。ただし、これらの方法にはそれぞれメリットとデメリットがあるため、事前に現地の弁護士と税理士に相談した上で判断することが大切です。


Q. 米国在住の親が亡くなった場合、日本にいる子どもは何から始めればよいですか

A. まずは被相続人の財産の全体像を把握することが最優先です。米国の金融機関に被相続人の死亡を通知して口座を凍結するとともに、不動産や証券口座の有無を確認します。日本側では、相続税申告の要否を判定するために、納税義務者の区分を確認する必要があります。国際相続に対応できる税理士や、現地の弁護士との連携を早い段階で始めることが、手続きの遅延を防ぐポイントです。

まとめ

国際相続は、被相続人や相続人の居住地・国籍、あるいは財産の所在地が複数の国にまたがることで発生する相続です。国内相続とは異なり、複数国の法律と税制が同時に適用されるため、手続きの複雑さと所要期間が大幅に増加します。特に米国に資産を保有している場合は、プロベート手続きや連邦遺産税の申告など、日本にはない制度への対応が求められます。

納税義務者の判定では、被相続人と相続人の住所や国籍の組み合わせによって課税対象範囲が変わるため、早い段階での正確な判定が不可欠です。

二重課税の問題に対しては外国税額控除の活用に加え、日米間には相続税に関する租税条約が締結されているため、条約の適用により課税権の調整や一定の資産に対する課税の軽減・免除が認められる場合があります。

準拠法の違いや海外資産の評価方法なども含め、専門的な知識と現地ネットワークを持つ税理士や弁護士への早期相談が、円滑な相続手続きの鍵となります。


※出典01:遺産、相続及び贈与に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約(略称:日米相続税条約)1955年(昭和30年)4月1日 発効より

※出典02:e-Gov法令検索 「相続税法」(第一条の三:相続税の納税義務者に関する規定) 2026年4月1日施行より


この記事のまとめ

  • 国際相続は財産・被相続人・相続人のいずれかが海外に関わる場合に発生する
  • 納税義務者の区分によって課税対象が全世界財産か国内財産のみかが決まる
  • 海外資産がある場合は早い段階で国際相続に対応できる税理士へ相談する
  • プロベートやリビングトラストなど米国特有の制度を踏まえた事前対策を検討する

国際相続に関するお問い合わせ・ご相談はこちら

レポートの監修者

大橋 正壽(おおはし まさひさ)
税理士法人日本経営 トータルソリューション事業部 副主幹

一般企業の経理からスキル向上を志し税理士試験に合格。税理士法人に5年勤務し2023年に日本経営ウィル税理士法人(現:税理士法人日本経営)に入社。相続チームで富裕層や複雑な法務・税務論点がある相続税申告を中心に担当。2024年からは同チームの審理担当として、適正かつ高品質な申告を支える審理業務に従事。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

お問い合わせ

どんな小さな疑問や不安にも、
私たちは耳を傾けます。
まずはお気軽にご相談ください

ページを表示できません。
このサイトは、最新のブラウザでご覧ください。