はじめに:「2027年機能決定」に向けたタイムリミット
全国どの地域においても、将来的に医療・介護の担い手(労働人口)が減少していくことは避けられません。都市部では高齢化による需要急増と供給不足が深刻化し、地方ではそれを上回るスピードで医療従事者が減少しています。
「新たな地域医療構想」において、2026年3月(令和8年)までに「構想区域の見直し」が行われ、2027年(令和9年)中盤〜秋口にかけて各医療機関の「機能(役割)」が決定されます。
病院経営陣にとって、この1年間で自院の立ち位置(ポジション)を明確にすることは、2040年に向けた最重要課題です。しかし、ダウンロードした「医療需給総覧」の二次医療圏の数字をただ眺めているだけでは、将来の具体的な経営戦略は描けません。
データを「戦略」へと変えるために、プロが実践する3つの分析視点をご紹介します。
視点①:生産年齢人口の減少率から「過剰投資リスク」を見破る
まずは自院が属する二次医療圏の人口動態と医療需要データを分析します。ここで最も注意すべきは、「患者数」だけでなく「医療従事者(供給力)の減少スピード」とのギャップを見ることです。


- 100床の病院が稼働率50%に低下:10年前に整備した100床の病院も、スタッフ不足で半分しか動かせなければ、100床分の固定費や建築費を50床分の収益で返済しなければならず、経営を圧迫します
- 人手不足倒産の回避:需要が存在していても、支えるスタッフが不足すれば病床閉鎖に追い込まれます
医療需給総覧のデータを基に、地域内でバラバラに稼働している病床を他院と集約・再編統合し、「働き手の数に応じた適正な箱(病院規模)」へ再設計する視点が不可欠です。
視点②:自院が属する医療圏の体制から戦略的ポジションを探る
2027年の機能決定に向け、自院がどのポジションを獲得しにいくかを決定します。地域内の競合・連携病院の医師数や対応体制データから、自院が狙うべき役割を絞り込みます。
- 急性期拠点機能:フルスペックで一刻を争う重症患者や緊急手術に対応(常勤医100名規模が目安。大学病院や行政と連携して医師確保や財政面の課題解決に取り組み、地域医療の中核として役割を担う)
- 高齢者救急(中小病院):緊急手術を要しない軽症・中等症の高齢者救急に対応(内科系救急を中心に対応する常勤医16〜20名規模を確保※輪番制ではない場合)
- 在宅医療との連携拠点(協力病院):かかりつけ患者の急変対応や在宅・介護連携を中心に地域包括ケアを支える
大病院(急性期拠点)に軽症の高齢者救急が殺到すると、命に関わる事態を招きかねません。中小病院が「高齢者救急のゲートキーパー」としてポジションを確立することは、自院の安定的な医療提供体制の確保と地域医療の崩壊防止を両立する戦略的選択です。
視点③:救急搬送データから「重症化予防(ACSC)」の連携網を敷く
新たな地域医療構想では、医療機関の受け入れ体制を整える(供給力を高める)だけでなく、「救急搬送の需要自体を抑え込む」という視点が求められます。高齢者救急が殺到して急性期拠点が機能不全に陥るのを防ぐには、救急搬送・緊急入院の多くを占める「事前のアプローチで防げる疾患(ACSC: Ambulatory Care Sensitive Conditions)」への対策が欠かせないためです。
- 誤嚥性肺炎:言語聴覚士(ST)による遠隔モニタリングや摂食トレーニングの導入
- 転倒による骨折:歩行速度低下のスクリーニングや介護施設での住環境改善
- うっ血性心不全:早期の運動機能維持と外来・かかりつけ医でのフォローアップ
医療需給総覧で自院が属する地域の救急・高齢化データを把握した上で、地域の介護施設や市町村と連携し、重症化予防のネットワークを構築することが、今後の地域医療構想における強固な経営基盤となります。
おわりに:2027年に向け、自院の二次医療圏データに基づくロードマップ策定の一歩に「医療需給総覧」をご活用ください
2027年の機能決定まで、残された時間は決して長くありません。自院の将来計画や行政・他病院との協議・交渉を進めるためには、感情論ではなく客観的な二次医療圏データに基づいたロードマップが不可欠です。
株式会社日本経営が提供する「医療需給総覧」では、都道府県を選択することで、配下の二次医療圏ごとの詳細な分析データを無料でダウンロードしていただけます。
まずは自院が属する地域のデータをダウンロードし、今回ご紹介した「3つの視点」で分析を進めてみてください。
データに基づくポジショニング戦略の策定・経営計画への落とし込みでお悩みの際は、お気軽に私たち株式会社日本経営の専門コンサルタントへご相談ください。

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本稿の監修者
角谷 哲(すみや てつ)
リサーチ&インテリジェンス事業部部長
総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー(「経営戦略策定」領域)
事務部門責任者として経営破綻した病院の再建を成功に導くことを機に、地域医療の重要性を深く認識し、京都大学で公共政策修士を取得。病院経営の視座を高め、マクロ政策からミクロ(病院経営の現場)まで理解。公的病院の経営支援や地域医療構想推進に注力し、分析と対話を重視するプロジェクト采配に定評がある。
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