お役立ち情報

患者経験価値を実現する医師マネジメント/Ver.2024

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 ホワイトペーパー

弊社ではこれまで1,500件以上の病院経営コンサルティングに携わり(2023年3月時点)、うち医師人事制度構築については、150件以上のご支援(2023年4月時点)をして参りました。こうした経験の中で、病院経営のトレンドをまとめてみたいと思います。

2022年5月に「患者経験価値を実現する医師マネジメント」として経営指標(主にMBO:目標管理)と組織構造の視点で弊社なりの見解をお伝えしました。今回は令和6年度診療報酬改定などを踏まえて、その内容を一部改訂してお伝えします。

病院の経営状態と、重視する経営指標(KPI)

 まずは経営指標です。病院全体で重視している経営指標(KPI)も病院によって異なります。このKPIの設定には、経営状態との相関があると感じています。

  • 病床稼働率が80%未満の“経営改善レベル”の病院では「病床稼働率」を重視し、医師人事制度においては「受け持ち患者数」を設定することが多い。
  • 病床稼働率が80~90%の“効率経営レベル”の病院では、病床稼働率だけでなく平均在院日数も視野に入れて高稼働と高回転の両立のために「新入院患者数」を設定することが多い。医師人事制度において、診療科別原価計算や病棟別原価計算を導入している病院では、原価計算での損益分岐点必要患者数をMBOにおける新入院患者数目標の最低値(下限値)として運用していることもある。
  • 病床稼働率が常時90%を超えている病院では、“患者価値実現レベル”として「退院患者数」や「在宅復帰率」などの指標を設定していることがある。つまり、患者満足の視点として患者の経験価値を最上位の経営指標にしている。

 やはり、これからの病院経営では“患者価値実現レベル”を目指し“患者経験価値(以下、PX:Patient Experience)を向上させるマネジメント”を進めていくべきでしょう。

 先日、以下のレポートでお伝えしたように令和6年度診療報酬改定は、“組織マネジメント力で差がつく診療報酬改定”でした。

医師マネジメントシステム導入・改定の最大のチャンス

■~令和6年度診療報酬改定から考える医師マネジメント~
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-105918/

 レポートでも詳述しましたが、急性期医療の改定ではDPC/PDPSの改定などもありました。「点数設定方式E」が新設されるとともに、「点数設定方式B」の診断群分類が1,212分類へ追加されています。両者とも入院期間Ⅰの点数が高く設定されているため、さらに平均在院日数を短縮化するインセンティブとなっています。また、機能評価係数Ⅱの効率性指数の計算式が変わり、分子が「全DPC/PDPS対象病院を自院と同じ患者構成(疾患構成)と仮定した平均在院日数」に変更されています。その結果“院内シェアの高い疾患の平均在院日数の短さ”が、DPC/PDPSの制度上では特に重要になってきます。そこで、院内シェアの高い診療科は、特に他院と比較した平均在院日数の管理が重要になってきます。

 以前から弊社コーポレートサイトのお役立ち情報でもお伝えしていますが、病院経営は“高回転と高稼働の両立”が重要です。平均在院日数のさらなる短縮化の中でも“ベッドを埋めることが収益の源泉”というビジネスモデルを踏まえると、それを両立させる“新入院患者数”が重要となります。このように、病床稼働率が80%未満の“経営改善レベル”の病院では病床機能としての急性期を継続することが難しくなっています。

 逆説的に考えれば、“PXの視点でマネジメントしていなければ病院経営が成り立たなくなる診療報酬改定”だったと言えるでしょう。なぜなら、平均在院日数とは「早く自宅に帰ることのできる期間」というPXを軸にしたKPIだからです。

このPXの視点で考えると組織構造にもトレンドがあります。従来、病院の組織構造は、診療部・看護部・医療技術部・事務部などの職能別組織でした。医師の組織構造でいえば、診療部内は内科・外科・整形外科などの診療科単位で分かれています。現在もこの構造が多いですが、最近は複数診療科を一体的に運用するセンター化が増えてきています。
 循環器内科と心臓血管外科を一体化したハートセンターや神経内科と脳神経外科を一体化した脳卒中センター、消化器内科と消化器外科を一体化した消化器病センターなどです。

 このセンター化は、医師の働き方改革を踏まえて、労務管理上の理由でも増えつつあります。医師一人あたり労働時間を抑制するためには、複数主治医制やシフト制を採用し、患者対応を複数医師でシェアする必要に迫られます。令和6年度診療報酬改定でも一部要件化されたと思います。
 そこで、同一臓器の内科系・外科系の診療科を一体的に運用するセンターを設け、内科系と外科系の医師で複数主治医となることで勤務シフト制が実現可能となり、結果として医師の働き方改革へ対応できるからです。
 このセンター化は、本来、医師だけで成り立つものではありません。ハートセンターや脳卒中センター、消化器病センターなどは、医師だけでなく看護師や臨床工学技士、クラークなどの多職種協働が求められるからです。
 そもそも、回復期リハビリテーション病棟や透析室などは、以前から看護師とセラピスト、看護師と臨床工学技士など多職種が協働して診療を行ってきています。そのため「多職種協働型セルケア方式」などを導入している病院もあります。
まさに患者の視点で考えれば、外来診療における受付から会計まで、入院診療における入院から退院までなどの一連のPX向上が重要になります。職種や診療科の区分は、患者にとっては病院の都合でしかありません。そこで、PXの観点からもセンター化を進めたり、多職種協働型の病棟運営を進めたりする病院が増えてきています。
 病院のマネジメント手法としても多職種協働を推進するために「チーム医療」や「多職種連携」などの人事評価項目を導入したり、前述したPX値を主にしたMBOを導入したりする病院が増えてきています。

先日、以下のレポートの中でも人口減少社会下での「生存戦略」という視点で、多職種協働型組織と病院DXについて論考しました。 

■生存戦略としての病院DX
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-104201/

 「組織変革とデジタル化により、PX向上とコスト構造変革という成果を実現すること」が病院DXです。生産年齢人口減少の中で病院DXは不可避であり、PX向上を実現するための組織変革としては多職種協働型組織が求められます。そのキーマンは医師です。

 診療報酬改定や人口動態を踏まえた病院経営として、今後はPXを軸にしたマネジメントが求められていくと思います。そこで、上記を踏まえた医師マネジメントシステムを導入する病院が増えています。その契機は、前述した医師の働き方改革という労務上の観点であることが多いです。しかし、医療サービスの本質から考えればPXの追求は労務上の観点以前に、全ての病院で必須だと思います。

これまでの支援の経験を踏まえ、PXの向上も視野に入れた弊社の医師マネジメントシステムのご案内資料をまとめましたので、ご関心のある方は下記から無料でダウンロードください。


「医師マネジメントの専門サイト」も、ご活用ください

このレポートの解説者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社 日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、組織人事コンサルティング部の部長として、医師マネジメントシステムの高次化に取り組む医師人事分科会を統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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