【全3回】高稼働赤字の罠を暴き、収益構造を再構築するマネジメントの本質【第1回特別養護老人ホーム(特養)編】 | 日本経営

投稿日:2026年7月17日

  • 高稼働赤字
  • 収益構造を再構築するマネジメントの本質

【全3回】高稼働赤字の罠を暴き、収益構造を再構築するマネジメントの本質【第1回特別養護老人ホーム(特養)編】

この記事の要約・ポイント
  • 一律の人員配置から戦力に応じた適正配置へ:ご利用者数に対するスタッフの数だけを追う「従来のやり方」を脱却。時間帯別の人員数・発生業務・スキル・習熟度を数値化し、人手不足感の正体を可視化します。人員の過不足を解消して現場の負担と経営のゆとりを生み出します
  • 給食のコストと質の最適化:外部委託などコストコントロールの権限を持たない「従来のやり方」を見直し、セントラルキッチン等の活用で、食事の質を守りながら固定費を削減します
  • 欠員の即補充から体制の再定義へ:退職者が出たらすぐ求人を出す「従来のやり方」を止め、現在の採用市場を理解し、今の人数で無理なく回せる業務フローを現場と共に再構築します
  • 収益改善への3ステップ・ロードマップ:「従来のやり方」に限界を感じた際、まず取り組むべき「構造改革」の具体的な進め方を提示します

稼働率は高く、現場も忙しい。それでも「赤字」に陥る理由

「稼働率が95%を超えているのに、なぜか利益が残らない」 「現場は常に忙しく疲弊しているのに、経営状況が上向かない」

現在、多くの特別養護老人ホーム(特養)の経営層からこのような切実なご相談をいただきます。

これまで多くの施設を支えてきた「稼働率を上げれば経営は安定する」という成功体験が、人件費の高騰や物価上昇によって通用しづらくなっているのが現状です。今、必要なのは現場のさらなる努力ではなく、「現在の収益構造が、今の時代に合っているか」を客観的に見直すことです。

本記事では、高稼働でも利益が出にくい「構造上の課題」を解き明かし、5年、10年先も地域に必要とされ続けるための改善ステップを解説します。

1.【脱・従来のやり方:配置】業務やスキルの「見える化」で、無理のない適正配置を実現する

特養経営において、人件費は最大の支出項目です。ここで重要なのは、単に基準の人数を揃えることではなく、業務やスキルなどの現場の実行力を数値化、見える化し、それに基づいた配置を行うことです。

経験や習熟度を数値に置き換える

「手厚いケア」を目指すあまり、特定の時間帯にスタッフが集中しすぎていたり、逆に待機時間が生じたりしていませんか? これまでの手法を一度フラットにし、データに基づいた適正な人員配置を検討することが大切です。

スタッフを単なる人数で捉えるのではなく、習熟度やスキルに応じて以下のように可視化することをお勧めしています。

  • 新人・研修生スタッフ(0.5人前):十分なフォローが必要な状態
  • 若手・中堅スタッフ(0.8〜1.0人前):一通りの業務を一人で完結できる状態
  • ベテランスタッフ(1.2人前):高い専門性を持ち、周囲の教育や効率的な動きができる段階

この数値を現場のシフト(ライン表)に当てはめることで、「人数は足りているはずなのに、なぜか現場が回っていない(=実質戦力が不足している)時間帯」や、逆に「特定の時間に戦力が集中しすぎている無駄」を客観的に特定できます。

上記に併せて、等級制度や雇用区分、評価制度、賞与ルールを定め、運用可能な仕組みに昇華します。

一律の配置基準をただ画一的に守ろうとするのではなく、この戦力値の合計をベースに配置を最適化することで、現場の負担を抑えつつ、無理のない体制で人件費率をコントロールすることが可能になります。

2.【脱・従来のやり方:固定費】食事の質を守り、厨房コストを最適化する

人件費と並んで収益を圧迫しやすいのが「給食管理費」です。特に外部委託によりコストのコントロール権を手放した結果、コスト高騰の影響を大きく受けているケースは少なくありません。

