第67回全日本病院学会in埼玉 一般演題(口演)「病院経営1」発表 株式会社日本経営
株式会社日本経営では、2026年9月12〜13日に開催された第67回全日本病院学会in埼玉の一般演題(口演)「病院経営1」にて、「黒字経営を継続する民間病院の共通項」という学会発表を行いました。2025年10月に社内研究プロジェクトとして開始し、社外アドバイザーとして学校法人グロービス経営大学院:特任副学長の田久保善彦教授にも毎月のミーティングに参加・助言していただき、学会発表となりました。今回は、その発表内容をお伝えします。
本レポートの結論
株式会社日本経営は、「黒字経営を継続する民間病院の共通項」を明らかにするため、地域医療への貢献度が高い「民間かつ地域医療支援病院」15病院を対象に、組織の経営要素である「7S」に基づくアンケートと半構造化インタビューを実施し、医業利益の黒字・赤字による比較分析を行いました。結論は次の3点です。
- 黒字病院と赤字病院で最も差が出たのは「共通価値観(経営理念など)」である。
7S要素の重視度順位で、共通価値観は黒字病院群1位・赤字病院群5位と最大の順位差(4順位差)がついた。他の6要素の順位差は最大1順位差に留まる。 - 黒字病院を支える最大要素は「実行の徹底度」である。
黒字病院群は理念を掲げるだけでなく、組織全体で推進・実行する仕組みを備えている。赤字病院群は戦略策定はできているが、現場の運用レベルまで落とし込む実行主体が不明確で、PDCAの評価(Check)・改善(Act)が機能していない。 - 実行を担うのは「経営職」であり、その育成・配置が経営力を分ける。
共通価値観の浸透を推進しているのは、医療職から職種転換した「経営職」や「事務部門」である。持続的な経営安定には、「複線型人事制度」の導入と「経営職育成プログラム」への投資が不可欠である。
本研究が示した公式:経営力 = 戦略の妥当性 × 実行の徹底度
本レポートの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 報告タイトル | 黒字経営を継続する民間病院の共通項 |
| 発行 | 株式会社日本経営(日本経営グループ) |
| 執筆者 | 太田昇蔵(株式会社日本経営 本部 部長) |
| 学会発表者(演者) | 外池薫子(株式会社日本経営 業務プロセス改善コンサルティング部 課長代理) |
| 共同研究者 | 外池薫子/鄭廷宇/中野敬太/杉田将大/福田洸/太田昇蔵(全6名、株式会社日本経営) |
| 社外アドバイザー | 田久保善彦(学校法人グロービス経営大学院 特任副学長) |
| 研究期間 | 2025年10月〜2026年9月(約1年間) |
| 研究対象 | 民間かつ地域医療支援病院 15病院(黒字病院群・赤字病院群の内訳は非開示) |
| 比較軸 | 直近3カ年の決算情報における医業利益の黒字/赤字 |
| 調査手法 | ①7Sに基づくアンケート調査(定量)②経営層・現場責任者への半構造化インタビュー(定性) |
| 分析フレーム | 7S(Shared value/Strategy/Structure/System/Staff/Skill/Style) |
| 発表学会 | 第67回全日本病院学会in埼玉(2026年9月12日〜13日) 一般演題(口演)「病院経営1」 演題番号1-8-9 |
| キーワード | 病院経営/黒字病院/地域医療支援病院/7S/共通価値観/経営理念/実行の徹底度/経営職/職種転換/複線型人事制度/経営職育成プログラム/医業利益 |
本研究はどのような経緯で行われたのか
▶ 要点:2025年5月の「第1回病院経営エクセレンスセミナー」での一言を起点に、グロービス経営大学院・田久保善彦特任副学長を社外アドバイザーに迎え、2025年10月から約1年間の社内研究プロジェクトとして実施した。
【図表1】第67回全日本病院学会in埼玉 一般演題(口演)「病院経営1」

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| セッション | 一般演題(口演)「病院経営1」 |
| 日時・会場 | 10:40〜12:10/第8会場(ソニックシティ 6F 603) |
| 座長 | 阿部哲晴(練馬総合病院 事務長) |
| 本研究の演題番号 | 1-8-9 |
| 本研究の演題名 | 黒字経営を継続する民間病院の共通項 |
| 演者 | 外池薫子(株式会社日本経営) |
はじまりは「第1回病院経営エクセレンスセミナー」
