組織開発コンサルティングレポートVol.008「自らの想いと行動が一致するとリーダーシップは自然と高まる」
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業種
企業経営
- 種別 レポート
自らの想いと行動が一致するとリーダーシップは自然と高まる 解説
株式会社日本経営 参与 株式会社ミライバ 取締役 / 江畑 直樹
新年度に向けた幹部ミーティングの出来事
やりがちな会議でのやりとり
3月に入り、決算月となったX社。今回の幹部ミーティングは、2020年度の振り返りと次年度の抱負について、各事業長よりシェアしていただきました。社長が知りたいことは、一つ。各事業部長が、新しい年度にどのような想いと志を持ってリーダーシップを発揮していくのか、ということです。
4人目の事業部長Aさんの発表が終わりました。それまで口を開かなかった社長から、Aさんに質問が投げかけられます。
社長:「あなたの事業部の、最も大きな課題は何だと思う?」
Aさんが統括する事業部は、今期は赤字で会社の足を引っ張ってしまいました。顧客からのクレームや若手社員の退職も数名ありました。
しかし、Aさんの発表には、課題の掘り下げや反省の弁もありませんでした。社長は、事業部長としてしっかりと課題に向き合ってほしいとの想いから、敢えて質問を投げかけたのです。
社長からの質問に、Aさんは答えます。この1年間で見えてきた複数の課題。次年度に向けて対策を打ち始めていること…。
しかし、社長は納得できません。Aさんが語る課題は表面的なことで本質を掴んでおらず、だからこそ対策もずれたものに見えたのです。社長はそれが歯がゆくて仕方がありません。
社長: 「起きている問題のもっと根っこの部分を、しっかりと捉えてほしい。足元で起きているたくさんの問題を、あなたの問題として捉えなければ、本質は見えないのではないか」
「業務改善や部下指導の前に、まず事業部長のあなたの問題が何かを捉えられなければ部下はついてこない。対策を打っても、変化を起こすことはできない」
言葉は穏やかでしたが、内容はとても厳しいものでした。社長はAさんに、次回までに課題を整理して提出するように指示しました。
Aさんは難しい表情をしながら、「分かりました」と一言だけ返事しました。
皆さんは、社長とAさんのこのやり取りを、どう思われたでしょうか。
幹部ミーティング後の面談
相手の想いや考えを引き出す
ミーティング終了後、私は社長の了解を得て、Aさんと面談しました。私から、いくつかの質問を投げかけました。
はじめの質問は次のようなものです。
質問①
振り返りの時、力強い前向きな発表が多くありましたね。Aさんにとって、2020年度はとてもチャレンジした年度であったように私は聞こえました。
改めて振り返ると、事業部として、またAさんとして、チャレンジしたことはどのようなことで、そこから見えてきたことは何ですか?
また、その中で成長できたな、次につなげられるなと思った点はどのようなことがありますか?
Aさんは少し考えた後に、次のように説明されました。
- 2020年度をどのような想いでチャレンジしてきたか
- その中でどのような悩みや問題意識を抱えながら事業部をリードしてきたか
- 失敗もたくさんあったが、次年度につながるテーマやヒントもたくさんあった
どうやらAさんは事業部長として、2020年度という節目に何かを起こしたい想いが強かった、また、新型コロナウィルスの影響で社員が迷走する中、事業部長が後ろ向きになってはいけないという想いで、これまでにやったこのないチャレンジに踏み切ってこられたようです。
その想いを聞いた私は、続けて質問をしました。
質問②
2020年度は、Aさんにとって失敗を恐れない覚悟を持って、新しい試みをたくさんしてきた年度であり、様々なチャレンジと向き合ってきたのですね。それはなかなかできないことだと思いますよ。
何がAさんをそこまで突き動かしているのですか? 事業部長としてAさんは、どのようなことを大切にしたいと思っているのでしょうか?
Aさんは少し考えた後に、大切にしている想いが2つあると語ってくださいました。
- 顧客に新たな価値を提供し続ける事業部になること
- 事業部の雰囲気はいつもチャレンジ精神に溢れていること
私は、Aさんのチャレンジ精神の奥底にある願いや想いを受容し承認した上で、最後の質問をしました。
質問③
お話いただいた2点を実現していく上で、これからAさんに問われることは何だと思いますか? 2020年度の振り返りから見えてきたこともあると思うので、それらを踏まえて教えてください。
しばらく沈黙が続いた後に、Aさんは次のように発言されました。
- 社員の考えや意見をもっと聞いてみたいと思いました。2020年度は、私が成果を出すことに焦りすぎていたように思います。ハッパをかけるつもりで厳しく社員に接していましたが、今思えば、社員はとても辛かっただろうなと思います。
- ・・・そうか、私がみんなを苦しめてしまっていたのですね。みんなが主体的にチャレンジできる流れを作るには、私自身がもっと社員の意見を引き出して、共に歩む姿勢を持つことが大切ですね。
- 社長の言いたいことも、なんとなくわかってきました。
Aさんは、自分の想いと2020年度にとってきたアクションがずれていることに気づかれました。
フィードバック、1on1のポイント
気づいてほしいことがあったとき、相手に気づいてもらうためには、次の3つが必要になります。
① 心が開いた状態になっているか
② 相手が大切にしたいと思っていることを顕在化させているか
③ その大切にしたいと思っていることと、現実を当てはめてフィードバックしているか
今回のケースでは、1つ目の質問で①を整え、2つ目の質問で②を整理し、3つ目の質問で③を行いました。
このように、フィードバックの本質をしっかりと押さえて相手と関わると、心境の変化、行動の変化を創り出すことが可能になります。このことを知っているだけで、いろいろなシーンで活用できるのではないでしょうか。
話し手の思いが想定以上に伝わっていないということは、組織の中でも、お客様に対しても、多々あるのだと思います。
このレポートの解説者
江畑 直樹(えばた なおき)
株式会社日本経営 参与 株式会社ミライバ 取締役
2003年日本経営入社。主に医療機関、福祉施設の組織創りや幹部・管理職・監督職の研修に従事する。約2年間にわたる医療・福祉のグループ法人への出向を含め、これまでに100以上の医療法人、社会福祉法人の支援実績を有する。
2018年に株式会社ミライバを設立し、組織の風土改革や次世代リーダーの育成、幹部・管理職の視座の向上等をテーマとする組織開発コンサルティングや人材開発研修の支援を行う。
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