投稿日:2026年10月23日

「看護・多職種協働加算」の本当の価値とは?職種の壁を越えて、自律的に動くチームをつくる方法

この記事の要点

  • 「看護・多職種協働加算」の本質:単なる点数取得ではなく、医療の質と生産性を高める「組織改革」の好機。
  • 現場の壁を打破する実践策:「患者ジャーニーマップ」で職種間の暗黙の前提を解き、共通目標を追うチームへ。
  • 定着を支える人事制度改革:評価・等級・賃金を再設計し、職種を超えた協働が正当に評価される仕組み。

診療報酬改定への対応に追われる中、「加算を取れても現場の負担が増えるだけ」「職種の壁が高く協働が進まない」とお悩みの院長・事務長様へ。
本加算の新設は、持続可能な病院へ進化するための組織変革の好機です。多職種が自律的に動く医療チームをつくる具体的処方箋と、それを支える人事制度改革のポイントを解説します。

抱え込んでいませんか?「看護・多職種協働」というスローガンと現場の乖離

多くの急性期病院の経営層(院長・理事)や事務長から、次のような悲痛な声が寄せられています。

  • 事務長の本音:「まずは当院が地域で果たすべき役割を明確にし、他院との差別化を図らなければならない。しかし、病院全体の経営方針が現場に浸透せず、各部署がバラバラに動いている。一刻も早く、経営層にこの危機感を共有し、本質的な組織改革に着手したい」
  • 院長・理事の本音:「激変する医療環境を生き残るためには、多職種協働の文化を組織に根付かせることが不可欠だ。だが、医師、看護師、コメディカルの間にそびえ立つ、見えない『職種の壁』をどうやって取り払えばいいのか。形だけではない、持続可能で健全な病院組織へと進化させたい」

令和8年度の診療報酬改定で新設された「看護・多職種協働加算」は、まさにこうした病院経営者たちの悩みの中心に突きつけられた「国からの挑戦状」とも言えます。

本記事では、この加算新設の背景を紐解きながら、単なる「点数取り」に終わらせない本質的な多職種協働カルチャーの構築方法、そしてそれを下支えする「人事制度改革」の全貌を、病院コンサルティングのパイオニアである日本経営が分かりやすく解説します。

なぜ、いま「看護・多職種協働加算」が強く求められるのか?

日本国内の生産年齢人口減少と医療需要拡大による需給ギャップの概念図
※1 出典についてページ末尾参照

日本国内における生産年齢人口の急激な減少と、高齢化に伴う医療需要の拡大。この二つの相反するトレンドが生み出す深刻な「需給ギャップ」は、急性期病院にとって死活問題です。

看護師のなり手自体が減少し、看護学校が軒並み定員割れを起こす中、これまで通りの「看護師の採用と物理的な増員のみに頼る配置」という戦略を続けることには限界が来ています。

こうした構造的危機を背景に、令和8年度診療報酬改定では、従来の「看護師だけのチーム体制」から「多職種が病棟で専門性を平等に発揮するチーム体制」への転換を強力に促すべく、「看護・多職種協働加算(加算1:277点/日、加算2:255点/日)」が新設されました。

項目加算1(急性期一般入院料4)加算2(急性期病院B一般入院料)
点数277点/日255点/日
看護配置基準を超えて追加配置基準を超えて追加配置
対象職種看護職員、PT、OT、ST、管理栄養士、臨床検査技師同様
平均在院日数16日以内16日以内
自宅等退院率80%以上80%以上

加算取得は「ゴール」ではない、組織変革の「スタート」である

この加算を算定するためだけに、無理な増員や書類・マニュアルの整備だけを行うのは極めて危険です。なぜなら、単純な算定だけでは、採用コストや人件費の増加をカバーできず、収益面でむしろマイナスを生み出しかねないからです。

本質的な価値は、加算取得を「外圧(きっかけ)」として利用し、「治し、支える医療」を高い質で提供できる組織文化をつくることにあります。

「形だけの加算取得」に終わるか、あるいは「本質的な組織変革」を遂げるか。その分岐点は、現場の意識(ソフト面)と、それを支える仕組み・制度(ハード面)の両輪を回せるかどうかにかかっています。

