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コロナによる診療所経営への影響と対策Vol.01「診療科別の減収状況と患者心理から考えた優先テーマ」

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

Vol.01 診療科別の減収状況と患者心理から考えた優先テーマ

非常事態宣言が解除され、多くの診療所がオペレーションを元に戻し、診察と経営の再建に当たられている。本レポートでは、新型コロナの影響で診療所がどのようなダメージを受けたか、そして感染のリスクが消えない中で、患者心理から考えた時にどのような取り組みが考えられるかを検証したい。

危機に対する対策の本質 解説

日本経営ウィル税理士法人 医療事業部
小松裕介、宮前尭弘、得平浩然

診療科別の収益下落と新型コロナの影響

新型コロナの影響は、明暗はっきりと分かれているというのが現場の実感です。

私どもが4月に行った緊急調査(約580件へのヒアリング)では、概ね下記のような収益下落が見られました。

小児科・耳鼻咽喉科

40%~50%減

整形外科・眼科・歯科

25%減

内科・外科

22%減

皮膚科・婦人科・心療内科

15%減

あくまでもサンプル的にヒアリングした中での平均値ですし、都心部は郊外・住宅地よりも大きな影響を受けていますので、個々のケースで大きな幅があります。また、実際にレセプトを確認すると、ヒアリング以上の減収幅となっているケースも少なくありません。来院患者さんのほとんどが再診患者さんで、新患は極端に少ないという声もあります。開業して1,2年の診療所は、より大きな影響を受けていると危惧されます。

「元に戻ることはないのでは」という懸念

外出自粛に伴い来院患者数が大きく減少している一方、スタッフのシフトを変更して休業させたり、飛沫防止のためのパーテーション設置、待合室への入室制限を行うなど、診察に要する金銭的・精神的負担は大きく膨らんでいます。

通院中の患者さんがコロナを発症する大きなリスクを抱えながら、多くの診療所では特にこの時期の新患さんには相当に注意を払われていたかと思います。逆に、開業して年数の浅い診療所では新患が途絶えてしまい、運転資金がいつ枯渇するかという不安にさいなまれたケースもあったかもしれません。

このように大きな影響を受けている診療所経営ですが、他業種に比べればまだ回復が早いのではないかと私たちも考えていました。

しかし、Withコロナとかアフターコロナとか言われる中で、患者さんや経営が元に戻るには相当の月数を要する、もしくは同じことをしていては元に戻らないかもしれないという懸念を、耳にするようになってきました。

オンライン診療をしてくれる診療所をどう探せばいいのか

一つには、多くの方がこの自粛期間中にテレワークやWeb会議、リモートでの番組などを体験し、ドクターの方々も学会までもWebで参加されるなど、「足を運んで顔を合わせることの意味は何だったのだろうか」という感覚を持った方も少なくないということです。

つまり、オンライン診療ということですが、同じく私どものヒアリング調査では、心療内科・内科・耳鼻科・小児科などで10%少しの診療所がオンライン診療を実施・検討されているとの回答を頂きました。しかしオンライン診療を支援するシステムを提供している会社には、問い合わせが激増しているとも聞きます。

2020年の夏にはLINE オンライン診療もスタートする予定ですし、オンライン診療が患者さんの受診行動を変えてしまう可能性は否定できません。賛否両論はもちろんありますが、単純に導入する・しないの二者択一ではなく、眼科における手術前の診断や、整形外科におけるMRI検査前の事前相談など、マーケティングと診察体制の双方から考える必要がありそうです。

また、患者さんの立場からすれば、かかりつけの先生がオンライン診療をされていないとすれば、オンライン診療をされている他の診療所を探さざるを得ないシーンも出てくるでしょう。「すぐ近くの診療所」とか「小さいころからお世話になっている先生」という圧倒的な信頼感とは別に、どのように診療所を選べばよいのか。診療所からすれば、患者さんの医療機関選択の軸はどう変化していくのか。今後、注視していく必要があります。

