お役立ち情報

ベンチマークが役に立たない時代? “ストーリー性”を重視したアクションプラン面談

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

レポート要約

  • ベンチマークと原価計算の併用
    物価高騰下(約7割が赤字)では他院比較(ベンチマーク)だけに頼ると、目標を達成しても赤字になる「逆転現象」が起こってしまいます。こうしたリスクを抑えるため、自院の診療科別原価計算の併用が不可欠です。

  • ストーリー性のあるアクションプラン
    各診療科がバラバラに動くのではなく、病院全体の戦略と因果連鎖でつながり、「動きや流れ(動画)」を持った面白いストーリーとして行動計画を組み立てる必要があります。

  • 方針の明確な言語化と浸透
    業績好調な科はトップ方針が明確に言語化されていますが、不調な科は曖昧です。単なる箇条書きではなく、時間軸に沿った「順列」として方針を言語化し、現場へ浸透させることが業績向上のカギとなります。

先日、弊社東京支社では初回開催となる病院トップマネジメントセミナーを開催しました。その中で「組織・人事コンサル事例:医師人事・マネジメント」を講演する機会がありましたので、本稿ではその内容をベースに、弊社がクローズドで開催したセミナーでの外部講師の講演内容も踏まえてお伝えします。

【トップマネジメントセミナー東京】

ベンチマークが役に立たない時代?

弊社ではこれまで200病院以上(2024年4月時点)の医師マネジメント支援を行ってまいりました。下記事例集や顧客との対談セミナーにあるように、400床以上の急性期病院かつ複数病院を保有する大規模法人から、100床未満の地域密着型法人まで様々です。

【医師マネジメント事例集(グループ病院事例含む)】
【400床以上の顧客との対談セミナー】
【100床未満の顧客との対談セミナー】

弊社では、従来も下図のような定性評価と定量評価をバランスよく取り入れ、かつデータドリブンな医師人事評価制度を推奨してきました。

図(定性・定量をバランスよく取り入れたデータドリブンな評価概念図)

先日も弊社お役立ち情報の下記レポートでお伝えしましたが、物価高騰が病院経営を直撃しており、ベンチマークだけに頼った目標設定では、誤った意思決定をしてしまいます。

医師マネジメントが経営の分岐点!
~診療科別損益と「医師集約化」で勝ち抜く次世代病院経営戦略~

https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-improvement-quality-135819/

世の病院の7割が赤字と言われる中、その“7割赤字のベンチマークを参考値とすれば、目標達成しても赤字化”してしまいます。実際に先日のセミナーでは下図のスライドでご紹介しましたが、ベンチマークだけで目標設定を行ったお客様の事例です。

図(ベンチマークだけで目標設定した場合の科別損益例)

上記は、昨年度の期初に弊社病院分析システムLibraを活用し、同一診療科(同規模・同機能)の他院と比較した医師一人当たりの労働生産性指標を参考値として目標設定しました。実は、弊社グループの財務・管理会計システムKEYbirdの導入は管轄が財務部であるため稟議承認に時間を要し、目標設定時点では診療科別原価計算が未完成でした。そのため、原価計算は年度末ぎりぎりに完成し、目標設定には活用できなかったケースです。その結果、目標達成率と損益率に逆転現象が出るケースが複数発生してしまいました。

【病院分析システム「Libra」】
【財務・管理会計システム「KEYbird」】

弊社では内的妥当性としての診療科別原価計算と外的妥当性としての他院とのベンチマークの併用を推奨していますが、その併用の必要性を痛感する出来事でした。下図のように診療科別・病棟別原価計算を併用することが重要でしょう。

図(インフレ下における原価計算併用の重要性)

思わず人に話したくなる面白いストーリーがカギ

それでは、上記のように各種システムを整備して、データドリブンな目標設定を行えば、それですべて解決するのでしょうか。弊社では毎年4~5月は新年度における医師の目標設定面談支援として、お客様の病院の各診療科の責任医師(主任部長等)との面談を重ねる時期にあたります。

この診療科責任医師との面談では、毎年、様々な気付きを得ています。この面談では、目標設定は上記のようにシステマティックになってきているので、むしろそれをどうやって実現するか?というアクションプラン作成の意見交換に時間を割くようにしています。目標設定の仕組みを、BSC(※ⅰ)を参考にして整理すると下図になります。

図(BSCを軸とした目標・アクションツリー)

つまり、財務の視点としては診療科別・病棟別原価計算を参考として、顧客の視点としては他院のベンチマークを参考とします。このように考えると、原価計算の損益分岐点必要新入院患者数という下限値や他院ベンチマークとして同一診療科・同規模・同機能病院の医師一人当たり労働生産性の中央値など、定量の目標値は概ねシステマティックに決めることができます。つまり、面談ではあまり議論する余地がありません。

むしろ、内部プロセスの視点である日々の貢献行動については、診療科特性や地域性、また人間関係など様々な要素が複雑に絡み合います。この点を目標設定時に意見交換するようにしています。

よくあるケースとしては、同一臓器の内科系診療科と外科系診療科が、別々にアクションプランを考えているため、病院全体としてのストーリー性がなく、各診療科の競争戦略(事業戦略)がバラバラになっているケースです。

一橋大学の楠木建氏は、名著「ストーリーとしての競争戦略」(※ⅱ)の中で、“競争戦略と全社戦略”を分けて論じています。また、同著の中では、戦略の神髄は「面白いストーリー」であること。つまり、思わず人に話したくなるような因果連鎖が必要であるとされています。単なるアクションリスト(価格、仕様、ターゲット等の箇条書き)は“静止画の羅列”に過ぎず、戦略とは“動き”や“流れ”を持った“動画”でなければならないと述べています。

