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コンサルタントの心に残るエピソードVol.03「異国で正しいことを貫く」

  • 業種 病院・診療所・歯科
    介護福祉施設
    企業経営
  • 種別 レポート

「異国で正しいことを貫く」

NIHONKEIEI (PHILIPPINES) INC./ 所長 吉岡 寛

私は2018年にフィリピンに赴任して以来、日本では考えられないような数々の出来事に遭遇してきました。今回はその中でも特に心に残っているエピソードを1つ、ご紹介したいと思います。

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新社長に就任、経理から立て直したい

金融機関からのご紹介でお会いした、製造業X社のA社長。前社長の時代には社内の管理体制もかなり緩かったのですが、新しくフィリピンに赴任してきて社長に就任するにあたり、まずは経理からきっちり立て直したいということで、私どもにご相談があったのでした。

見た目は温厚なA社長です。しかし不正や内部統制に対しては、かなり厳しい態度で臨まれていました。日本では不正を許さないというのは当たり前のことですが、ここはフィリピンという異国です。税行政の考え方も環境も、日本とは大きく異なっていました。

当局からの指摘「税金の計算が間違っている」

X社が株の譲渡所得の申告をしたときの話です。私どもは弁護士にも確認しながら計算を詰めて、最終の税金を確定しました。

フィリピンでは、株の譲渡所得については、納税者が当局に申告書を持参して説明しなければなりません。まず納税を済ませてから、所有権変更に必要な書類を税務署に発行してもらうのです。

X社の経理スタッフも当局に出向いて、申告内容の説明を行いました。すると、途中で話をさえぎられて、「計算が全く違う」と言われたのです。ざっくり1,000万ほどの納税なのに、「それは間違っている、5,000万だ」と言われたのです。

提示された計算根拠も、全くでたらめでした。経理スタッフはびっくりして会社に連絡し、それを聞いたA社長が激怒して、私どもにお電話をされてきたのです。

やましさがあれば、毅然と対応できない

「すぐに来てくれ」と言われるA社長。私どもは予定をキャンセルして、すぐに車で飛んでいきました。委任を受けて、現地会計士と共に当局に出向きました。

評価方法や計算根拠、契約書などを提示して説明するしかありません。当局が折れないことも想定されましたが、ともかく正しいことを主張する以外にない…

1時間くらい話し合っても、担当者は全く折れませんでした。そこで責任者を出してほしいと訴え、責任者に再び説明をしました。

責任者は最後には黙って私たちの顔を相互に見て、ようやく計算が正しいことを認めました。印紙税だけ見解の相違があり、それで手を打つことになりました。

当局が認めないと言い続ければ、所有権が移転できません。私どもも背水の陣でした。

決着がついたことをご報告すると、A社長から労いの言葉をいただきました。

「異国ではこのようなこともあると聞いていた。しかし、身をもって現実を理解した」

もしかすると、当局との間で何らかの取引をするケースもあるのかもしれません。「別室に行きましょうか」と言われるケースもあると、聞いたこともあります。

しかし、一歩も折れなかったX社の態度に、会社の方針が明確に伝わったのだと思います。自分たちに少しでもやましさがあれば、そのような態度は取れません。当局もそこを見ていたのだと思います。

どのような現実があったとしても、最終的には法治国家です。現大統領の下で体制が変わりつつあったことも、幸いしたのかもしれません。

異なるカルチャーがある中で、「正しさ」を貫けるか

日本では遭遇しないような事態に対して、一緒に危機を脱出した経験は、私の中では記憶に残るエピソードになっています。

「外国でビジネスをするとは、こういうことなのだな」と思いました。

正しいこと、あるべきことを持っていなければ、簡単に崩されてしまいます。正しいことをやり遂げる。押し通す。

外国で外国人と仕事をする中で、人を動かす中で、心が折れたり妥協することもあります。異なるカルチャーがある中で、何が「正しい」のか分からなくなることもあります。そのような中でも、「正しさ」を貫けるか。

売上と現場だけでなく、正しさを求めた

A社長の姿勢は、明確に組織に伝播していきました。ローカルスタッフにも、伝わるようになりました。税金に関する質問一つをとっても、すぐに分かりました。質問の質が違うからです。ご相談が増え、現場で自分たちで、できていないことに気づくようになりました。

X社はいろいろな国に工場がある会社です。日本本社からすると、いち現地法人なのかもしれません。現地法人には、売上とオペレーションはあっても、コンプライアンスの視点はなかったのだと思います。これが、大きく変わっていきました。

A社長の任期は2年でした。社長退任後、日本に戻られましたが、後任の社長はコロナで現地に行けていません。現在、現場はマネージングディレクターが仕切っています。

自分がルールになる経営者は、少なくないと思います。しかしいつまでもそれを続けていると、組織は弱体化していきます。X社がトップなしでも崩れていないのは、売上と現場だけでなく、そこで働く人たちの仕事・生活に正しさを求め、正しいことを貫いてきれいにしていったからだと思います。

私どもが携わる会計の仕事は、トップの姿勢、正しさを後押しするものなのだ。A社長から、そのようなことを学びました。

このレポートの解説者

吉岡 寛(よしおか ひろし)
NIHONKEIEI (PHILIPPINES) INC.取締役

2006年に税理士法人近畿合同会計事務所(現 日本経営ウィル税理士法人)に入社。飲食・小売業、卸売業、運輸業、不動産業、医療などの中堅中小企業の会計業務全般に従事した後、2016年よりフィリピン大手会計事務所のP&A Grant Thornton に出向、日系企業に対する会計業務全般に従事。2018年10月より再度フィリピンに赴任、現地に常駐。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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