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FOCUS-令和2年に正念場を迎える医薬品業界

2019.08.20

日本製薬団体連合会 理事長 宮島俊彦氏

宮島俊彦氏

 

―日本製薬団体連合会(以下 日薬連)とはどのような組織なのか教えていただけますか。

 
宮島氏 医療法が制定された昭和23年、現在につながるわが国の医療関連諸制度の黎明期に、「医薬品工業の健全なる発達並びに国民生活の向上に寄与することを目的」として設立された組織です。

日薬連には、わが国の代表的な新薬メーカーで構成される日本製薬工業協会、近年、大きく普及しているジェネリック医薬品の日本ジェネリック製薬協会など、業態別の15団体と、東京医薬品工業協会や関西医薬品協会など、16の地域別団体で構成されています(日本製薬団体連合会「組織図」参照)。

 

―主たる事業としてどのようなことをされているのでしょう。

 
宮島氏 ホームページには委員会や審議会活動など8つの事業を記載していますが、主として取り組むテーマは、薬価基準と関連税制です。

 

半年の間に2回の薬価改定にどう対応するか

 

―薬価基準については、今年の10月に消費税が引き上げられれば改定が行われますね。

 
宮島氏 ええ。ただし、診療報酬本体のように、消費税の引き上げ分が上乗せされるのではなく、薬価の場合は2ポイント分が上乗せされると同時に、昨年9月に行った薬価調査に基づき7.2%引き下げられるので、結果としては引き下げの改定になります。

 

―薬価改定については、昨年の薬価基準制度の改革で、2021年度から毎年改定になりますね。

 
宮島氏 厳密に言えば、毎年改定ではなく、2年に1度の薬価基準の改定に加え、その中間年に中間年改定を行うということになります。

 

―どう違うのでしょう。


宮島氏
 毎年改定だと、前年に行った薬価調査をそのまま改定(引き下げ)に反映させます。しかし、中間年改定では、何らかの薬価調査を行い、特に乖離が大きかったところを重点的に改定するとされています。

この中間年改定の具体的なやり方については今後、中医協で議論が進められますので、日薬連としても要望等を出していくことになります。

 

―これからしばらくは慌しい状況が続きます。


宮島氏
 そうですね。今年の10月に薬価改定が行われますが、それに先立って9月には薬価調査を行って、それに基づいて来年4月には再度の薬価改定が行われます。半年の間に2回もの薬価改定を行うわけですが、これにメーカーだけでなく、医療機関(病院、診療所、薬局)や医薬品卸などがきちんと対応できるのかどうか。状況を注視していく必要があります。

 

―平成30年(2018年)に薬価制度の大改革を行っています。

 
宮島氏 その結果、影響等についても検証していく必要があります。新薬については、新薬創出加算の見直し(引き下げ)、効能追加等に基づく四半期ごとの薬価の見直し、イノベーション評価の見直し、外国平均価格調整の見直し、そして費用対効果の導入などが行われています。

また、長期収載品・後発品についての見直し等についても行っていますが、結果、どうだったのか。たとえば新薬創出加算の品目要件や企業要件などについて課題があるのではないかなど、実態を踏まえ報告、要望を行っていきます。

もう少し具体的に言えば、新薬創出加算についてですが、医薬品に係る制度の違いもありますが、新薬の特許期間中にその価格が下がるのは日本以外にそうないでしょう。日本の薬価基準制度は、薬価調査を行って実勢価格と薬価との乖離が大きければ自動的に薬価が引き下げられます。それでは、新薬開発意欲も減退するリスクもあるので、新薬創出加算で特許期間中は「加算」という形でできるだけ価格を維持しようということです。

 

―評価の仕方が少しいびつですね。そんな状況では、外資などは日本の市場への参入を躊躇することになるのでは。

 
宮島氏 確かに少々いびつな状況ではありますが、日本の制度の良いところもあります。

 

―医療保険ですか。

 
宮島氏 そうです。日本では、医薬品として承認されれば、同時に薬価基準に収載され医療保険の対象になるということです。だから、時間の経過に伴う価格のリスクはあっても、安定的な市場であるということは大きな魅力になっていると思います。

 

今後不可避な業界再編

 

―最近話題になることが多い費用対効果についてはいかがですか。

 
宮島氏 「費用対効果評価」といいながらも負(引き下げ)の指向が強いと感じています。

費用対効果評価については、品目を選定し、メーカーによる分析・データ提出の後、第三者(厚労省)による再分析で総合的な評価を行い、評価結果に基づく価格調整―といいながら、効果が限定的として引き下げられることがほとんどです。「効果あり」といった評価であれば、価格を引き上げるくらいの前向きな姿勢も時には見せていくことも産業振興という視点では大事なんじゃないでしょうか。

 

―どうしても薬価から診療報酬改定の財源を捻出したいという考えが強いのかもしれませんね。ところで、以前は、薬価改定で捻出された財源は診療報酬本体に振り向けるという言い方をしていましたが、最近はそう言わなくなっているようですが。

 
宮島氏 確かに昔は、薬価の引き下げで出てきた財源は診療報酬改定にすべて振り向けるというのがルールのようなものでした。

しかし、最近は、薬価引き下げで出てきた財源を、医療機関にまわすのはおかしい、還元すべきは「国民に」という意識ですね。また、医薬分業の浸透によって医療機関もそれほど薬価差に拘泥しなくなってきていると思います。

 

―随分昔は、薬価差を「潜在技術料」と言っていましたが。

 
宮島氏 懐かしい話ですね。昔は、診療報酬の技術料の評価が十分ではなかったという指摘もありますが、薬価の引き下げで医療機関の総収入を著しく減少させないということから薬価の引け下げは診療報酬に回すという暗黙の合意があったということもできると思います。またバブル期くらいまでは、経済の成長も続いていましたから医療保険財政にそれだけの余裕もあったのでしょう。

