病院の組織に未来はあるのか?/組織開発のアプローチ
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
近年、我が国は人口減少と少子高齢化の影響を強く受けており、地域医療への課題が一層厳しさを増しています。
2005年と比較して、2050年までには総人口が約3,300万人(約25.5%)減少し、高齢人口は1,200万人増加する一方で、生産年齢人口は3,500万人減少し、若年人口も900万人減少します。この動向により、高齢化率は20%から40%に急上昇することが予想されています。
都市部では一部で生産年齢人口が増加しているものの、地方地域では既に人材不足が深刻な課題となっており、コロナ禍の影響も加わり、現場職員のストレスと離職率が増加しています。この状況下で医療サービスの提供が難しくなり、多くの病院が人材不足に悩まされています。都市部でも同様の状況が将来的には予想され、人口規模が大きい分、より深刻な問題に直面するでしょう。
このような課題に直面する中で、今後何が起きるのか?
このまま続けば、国内全体で医療スタッフ不足が進み、全国的に病院の経営が脆弱になる可能性があります。特に地方では既に人材不足のため、病棟閉鎖の傾向が顕著で、人材紹介会社に高額の費用がかかるなど、採用難を解決しようとする試みも増加しています。
多くの病院が限界ギリギリで業務を遂行しており、人材育成やモチベーション向上に時間を割く余裕がありません。管理職は現場の調整に追われ、ベテラン職員と監督職は忙殺され、若手スタッフは組織と上司からのサポートを感じられないと苦しんでいます。それぞれが悩みや葛藤に悩む日々が続いています。
組織風土は悪化、決断に踏み切ることも困難に
私たちは全国の医療施設を訪問し、医療現場のストレスが著しく高まっていることに気付いており、この問題が年々悪化していることを認識しています。組織内での他責思考が強まり、お互いに認識のズレによる不安や苛立ちを感じることがしばしばあり、組織全体の風土が悪化し、コミュニケーションの低下や離職率の増加などが見られています。
多くの病院が建て替えや新たな世代交代を検討していますが、先行きが不透明で未来への不安が大きく、決断に踏み切ることが難しいケースも多くあります。
現在の課題に立ち向かい、未来に向けた準備を行うには、2つの取り組みが重要です。
地域内での協力と対話
まず、地域内での協力と対話が欠かせません。
各地域での問題と解決策は、地域の利害関係者が協力して見つける必要があります。組織単体だけでは対処できない課題があるため、マルチステークホルダー(複数の利害関係者)がデータに基づいて未来の危機を受け止め、今の課題と今後の可能性について話し合い、共同で行動する機会を設けることが重要です。
行政が主導することが理想ですが、そうでない場合は、経営者が主導し、地域内での対話の場を提供することが必要です。既にいくつかの地域でこのような取り組みが始まっています。
組織内での対話と協力関係
次に、組織内での対話と協力関係を強化し、志と意識を高めていく必要があります。
現在、多くの医療機関では不満やストレスが高まっており、組織が適切に機能していません。この状況を改善するには、「立ち止まって現状と未来を語る場」をつくり、現状の認識を共有し、未来に向けた方向性と協力体制を築く必要があります。
部署を超えた管理職がオープンに話し合うことで、「各自が苦しい状況に飲み込まれ、お互いに疲弊している」という状況に気づくことが可能になります。
そこから、現状を乗り越え、よりよい未来を創造していくためのテーマを明らかにして、仲間と共に新たな一歩を踏み出していく状態を創り出していかなければなりません。
また、リーダーには、大勢のスタッフを導き、協働の文化を醸成する人間力がこれまで以上に求められてきます。リーダーを集め、ビジョンについて語り合ったり、現状の問題点を共有し、サポートしあいながらチャレンジに向き合ったりするための空間を整え、リーダーシップのスキルを向上させることが重要です。
コミュニティを形成し、一人ひとりが立ち上がって行動する
新しい時代に向けては、前向きな対話と協力が不可欠です。古いシステムが崩壊し、未来が不透明な状況下で、地域と組織内での協力体制が新たな解決策の鍵となります。
未来への不安を共有し、共に変革を達成するための協力を築くことが求められます。新しいシステムを構築するために、未来を考えるためのコミュニティを形成し、一人ひとりが立ち上がって行動する機会を提供していく必要があります。
これからの未来に向けて、我々は共に挑戦し、変革をもたらす準備を整えていく必要があります。未来への不安を共有し、共同で新しい解決策を探求する時が来ています。どうぞ、未来に向けての準備を共に進める機会を作っていただき、共に未来への道を切り拓いていきましょう。
病院幹部のための組織開発講座第12弾
『人口減少時代に備えた病院の組織づくり』
組織開発というアプローチ
- 生き生きとした職場を築くための鍵
- 人づくりは「環境」が鍵を握る
- 長引くコロナ禍による医療現場の士気低迷の後遺症をどう脱却するか?
- あなたが求めているリーダーシップ研修はどのレベル?
- 新年度から「力強く前進の流れを創り出す」
- 成果を出すために創意工夫を凝らす
- 管理職の志に火をつけ、部署の活動力を高める「効果的な」目標管理制度とは何か?
- 病院組織に「生気」を取り戻すにはどうすればよいのか?
- 事業計画と目標は、事業の進化と人材の団結・成長を生み出す鍵となるか?
- これからどのようにして病院組織の士気を高め、リーダー人材を育てるか?
- 管理職、監督職のポテンシャルを引き出す
- ファミリー経営の「強み」を活かす
- 管理職なら誰もが直面する“自己超越”という壁
- 管理職の主体性・リーダーシップをいかに高めるか
- 戦略・目標を実現するための組織づくり
本稿の執筆者
江畑直樹(えばた なおき)
株式会社ミライバ 取締役
2003年日本経営入社。主に医療機関、福祉施設の組織創りや幹部・管理職・監督職の研修に従事。2018年に株式会社ミライバを設立し、組織開発コンサルティングや人材開発研修の支援を行う。成人発達理論、学習する組織、U理論、インテグラル理論、NVC等の理論をベースとし、首都大学東京専門職大学院や日本社会事業大学専門職大学院では、これら理論を軸とした組織創りやサービス開発等について看護管理者、福祉管理者を対象に授業を行う。
株式会社ミライバ/株式会社日本経営
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