病院組織の未来をつくるために、いま本質的に問われること/組織開発のアプローチ

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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
1. 変化の時代に求められる病院の在り方
病院は、人々の健康と命を支える、社会にとって欠かせない存在です。
地域の人々が安心して暮らすために、そして医療従事者が誇りを持って働き続けるために、病院という組織の在り方は常に進化し続ける必要があります。
しかし、医療業界を取り巻く環境は大きく変化しています。
・診療報酬改定による経営へのインパクト ・医療従事者の人材不足と、医師・看護師の確保の難しさ ・働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進 ・地域医療構想への対応と、病院の統廃合の加速 |
このように、医療機関には次々と新たな課題が突きつけられています。
こうした状況のなかで、病院が単なる「生き残りをかけた戦い」に終始するのではなく、むしろ「変化に適応し続ける組織」へと進化することが求められています。
そのために欠かせないのが、単なる業務効率化ではなく、病院組織としての「哲学」を持ち、それを共有し続ける文化を築くことです。
2. パーパス(Purpose)が求められる時代
近年、多くの企業や組織で「パーパス(Purpose)」という言葉が注目されています。
これは単なる理念やスローガンではなく、組織の根源的な目的、すなわち「なぜ私たちはこの仕事をするのか?」を示すものです。
病院経営においても、このパーパスを明確にし、共有することがますます重要になっています。
その背景には、次のような理由があります。
- 変化が激しく、先行きが不透明な時代だからこそ、「私たちは何のために医療を提供するのか?」という軸を持つことで、組織が混乱に飲み込まれるのを防ぐ
- 医療従事者が、厳しい現場のなかでも「ここで働く意味がある」「この病院で貢献したい」と思えるような環境をつくる
つまり、パーパスは単なる経営戦略の一部ではなく、病院が長期的に選ばれ続けるための「根本的な価値」を示すものなのです。
病院組織においても、単に「経営を維持する」ことが目的になってしまっては、職員のエンゲージメントは低下し、地域からの信頼も揺らぎます。
だからこそ、「どのような医療を提供し、どのような価値を社会に届けるのか」を明確にし、職員一人ひとりがそれを自分ごととして捉えられるような組織文化をつくることが求められています。
3. 人材不足と病院の統廃合が進むなかで、選ばれる病院とは
日本全体が急速な高齢化と人口減少のフェーズに入り、病院経営の持続可能性が大きく揺らいでいます。
- 医療従事者のなり手が減り、特に地方では医師・看護師の確保が困難になる
- 高齢者の医療ニーズは増大する一方で、若年層は減少する
- 人口減少によって病院の統廃合が進むのは避けられない
つまり、これからの病院は「存続をかけた戦い」に突入するといえます。
すべての病院が生き残れるわけではなく、「選ばれる病院」と「そうでない病院」に二極化していくのです。
このような状況のなかで、病院が生き残るために最も重要なのは、「いかに地域や働く人々から選ばれる病院になるか」という視点です。
- 患者にとって選ばれる病院であること
(ステークホルダーとの関係性・医療の質・ホスピタリティー)
- 医療従事者にとって選ばれる病院であること
(心理的安全性・協働と助け合いの組織文化・キャリア形成)
病院は「単なる医療の提供者」ではなく、地域にとってなくてはならない「信頼される存在」でなければなりません。また、医療従事者にとっても、「この病院で働きたい」と思える環境をつくることが、生き残りの鍵となります。
4. 哲学と思想を持つ組織が、変化を乗り越える
病院組織が「学習する組織」として成長し続けるためには、単に知識やスキルを身につけるだけでは不十分です。
「なぜ私たちはこの仕事をするのか?」
「病院としての存在意義は何か?」
こうした問いを持ち続けることが必要です。つまり、病院組織には「哲学(Philosophy)」が求められるのです。
日々の多忙な業務のなかで、医療従事者は「目の前の仕事をこなすこと」に追われがちです。しかし、本当に良い組織とは、「人と人が向き合い、信頼関係を築ける組織」ではないでしょうか。
そのためには、単なる業務改善や経営戦略の見直しだけでなく、病院としての「存在意義」を明確にし、それを組織全体で共有することが重要になります。
5. 組織開発(OD)が、病院を「選ばれる組織」へと変える
こうした課題に向き合い、「組織としてのあり方を問い直し、より良い未来をつくる」ためには、組織文化そのものを育む取り組みが不可欠です。それこそが「組織開発(Organization Development, OD)」の役割です。
組織開発とは、単なる制度改革ではなく、組織全体の対話や学びを通じて、「組織の価値観・信念・行動様式をアップデートしていくプロセス」です。
<全国の病院で進む組織開発の取り組み> ・管理職層がチームマネジメントを学び、対話型のリーダーシップを実現する ・職員同士の心理的安全性を高め、チームワークを強化する ・病院全体のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を再定義し、現場での意思決定に活かす ・現場の創意工夫を尊重し、ボトムアップ型の改善活動を進める |
病院の未来は、一部の経営陣が決めるものではなく、全員でつくるものです。
この視点を持つことこそが、これからの病院経営において最も重要なことなのです。
病院幹部の皆さまへ——組織の課題を解決し、強いチームをつくるために
病院経営や組織運営に関わる皆さま、こんな悩みを感じたことはありませんか?
