「自分の病院のマネジメントに課題を感じているが、医師の働き方が現場任せになっている」
「経営を安定させるために医師にも目標設定を導入したいが、専門職に介入できず離職につながることも考えると強く言えない…」
現在、多くの病院の経営層や事務長から、このような切実なご相談をいただきます。
物価上昇や最低賃金の引き上げにより、病院の利益構造は年々厳しさを増しています。これまで「聖域」として介入を避けてきた医師のマネジメントを見直し、組織全体で同じ目標に向かって進む体制づくりは、もはや避けて通れない組織的課題です。
本記事では、セミナー「診療報酬改定を踏まえた医師のKPI設定に関する考え方と稼働向上に向けた制度構築」の内容をもとに、現場に一定の理解を得つつ、最新の診療報酬改定を味方につけるための「医師人事評価制度」のつくり方とマネジメントのポイントを解説します。
【この記事の要約・ポイント】
- 聖域とされてきた「医師マネジメント」の必要性
物価上昇や最低賃金引き上げ、さらに「医師の働き方改革」による時間外手当の増大により、病院の高コスト化が進行しています。収益を確保するためには医師のパフォーマンスを可視化するマネジメントが不可欠です。 - 病院規模に応じたアプローチの違い
大規模病院では診療科部長を巻き込んだ「診療科単位の組織マネジメント」が、中小規模病院では面談を通じた「各医師単位の個別マネジメント」が求められます。 - 「定量×定性」の両輪で納得感を生む評価設計
売上などの数字(定量評価)だけを押し付けるのではなく、BSC(バランスト・スコアカード)の視点を取り入れた行動・能力評価(定性評価)を組み合わせます。特に多職種による「多面評価(360度評価)」は、医師の自発的な気づきと行動変容を促す強力なツールです。 - 「診療報酬改定」をKPIに落とし込む対話術
2026年改定で新設された内視鏡手術用支援機器加算 (いわゆるロボット手術加算)や、チーム制・交代勤務による働き方の見直しの要件化などを踏まえ、各種要件をKPIに設定します。その際は、その背景や意義を丁寧に伝え、他職種を含めた「助け合いのコミュニケーション」によって医師の協力を引き出すことが重要です。
なぜ今、聖域とされてきた「医師マネジメント」が必要なのか?
病院経営において、人件費や材料費をはじめとする主要なコストは最大の支出項目です。これまでは「稼働率を上げれば経営は安定する」という成功体験がありましたが、昨今の急激な物価上昇や、2029年の全国加重平均1,500円を目指す最低賃金の引き上げなどにより、損益分岐点が上がり利益が出にくい構造へと変化しています。
さらに、2024年からの「医師の働き方改革」により、時間外労働の管理が厳格化されました。年俸制を導入していても、時間外労働に対する単価が上昇し、支払額が大幅に増大するリスクを抱えています。
もはや「医師が辞めてしまうかもしれないから」と評価やマネジメントを避けて通れる時代ではありません。利益を残すためには、売上の最大化と人件費の適正なコントロールを両立するマネジメント体制の構築が急務なのです。
大規模病院・中小規模病院で異なるマネジメントの課題
自院の規模や医師の人数によって、効果的なアプローチは異なります。
大規模病院(300床〜)の課題と対策
医師数が多く、経営層が個々の働きぶりを把握するのは困難です。また、診療科によって収益性にばらつきが出やすくなります。
解決策として、各診療科のマネージャー医師(部長層)による「診療科単位での組織マネジメント」を実現する必要があります。診療科別の業績に直結する目標を設定し、マネージャーの役割を明確にした等級制度の導入が有効です。
中小規模病院(20床〜200床)の課題と対策
1人医師の診療科も多く、組織としての統制が効きにくい傾向があります。1人診療科の医師やベテラン医師の処遇が重荷になり、若手を採用しにくいといった悩みも聞かれます。
解決策として、「各医師単位での個別マネジメント」が重要になります。多職種による360度評価の結果をもとに、経営層や事務長が個別面談を通じて働きかけを行い、貢献度に応じた処遇を反映する制度が効果を発揮します。
数字の押し付けにならない「定量×定性」の評価設計
医師人事評価を導入する際、最も陥りやすい失敗が「売上や患者数などの数字(ノルマ)だけを無機質に押し付けてしまうこと」です。これを防ぐためには、「定量評価」と「定性評価」をバランスよく組み合わせることが重要です。
- 定量評価(業績評価)
新入院患者数、手術件数、紹介件数など、病院の経営状況(効率経営か、経営改善段階か)に応じた指標を設定します。他院のベンチマークデータや原価計算による損益分岐点をもとに、客観的で納得感のある目標値を提示することがポイントです。 - 定性評価(行動・コンピテンシー評価)
BSC(バランスト・スコアカード)の視点を取り入れ、「チーム医療」「患者貢献」「能力開発」といった定性的な行動を評価します。
ここで大きな力を発揮するのが、看護師や事務職など他職種からの「多面評価(360度評価)」です。匿名性を担保した上で、日々の働きぶりを客観的なデータとして可視化します。「評価をつけて終わり」ではなく、その結果をもとにフィードバック面談を行うことで、医師自身に「他者からどう見られているか」の気づきを与え、無理のない行動変容を促すことができます。
2026年診療報酬改定をKPIに落とし込む方法と「対話」の重要性
2026年度の診療報酬改定では、高度急性期病院における「内視鏡手術用支援機器加算(ロボット手術)の新設(年間200例以上など)」や、働き方改革を推進する「外科医療確保特別加算(チーム制・交代勤務制の導入)」など、体制整備や実績に基づいたメリハリのある評価が導入されています。
これらを味方につけるためには、制度の要件を各科・各医師のKPI(目標)として落とし込む必要があります。しかし、「加算を取りたいから年間200例やってほしい」と伝えるだけでは、医師の反発を招きかねません。
背景と意義を丁寧に伝える
「病院の理念実現のため」「地域の基幹病院としての役割を果たすため」といった大義名分を共有し、「これは成績をつけるためのものではなく、より良い病院を全員でつくるための指標である」というスタンスで対話することが重要です。
助け合いのコミュニケーション
目標を提示するだけでなく、「達成のために病院側(事務部門や他職種)に手伝ってほしいことはないか?」と問いかける姿勢が不可欠です。オペ枠の調整やコメディカルによるタスクシフトなど、病院全体で医師をバックアップする体制を示すことで、同じゴールを目指す仲間意識が醸成されます。
まとめ:客観的な視点から、持続可能な組織づくりを
「診療報酬改定」などの外部環境の変化は、これまで手つかずだった医師の働き方や評価制度を見直す絶好のチャンスでもあります。
従来型の「現場任せのマネジメント」から脱却し、外部の客観的なデータや専門的な視点を取り入れることで、医師が正当に評価され、モチベーション高く医療に専念できる強固な組織をつくることが可能です。
医師の人事評価制度の構築や、多面評価の導入による組織風土の変革にご関心のある方は、ぜひ日本経営のソリューションをご検討ください。
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本稿の監修者
渡邉康晃(わたなべやすあき)
株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部
従業員数2,000名規模の事業所で、人事、コスト管理部門で実務担当者から責任者まで務めた。両部門において、システム更新の実務を担い、業務改善にも従事したほか、体制の整備や担当者育成も手掛けてきた。その経験を生かし、メーカーや各種団体でセミナーを行ってきた。2025年より日本経営に入社。組織人事コンサルティング部門に配属され、人事制度の導入・運用支援、管理職研修、職員研修等に従事している。社内では、組織人事の仕事に加えてコストコンサルの仕事も担当している。
株式会社日本経営
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