病院内部をいかに立て直すか ~新年度を迎えるにあたって~/組織開発のアプローチ
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
全国で見られる、病院組織の疲弊ムード
病院で働く職員の意欲が全国的に低下傾向にあります。やるべき業務が多く、人材不足には歯止めがきかず、採用は厳しいうえに休職者・退職者も減少しません。現場職員は、身体も精神も疲弊した状態で、職場全体の士気が下がっています。少子高齢化、コロナ対応の長期化、ハラスメント意識の高まりといった外部環境の構造的変化は、組織内部に様々な課題を突きつけます。
職員意識調査を継続して実施する医療機関の多くは、例年よりも結果が悪くなっていることに驚かれます。しかし、これは自然現象とも言えます。組織を取り巻く環境変化による現場ストレスが積み重なるとともに、年々その環境変化のスピードと課題の難易度が加速度的に上がっているのです。
「組織の土台がしっかりしているか」が鍵となる
2024年度は報酬改定を踏まえ、経営の舵の切り返しと、現場の改善活動が求められるフェーズとなります。しかし経営者や管理職クラスは、組織内部で起きている状況にも視線を向けていく必要があるでしょう。
持続可能な経営を実現していくには、国の示す方向性や地域ニーズに適した戦略策定、そしてその徹底が求められますが、その前に、そもそも戦略を実行していくための組織の土台がしっかりと形成されているかが求められます。これは要するに、職員が組織と仲間を信頼し、仕事にやりがいを持ち、個々が目的・目標に向かってチャレンジしたりチームとしての団結行動を作り出したりするカルチャーがあるかという問題です。
組織には、その空間に流れている空気というものが確実に存在しています。この空気感は、職員個々の内側の意識と感情が集合的に作り出しているものです。ここを前向きなものに変容していかない限り、どのような仕組みを取り入れても、どのような働きかけをしたとしても、組織が目指す成果を創り出すことは難しいと言えるでしょう。
残念なことに、目に見えない空気や意識、カルチャーなどのテーマは、組織課題として扱われづらく、後回しにされてしまうのが実情です。あるいは重要課題として扱われたにしても、組織に根付く問題原因を十分に紐解くことなく、一般的なアプローチで対応してしまい、本質を見誤った対策になりがちです。結果として同じような問題が繰り返され、時間の経過とともに状況が悪化していくプロセスを辿り続けます。このような問題に、病院経営者や幹部は何を手がけていく必要があるのでしょうか?
何をするかの前に、
今何が起きているかを出し合い、受け止め合う
大切なことは、「私たちの組織、各部署で何が起きているのか」という問いに向き合うことです。定量的データの他、各々が観察している事象を共有して現状に対する認識の枠組みを広げること、そして「その状況にいる個人の内側にはどのような気持ちや感情が渦巻くだろうか」と感情や気持ちを共有し、複雑性の高い心境を受け止め合うことから始めることです。
トップや本部が見えている事実はほんの一部に過ぎません。起きている事実(思考)、内側で起こっているマインド(感情)を分かち合い、そこから個々が現状を捉え直し、どう未来を設計していくのかを描いていくのです。そうして、相互理解と認識を深め、仲間同士のつながり、組織との繋がりを取り戻し、未来に向けて何が問われているのかをゼロベースで考えていくのです。
資本は経営資本だけではない
経営学ではよく「資本」という言葉をよく使いますが、そのほとんどは「経営資本」としてしか重視されません。経営資本とは、人、もの、金、時間、情報などの経営資源の総称であり、経営の目的を果たすために、これら資源を取り揃え、管理し、育てていくという発想です。しかしながら、資本には経営資本以外に「社会関係資本」というものもあります。この社会関係資本とは、人間関係、共助の精神、文化といったものです。これは、複数の人が共同体として営みをしていく上で欠かせない要件とも言えるものです。
生産年齢人口が減少し、心身が疲弊しやすい現代においては、社会関係資本を育んでいかないと組織が内側から崩れてしまうことになるでしょう。これからの経営においては「社会関係資本」を重視して、そのための取り組みを継続的にしていくことが求められます。そのために必要なのは、皆が当事者性を持って、組織やチームの今のこと、これからのことを率直に話し合いできる「場」です。これは、普段の報告を中心とする会議のような場ではなく、各々が心理的安全性の高い場の中で想いや考えを語り合い、つながりを深め、未来を共に考察していくことを可能にする場です。
2024年度、新しい空気を吹き込んでいく
私どもは、このような「場づくり」を応援することで、組織で働く職員が相互にオープンな関係となり、同じ想いや目標を共有して共に歩んでいく病院を数多く見てきました。
是非とも、社会関係資本を深めていくための場づくりと継続的な実践をスタートされてください。そうして、新鮮な空気を組織に吹き込んでください。組織の土台がしっかりすれば、職員個々は難しい状況にめげずに立ち向かい、協力し合いながら乗り越えようとする強い意志と協働によるアクションが生まれてきます。
このような文化を築くには一定の時間を要するのは事実です。しかし、信頼し合える組織を目指し、諦めない意志を持って「新しい場づくり」をスタートしていくと、組織は少しずつ確実に進化を遂げていきます。持続可能な経営に向けて一歩を踏み出されてください。
病院幹部のための組織開発講座 第14弾
特別編『新年度から始める組織風土と現場の意識開発』
「未来を創る場」をつくる、「ミライバチャンネル」
江畑直樹と田中梨央が、コミュニティの皆さまにお届けしている無料動画チャンネル。
現在、ミライバチャンネルSeason2/組織開発「病院のリーダー育成研究会」編を公開しています。
1本15分前後のショート動画です。ぜひご視聴ください。
組織開発というアプローチ
- 新年度からはじめる組織改革
- 病院の組織に未来はあるのか?/組織開発のアプローチ
- 生き生きとした職場を築くための鍵
- 人づくりは「環境」が鍵を握る
- 長引くコロナ禍による医療現場の士気低迷の後遺症をどう脱却するか?
- あなたが求めているリーダーシップ研修はどのレベル?
- 新年度から「力強く前進の流れを創り出す」
- 成果を出すために創意工夫を凝らす
- 管理職の志に火をつけ、部署の活動力を高める「効果的な」目標管理制度とは何か?
- 病院組織に「生気」を取り戻すにはどうすればよいのか?
- 事業計画と目標は、事業の進化と人材の団結・成長を生み出す鍵となるか?
- これからどのようにして病院組織の士気を高め、リーダー人材を育てるか?
- 管理職、監督職のポテンシャルを引き出す
- ファミリー経営の「強み」を活かす
- 管理職なら誰もが直面する“自己超越”という壁
- 管理職の主体性・リーダーシップをいかに高めるか
- 戦略・目標を実現するための組織づくり
本稿の執筆者
江畑直樹(えばた なおき)
株式会社ミライバ 取締役
2003年日本経営入社。主に医療機関、福祉施設の組織創りや幹部・管理職・監督職の研修に従事。2018年に株式会社ミライバを設立し、組織開発コンサルティングや人材開発研修の支援を行う。成人発達理論、学習する組織、U理論、インテグラル理論、NVC等の理論をベースとし、首都大学東京専門職大学院や日本社会事業大学専門職大学院では、これら理論を軸とした組織創りやサービス開発等について看護管理者、福祉管理者を対象に授業を行う。
株式会社ミライバ/株式会社日本経営
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