投稿日:2026年10月19日

病院DXを動かす組織・人材・現場変革

レポート要約

  • DX=D×CX:成果は「PX向上」と「コスト構造変革」
    DXはデジタル化(D)と組織変革(CX)の掛け算です。医療における成果は、医療の直接業務への投下時間を増やす「PX(患者経験価値)向上」と、デジタルが人の間接業務を代替する「コスト構造変革」であり、令和8年度診療報酬改定でもこの方向性が点数として明確になりました。

  • 「短期的な成功可能性」と「院内全体への拡張性」から逆算したチーム編成
    コッターの組織変革の8ステップのうち、②連帯チームの組成から⑥短期的成果の実現までが最大の論点です。「医療情報系」と「バックオフィス系」のどちらのネットワークを対象にするかで前提が大きく変わるため、対象領域の選定とPoC、患者起点のVSM、人件費換算による効果測定がカギになります。

  • DX・AXを経営人材育成の機会に
    医療職と事務職の混成チームでDXを進めることは、PX向上とコスト構造変革の両立だけでなく、「医療職⇒経営職」「事務職⇒経営職」というマネジメント人材の育成にもつながります。DX・AXは現場の業務改善ではなく、病院経営の本丸です。

生産年齢人口の急激な減少による働き手不足と、生成AIをはじめとしたテクノロジーの劇的な進化を受け、多くの病院がDXに取り組んでいます。しかし、デジタル機器やシステムを導入しても、組織変革を伴わなければDXの成果は得られません。

本稿では、DXの定義と令和8年度診療報酬改定の動向を踏まえ、病院DXを推進するための「組織」「人材」「現場変革」の進め方を、コッターの組織変革の8ステップに沿って論考します。

DXは「D×CX」――組織変革を伴うかが最大の論点

経済産業省の「DXレポート※ⅰ」や総務省「情報通信白書※ⅱ」では、DXには次の3段階があるとされています。

  1. デジタイゼーション:紙をデジタル化する
  2. デジタライゼーション:業務プロセスの一連をデジタルでつなぐ
  3. デジタル・トランスフォーメーション(DX):組織を変革し、顧客経験価値の向上やビジネス上の成果を実現する

そこで弊社では、「DX=D×CX」、つまりデジタル化×組織変革がDXという公式でご説明しています。組織変革の成果は、顧客経験価値――医療であれば患者経験価値としてのPX(Patient Experience)向上と、コスト構造変革です。つまり、「医療の直接業務への投下時間の増加」と「デジタルによる人の間接業務の代替」が成果になります。

令和8年度診療報酬改定が示したDXの方向性

DXには、この成果から逆算した取り組みが必要です。弊社お役立ち情報の下記レポートに詳細を記載しておりますが、令和8年度診療報酬改定では、先進的な病院の現場での実践が政策に反映され、次の3点がセットで示されました※ⅲ。

■真の病院DX「DX=D×CX」が始まった!
~デジタルによる医療職代替を認める令和8年度診療報酬改定?~(2026年1月30日)

DXの成果 令和8年度診療報酬改定での評価
医療の直接業務への投下時間の増加 AIやRPAを活用した際の医師事務作業補助者を1.3人として換算
デジタルによる人の間接業務の代替 看護ICTの活用による人員配置基準の見直し
PX向上 看護・多職種協働加算

DXの3段階を踏まえると、「組織変革を伴っているか」が大きな論点になります。令和8年度診療報酬改定では、経済産業省や総務省だけでなく厚生労働省も、この考え方を点数という形で明確にしたといえます。

コッターの組織変革の8ステップで考える

組織変革の進め方については、ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・P・コッター名誉教授が提唱した「組織変革の8ステップ」が参考になります※ⅳ。

① 危機意識を高める
② 変革推進のための連帯チームを築く
③ ビジョンと戦略を生み出す
④ 変革のためのビジョンを周知徹底する
⑤ 従業員の自発的な行動を促す(障害を取り除く)
⑥ 短期的成果を実現する
⑦ 成果を生かして、さらなる変革を推進する
⑧ 新しいアプローチを企業文化に定着させる

弊社では、DXに限らず、収益改善や人事制度構築、業務改善など各種コンサルティングの中でこの8ステップを活かしています。

①「危機意識を高める」については、すでに多くの病院で共有されていると考えられます。生産年齢人口の急激な減少で働き手不足が深刻化しているうえ、ChatGPTをはじめとした生成AIを日常的に使う中で、テクノロジーの劇的な革新を体感している方も多いはずです。