思い込みや勘違いで、受診を控えている

もう一つが、患者さんとのコミュニケーションです。患者さんが受診を控えている理由の1つが「コロナをうつされたくない」ということです。一言で言うとそうなのですが、患者さんが受診を控える理由は、もう少し複雑です。

まず、よほど重症でなければ、 感染リスクがある中でわざわざ受診したくはありません。しかし多くの患者さんは、それでも受診すべきか先延ばしにすべきか、それなりに葛藤があるものです。

例えばテレビで、歯科医院のクラスターや飛沫感染が報道されていたとします。すると患者さんは、「こんなリスクを負って、先生や衛生士さんは治療してくださっていたのか」と思い、「本当は受診されるのは迷惑なのではないか」とか、「これは、感染予防は相当に難しい」とか考えます。そして「先延ばしにしても重症化しないだろうか」と何度も悩んだ末に、やはり受診をしたり、あるいはキャンセルしたりするわけです。受付には「キャンセル」という連絡が入るだけですが、そこにはかなりの葛藤があります。

もしここで、「受診しなければ、重症化しますから、早期の治療が必要です」という先生の前回の診察での一言が頭に残っていたり、診療所も三重四重に感染予防されていることが分かれば、受診してみようと考えるでしょう。

しかし多くの患者さんの目には「スタッフがうつされないように感染予防している」のであって、「患者さんにうつらないために感染予防をしているわけではない」ように見えているものです。つまり、「思い込み、勘違いで受診を控えている」ということです。

「感染防止」が口コミのテーマに浮上

患者さんへの感染防止がしっかりと行われていることが実感できれば、安心して通院できるはずです。それに家に帰っても、ご家族との会話で話題にされるに違いありません。言い方は適切ではないかもしれませんが、「院長が名医である」とか「スタッフさんがきちんとトレーニングされている」とかいうことよりも、はるかに対策の打ちやすい、分かりやすい口コミのテーマに浮上しているのです。

「感染防止への取り組み」は、来院した患者さんはもちろん、事前にホームページを見て迷っている患者さんにもきちんと伝わるようにしたいものです。ホームページは、いまや写真はもちろん動画の掲載もごく簡単にできるようになってきています。診療所を受診してみなければ分からないというのでは、恐怖に打ち勝った患者さんしか受診できません。ホームページがいまのままで本当によいのか、このタイミングでの見直しもお勧めしたいと思います。

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今回は、調査結果を踏まえて、オンライン診療と口コミ・ホームページについて触れました。しかし診療所の現場は、もっと混乱の毎日だと推察します。そのような中で、患者さんの心理も、オペレーションも、スタッフの心理も、大きく変わってしまったということが紛れもない実感です。

分かりやすい例として、オンライン診療と口コミ・ホームページを挙げましたが、危機に対する対策の本質は、オペレーションやマネジメントの再構築です。いま一度、事業の見通し・計画を見直すタイミングだと考えます。

収入が20%下がれば、可処分所得がどれだけ圧縮されるのか。その中で新たな支出や投資をしようと思うと、どこから財源が出せるのか。生活費はいくら使ってよいのか。教育費など簡単には切り詰められない支出についても、判断が必要になるかもしれません。

診療所の経営は、もし毎年の収支が一定で、可処分所得が一定であれば、その中で将来を考えて計画的に支出と貯金を行えば、必ずうまくいくはずです。そうならないのは、一つには今回のように、収支が大きく変動し、可処分所得が変動し、それに対応できないからです。もう一つには、可処分所得の中で許される以上の支出をしてしまい、それを抑えきれないためです。

今回のコロナが、事業とライフプランを見直し、再構築する大きなチャンスとなることをお祈りし、私たちでできるご支援は惜しみなくご提供してまいりたいと思います。

このレポートの解説者

小松裕介、宮前尭弘、得平浩然
日本経営ウィル税理士法人

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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