最低賃金引き上げが迫る組織変革としての病院DX
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
病院収支に激震を与えるレベルの最低賃金引上げ!
令和6年の最低賃金が各都道府県で示されました。7月25日に厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が示した「令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について」では、全都道府県で50円という数値が示されましたが、多くの各都道府県では、それを上回る額が答申されました。
徳島県は何と84円の賃上げが示され、他にも愛媛県の59円など、中央最低賃金審議会が示した50円を大幅に上回る賃上げとなりました。例えば、徳島県の84円を140時間労働(一日7時間×20日)で計算すると11,760円/月の賃上げ幅になります。
病院業界では本年上半期、診療報酬改定における「ベースアップ評価料」として、2.3%以上の賃上げが大きな論点となりました。常勤看護師に換算した際の2.3%だと7,000円前後の賃上げ額となり、その程度の金額で“ベースアップ手当”などを導入された病院も多いと思います。10,000円を超す最低賃金引き上げとなると、主にパートタイム労働者の賃金引き上げ額がそれを上回ることになります。上半期のベースアップ評価料の議論を吹き飛ばすレベルです。
以前、以下のレポートを弊社お役立ち情報で公開しました。
【DXが職種転換を実現する?~令和6年度診療報酬改定から推察する病院DXの未来~】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-107566/
上記レポートで示唆したように、ここまで賃上げが進んでくると“ホワイトカラーのエッセンシャルワーカー化”を進めるなどして、間接貢献部門の人員割合を減らして、収益に直結する直接貢献部門へ職種転換しなければ、病院経営は成り立ちません。最低賃金の引上げなので、自院だけではなく周辺医療機関、さらには異業種の全事業所が賃上げに向うので、新規採用もままならなくなります。院内に既にいらっしゃる人的リソースの効率を劇的に上げるしか方法はありません。
10年先までの賃上げが既定路線
また、最低賃金の引上げは今回だけではありません。
先日、以下のレポートを弊社お役立ち情報で公開しています。
【骨太方針2024から考える病院の将来像】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-112184/
この中でも触れたように、前述した令和6年の最低賃金の引上げは、特例的な事象ではありません。決して、総理交代に伴うご祝儀的なイベントではありません。レポートで指摘したように骨太方針は閣議決定されている格式の高い内容になります。その中に「2030年代半ばまでに全国加重平均を1,500円」というくだりがあります。この最低賃金引上げの流れは、約10年後の2034年前後まで続くと推察されます。
病院業界の皆さんはご存じだと思いますが、以前の「7対1入院基本料」が平成20年度(2008年度)に導入されました。これが病院間の看護師確保競争を誘発したなど様々な議論がありましたが、それが「急性期一般入院基本料」へ変更されたのが平成30年度(2018年度)です。ちょうど10年間かかっています。政策は10年程度をかけて実現し、その後、補正されることがこれまでは多かったです。先述したように骨太方針2024に「2030年代半ばまでに全国加重平均を1,500円」と記載されているので、その10年後の2034年には目標を達成させると思われます。
その場合の最低賃金は以下のような水準になると推察されます。
【最低賃金の将来予想】
このように2026年ごろには全都道府県で最低賃金が1,000円を超え、2030年代初頭には東京都など都市部で1,500円を超えはじめます。そして、2034年に全国加重平均の最低賃金が1,500円となった場合、パート労働者でも月給が20万円を超えてくるため、“年収の壁”の完全撤廃なども進むと思われます。なにより、病院に限らず全ての事業体において、人件費の考え方を抜本的に変えなければコスト構造が変わりすぎて、収支が成り立たなくなる状況です。
生存戦略としての病院DX
前述したように、間接貢献部門の人員割合を減らして、収益に直結する直接貢献部門へ職種転換しなければ、病院経営は成り立ちません。院内に既にいらっしゃる人的リソースの効率を劇的に上げるしか方法はありません。そのため、病院DXは待ったなしです。多くの産業では“値決めは経営”として、賃上げ分を価格に反映させることが推奨されていますが、診療報酬で“値決めが制限されている”病院業界では、その手段は採れません。他産業以上にコスト構造を変革させる上で、デジタルやロボットなどのテクノロジーの活用が重要になります。
以前、弊社お役立ち情報で以下のレポートを公開しています。
【生存戦略としての病院DX】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-104201/
生産年齢人口減少に賃上げが掛け合わされた日本の病院業界において、“値決めは経営”にも制限がかかっており、まさに病院におけるDXは生存戦略と言えるでしょう。
なお、以前に以下のレポートも弊社お役立ち情報で公開しています。
【グループガバナンスを高める医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-103062/
上記レポートでも指摘しているように、DXを推進する上で課題となるのが、「標準化」を徹底しない「我流へのこだわり」です。特に、影響力のある医師の「ワガママ行動」があると、DXは進みません。こうしたマネジメントシステムの再考もセットで考える必要があります。
DXの本丸は組織変革(CX)
以前から弊社では「DX=D(デジタル化)×CX(組織変革)」という公式で解説してきました。まさに、今回の最低賃金引上げは、“組織変革(CX)が迫る病院DX”となっています。
前述したような一部の間接貢献部門の職種転換や標準化を阻害するワガママ行動を抑制するマネジメントシステムの整備とあわせて、「ヒト⇒デジタル・ロボット」など、ヒトの業務をテクノロジーで代替する必要があると言えるでしょう。
なお、弊社では上記の「DX=D(デジタル化)×CX(組織変革)」という意味での病院DX支援やそれを下支えする医師マネジメントシステム構築支援などを行っています。特に医師マネジメント支援は、全国200病院を超える実績(2024年4月時点)があり、弊社の特徴的な領域となっています。関心があれば、下記専門サイトをご覧ください。
【病院DX特設サイト】
https://service.nkgr.co.jp/dx
【医師マネジメント特設サイト】
https://hhr.nkgr.co.jp/dmgt
医療DX・病院DX戦略コンサルティング専門サイトにて
各種レポートをご覧いただけます
本稿の執筆者
太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長
総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー(「DXの取組」領域)。民間急性期病院の医事課を経て弊社に入社。医療情報システム導入支援を皮切りに業務を行い、東京支社勤務時には医療関連企業のマーケティング支援を経験。現在は、医師人事評価制度構築支援やBSCを活用した経営計画策定研修講師、役職者研修講師を行っている。2005年に西南学院大学大学院で修士(経営学)を取得後、2017年にグロービス経営大学院でMBA(経営学修士)を取得。
株式会社日本経営
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