組織変革では、⑥「短期的成果」が実現すれば、組織内の賛同を得やすくなります。「あの病棟で上手くいっているので、うちでも導入したい」という好循環が生まれるからです。したがって、②「連帯チームを築く」から⑥「短期的成果を実現する」までをどう進めるかが論点となり、⑥から逆算した変革チームづくりがカギになります。

組織変革は現状変更を伴うため、働き方や慣れ親しんだ仕事の進め方の変化を求めます。強制すれば反発を生み、上手くいきにくくなります。DXの文脈では、最初にトライアルする部署やチームが「便利になった」「楽になった」という短期的な成果を実感することがポイントです。

そのうえで、組織変革の最終的な成果はPX向上とコスト構造変革です。そのため、「短期的な成功可能性」と「将来的な院内全体への拡張性」の2点を踏まえたチーム編成が重要になります。

対象領域の選定――「医療情報系」か「バックオフィス系」か

病院には大きく2つのネットワークがあります。電子カルテをはじめとする各部門システムを接続したHIS(病院情報システム)の「医療情報系ネットワーク」と、総務・経理・人事などの「バックオフィス系ネットワーク」です。どちらを対象にするかで、対象となる部門や職種などの前提が全く変わるため、対象領域の選定が重要になります。

          
観点 医療情報系ネットワーク バックオフィス系ネットワーク
主なシステム 電子カルテ・部門システム(HIS) クラウド型ERP・各種SaaS
環境(200床以上) オンプレミスまたはプライベートクラウドが大半 クラウドネイティブ
AI活用の幅 環境により一定の制限 一般企業と同様に幅広く活用可能
関与する部門・職種 院内の大多数の職種 医事課以外の事務部門に限定
チーム編成の軸 将来的な院内全体への拡張性 他業界の先進事例の取り込み
求められるスキルの例 医療情報技師 生成AIパスポートなどビジネス界の知見

200床未満の病院では、医療情報系でもクラウドネイティブ型の電子カルテが徐々に導入されています。一方、大規模病院では、オンプレミス環境か、その中に院内の仮想化基盤を作ったプライベートクラウドが大半です。オンプレ基盤とパブリッククラウドを一体運用するハイブリッドクラウドや、VPN経由でパブリッククラウドのサービスを呼び出すケースもありますが、業界としては限定的で、完全なクラウドネイティブはごく少数です。

バックオフィス系はクラウドネイティブ環境で、医療機関としての特殊性を考慮する必要もありません。そのため、一般企業の取り組みを参考に、Claude、ChatGPT、Geminiなどの生成AIを幅広く活用できます。クラウド型ERPと各種SaaSのAPI連携も進んでいます。

弊社が提供する人事評価集計SaaSである「人事評価ナビゲーター」もクラウド型ERPとAPI連携が可能で、医療機関と一般企業の区別なく展開しています。業界の特殊性がない分、他業界の先進事例を積極的に取り込めます。ただし、病院では業務の基幹となる医療情報系が別建てのため、対象は医事課以外の事務部門に限られます。

■「総務人事奉行クラウド/OBC」とのAPI連携に「人事評価ナビゲーター」が対応

医療情報系は、令和8年度診療報酬改定のPX向上としての「看護・多職種協働加算」を1つのマイルストーンとし、「将来的な院内全体への拡張性」を軸に考えるべきです。電子カルテのリプレイスで多職種の電子カルテ委員会を編成するように、今後の病院を担うミドルクラスの多職種を軸に、変革推進のための連帯チームを組成することが有効です。

進め方――PoCと患者起点のVSM

⑥「短期的成果」を出すためには、1つのトライアル部署からスタートするのが一般的です。スタートアップ企業が一部の部署で行うPoC(概念実証)と同じ方法です。たとえばNTT東日本関東病院では、2022年10月に病棟を丸ごと「スマートホスピタル病棟」として改修し、運用を開始しました※ⅴ。一部の機器だけをテストするのではなく、「病棟全体をICT化する」ことで、看護師の動線や働き方がどう変わるかを検証する生きたPoC環境として機能させています。

また、DXの目的は組織変革によるPX向上とコスト構造変革であるため、進め方は業務起点ではなく患者起点で行うべきです。弊社では、トヨタ生産方式をベースに米国で体系化されたリーン・マネジメントの支援を行っており、VSM(バリュー・ストリーム・マッピング)を軸にカイゼンを進めています。