 

―財務省の財政制度等審議会の資料によれば、2001年(平成13年)の薬価、薬剤費を100とした場合、2018年(平成30年)の改定で薬価は58.0まで落ち込んでいるのですが、国民医療費における薬剤費は149.4と、薬価とは逆に伸びています。

 
宮島氏 薬価の引き下げがあっても実際には新たな新薬が市場に投入されるわけですから、薬剤費は高齢化などもあって下がってはいかないということです。医薬品も「モノ」ですから、画期的新薬で高い薬価(価格)がついていても、市場規模が大きくなればコモディティ化して価格が下がっていくのは当然です。

しかし、いま言ったように通常は特許切れの一方で新薬を投入してきますから薬剤費全体は下がっていきません。

 

―今後の医薬品メーカーの方向ですが。

 
宮島氏 新薬は新薬に、ジェネリックはジェネリックに特化していく方向で進んでいくんじゃないでしょうか。

新薬メーカーが単価の小さいジェネリックを持つことのコスト&ベネフィットを考えると、企業としての選択肢としてはないと思います。いわゆる総合商社のような総品揃えというのは医薬品メーカーでは難しいでしょう。

 

―今後、日本の医薬品企業はロシュやファイザーといった巨人にどう対応していくのでしょうか。

 
宮島氏 その回答の一つが、先の武田薬品によるシャイアーの買収でしょう。既に市場としては日本ではなく海外で収益を上げるという構造に変わってきていますし、その中で生き残るためには思い切った合併など、割り切るしかないでしょう。

「医薬品・医療機器産業実態調査」によると、2000年に478社だった主に医療用医薬品を製造販売する会社は、2016年にはわずか109社しかありません。また、製薬協に加盟する企業で、医薬品の領域事業も含めると創業から合併再編の洗礼を受けていない企業は恐らく1社もないでしょう。

 

押し寄せる医薬品業界への変革の圧力

 

―税制については研究開発税制が課題でしょうか。

 
宮島氏 ご承知のように研究開発税制は医薬品業界だけではありません。ただ、医薬品が他の産業と決定的に違うのは、まさしく研究開発費が大きいということです。

2015年の経済産業省の企業活動基本調査によれば、医薬品の研究開発比率は、191社で7,905,886百万円の売り上げに対し、研究開発費は1,501,208百万円で18.99%となり、すべての産業のなかで最も高い比率となっています。ただし、自動車・付属品業界は研究開発費率は6.99%にすぎませんが、額で見ると、409社、55,095,306百万円の売り上げに対し、研究開発費は3,850,174百万円で、医薬品の3倍弱程度の研究開発費となっています。

この税制の基本的な構図は、研究開発費の総額の一定割合を法人税から控除できる(総額型)というものですが、控除率が9.9%で頭打ちになっていること(令和2年までは上限14%)です。これを引き上げるべく取り組みたい。研究開発費にお金を使うところに上限を打って、あまり使わないところにも同じような控除をいうのは、イノベーションが求められるこれからの日本の産業発展の方策としていいのかという感じがします。

また、もうひとつ「セルフメデュケーション推進のためのスイッチOTC薬控除(医療費控除の特例)」、いわゆる「セルフメデュケーション税制」があります。

これは、自己もしくは生計を一にする配偶者その他親族が一定のスイッチOTC医薬品を購入し、その額が年間1万2000円を超えるときには、超える部分を医療費控除できる(8万8000円を超えるときには8万8000円を上限)というものですが、課題は国民がどこまでスイッチOTCに関する知識を持っているか。むしろ医療機関で処方してもらうほうに慣れてしまっているようです。

 

―では、医薬品の給付について少し変える、たとえば薬剤負担を導入するとか。

 
宮島氏 それは難しいでしょう。平成9年にも薬剤負担を導入しましたが、結局、なくなってしまった。

それはなぜか。定率負担であれば患者負担に関係なく等しく給付するわけですが、定額になると、その行為についてのバイアスがかかる。つまり、負担が発生する医療行為を回避して他の行為に行ってしまう可能性が出てきます。それは果たして適正な医療提供なのかという指摘はあるでしょう。

今後、来年以降、医療や介護の給付の議論が行われることになりますが、単純に新たな負担を導入するというわけには行きません。それは、平成14年に施行された健康保険法で「被保険者及び被扶養者に係る給付率を7割とする」と書いてあるからで、新たに負担を導入するといっても法律を改正しなければならず大きな労力を使うことになる。

 

―いま全世代型社会保障という表現も使われてきているので、高齢者に導入する。

 
宮島氏 恐らく「高齢者の差別」ということで大反対が起こるんじゃないでしょうか。

 

―民主党政権時代の老人の診療報酬体系の「差別」ですか。でしたら、難しいですね。最後ですが、医薬品に係る議論はどのように動いていくのでしょう。

 
宮島氏 冒頭に申し上げたように、昨年、平成30年に薬価制度の抜本改革を行っています。だから今年は大きな動きはありませんが、来年以降は、薬価の中間年改定の在り方、来年12月に期限を迎える研究開発税制とセルフメデュケーション税制の継続・拡充への取り組みがあります。

また、今年の4月に自民党の厚生労働部会の全世代型社会保障改革ビジョン検討プロジェクトチームがまとめた「新時代の社会保障改革ビジョン」で医療費の増加と医薬品の関係が指摘され、「小さなリスクは自助」としてOTCのさらなる普及や拡大も書かれており、来年度は、医薬品業界の構造改革元年となるかもしれません。

 

 ―本日は、まことにありがとうございました。

(文責 編集部)

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