食事の質を落とさず、コスト構造を変える

深刻な物価高への対策として、「セントラルキッチン方式」を取り入れる施設が増えています。

当日調理の一部を切り替えることで厨房業務を集約化し保存および配送を可能にすることにより、スケールメリットを発揮した業務効率化を図るのはもちろんのこと、厨房職員の早朝・深夜勤務を削減し、採用難へのリスクヘッジを強化できます。さらに食材のロスを最小限に抑えることで、食事のクオリティを維持しながら、大幅なコストダウンを実現可能です。

これまでのやり方を客観的な視点で見直すことが、結果としてご利用者様への食事サービスを長く守り続けることにつながります。

3.【脱・従来のやり方:採用】退職を「補充」ではなく「体制見直し」のチャンスに変える

ある法人では、欠員が出た際に「即採用」する慣習を見直し、経営体質と現場の納得感を同時に向上させました。

現場と一緒に「今のベストな人数」を考える

職員が退職する際、反射的に求人を出すのではなく、「今の業務フローを工夫すれば、補充なしでも無理なく回せるのではないか?」と現場スタッフと共に検討するサイクルを導入しました。

当初は現場の反発も懸念されましたが、支援を通じて現場から「この時間帯の動きを整理すれば、今の人数でもより丁寧にご利用者様と関われる」という前向きな意見が出るようになりました。無理な採用コストを抑え、その分を残った職員の処遇改善に充てることで、現場のモチベーション向上という好循環を生み出すことに成功した事例です。

4.「従来のやり方」に限界を感じたら:収益改善への3ステップ・ロードマップ

現場の努力だけでは限界がある現在の経営環境において、5年、10年先も揺るがない経営基盤を作るためには、以下の3つのステップで構造改革を進めることが有効です。

  • Phase 01:可視化
    自社の加算取得率や人件費率を全国平均と比較し、客観的なデータから「従来の延長線上」では気づけなかった改善の伸びしろを特定します
  • Phase 02:意識改革・構造改革
    実態に合わせた「実質戦力」による人員再配置、厨房コスト、体制の見直しなど、本記事で解説したような具体的な打ち手を実行します
  • Phase 03:定着化
    「なぜこの利益が必要か」を全職員に共有し、現場主導でPDCAを回しながら、利益を適切に職員へ還元できる組織文化を醸成し、持続可能な高収益モデルを完成させます

まとめ:客観的な視点が、組織に「変化」をもたらす

「高稼働なのに利益が出ない」という悩みは、これまでの経営スタイルが新しいステージへ進むためのサインです。

従来型の判断だけに固執せず、外部の客観的なデータや専門的な視点を取り入れることで、これまで見えなかった「ヒント」が見つかります。現場の頑張りが正当に報われ、笑顔でケアを続けられる。そんな強固な経営基盤を、今こそ一緒に形にしていきませんか。


特養の現状を客観的に把握し、未来に向けた収支最適化の一歩を踏み出したい方は
ぜひお気軽にお問い合わせください

本稿の監修者

宇野 明人(うの あきひと)
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部
課長代理

2020年、日本経営に入社。福祉・介護事業所や行政を中心にコンサルティングを行い、収益の改善・人事制度の構築・採用力強化・研修の企画実施・部門別採算制度の導入・地域包括ケアシステムの推進支援などに取り組む。定量面と定性面の両側面を重視した実践的な支援を特徴としている。
また、医療・福祉事業所の経営者および経営幹部を対象とした養成講座のコーディネーター・講師を務め、これまでに延べ100名以上の卒業生を輩出している。
【資格等】
MMPGマスター・認定SOUNDコーチ・経営品質セルフアセッサー・ワークショップデザイナー
【執筆・登壇】
第87回日本情報経営学会論題発表「介護コンサルティングにおけるAI活用」
第18回 KMO2025 論題発表「Assessing the Effect on Management Education for the Nursing Staff in Elderly Care Facilities」

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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