- 改定の本質:令和8年度改定は2040年に向けた「病床機能」から「病院機能」へ。人員配置の評価から実績を重視するアウトカム評価へとシフト
- 急性期一般入院料1の岐路:急性期病院一般入院基本料や看護・多職種協働加算の新設により、「7対1配置の急性期一般入院料1(以下、急性期一般1)」を過去の看板のまま現状維持するメリットは実質的に消失
- 経営判断:自院の生き残りをかけ、地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟の機能の必要性、重症度、医療・看護必要度の新基準への適合率、医療圏における自院の相対的な立ち位置という多角的な検証の視点から、自院のポジショニングを冷徹に選択する必要性が高まる
- 生存戦略:1つの病院で完結する「自前主義」から脱却し、地域全体を一つの病院と見立てた「患者層の相互移譲(下り搬送など)」を平時から仕掛ける地域再編モデルへの参画が鍵
診療報酬改定による「選別のスタート」にどう立ち向かうか
令和8年度診療報酬改定の全容が公表され、各医療機関では経営影響額の試算や体制検討が進んでいることと思います。「今回の改定で表面的な収支はプラスになりそうだ」「黒字を維持できそうで一安心した」という安堵の声がある一方で、「重症度、医療・看護必要度の要件が厳しく、先行きが見えない」「本当にこのまま急性期を維持していいのだろうか」と、本質的な身の振り方に頭を悩ませている経営層・事務長の方も多いのではないでしょうか。
日本の医療提供体制は、医療需要のピークを迎える2040年に向けて、高度急性期・急性期の「機能集約」へと大きく舵を切っています。今回の改定は、単なる点数の増減ではなく、地域における基幹病院の選別のスタートを告げるものと言い換えることもできるのではないでしょうか。1年目の表面的な黒字に安心し、これまでの「現状維持」で対応しようとした瞬間、地域での淘汰へのカウントダウンが始まりかねません。
本記事では、令和8年度改定の根底にある国の政策意図を紐解きながら、地域医療支援病院や基幹病院が今まさに下すべき「経営判断の軸」と生き残りの戦略について、詳しく解説します。
1.2040年を見据えた「新たな地域医療構想」と改定の背景
今回の診療報酬改定が持つ意味を正しく理解するためには、国が目指している「2040年ビジョン」と、それに伴う「新たな地域医療構想」の動向を正確に予見する必要があります。
需給ギャップの拡大と「ソフト面」の効率化
日本全国で生産年齢人口(働き手)が減少するなか、高齢者人口の推移は地域によって大きく異なります。成り行きに任せれば、需要の拡大する地域では人手不足による需給ギャップが生じ、需要の縮小する地域では病院の維持自体が困難になります。
これまでの地域医療構想は、地域の医療需要に応じた「病床機能の分化(ハードの適正化)」が主な議論の中心でした。しかし今後は、単に病床数やベッドの看板(病棟区分)を調整するだけでなく、 「病床があっても、そこで働く医療人材がいない(医療人材の不足)」という、より深刻な局面に突入します。そのため、これからはハード面だけでなく、多職種連携やICT・DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した「ソフト面でのリソース再配置と効率化」が政策決定の根本に据えられています。
急性期は「機能集約」と「アウトカム評価」へ
持続可能な医療従事者の働き方と医療の質を担保するため、急性期機能については、搬送体制を強化しつつ、一定の症例数を集約して対応する「地域の拠点病院」への昇華が求められています。現に本改定では、従来のストラクチャー(構造や配置基準)評価から、救急搬送件数や全身麻酔件数といったアウトカム(成果・実績)評価へ切り替えられました。
2.「急性期一般1」の維持メリットがなくなった?評価体系の地殻変動
今回の改定において、病院経営幹部が最も直視しなければならない現実があります。それは、多くの地域医療支援病院が届け出ている「急性期一般1(7対1配置)」を、過去の看板のまま現状維持するメリットが実質的に失われたという点です。