弊社では完全招待制で少人数制の「病院経営エクセレンスセミナー」を開催しています。2025年5月に開催された第1回開催の講師は、学校法人グロービス経営大学院:特任副学長の田久保善彦教授にご自身の著書である「創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか」をテーマに講演いただきました。講演後のパネルディスカッションの中で、参加者から「長寿企業の成功要因は分かったので、長寿病院の秘訣を日本経営とグロービスで明らかにしてほしい」という発言がありました。
そこで、日本経営内でプロジェクトメンバーを公募し、引き続き、田久保先生に社外アドバイザーとして協力いただきながら、2025年10月より約1年間の研究を行ってきました。
なぜ研究対象を「民間×地域医療支援病院」に限定したのか
▶ 要点:「長寿病院」は起点が曖昧で学術的比較が難しく、「優良」の定義も設立主体によって財務条件が異なる。そこで、都道府県が承認した地域医療支援病院であること(地域貢献度)と、繰入金のない民間病院であること(財務比較の公平性)の2条件で対象を限定した。
プロジェクト組成時の課題となったのが研究対象でした。「長寿病院」となると、日本の医療制度の変遷を踏まえて、起点が曖昧となるケースがありました。「江戸時代から続く…」などのケースも多く、学術的な比較が難しいと判断し、「優良病院の共通項研究」としてプロジェクトをスタートしました。
しかし、この優良病院も“何を優良と定義するか?”が難しく、田久保先生にも助言をいただきながら、何度も検討を重ねました。特に、公立・公的・民間など設立主体によって財務や資金投入のあり方にも差があるため、最終の財務分析にも影響が出ることが懸念されました。
また、弊社お役立ち情報の下記レポートで公開しているように「経常利益」目線で考えている法人も増えていることから“どの利益水準で見るか?”も論点となりました。
■病院も事業ポートフォリオを多層化し“経常利益”目線で考える時代へ(2026年1月5日)
こうした議論を踏まえて、“民間×地域医療支援病院”を対象に、“医業利益での黒字・赤字比較”を行うこととしました。地域医療支援病院※ⅰは、医療施設機能の体系化の一環として、患者に身近な地域で医療が提供されることが望ましいという観点から、紹介患者に対する医療提供、医療機器等の共同利用の実施等を通じて、第一線の地域医療を担うかかりつけ医、かかりつけ歯科医等を支援する能力を備え、地域医療の確保を図る病院として相応しい構造設備等を有するものについて、都道府県知事が個別に承認しています。
単に経営的に利益を出しているだけでなく、地域医療を支えるという地域への貢献度が高く、それを都道府県が承認しているという面を“優良”と定義しました。加えて、最終的な財務面の分析をするため、自治体の繰入金などがない民間病院を対象としました。
こうした対象選定の理由から、保険外収益による収益の多層化という面ではなく、本業の利益としての医業利益で比較を行うこととしました。
どのように7Sを調査したのか(調査設計)
▶ 要点:7Sを要素分解した全職種向けアンケート(5段階評価)と、病院長・救急科部長医師・地域連携室長・看護部長・事務部長/管理部長への半構造化インタビューを組み合わせ、直近3カ年の医業利益の黒字・赤字と突き合わせた。
“7S※ⅱ”とは事業戦略における、幾つかの要素(Shared value(共通価値観・経営理念)、Style(意思決定スタイル・社風)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力)、Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度))の相互関係を表わすものです。弊社お役立ち情報の下記レポートで公開しているように、私は以前から7Sの有用性をお伝えしてきました。
■“7S”で考える病院経営のトップ方針
〜“4つの経営機能”で整理する病院経営の具体策〜(2024年11月19日)
そこで、7Sに基づき要素分解したアンケートを設計し、主に病院経営エクセレンスセミナーにご参加いただいた病院を中心に、弊社と接点のある民間・地域医療支援病院へアンケートへの協力依頼を行った結果、15病院の協力を得られることになりました。その後、アンケート協力先には、経営層・現場責任者を対象に7Sを軸にした半構造化インタビューを実施しました。また、3カ年の決算情報における医業利益の黒字・赤字も提出いただきました。
