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2023年度の最低賃金引き上げによってどんな影響が生じる?病院や介護福祉施設での対策とは

  • 業種 病院・診療所・歯科
    介護福祉施設
  • 種別 レポート

2023年度の最低賃金引き上げについて、厚生労働省の審議会で全国平均で41円引き上げるとする目安をとりまとめました。

物価や水道光熱費上昇の影響もあり、厳しい経営状況が続く事業所も多い中、費用の多くを占める人件費をどのように考えていけばいいのでしょうか。

この記事では、最低賃金引き上げによってどのような影響があるのか、病院と介護福祉施設それぞれの対策について解説します。

2023年度最低賃金引き上げはいつから?

厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会は2023年7月28日、2023年度の最低賃金額改定の目安についての答申を取りまとめ、全国加重平均で時給1002円にすることを明らかにしました。

現在の961円に対し、引き上げ幅は41円となり、1978年度の現制度開始以降、最高額となります。都道府県によって多少差はありますが、早いところでは2023年10月1日から、遅くても10月14日から適用される見込みです。

2023年度最低賃金額一覧

都道府県別の最低賃金額は以下のとおりです。九州や東北、中国地方で大幅な引き上げが目立ち、24県で中央最低賃金審議会が示した目安額を超えました。地方ほど人材の流出と人手不足が深刻で、賃上げの必要性が強まっています。

※厚生労働省報道資料「全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました

最低賃金の対象となる賃金と計算方法

ここで、最低賃金の対象となる賃金について改めて確認しておきましょう。

最低賃金の確認方法は、時給・日給・月給といった給与計算の算出方法によって異なりますが、いずれの場合も最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金であり、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが対象となります。

①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
②1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

※最低賃金の計算方法については、厚生労働省のホームページ「最低賃金のチェック方法は?」でもご確認いただけます。

精皆勤手当も最低賃金の対象とならない点には注意が必要です。

精皆勤手当とは、同一労働・同一賃金の観点からも見直しが進んでいる手当の一つです。精皆勤手当がある法人は、これを機会に手当の支給要件や支給項目を見直すことも有用です。

最低賃金決定までの流れ

最低賃金は、公益代表、労働者代表、使用者代の各同数の委員で構成される最低賃金審議会で議論の上、都道府県労働局長が決定しています。

具体的には、中央最低賃金審議会から示される引き上げ額の目安を参考にしながら、各都道府県の地域の実情を踏まえた審議・答申を得た後、異議申出に関する手続きを得て、都道府県労働局長により決定されます。

※詳しくは、厚生労働省ホームページや最低賃金に関する特設サイトをご覧ください。

2023年の最低賃金引き上げによる経営への影響

最低賃金引き上げによる第一の影響は、人件費の増加です。
最低賃金の引き上げにより、特に賃金水準の低い助手職等については、賃金の引き上げが必要な法人も多いのではないでしょうか。
それだけでなく、職種間の格差のバランス等を考慮すると、全体的な賃金制度の見直しが必要になるかもしれません。
時給が41円増えた場合、社会保険料の増加も合わせると、フルタイム職員一人当たりの人件費は約7,000円増えることになります。

次に、配置基準が定められている医療・介護福祉事業所への大きな影響として、扶養内で働く職員が、労働時間数を減らす可能性があることも考慮しておく必要があります。2024年10月からは、さらに社会保険の適用範囲が「従業員数51人以上」に拡大されるため、それも踏まえて、本人と協議をしておく必要があります。

※上記画像クリックすると、解説動画をご覧いただけます。

最低賃金引き上げによる対策とは?病院と介護福祉施設での対応

次に、病院と介護施設での具体的な対応策について解説します。

病院の場合

現時点で人件費率が高かったり、全員一律の昇給を実施したりしている場合は、賃金制度自体に改善の余地があるため、早急に賃金制度の見直しに着手する必要があります。

岸田総理は、2030年代半ばまでに最低賃金の全国加重平均を1,500円まで引き上げる方針を打ち出しているため、今後も最低賃金は4%前後で上昇し続けることが予想されます。したがって、最低賃金引き上げへの対応や、需要と供給のバランスを踏まえて、頻繁に初任給や昇給額を見直す必要があるため、金額を見直すことを前提として、メンテナンスしやすい制度にしておかなければなりません。

また、賃金制度の見直しだけではなく、生産性を高め、時間外労働や所定労働時間を短くすることにより、人件費の上昇をコントロールすることも合わせて考える必要があります。