今回の評価体系の見直しにより、新設された入院料や加算を組み合わせることで、以下のような逆転現象や同等現象が起こる設計になっています。
- 逆転現象:急性期病院B」+「看護・多職種協働加算」+「急性期総合体制加算5」 を算定できれば、実質的な獲得点数は「急性期病院A」の基本点数を上回る
- 同等現象:10対1配置である「急性期病院B」 や「急性期一般入院料4」 であっても、看護・多職種協働加算を組み合わせれば、急性期一般1と同等の評価を受けることができるまた、今後のDPC制度は急性期病院A・Bを前提として制度設計される可能性もあり、救急搬送件数・全身麻酔件数・急性期症例数を集めにくい小規模な急性期病院を除けば、急性期一般1を維持し続ける方が減収となる可能性があります。急性期病院A・Bに向けて、覚悟を持って急性期機能を維持し、7対1の人員確保競争を戦い続けるのか、ドラスティックに人員配置を10対1に落とし、業務改善やDXの経営努力によって加算取得や配置見直しによるコスト最適化を狙うか、経営の重要な意思決定を下す場面に立たされているのです。
大半の病院において、主な診療圏は移動時間30分以内の患者層に限られます。より高度な医療や、そこにしかない特殊な機能がある場合を除き、医療提供は基本的にこの生活圏内で行われるのが病院事業の特徴です。
また、今後のDPC制度は急性期病院A・Bを前提として制度設計される可能性もあり、救急搬送件数・全身麻酔件数・急性期症例数を集めにくい小規模な急性期病院を除けば、急性期一般1を維持し続ける方が減収となる可能性があります。急性期病院A・Bに向けて、覚悟を持って急性期機能を維持し、7対1の人員確保競争を戦い続けるのか、ドラスティックに人員配置を10対1に落とし、業務改善やDXの経営努力によって加算取得や配置見直しによるコスト最適化を狙うか、経営の重要な意思決定を下す場面に立たされているのです。
3.自院の身の振り方を決める経営判断の見直しと検証の視点
では、自院が「急性期病院A・B」となり、急性期拠点機能を目指すべきなのか、それとも「地域包括医療病棟」などの高齢者救急の受け入れ機能へ舵を切るべきなのか。今回の改定を踏まえ、経営陣が冷静に検証すべきポイントを整理します。
視点①:急性期総合体制加算の届出可能性
かつて急性期充実体制加算や総合入院体制加算として、悪性腫瘍手術や心臓カテーテル法手術などの実績を満たすことで届出ができた加算は、急性期総合体制加算として要件を見直し一本化されました。そして、この加算を届出できるのは急性期病院A・Bのみとなっています。そのため、自院がこの加算を届出することができる実績を有しているのであれば、その側面からは急性期病院A・Bを目指すべきだと言えます。
視点②:「包括期機能(地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟)」のあり方
急性期病院Aになると地域包括ケア病棟・地域包括医療病棟を保有することができなくなります(急性期病院Bの場合、地域包括ケア病棟は保有可能)。院内の軽症患者や高齢者救急患者の受け皿として、この包括期機能を保有している場合、この機能を捨てられるかどうかが、もう1つの視点になります。
急性期病院A・Bになるために包括期機能を捨てるということは、他院への転院を促進するか、急性期病棟で吸収するかのいずれかが必要になります。しかし、前者はそもそも周辺医療機関や連携医療機関に受け皿がないと実現しませんし、仮に実現したとしても、病床稼働率の低下は避けられないので、経営に与えるダメージと急性期病院A・Bになるメリットのバランスを見極める必要があります。前者が難しければ、後者を選ばざるを得ませんが、重症度、医療・看護必要度の低下リスクもありますし、人員配置も手厚くする必要があるため、こちらも決して容易な話ではないというのが実情です。
このように、地域の医療提供体制や、包括期機能を手放した後の影響を踏まえたときに、自院の包括期機能をどうするかという「病院としてのあり方」が問われているのです。