【図表2】分析方法(7Sに基づくアンケート調査と半構造化インタビュー)

| 区分 | 定量調査 | 定性調査 |
|---|---|---|
| 手法 | 7Sに基づくアンケート調査 | 経営層・現場責任者への半構造化インタビュー |
| 内容 | 7Sの項目毎に質問を設計し、当てはまるかを5段階評価 | 7Sアンケート結果を踏まえての運用実態や具体的なシーンについて |
| 対象 | 病院全職種(回答数・職種は病院ごとに異なる) | 病院長・救急科の部長医師・地域連携室長・看護部長・事務部長 or 管理部長 |
| 回答者 | 病院経営層・医療職・事務職の管理職・監督職・一般職 など | ― |
| 財務データ | 直近3カ年の決算情報における医業利益の黒字/赤字を各病院より提出 | ― |
黒字病院と赤字病院で最も差がついた7S要素は何か
▶ 要点:「共通価値観」である。黒字病院群では7要素中1位、赤字病院群では5位と、4順位の差がついた。戦略・組織構造・スキルは両群とも上位で差がなく、差は共通価値観に集中した。
まずアンケート結果を点数付けし、各病院の中で“7Sのうち何に力点を置いているか?”を集計しました。その中で、黒字病院群と赤字病院群を比較すると顕著な差が現れました。下記図表の通りですが、戦略・組織構造・スキルは、両病院群とも高い結果となりましたが、“共通価値観”の点数が、黒字病院群と赤字病院群で大きな順位差が現れ、黒字病院群では1位でしたが、赤字病院群では5位となりました。つまり、この“共通価値観”の差が、財務的な黒字・赤字への影響を与えていることが示唆されました。
【図表3】7Sアンケートにおける黒字病院群・赤字病院群の重視度順位

| 7S要素 | 黒字病院群の順位 | 赤字病院群の順位 | 順位差 |
|---|---|---|---|
| 共通価値観(Shared value) | 1位 | 5位 | 4順位差 |
| 戦略(Strategy) | 2位 | 1位 | 1順位差 |
| 組織構造(Structure) | 3位 | 2位 | 1順位差 |
| スキル(Skill) | 4位 | 3位 | 1順位差 |
| スタイル(Style) | 5位 | 4位 | 1順位差 |
| システム(System) | 6位 | 6位 | 差なし |
| 人材(Staff) | 7位 | 7位 | 差なし |
- 黒字病院群では、組織の核となる「共通価値観」が相対的に高い傾向にある。
- 赤字病院群では、共通価値観は低水準に留まる。
- 共通価値観(理念やビジョンの浸透度)が、経営状態と関係している可能性がある。
こうしたアンケートでの示唆を踏まえて、各病院への半構造化インタビューを実施しました。各病院でのインタビューを進めると経営理念やパーパス、フィロソフィなどとして掲げられている“共通価値観”の浸透度の差が垣間見えました。つまり、共通価値観が、単なるお題目になっているのか?それとも実行させる仕組み化されているのか?で差がついていることが確認されました。
今回の研究対象は全て地域医療支援病院のため、都道府県の承認を得て救急やかかりつけ医の支援機能を使命としています。そのため、経営理念やパーパス、フィロソフィなどの“共通価値観”としても、医療機能という“戦略”としても、その内容が含まれています。しかし、その実行の徹底度で差がついていることが確認されました。
【図表4】黒字病院群と赤字病院群での実行プロセスの差

| 項目 | 黒字病院群の特徴 | 赤字病院群の特徴 |
|---|---|---|
| 戦略の策定 | 策定できている | 策定自体は行われている |
| 戦略の推進機能 | 単に経営戦略を策定するだけに留まらず、その戦略を組織全体で徹底的に推進するための機能が共通して備わっている | 現場の運用レベルまで落とし込む実行主体が不明確 |
| 担い手 | 中心を担っているのはコメディカル出身の事務職員 | 実行主体が特定されていない |
| PDCAの状態 | 評価・改善まで回っている | PDCAサイクルにおける評価(Check)および改善(Act)が機能していない |
| 施策の帰結 | 実行が徹底される | 実施されている施策が形式的なものに留まっている傾向 |
日本経営では、本研究の前から「経営力=戦略の妥当性×実行の徹底度」と訴えていましたが、これを証明する結果となりました。
共通価値観を実行に変えているのは誰か(“医療職→経営職”への職種転換)