多職種協働を阻む、現場の「暗黙の前提(見えない壁)」を解剖する

多くの病院で「多職種協働を頑張りましょう」とスローガンを掲げても、実態は「せいぜいLv.1(情報共有)やLv.2(カンファレンスでの意見交換)止まり」に留まっています。

真の協働(Lv.3)や、自律的な改善(Lv.4)にまで到達できない理由は、現場に蔓延する「暗黙の前提(見えない壁)」にあります。

  • 看護師:「カンファレンスで医師に対しては意見を発言しにくい。後で個別に伝えればいい」
  • セラピスト(PT/OT/ST):「病棟のことは病棟ナースに言ってほしい。私たちは呼ばれた時だけ行くものだから」
  • 管理栄養士:「食事の内容に注文はつけるが、処方や看護計画にまでは関われない」

これらは就業規則違反ではありませんが、職員の頭に刷り込まれた「見えないルール」として、職種間のサイロ化を加速させています。

解決の鍵:患者視点に立ち戻る「患者ジャーニーマップ」と「面子の棚上げ」

この「暗黙の前提」を打破するために極めて有効なのが、多職種が一堂に会して行う実践ワーク「患者ジャーニーマップ」です。

入院から退院までのプロセスを可視化し、各ステージでの「患者の行動・気持ち」を多職種で時系列に並べていくことで、自分たちの「当たり前の業務」が、いかに患者の負担になっていたかに気づくことができます。例えば、「入院直後に様々な職種が入れ替わり立ち代わり説明に来て、患者がわけのわからないまま同意書にサインしている」といった職種間の連携不足が、患者視点に立つことで初めて浮き彫りになります。

また、専門職としての「面子(プライド)」が邪魔をして本音が言えない対立構造を解消するためには、「面子を一旦棚上げして対話できる場の設計」を、専門家の知恵を借りて意図的に創り出す必要があります。

組織文化を定着させる、人事制度の「3本柱」再設計

意識や対話といった「ソフト面」の変革だけでは、時間が経てば必ず元の状態に戻ってしまいます。行動を持続可能なものにし、組織文化として定着させるためには、「人事制度(ハード面)」という土台による下支えが不可欠です。

多くの急性期病院が抱える「4つの構造的課題(処遇決定のブラックボックス化、評価制度の形骸化、賃金体系の複雑性、運用の非効率性)」を解消し、等級・評価・賃金という3つのシステムを「多職種協働」という1本の軸で貫きます。

① 等級制度:職責に「多職種への貢献・連携」を明示する

等級ごとに期待される「役割」と「専門性」を明確に定義し、各階層の職責の中に「職種を超えた連携や他職種への貢献」を明示的に組み込みます。

  • 一般職:自身の業務を自立して遂行し、他職種と積極的に協力する
  • 監督職(リーダー):現場で業務を推進しつつ、他職種と連携した後輩の指導・育成を行う
  • 管理職:チームをまとめ、多職種協働を実践できる場や仕組みをつくる
  • 幹部:病院の方針実現のために、多職種連携が不可欠であることを明確に打ち出し推進する

これにより、職種を超えた連携が「勝手にやっていい余計な行動」ではなく、「果たすべき当たり前の役割」として公に認められます。

② 人事評価制度:部門目標とチーム目標を「融合」させ、同じ患者アウトカムを見る

多職種協働を促す最大の障壁となるのが、「部署(部門)ごとの目標設定」です。例えば、「1病棟の目標」や「リハビリテーション部の目標」を個別に優先させてしまうと、現場で迷いや対立が生まれます。

そこで、部門目標とチーム目標を融合させ、「共通の患者アウトカム目標(例:ADL維持・向上、早期退院率の達成)」に一本化します。

評価の基準としても、専門スキルの高さ(職能スキル)だけに偏重せず、「協調性」や「コミュニケーション力」、「変化への対応力」といった定性的なプロセス評価を重視し、職種を超えた協働行動が最高評価を得られる設計にします。