✓ 職員が疲弊していて、組織に活気がない
✓ 幹部同士の連携がうまくいかず、意思決定が進まない
✓ 人材育成に取り組みたいが、何から始めればよいかわからない
✓ 改革を進めたいが、現場の協力を得るのが難しい
これらの課題は、経営戦略や業務改善だけでは解決できません。 「人」と「組織」に向き合い、組織文化そのものを育む視点 が不可欠です。
今回の【病院幹部のための組織開発講座 第20弾】では、これまでの学びを凝縮し、病院組織が進化するための本質的なヒントをお届けします。
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病院幹部のための組織開発講座 第20弾
『20回記念感謝祭&総集編!心と知恵と対話でひらく、組織の力とリーダーシップ』
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組織開発・人材開発の株式会社ミライバから、 江畑直樹と田中梨央がお届けする音声番組『ミライバ組織開発ラジオ』です。
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組織開発というアプローチ
- なぜ、いま病院経営者の中で「組織文化づくり」が注目されるのか?
- 医療経営の未来を支える組織文化
- リーダーを本気で育てる病院が増加している
- 医療業界に組織変革の時代が到来する~医療マネジメント学会、日本病院協会のランチョンセミナーを経て~
- 組織内の分断が進む時代に求められる病院の組織づくり
- 病院内部をいかに立て直すか ~新年度を迎えるにあたって~
- 新年度からはじめる組織改革
- 病院の組織に未来はあるのか?/組織開発のアプローチ
- 生き生きとした職場を築くための鍵
- 人づくりは「環境」が鍵を握る
- 長引くコロナ禍による医療現場の士気低迷の後遺症をどう脱却するか?
- あなたが求めているリーダーシップ研修はどのレベル?
- 新年度から「力強く前進の流れを創り出す」
- 成果を出すために創意工夫を凝らす
- 管理職の志に火をつけ、部署の活動力を高める「効果的な」目標管理制度とは何か?
- 病院組織に「生気」を取り戻すにはどうすればよいのか?
- 事業計画と目標は、事業の進化と人材の団結・成長を生み出す鍵となるか?
- これからどのようにして病院組織の士気を高め、リーダー人材を育てるか?
- 管理職、監督職のポテンシャルを引き出す
- ファミリー経営の「強み」を活かす
- 管理職なら誰もが直面する“自己超越”という壁
- 管理職の主体性・リーダーシップをいかに高めるか
- 戦略・目標を実現するための組織づくり
本稿の執筆者

江畑直樹(えばた なおき)
株式会社ミライバ 取締役
2003年日本経営入社。主に医療機関、福祉施設の組織創りや幹部・管理職・監督職の研修に従事。2018年に株式会社ミライバを設立し、組織開発コンサルティングや人材開発研修の支援を行う。成人発達理論、学習する組織、U理論、インテグラル理論、NVC等の理論をベースとし、首都大学東京専門職大学院や日本社会事業大学専門職大学院では、これら理論を軸とした組織創りやサービス開発等について看護管理者、福祉管理者を対象に授業を行う。
株式会社ミライバ/株式会社日本経営
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