▶ 要点:診療科単位に配置された経営管理担当者と、コメディカルから職種転換した「経営職」である。医療職としての資格手当を維持したまま事務職の幹部・管理職級へ格付けする運用が確認された。
それでは、共通価値観を実行させる仕組み化とは、具体的にどのようなことでしょうか。インタビューで確認をしていくと共通価値観を実現するために、それを現場へ浸透させるためのキーパーソンの存在が確認されました。インタビュー先では、診療科単位に経営管理担当者を配置して、「救急を断らない」や「紹介患者を断らない」など細かくサポートしているケースが確認されました。
また、複数のインタビュー先で「医療職⇒経営職」へ職種転換している方を確認しました。つまり、コメディカルの医療ライセンス保有者が経営管理・事務管理を担っているケースです。その後、経営層インタビューを行うと、“医療職としての資格手当を維持したまま、事務職の幹部・管理職級へ格付け”していることが確認されました。
なお、黒字病院群が全て医療職を軸に経営職を構成している訳ではありませんでした。“事務職⇒経営職”と“医療職⇒経営職”の双方のケースがありました。このように、事務職転換というよりも“経営職転換”というのがふさわしい状況です。
【図表5】「戦略実行のハブ」としての事務部門

| 確認された構造 | |
|---|---|
| 前提 | 経営の専門職に位置づけられる事務職が「ハブとして機能する」ことは、経営の持続的な安定と発展をもたらす重要な要因となる |
| 1 | 専門職の集まる病院では、職種ごと・診療科ごとにセクショナリズムが起きやすい |
| 2 | 現場の医療職に対し、個々の努力だけで経営感覚(経営管理・数値目標)を担わせるのには限界がある |
| 3 | 医療職が「医療」に専念しつつ、目標を達成できるよう専門部門(事務)が経営・戦略の推進を請け負う構造 |
| 4 | 単なる、事務手続きや請求のための裏方ではない「ハブとしての在り方」が問われる |
| ハブの接続先 | 医師/看護師/事務職/経営層/診療科(事務部門が中心となって相互に接続する) |
黒字を継続するために、今後どのような人材戦略が必要か
▶ 要点:「複線型人事制度の導入」と「経営人材への育成投資(経営職育成プログラム)」の2点である。医療職の確保に加え、事務部門の機能強化とハイブリッド人材の育成が求められる。
今回は、“民間×地域医療支援病院”と限定した15病院を対象にアンケートと半構造化インタビューを行った内容を元に研究を進めました。前提と対象が限定的な中での考察ですが、「経営職」の育成・配置が、共通価値観の浸透を実現し、実行の徹底度向上により、高い経営力を実現させていることが示唆されました。
今回のインタビューでは、“医療職としての資格手当を維持したまま、事務職の幹部・管理職級へ格付け”が、象徴的でした。これを今後の展開に引き寄せて考察してみます。
まずは、“医療職⇒経営職”や“事務職⇒経営職”などの「“経営職転換”を実現する“複線型人事制度”」の整備です。従来とは別の職群として、働き方も処遇も異なることから7Sにおける組織システム自体を変革することが求められます。今回確認された“医療職の資格手当の維持”は、現状の事務職の給与水準が、他産業におけるホワイトカラーと比較して低いことに要因があります。従来の「経営管理=事務職」という前提がある中で、緊急避難的に行われている人事施策です。これを「経営職」という新たな職群を設計し、医療職や事務職から管理職級・幹部級のグレードで移行できるような整備が必要でしょう。
次に「経営職育成プログラム」の整備です。経営職という職群を設計し、複線型人事制度を整備して“医療職⇒経営職”や“事務職⇒経営職”の筋道を作ったとしても、それにふさわしい人材がいなければ配置することができません。成り行きで出現するのを待つのではなく、法人として意図を持って育成する必要があります。まさに、“職種転換としてのリスキリング”が必要だと思います。
【図表6】共通価値観の浸透と実行の徹底度向上を実現する組織戦略

| 人材戦略 | 内容 |
|---|---|
| 前提 | これまで大事とされた「医療職の確保」に加え、事務部門の機能強化およびハイブリッド人材の育成といった人材戦略が重要になるのではないか |
| ① 複線型人事制度の導入 | 医療現場のスペシャリストから事務管理職への職種転換・キャリアパスの明確化 |
| ② 経営人材への育成投資 | マネジメント職への役割転換を実現するための教育制度を整備・実行 |