③ 賃金制度:多職種協働で成果を出した人を引き上げる公正な処遇

長い間「年功序列」や「横並び評価」を続けてきた病院にとって、評価に濃淡をつけることは勇気がいることかもしれません。しかし、これだけは断言できます。

「高い成果や貢献を出している職員に対して評価で報いなければ、彼らは静かに、しかし確実に入職後まもなく辞めていきます」。

声の大きい「現状維持を望む反対派」に配慮するあまり、真に多職種協働を牽引してくれるエース人財を搾取感(やってもやらなくても給与が変わらない損な役回り)で失うことは、組織にとって大きな打撃です。

等級と評価に連動した、合理的でシンプルな賃金設計を行うことが、職員全体のエンゲージメント向上に繋がります。

制度に「魂」を吹き込む、リーダーの行動変容と心理的安全性

完璧な人事制度を構築しても、現場のリーダー(所属長・師長・主任)がこれまで通りのマネジメントを行っていれば、制度はただの絵に描いた餅(形骸化した評価システム)になります。

現場をコントロールする「取引型(アメとムチによる管理)リーダーシップ」から、「変革型(なぜやるのかというビジョンで人を動かす)リーダーシップ」へとリーダー自身が行動を変えなければ、決められた役割の範囲を超える「真の多職種協働」は生まれません。

ポイントは、何でも言い合える「心理的安全性(学習ゾーン)」を職場に育むために、リーダーが自らの行動と言言葉をアップデートしていく仕組み(1on1や360度フィードバックなど)を持つことです。

セミナーから実践へ:日本経営が提案する「約1年」の人事制度構築プロセス

多職種協働の文化を定着させる人事制度構築は、汎用パッケージの導入では絶対に成功しません。自院の戦略や地域での役割を色濃く反映させた、「貴院らしさ」を大切にした完全オーダーメイドの設計が必要です。

日本経営では、およそ1年間(12ヶ月)の伴走型プロジェクトを通じて、確実に定着する制度設計を行います。

  1. グランドデザイン(1〜3ヶ月):現状分析、現場ヒアリング、基本方針策定
  2. 等級・賃金設計(4〜6ヶ月):等級定義、賃金シミュレーション、サラリースケール設計
  3. 評価制度設計(7〜9ヶ月):定性・定量評価の連動、評価者研修の実施
  4. 浸透・導入(10〜12ヶ月):評価トライアル、判定会議の設計、職員への目的と想いの共有説明会

さらに、運用が形骸化する最大の原因である「管理職の事務負担」を解消するために、クラウド型システムを活用した評価運用の「DX化」も同時にご提案しています。

立ち止まって、自院の「当たり前」を疑うことから始めてみませんか?

「看護・多職種協働加算」という新設加算は、単なる目の前の収益の足し引きではありません。「これからの超高齢社会において、私たちの病院は地域でどうあり続けるのか」という、病院の存在意義を根本から再定義するチャンスです。

まずは、貴院の「今の人事制度や当たり前」を一度診断してみることから始めてみませんか?

【事務長・経営層の皆様へ:次のステップへのお手伝い】

「今の評価制度では職種を超えた連携が正当に評価されない」「管理職の評価バラツキや運用の負担が大きすぎる」とお悩みの場合は、ぜひ日本経営の専門コンサルタントにご相談ください。

  • 事務長様へ:「まずは組織を変えたいが、どうやって理事長や院長に働きかければよいかわからない」という場合、本記事のURLをぜひ経営幹部や決裁権者の皆様へシェアし、共通の議論のキッカケにしてください。
  • 経営層・院長様へ:持続可能で健全な組織文化づくりに向けて、第一歩を踏み出してみませんか?

日本経営が提供する本質的なアプローチについて、詳細は以下のリンクよりご覧いただけます。お気軽に資料請求・お問い合わせください。

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参考文献(ソース情報)

【出典・参考データ一覧】 本レポートに掲載している数値および図表は、厚生労働省の公開資料をもとに独自に編集・作成しています。

🔗 掲載元:厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会」

本稿の監修者

馬渡 美智(まわたり みさと)
株式会社日本経営

病院の人事制度構築や労務管理体制の調査・整備業務のコンサルティングに従事。単なる評価ツールとしての人事制度の構築ではなく、現場の実行力を高め、戦略を実現する組織づくりに強みを持つ。社内においては、子育てをしながら経営コンサルタントとして第一線に立つモデル人材として活躍。社会保険労務士有資格者

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