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経営者にとっての成績表は?/病院経営の指標・読み方Vol.02

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

病院経営では、「数字に基づいて判断すれば、そのような意思決定は決してしなかった」ということが、しばしば起こり得ます。

意思決定において最も重要な数字の一つが、財務データ。財務の視点から、病院経営の指標・データの読み方を検証します。

病院経営の本当の実力は、損益計算書では分からない

皆さんは決算書を見るときにまず最初にどこを見ることが多いでしょうか?

例えば他院の決算書を見る時、どこを見ているかを考えてみてください。今は医療法人の決算書(厚労省の規定のフォーム)は、都道府県庁に行けば誰でも閲覧できます。他病院の決算書を目の前にして最初に目がいくところが、皆さんが潜在的に気になっている数字ということになります。

決算書は1年間の成績表ですから、それが最も端的に表れている損益計算書の『当期純利益』に最初に目がいくという方が多いのではないでしょうか。

しかし、直近期は新型コロナの補助金を沢山受け取っていたり、診療報酬上も臨時的に点数が算定できたりしました。多くの医療法人では、前々期より利益が大きかったということを耳にします。

それ以外にも、直近期はちょうど建替えをした年度だったので、旧病棟の取り壊し費用を多額に計上した。生命保険を解約したので、臨時収益が多く計上できた。クラスターが発生して、特定の月の医業収益が殆どなかった。…このように、通年より利益の動きが大きくなっていた医療機関もあると思います。

つまり損益計算書の利益は、1年間だけの成績を表しているので、一時的な経営判断や事象がその年の利益を大きく変動させてしまいます。医療法人の本当の実力を示していないケースがよくあるのです。

決算書の数字だけを見ていると、そのような内部事情はわかりませんので、誤った読み取り方をしてしまうことが多々あります。

病院経営者にとって、本当の意味での成績表

一方、貸借対照表は、医療法人の設立から現在までの結果が示されている財務諸表です。1年間だけの特殊事情には左右されません。

例えば、設立以降30年間の利益の蓄積である『純資産の部合計』が、30億円の医療法人があるとします。直近1年間に1億円の赤字であっても、純資産の部合計は29億円になるだけですので、減少幅は約3%に過ぎず殆ど影響はありません。

財務諸表を読み取るプロである金融機関が、損益計算書より貸借対照表を重視している理由はここにあります。

この医療法人が純資産の部が30億円で、現預金残高が20億円あったとします。金融機関が貸付している資金が5億円の場合、5億円の返済が困難になる事態が発生する可能性はゼロです。1億円の赤字が出ても全く問題無し、むしろもっと資金をお貸ししますよという話になるでしょう。

このように財務諸表を見るうえで、貸借対照表を読めるということは非常に重要です。これまでの経営の蓄積によって、貸借対照表の「形」は様々だからです。

貸借対照表の形

①理想型 ②借り入れ依存型 ③内部留保型 ④長短逆転型 ⑤ 債務超過型

言うまでもなく①が最も良く、⑤が最も改善の余地がある貸借対照表です。① の理想型の特徴は次の通りです。

  • 現預金の残高は、月間医業収益の2倍以上ある。
  • 流動資産は、流動負債の2倍以上ある。
  • 借入金残高は、月間医業収益の7倍程度以内。無借金が最良。
  • 純資産が総資産に占める割合は、大きければ大きいほど良い。(優秀な医療法人では90%を超えているところもあります。)

これらの着眼点は、1年頑張っただけでは達成できません。逆に1年業績が悪かっただけで悪化するものでもありません。

つまり貸借対照表は、医療法人の本質的な財務体力を表しているということです。

一朝一夕に理想型の貸借対照表は作れません。長い時間をかけて健全な財務体質を築くことを経営体質としてきた医療法人にしか作れません。経営者にとって、本当の意味での成績表が貸借対照表なのです。

病院経営の健全化のために、いま必要な意思決定を議論します。

本稿の執筆者

藤原ますみ(ふじわら ますみ)
NKGRコンサルティング株式会社 取締役

クリニック・病院・社会福祉法人の財務会計に従事し、有料老人ホームの立ち上げにも参画する。現在は、病院の財務・管理会計の導入を通じた経営改善も担う財務のプロフェッショナル。公的機関主催の研修でも講師を多数務め、数字に苦手な受講者でも「今までで一番分かりやすかった」と、絶大な支持を得ている。

日本経営ウィル税理士法人/NKGRコンサルティング株式会社/株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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