先日、弊社主催のクローズドなセミナーに楠木建氏を講師として同著をテーマに講演いただきました。同著の内容を詳しくご本人から解説いただき、非常に腹落ちしました。つまり、病院全体戦略を踏まえて、各診療科のアクションプランは、“動き”や“流れ”を持った“動画”、かつ思わず人に話したくなるような“面白いストーリー”である必要があります。

そこで、弊社が目標設定面談に臨む前には、病院の経営層や事務管理部門と打ち合わせを行い、病院戦略のストーリーをもとに各診療科のアクションプランの因果連鎖がつながるようにしています。具体的には「病院として●●エリアへの連携活動を強化すると聞いています。■■内科が●●エリアの開業医向け勉強会を検討していますが、■■外科さんも相乗りで実施してはいかがですか?」などの助言を行っています。

なお、前述したBSCを軸とした目標・アクションツリーは、BSC自身が因果連鎖の好循環モデルのため、それをロジックツリー化することで、因果連鎖の流れを整理しながら議論する際に便利です。

アクションプランは言語化できているか?

また“動き”や“流れ”を持った“動画”、かつ思わず人に話したくなるような“面白いストーリー”と関連しますが、目標設定に同席していると業績が好調な診療科は、方針が明確で、言語化されています。一方、目標達成できていない診療科は、その責任医師の方針に曖昧性があり、言語化が不完全な印象を受けます。

弊社では4つの経営機能として「①トップ方針、②戦略・計画、③役割・権限、④実行プロセス」(※ⅲ)を提唱していますが、トップの頭の中のイメージが言語化されていないと、その下のミドルは戦略・計画を描けず、現場スタッフの実行プロセスに支障が出ているのだと推察されます。ここにも楠木氏が主張する因果連鎖の面白いストーリーの重要性を感じます。

先日開催したクローズドなセミナーでも「思考は“直列”であるべき」「戦略は要素の単なる“組み合わせ”ではなく、時間軸が入った“順列”である」「箇条書きを並べて“シナジーを発揮して”と謳うだけ(通称:シナジーおじさん)では、本質的な打ち手の組み立てにはならない」「打ち手の間にある論点をどう組み立てるかが本質」とおっしゃっていました。

好調な診療科と今一歩の診療科を比較して、あらためてトップ方針の明確さ、特に“言語化できているか”という重要性を痛感することになりました。業績向上のためには、方針の言語化とその浸透がカギだと感じます。原価計算に基づく損益基準も盛り込んだデータドリブンな目標設定を実現するには、思わず人に話したくなるような“面白いストーリー”として“言語化”されたアクションプランの設定が求められるでしょう。

 Q&A 例

Q1:なぜベンチマーク(他院比較)だけの目標設定では不十分なのですか?
A1:物価高騰で多くの病院が赤字であるため、他院の数値だけを基準にすると「目標達成しても赤字」という逆転現象が起きるからです。自院の原価計算から損益分岐点を把握し、併用する必要があります。

Q2:アクションプランに求められる「ストーリー性」とは何ですか?
A2:単なる行動リストの箇条書き(静止画)ではなく、病院の全体戦略を踏まえて各診療科の動きが因果関係でつながり、一連の「動きや流れ(動画)」になっている状態のことです。

Q3:業績が好調な診療科と不調な診療科の最大の違いは何ですか?
A3:トップの方針が「明確に言語化されているか」です。頭の中のイメージを時間軸に沿った「順列」として言語化し、現場の実行プロセスにまで浸透させている科が業績を伸ばしています。

医師マネジメント専門サイト」もご活用ください


※ⅰ)グロービス経営大学院 MBA用語集「バランスト・スコアカード(BSC)」

※ⅱ)楠木建「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」(2010年)

※ⅲ)橋本竜也「「組織マネジメント」実践論――4つの“経営機能”向上で成長をドライブ」(2022年)


本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

【略歴】
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012年病院経営コンサルティング部門に異動。
医師人事制度と他院ベンチマークデータ・診療科別原価計算を組み合わせて「医師マネジメントシステム」と定義し高次化。現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。
また、医療情報システム導入支援および組織人事コンサルティング経験を踏まえて、「DX=D×CX」(デジタル化×組織変革)と定義して真の病院DX支援も推進。
その他、優良病院とヘルスケアスタートアップの共創イベント『病院経営イノベーションピッチ』を発案し、その企画・運営責任者としても取り組んでいる。
第1回病院経営イノベーションピッチ

【学位・登録】
・2005年 西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了
・2017年 グロービス経営大学院MBAコース修了
・2023年~ 総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー

【論文・寄稿】
データドリブンアプローチのための病院DX人材育成(2025年)
建築費高騰時代に,建て替えを実現するための病院DXの活用(2025年)
タスクシフティングのための事務作業効率化(2020年)
事務長は病院IT化を幹部職員育成の場に活かすべき(2014年)
中小規模病院での組織マネジメントの脆弱性がHIS導入への障壁となる(2012年)

【講演等】
産経新聞社主催「地域医療DX戦略フォーラム」基調講演(2026年)
第10回JCHO地域医療総合医学会 ランチョンセミナー(2025年)
第75回 日本病院学会 ランチョンセミナー(2025年)
第22回 日本医療マネジメント学会高知県支部学術集会ランチョンセミナー(2026年)

 以上

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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