ネガティブな事実に向き合うことはポジティブ/実行力を引き上げる人事のツボ
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業種
企業経営
- 種別 レポート
ネガティブ情報を開示することへの過度な恐れ
あるお客様の採用ホームページを見て、とても感銘を受けました。
それは、自社の強みなどのポジティブ情報だけではなく、「自社のあと一歩なところ」を包み隠さずに開示していたことです。
一般的な採用ホームページでは、求職者の応募を増やすために、自社の魅力を伝える必要があるため、会社の良い面ばかりを取り上げがちです。
「自社のあと一歩なところ」は一見するとネガティブ情報ですが、見方を変えると会社がもっと良くなるための「改善の宝庫」です。
こちらのお客様は、1年後に「あと一歩なところ」がどう変化したかをbefore/afterの形式で改善活動の結果を紹介する予定です。
「あえて社会に発信することで、社員全員が一枚岩となって改善に取り組むことができる」と、採用担当の方は話されていました。
情報の発信者は、ネガティブ情報を開示することに対して、過度な恐れを抱きがちです。
しかし、情報の受け手側に立つと、良い面だけではなくリスクや懸念点を収集するのは至極当然のことです。
例えば、投資家や金融機関は企業のネガティブな事実を把握し、リスクに見合うリターンであれば投資や融資を実行します。
情報の受け手が正しい判断をするためにも、ネガティブ情報を開示することは必要不可欠です。
もちろん、ネガティブ情報の開示においてリスクマネジメントは必要ですが、現状ではうまくいっていないことや自社の弱みなど、ネガティブな事実への解釈や、課題への向き合い方を共有することに価値があるのです。
ネガティブ情報を発信することで、優秀な人材を発掘できる
また、ポジティブな面ばかりを好意的に受け取る情報の受け手には注意が必要です。
採用では良い面に期待をして入社しても、「そんなことは聞いていなかった」という期待のズレやミスマッチは必ず発生します。
ポジティブ情報とは、企業がこれまで努力して積み上げてきた強みではありますが、過去の産物となっています。
一方で、ネガティブ情報を開示するということは、その課題を解決するという未来への行動が伴います。
既に出来上がった過去の産物に期待して入職する方と、課題を受け入れ未来を築くことに胸を踊らせる方、どちらが入社後に高いパフォーマンスを発揮するかは想像に難くないでしょう。
社員や社会に対する情報開示でも同様のことがいえる
自社の社員に対する情報開示でも、耳触りのいいポジティブ情報だけではなく、ネガティブ情報を開示することには価値があります。
一例をあげると、2020年に株式会社星野リゾートの星野佳路氏が公表した「倒産確率」には注目が集まりました。
緊急事態宣言で大打撃を受ける中、予約や財務の状況などの変数をもとにはじき出した倒産確率が、星野社長のブログで公開されていました。
星野社長の「会社の動きを知ってほしい」「危機を楽しんで乗り越えてほしい」という想いが、社員、そして社会に対しても伝わっていました。
2023年3月決算期から、有価証券報告書を発行する上場企業に対して、人的資本の情報開示義務(ISO30414)が課せられています。
ISO30414では、従業員を資本の一部として見た場合にどう評価できるのか、自社にはどんな人材がいて、男女や国籍の違い、多様性がどう担保されているのか、人材を有効活用するために、どんな育成プランが用意されているのかなど、社会、投資家、金融機関、求職者に対して広く情報を開示することが義務付けられています。
2024年現在では上場企業のみに義務付けられていますが、積極的な情報開示を行う中小企業は採用市場で他社を圧倒しています。
人的資本に関する指標について、全ての指標が良い会社は存在しません。そして、こうした指標は動的であり、企業努力で改善することができます。
ネガティブ情報に向き合う姿勢は、現在のポジティブな行動、そして未来のポジティブな変化を生み出していきます。
このレポートの解説者
波多野裕太(はたのゆうた)
株式会社 日本経営 コンサルタント
東日本の企業に対して、人事制度の導入・見直し、組織文化・風土の改革、人事改革を通じたグループガバナンスの構築、キャリアパスの作成などの業務に携わる。顧客層はスタートアップから上場企業までを幅広く支援。
「笑顔溢れる組織作り」をモットーに、現場に深く入り込んだ支援で定評がある。明るいキャラクターと起爆剤としての熱量が武器。
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