カイゼンというと「ムダ取り」や「乾いたぞうきんを絞る」など、コストを徹底的に絞る印象があるかもしれませんが、それだけではPX向上につながりません。リーン・マネジメントでは、まず患者の価値をVSMで付箋紙などに書き出し、模造紙に貼り出して可視化します。そして多職種のワークショップ形式で議論しながらPXを院内全体で共有し、そこから逆算してワークフローを再構築します。この手法はDXにおいても重要です。

効果測定――人件費換算で「代替効果」を示す

効果測定では、デジタルが人の間接業務を代替すること、つまり人件費への代替がポイントです。弊社が支援した院内搬送機器の導入PoCでは、事前に薬剤部門と病棟の間のメッセンジャーの搬送時間と搬送回数をタイムスタディで調査し、時給1,000円で換算して、導入費用と代替人件費を試算しました。

最低賃金はすでに全国加重平均で1,000円を超えており、骨太方針2026では全国平均1,500円の目標を「遅くとも2030年代前半のできる限り早期に」達成するとされています※ⅵ※ⅶ。今後も賃金上昇が続くため、代替効果は最低賃金の上昇割合を加味して大きくなっていきます。このように人件費換算しておくことが、投資判断と院内の合意形成の両面で重要になります。

人材育成――DXからAXへ

これまで病院業界におけるデジタル人材のスキル形成といえば「医療情報技師」資格でした。しかし直近では、DXからAIトランスフォーメーションとしての「AX」へとトレンドが移っています。

医療情報系では引き続き医療情報技師が必要ですが、AI活用の幅が広いバックオフィス系では、他のビジネス界の知見も踏まえた取り組みが必要です。ビジネス界では、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)が提供する「生成AIパスポート試験」の受験者が増えています※ⅷ。筆者自身も受験して取得しましたが、単に資格を取得するだけでなく、実務でどのようにAIを活用・定着させるかという実践的なスキル形成の面では、さらなる検討が必要です。

ただし、根本にあるのはデジタルやAIの知識ではなく、PX向上とコスト構造変革を両立させるために、医療と経営双方の知識を持って組織を変革する力です。

医療職と事務職の混成チームが経営人材を育てる

詳細は弊社お役立ち情報の下記レポートに詳述していますが、弊社は2026年9月開催の第67回全日本病院学会 in 埼玉にて、一般演題(口演)「黒字経営を継続する民間病院の共通項」を発表しました※ⅸ。15病院へのアンケートと半構造化インタビューをもとに、グロービス経営大学院の田久保善彦教授に社外アドバイザーとしてご協力いただき、まとめた研究です。

■【特別報告】黒字経営を継続する民間病院の共通項
―民間×地域医療支援病院15病院の7S調査で、最大の差は「共通価値観」だった―(2026年9月29日)

その中で「医療職の経営職転換」について重要な示唆が得られました。医療職のライセンスを持つ方が事務長や経営管理部門へ職種転換している病院では、医療と経営のハブ機能が働き、共通価値観の浸透が高く、結果として黒字経営につながる傾向が強いというものです。

ここから考察すると、PX向上とコスト構造変革を両立させるには、医療職と事務職を混成したチームで取り組むことが重要です。混成チームで院内DXを進めれば、プロジェクトを通じて双方の背景を理解し合い、「医療職⇒経営職」「事務職⇒経営職」というマネジメント人材の育成にもつながります。

実際に弊社が支援したある病院では、電子カルテ導入プロジェクトを医療職と事務職の混成チームで進めました。その結果、プロジェクトに参加した看護師と放射線技師が、成功後に医療情報技師や診療情報管理士を取得し、経営幹部研修を経て、それぞれ看護部長と医療技術部長に就任しています。

DX・AXは病院経営の本丸

病院DXの成果であるPX向上とコスト構造変革は、現場の業務改善にとどまるものではなく、病院経営の本丸です。DXや今後のAXを経営の本丸と捉え、デジタルやAIの技術面での育成だけでなく、次世代の経営人材を育成する機会として位置づけることが重要です。

Q&A 例

Q1:医療におけるDXの「成果」とは何ですか?

A1:DXは「デジタル化(D)×組織変革(CX)」であり、その成果は「PX(患者経験価値)向上」と「コスト構造変革」です。具体的には、医療の直接業務への投下時間を増やし、デジタルが人の間接業務を代替することです。令和8年度診療報酬改定でも、看護ICTによる人員配置基準の見直し、看護・多職種協働加算、AI・RPA活用時の医師事務作業補助者の1.3人換算という形で、この方向性が示されました。

Q2:病院DXの変革チームはどのように編成すべきですか?