なお日本経営では、これまで弊社で提供してきた「病院経営後継者塾」など人材育成・教育カリキュラムに加えて、本研究の知見を踏まえて、田久保先生にも引き続き社外アドバイザーとして協力を得ながら「経営職職種転換プログラム」を開発しています。今後の継続研究にご期待いただければ幸いです。
用語の定義
| 用語 | 本レポートにおける定義 |
|---|---|
| 優良病院 | 都道府県知事から「地域医療支援病院」として承認され、かつ自治体からの繰入金等がない民間病院。単に利益を出しているだけでなく、地域医療を支える貢献度が高いことを条件とする。 |
| 地域医療支援病院 | 紹介患者に対する医療提供、医療機器等の共同利用の実施等を通じて、第一線の地域医療を担うかかりつけ医・かかりつけ歯科医等を支援する能力を備え、地域医療の確保を図る病院として、都道府県知事が個別に承認した病院。 |
| 7S | 組織の経営要素の相互関係を表すフレームワーク。Shared value(共通価値観・経営理念)、Style(意思決定スタイル・社風)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力)、Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度)の7要素。 |
| 共通価値観(Shared value) | 経営理念、パーパス、フィロソフィなどとして掲げられ、組織の判断軸となる価値観。本研究では、掲げているかではなく「実行させる仕組みになっているか」で差がついた。 |
| 半構造化インタビュー | あらかじめ質問の枠組み(本研究では7S)を用意しつつ、回答に応じて掘り下げる質問を加える面接手法。 |
| 経営職 | 医療職・事務職とは別に設計される、経営管理を担う職群。本研究では「事務職転換」ではなく「経営職転換」と呼ぶことが実態に合う。 |
| 複線型人事制度 | 単線ではなく、ジョブごとに異なる働き方・処遇・キャリアパスを複数設計して、それを選択できる人事制度。 |
| 経営職育成プログラム | 経営職にふさわしい人材を、成り行きに任せず法人として意図的に育成する教育プログラム。「職種転換としてのリスキリング」に相当する。 |
| 経営力 | 「戦略の妥当性 × 実行の徹底度」で表される、日本経営による定義。本研究はこの式を裏づける結果となった。 |
本研究の前提と限界
- 対象は「民間かつ地域医療支援病院」15病院に限定しており、公立・公的病院、ケアミックス病院、精神科病院などは含まれない。
- 15病院は弊社と接点のある病院(主に病院経営エクセレンスセミナー参加病院)を中心としており、無作為抽出ではない。
- アンケートの回答数・回答職種の構成は病院ごとに異なる。
- 7Sの集計は、各病院内で「何に力点を置いているか」の相対的な順位づけであり、病院間の絶対水準の比較ではない。
- 黒字・赤字の判定は直近3カ年の決算情報における医業利益によるものであり、経常利益や他の財務指標では結果が異なる可能性がある。
- 以上より、本研究の結果は因果関係の証明ではなく、限定された対象における示唆である。
よくある質問(FAQ)
A1. 最終的な財務分析において自治体からの繰入金などがない「民間病院」であり、かつ都道府県から「地域医療支援病院」として承認されている病院を対象としています。単に本業の利益(医業利益)を出しているだけでなく、地域医療を支えるという貢献度が高いことを優良の定義としています。
A2. 7S要素の重視度順位における「共通価値観(経営理念など)」の差です。黒字病院群では1位、赤字病院群では5位となり、7要素の中で唯一4順位という大きな差がつきました。戦略・組織構造・スキルは両群とも上位で、差はほとんどありません。
A3. はい。本研究の対象は全て地域医療支援病院であり、救急やかかりつけ医の支援機能を使命として掲げている点は共通しています。差がついたのは理念の有無ではなく、その実行の徹底度、すなわち理念が単なるお題目になっているか、実行させる仕組みになっているかでした。
A4. 事業戦略における組織の7つの要素の相互関係を表すフレームワークです。具体的には、Shared value(共通価値観・経営理念)、Style(意思決定スタイル・社風)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力)、Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度)の7つを指します。