月給の場合の最低賃金は、所定労働時間で除して計算されるため、所定労働時間が短くなれば、時給を引き上げなくても最低賃金は引き上がることになります。

労働時間の削減については、機械やシステムに置き換えることで、業務量を減らせいないかを検討することも必要ではありますが、最優先で取り組むべきことは、現場の管理職のマネジメント能力と職員の意識の向上です。

経営層があらゆる施策を考えたとしても、それが現場で実行されなければ意味がありません。現場の職員が生産性を高める必要性を理解し、現状を正しく把握して、改善行動に取り組まなければ生産性の向上には繋がりません。

もしも、管理職のマネジメント力に課題があるのなら、「管理職の育成」に注力する必要があります。「私は管理職には向いていない」という声をしばしば聞きますが、マネジメント力とは、先天的な能力ではなく、教育により身につけることができるスキルです。

そのため、どの程度育成を行うかが、管理職のマネジメント力の差、ひいては組織力の差になります。管理職になったのだからと本人任せにするのではなく、組織として管理職を育成するための教育体制を充実させ、管理職のマネジメント力向上を支援することも必要です。

介護施設の場合

病院の場合と同様の考えが求められるが、介護業界には一部対象外の事業があるものの、多くの事業において「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」が報酬体系として整備されています。

これらの加算を現在、賞与や一時金として支給している場合には、支給方法を見直すことにより、一時的に最低賃金引き上げへの対応できる可能性があります。

介護報酬額により加算額も左右されてしまうため、一時金や賞与での支給が運用上において楽ではありますが、法人の持ち出しを増やさない策として、年収は変えないが、月額の収入に分配するという方法は有効です。

その際は、基本給に含めると、実績報告や取り扱いが複雑になるため、原資を想定報酬額の8~9割程度に見込み、手当を新設することが望ましいです。また、この機会にキャリアパスの見直しによって「介護職員等特定処遇改善加算」の算定や上位区分の算定を併せて検討されると法人の負担を少なく職員の賃金引上げが可能です。

特に介護現場において、今回の賃金引き上げの対象として想定されるのは、介護職・事務職・調理職・介護助手やドライバー等の補助職などであり、「介護職員処遇改善加算」のみ取得の場合には介護職以外への支給が不可能なため、今一度、「介護職員等特定処遇改善加算」について、算定有無・上位区分算定・支給職種の見直しを行う必要があります。

以上がテクニック的な対応方法ではありますが、あくまでその場しのぎの対応であり、改めて「適正な人件費はどの程度か」というテーマに向き合う必要があります。

一般社団法人シルバーサービス振興会が行った「OJTを通じた介護職員の人材育成に関する調査研究」の事業報告書によると、キャリア段位の項目別の「できていない」率には、ある傾向が窺えます。同調査によると、全国的に介護福祉士が基本介護を確立するのに5年、現場でプランを作成できるようになるのに10年という期間を要していることがわかります。

人材が限られているなかで、業界全体が「アウトカム」を重視する報酬体系に転換しつつあるいま、スタッフ一人ひとりの知識・スキルをどう高めるかは、福祉・介護事業者の喫緊の課題でもあります。

まさに、人材育成のサイクルを法人・事業所として速めていき、「早く一人前に」成長させる取り組みと優秀な人材を離職させない仕組みが欠かせません。

まとめ

ここまで主に人事制度の見直しを主軸として話をしてきましたが、人件費率が高いから賃金を上げられないのではなく、労働分配率が高いために人件費を上げることができないわけであり、売上や付加価値率を上げることも合わせて考える必要があります。

今回の最低賃金の引き上げは、もはや「人件費」というひとつの視点のみで対策を考えるのではなく、取るべき経営戦略からの抜本的な見直しが必要かもしれません。

しかし、課題が山積みの中「どこから着手するべきかわからない」と頭も抱える人も多いのではないでしょうか。

今後どのような施策を打てばいいのか、そのポイントについて下記の動画で解説しています。

本稿の執筆者

馬渡美智(まわたり みさと)
株式会社日本経営

従業員数500名規模の事業所で、総務・人事業務に従事した後、日本経営入社。入社後は組織人事コンサルティング部門に配属され、労務管理体制の調査・整備業務、組織活性化支援、人事制度の導入・運用支援、管理職研修、職員研修等に従事している。社会福祉協議会、各種団体等での講演やセミナーも多数行っている。社内においては、子育てをしながら経営コンサルタントとして働くモデル人材として活躍。社会保険労務士有資格者。

宇野明人(うの あきひと)
株式会社日本経営

介護事業所を中心にコンサルティング実績を有しており、特に人事全般の支援に定評がある。従事したテーマは多岐にわたり、クライアントのニーズに合わせた制度設計に強みを持つ。また、現在では経営幹部育成講座の運営を複数務めるなど幅広く活躍している。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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