視点③:医療圏における「自院の相対的な立ち位置」の再定義
視点②のあり方とも共通する部分はありますが、地域の状況から、いかに自院が急性期病院A・Bになる(急性期拠点病院になる)ことを期待されているかという視点も重要です。国が進める「新たな地域医療構想」では、一律の病床削減ではなく、各医療圏の人口動態に応じた柔軟な機能分化が求められています。その中では、急性期病院A・Bで構成される急性期拠点機能は、人口20~30万人につき1拠点の確保が目安と言われており、自院の二次医療圏の人口規模によって、急性期拠点機能がいくつ必要と考えられるのか、また自院がそのうちの1つに名を連ねるポジションにあるのかを冷静に見極めることが重要になってきます。
ただし、現在では二次医療圏の範囲や構成市町村自体を見直す動きもありますし、二次医療圏の人口は少なくても、二次医療圏外の周辺市町村も自院のカバー範囲になる場合は、そこまで含めた人口で求められる急性期拠点機能の数を捉えるべきだと考えます。そのため、地域間の患者の流出入等のデータも踏まえ、実際に自院が急性期機能を発揮している範囲がどこで、同じ範囲をカバーする医療機関はどのような機能・ポジショニングにあるのかを把握することも重要になってきます。
4.互いのメリットを生かした「地域再編モデル」の構築へ
前述のように、急性期病院に限らず「どこが急性期拠点機能を担うのか?」を考えることで、地域内のポジショニングが変わっていく可能性がうかがえます。これからの時代、1つの病院だけですべての機能を抱え込む自前主義は成り立ちません。地域全体を1つの大きな病院に見立て、この患者層はこの病院で対応するという役割分担を図ることが、結果的に互いの診療報酬上の経済メリットを最大化することに繋がります。競合医療機関とどのように競争するかだけでなく、患者層の集約と移譲を仕掛けることで、地域と病院経営の全体最適を図ることこそが、究極の生存戦略となります。
例えば、以下のような「地域再編モデル」の構築が可能です。
- 基幹病院(急性期病院A・B):夕競合や近隣のケアミックス病院から手術症例や高度救急搬送を集約し、急性期拠点機能の要件を確実に満たしにいく
- ケアミックス病院・包括期病院:基幹病院での急性期治療を終えた患者(ポストアキュート)を下り搬送(救急患者連携搬送料の活用)で積極的に受け入れ、新設された「包括期充実体制加算」などを算定して稼働率と収益を向上させる
大掛かりな病院統合をいきなり進めるのではなく、診療報酬上のメリットを共通言語として、平時から地域の病院同士での紹介・逆紹介のルートと応援体制を築くことから始めるべきです。
まとめ:病院の経営者に求められる覚悟と次へのアクション
今回の改定で突きつけられた現実、それは救急搬送件数や全身麻酔件数といったアウトカム指標が、単なる病院の現場の努力だけでは、そう簡単に増やせるものではないという厳然たる事実です。
これからの病院経営陣に求められるのは、過去への固執を捨て、データに基づく非情な選択(=覚悟)をすることです。定められた役割を全うするために特定機能に資源を集中投下するのか、それとも過去の看板を下ろして新たな役割(包括期特化など)のマスターを目指すのか、経営幹部には戦略の両輪を回す責任があります。
地域医療の現状をデータで正しく把握するために
自院の進むべき正しいポジショニングを判断するためには、正確な地域マーケティングと医療需給の予測データが不可欠です。
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本稿の監修者

中野 敬太(なかの けいた)
株式会社日本経営
中小規模の病院から大規模のグループ病院まで、規模や機能を問わず、戦略策定、経営改善、建替え、経営管理体制の構築など、多岐に渡るコンサルティングを実施。特に、経営改善支援では、データ分析と現場の業務プロセス改善に強みを持つ
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