営業の苦手意識を克服するやり方と考え方
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業種
介護福祉施設
- 種別 レポート
持ちうるもの全てを使って解決する
- 本レポートでは、介護施設における運営実務のポイントについて、現場のコンサルティングの実例を踏まえてお伝えする。
- まずは複数回にわたり、介護施設の稼働率向上について具体策を交えたポイントを解説する。
営業に出かけること自体が嫌になる
介護事業所における地域営業活動の実際について、もう少し事例を交えて紹介しよう。
一般的な営業職と違い、介護職からの昇格や職種変更により営業の職務を担当することになった方(施設長・相談員)の場合、外部の方に対して広報活動やプレゼンテーションを行った経験がないかもしれない。
昨今の介護施設は多種多様で、例えば有料老人ホームであれば入居金1億円の施設もあるし、生活保護対応の施設もあり、金額もサービスも様々だ。
レクリエーションの充実などはまず当たり前で、看護師常駐などを売りにしている施設なども少なくない。
そのような中、自施設のウリがわからず人と話すのも苦手となると、営業したとしても伝えられるものがなく、手にしたパンフレットを単に渡して帰ってくるだけ。そのような営業担当者も多いようだ。
元々営業が苦手なうえに、何をどう紹介してよいのか分からないとなると、そもそも営業に出かけること自体が嫌になる。
ところが、多くの担当者にとって苦手意識の強い営業活動も、やり方・考え方を少し変えるだけで、今ではむしろ好きになったという事例も多くある。
頭の中に電流が流れたような感覚を覚えた
介護職員だったA氏はある日突然、施設の相談員として「営業」をするように命じられ、訳も分からず営業先各所に訪問することになった。
それから3ヶ月。
一件の紹介ももらえず、施設長からは成果を聞かれるばかりで、A氏は窓口に訪問をするのも嫌になってしまった。
そんなある日、A氏がテレビを何の気なしに見ていると、数社にわたる複数の保険商品の紹介を一括で行うという会社のコマーシャルが流れてきた。
その瞬間、A氏は頭の中に電流が流れたような感覚を覚えた。
これまで、自分の施設の紹介ばかりを行おうとして、狭い選択肢の中で提案しようとしてきた。
自分本位の提案になっていたし、興味も持ってもらえないという繰り返しだった。
しかし、このコマーシャルのように商品の種類が増えれば、顧客の選択肢も増えるのではないか。
そもそも地域のお年寄りの助けになりたいと介護の道を選んだのであり、役に立ち喜んでもらえる提案をできたほうが意義もある。
自分も楽しいはずだ。
A氏はすぐに実行に移し始めた。
施設に合わない方や、在宅での生活を希望されている方について、慣れた地域で住み続けるために必要なサービスとは何かと考え、在宅の事業所や地域の施設を徹底的に調べ始めた。
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使命はここにあったと思うようにさえなった
やがて、A氏は行く先々で地域のお年寄りの困りごとを熱心に聞き、その場で解決策を提案していくようになった。
頭の中には地域のあらゆる社会資源が詰まっているので、自分の施設で解決できないことも、全てその場で解決できてしまう。
「その方だったら○○苑がいいですよ」
「△△というサービスは職員もいい人ですし信頼できますよ」
その場で伝え、時にはすぐに電話で定員の空き情報などを調べる。
対応が早いので相談する側からしても楽だし、よく調べてあるので中身についても信頼が置ける。
すぐにA氏のことは地域でも評判となり、「介護のことはA氏に相談すればすぐに解決する」と引く手数多の存在となっていった。
A氏にとって、営業は辛いものから楽しいものへと変わっていった。
自分の活動が地域のお年寄りの生活を支える重要な役割を担っていると感じられるようになり、自分の使命はここにあったと思うようにさえなった。
しかし、変わったのはそれだけではなかった。A氏の変化にともない、施設もまた予約でいっぱいになり、地域でも評判の施設へと変わっていったのだ。
なぜ施設までがこのように変わっていったのか。
答えは至ってシンプルだ。
これまでのA氏は、営業先に紹介してもらった数少ないケースを取りこぼさないよう四苦八苦する営業だったが、今では多くの選択肢の中から、自分の施設に適していそうな方を好きなようにピックアップできるようになったためだ。
これまでは施設に合う方・合わない方に関係なく、紹介いただいた方を無理にでも押し込んでいかなければ成果につながらなかった。
しかし今では、施設に合う方だけをピックアップしているので、利用者も無理なく過ごせるし、スタッフの負担も少なくなっていた。
当然、利用者からの評判は良くなり、ますます施設への入居を希望する人が増えていくことになったのだ。
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持ちうるものが地域にあまねく存在する
地域との関係性を築くことの本質は、ここにある。
「地域」という広い範囲を指すと、そこに貢献するということは、なにか滅私奉公的な活動をイメージしてしまいがちだが、実際は違う。
目の前にいる一人のお年寄り、一人の相談者に対して、困ったことがあれば持ちうるもの全てを使って解決しようとする、人間関係の基礎に立ち返るだけのことなのだ。
そして、介護事業の場合は、持ちうるものが地域にあまねく存在する。
それらを知り、うまく使いこなせる人ほど、地域の方から信頼され、声をかけてもらえるようになるのは当たり前の話だろう。
それを追求していくということは、「地域包括ケアシステムを使いこなした人が信頼される」という構図になるということだ。
では、地域包括ケアシステムを使いこなしていくためにはどのような考え方が必要なのか。
次回は、そのポイントについて解説する。
レポートの執筆者
沼田 潤(ぬまた じゅん)
株式会社 日本経営 介護福祉コンサルタント
株式会社の運営する介護付き有料老人ホームにおいて介護職員から施設長までを経験後、北京に駐在し海外事業にも従事。2015年に日本経営に入社、主に介護施設における稼働率向上支援、介護サービスレベルの底上げ支援などを担当する。介護福祉士。
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