A2:「短期的な成功可能性」と「将来的な院内全体への拡張性」の2点から逆算して編成します。まず対象が「医療情報系」か「バックオフィス系」かを定め、医療情報系であればミドルクラスの多職種を軸に組成します。さらに医療職と事務職を混成することで、PX向上とコスト構造変革の両立に加え、経営人材の育成にもつながります。

Q3:DXの効果はどのように測定すればよいですか?

A3:デジタルが代替した間接業務を人件費に換算する方法が有効です。たとえば院内搬送機器の導入では、搬送時間と回数をタイムスタディで調査し、時給を掛けて代替人件費を試算します。最低賃金は今後も上昇が続くため、代替効果は年々大きくなります。

生産性と組織の変革・地域医療の変革としてのDX戦略

「医師マネジメント専門サイト」もご活用ください


※ⅰ)経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月7日)

※ⅱ)総務省「令和3年版 情報通信白書」第1部第1章第2節「デジタル・トランスフォーメーションの定義」

※ⅲ)厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」

※ⅳ)ジョン・P・コッター著、梅津祐良訳『企業変革力』日経BP社(2002年)

※ⅴ)NTT東日本関東病院「スマートホスピタル病棟」に関する公表資料

※ⅵ)内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026について」(2026年7月21日閣議決定)

※ⅶ)株式会社日本経営「骨太方針2026&令和8年度診療報酬改定から読み解く今後の病院経営」

※ⅷ)一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)「生成AIパスポート」

※ⅸ)第67回全日本病院学会 in 埼玉(2026年9月)一般演題(口演)「病院経営1」、株式会社日本経営「黒字経営を継続する民間病院の共通項」


本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

【略歴】
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007年入社。
電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012年病院経営コンサルティング部門に異動。
医師人事制度と他院ベンチマークデータ・診療科別原価計算を組み合わせて「医師マネジメントシステム」と定義し高次化。現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。
また、医療情報システム導入支援および組織人事コンサルティング経験を踏まえて、「DX=D×CX」(デジタル化×組織変革)と定義して真の病院DX支援も推進。その他、優良病院とヘルスケアスタートアップの共創イベント『病院経営イノベーションピッチ』を発案し、その企画・運営責任者としても取り組んでいる。
・第1回病院経営イノベーションピッチ
・第2回病院経営イノベーションピッチ

専門領域:医師マネジメント(医師人事制度・診療科別原価計算・他院ベンチマーク)/病院DX(DX=D×CX)/病院経営戦略/幹部・経営人材育成

【学位・登録】
・2005年 西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了
・2017年 グロービス経営大学院MBAコース修了
・2023年~ 総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー

【論文・寄稿】
・『病院』掲載「データドリブンアプローチのための病院DX人材育成」(2025年/CiNii Research)
・『病院』掲載「建築費高騰時代に、建て替えを実現するための病院DXの活用」(2025年/CiNii Research)
・『月刊保険診療』掲載「タスクシフティングのための事務作業効率化」(2020年/CiNii Research)
・『月刊新医療』掲載「事務長は病院IT化を幹部職員育成の場に活かすべき」(2014年/CiNii Research)
・『月刊新医療』掲載「中小規模病院での組織マネジメントの脆弱性がHIS導入への障壁となる」(2012年/CiNii Research)
・連載「ならば、病院はどうする!?」第1回 連載の始めに ― 改めて、病院が抱える課題を振り返る(2025年/J-GLOBAL収録)
・連載「ならば、病院はどうする!?」第11回 院内DX整備の進め方 〜真に優先されるべきDX化セクション〜(2026年/J-GLOBAL収録)
・連載「ならば、病院はどうする!?」第12回(最終回)選ばれる病院経営の答え:実践総まとめ(2026年/J-GLOBAL収録)

【講演等】
・産経新聞社主催「地域医療DX戦略フォーラム」基調講演(2026年)
・第67回全日本病院学会in埼玉ランチョンセミナー(2026年)
・第22回 日本医療マネジメント学会高知県支部学術集会ランチョンセミナー(2026年)
・第10回JCHO地域医療総合医学会 ランチョンセミナー(2025年)
・第75回 日本病院学会 ランチョンセミナー(2025年)講演抄録(J-GLOBAL収録)

【主宰イベント】
・『病院経営イノベーションピッチ』(優良病院とヘルスケアスタートアップの共創イベント)第1回・第2回 発案者/企画・運営責任者

株式会社日本経営

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