コンサルタントの視座・着眼「四方善」

2018.11.05

地域再編の成否を分ける「四方善」

株式会社 日本経営  取締役 横井将之

求められる、地域の中での医療機関の再編

人口減少が進む中、地方をはじめとする医療機関の再編は避けられないものになっています。

それぞれの医療機関が単独で医療資源の最適化を図るのではなく、いかに地域として無駄なく、効率よく提供していくか。つまり、地域の中での医療機関の再編です。

選択肢の1つが「経営統合」。やはり同一医療圏・同一法人であるからこそ、病床を柔軟に移動したり、職員を柔軟に配置することができるのも事実です。

あるいは「地域医療連携推進法人」の設立。時間を掛けて再編していくという選択肢です。

医療機関の経営統合の限界と、事業譲渡の有効性

「経営統合」の分かりやすい形が「合併」です。合併とは文字通り、2つ以上の法人を1つにすることです。

ただし、合併は原則として法人格が同じでなければなりません。

医療機関の場合、国立、公立、公的、学校法人、医療法人・・・、多種多様な法人格が存在します。法人格が異なる以上、合併を通じてこれらの経営統合を図っていくのは現実的ではありません。

そこで選択肢の1つに挙がるのが、「事業譲渡」です。

事業譲渡とは、特定の事業に関する資産等を一括して他の法人に譲渡することです。

例えば、「病院を2つ有している医療法人が、1つの病院を別の法人に譲渡する」とか、「1つ病院を有している医療法人が、その病院を別の法人に事業譲渡して医療法人を解散する」ことなどが挙げられます。

つまり、事業譲渡を行えば、合併を行わずに経営統合を図ることが可能になるのです。

都道府県で異なる事業譲渡手続き

事業譲渡を進めるにあたり、当然ですが、運営する法人格が変わりますので、医療機関の廃止と開設の届出が必要になります。

事前に行政に相談しながら進めていく必要があるのですが、ここに難点があります。それは都道府県によって考え方や手続きが異なるということです。

これは無理もありません。合併は医療法で定められている手続きなのですが、事業譲渡は医療法の中で触れられていないからです。

したがって事業譲渡そのものを原則認めないという都道府県もあります。

また事業譲渡は認められたとしても、医師会の意見書、審議会の開催の有無は都道府県によって異なります。

あるいは地域医療構想調整会議がスタートしたことにより、特に病床過剰地域においては地域医療構想との兼ね合いも必要になってきます。

医療機関だけではありません。老人保健施設等の公募事業の場合、別の法人に事業譲渡するなら再度公募すると言われるような地域もあります。

また地域包括支援センター等の委託事業は、委託期間が終了するまでは事業譲渡が認められない可能性があります。

四方善しの地域再編を目指して

このように地域再編は一筋縄ではいきません。手続きを進める中で、当然のことながら様々な利害が混在します。

その中で大切なことは、「その地域におけるあるべき姿」を常に考えるということです。

そして、近江商人が大切にした「三方善し(売り手・買い手・世間)」の考え方で進めていくことだと思います。

ちなみに、この「三方善し」に、「将来世代善し」を加えたのが、「四方善し(自分・相手・社会・将来世代)」。日本経営グループは、「四方善し」に基づいて判断していくことを大切にしています。

地域再編の鍵を握るのは、事業譲渡をどう円滑に進められるかどうかにかかっていると考えます。

私たちの取り組みが、地域の四方善しの実現に寄与できるように、法整備やガイドラインの策定等も視野に入れて世の中に提案していきたいと思います。

本稿の執筆者

横井将之(よこいまさゆき)
株式会社 日本経営 取締役

2000年に株式会社日本経営に入社。人事コンサルティングを経て、2006年に医療機関に出向。現在は医療機関の経営戦略策定、利益改善・M&Aを中心に業務を展開。英国国立ウェールズ大学経営大学院(MBA)卒。テーマ関連著述は「医療法人のM&Aと事業承継における論点」(季刊 事業再生と債権管理)。2017年10月より株式会社日本経営取締役。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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