A5. 黒字病院群では、経営戦略を策定するだけでなく、それを組織全体で徹底的に推進するための機能が備わっており、コメディカル出身の事務職員などが中心を担っています。一方、赤字病院群では戦略の策定は行われているものの、現場レベルへ落とし込む実行主体が不明確であり、特にPDCAサイクルの評価(Check)・改善(Act)が機能せず、施策が形式的なものに留まっている傾向が見られました。す。
A6. コメディカルなどの医療ライセンス保有者が、専門職から経営管理や事務管理を担う役割へ転換しているケースのことです。インタビューでは、医療職としての資格手当を維持したまま、事務職の幹部や管理職級へ格付けされている実態が確認されました。なお黒字病院群の全てが医療職出身で経営職を構成しているわけではなく、「事務職⇒経営職」のケースもありました。
A7. 医療職からの転換だけでなく事務職からの転換も確認されており、いずれも担っている役割は経営管理だからです。従来の「経営管理=事務職」という前提を外し、経営職という新たな職群として設計すべきだと考えています。
A8. 「戦略実行のハブ」です。専門職が集まる病院では職種ごと・診療科ごとにセクショナリズムが起きやすく、現場の医療職に個々の努力だけで経営感覚を担わせるのには限界があります。医療職が医療に専念しつつ目標を達成できるよう、事務部門が経営・戦略の推進を請け負う構造が有効です。
A9. 従来の「医療職の確保」に加え、2つの人材戦略が重要とされています。1つ目は、医療職や事務職から経営管理職へのキャリアパスを明確にする「複線型人事制度の導入」です。2つ目は、マネジメント職への役割転換を実現するための教育制度を整備・実行する「経営人材への育成投資(経営職育成プログラム)」です。
A10. 対象を「自治体の繰入金などがない民間病院」に限定したうえで、保険外収益による収益の多層化の巧拙ではなく、本業の利益で比較するためです。経常利益目線で考える法人が増えていることは認識したうえで、本研究では比較の公平性を優先しました。
A11. 民間かつ地域医療支援病院15病院を対象に、7Sに基づき全職種向けのアンケート(各設問を5段階評価)を実施し、加えて病院長・救急科の部長医師・地域連携室長・看護部長・事務部長または管理部長への半構造化インタビューを行いました。あわせて直近3カ年の決算情報における医業利益の黒字・赤字を提出いただいています。
A12. 対象が民間の地域医療支援病院15病院に限定され、無作為抽出ではないため、因果関係の証明ではなく限定された対象における示唆としてお読みください。ただし「戦略はあるが実行主体が不明確」という状態は規模・機能を問わず起こりうるため、実行の担い手が誰かという観点での自院点検にはご活用いただけます。
共同研究者一覧
◎=第67回全日本病院学会in埼玉における発表者(演者) ※所属・役職は2026年9月時点
| 氏名 | 所属・役職 | 本研究での主な担当領域 |
|---|---|---|
| ◎外池 薫子 | 業務プロセス改善コンサルティング部 課長代理 | 学会発表(演者)、業務プロセス・フローの視点の視点からの分析 |
| 鄭 廷宇 | Research & Intelligence部 主査 | 研究設計・調査分析(医療経営に関する研究開発) |
| 中野 敬太 | 戦略コンサルティング部 課長代理 | 戦略・経営管理体制の視点からの分析、データ分析 |
| 杉田 将大 | 組織人事コンサルティング部 課長代理 | 人事制度(等級・評価・報酬)の視点からの分析 |
| 福田 洸 | 組織人事コンサルティング部 課長代理 | 人事制度・職員教育の視点からの分析 |
| 太田 昇蔵 | 部長 | プロジェクト統括、本稿の執筆 |
(※社外アドバイザー:田久保善彦 学校法人グロービス経営大学院 特任副学長)
◎外池 薫子 [株式会社日本経営 業務プロセス改善コンサルティング部 課長代理]
- 2019年株式会社日本経営入社。組織人事コンサルティング部を経て、現在はリーンマネジメント(NKリーン)による方針の展開や業務プロセス・フローの改善などを行っている。
- Lean Certification GOLD LEVEL 保有。現場の答えを一緒に見つける“伴走型”コンサルタントとして、人事制度構築・人材教育の知見も豊富。
- 共著『LEAN Innovation 「チェンジマネジメント」の実現で成果を出す手法 “看護部”から病院を変革する!』プレジデント社, 2025年.
- 寄稿:メディカルサポネット「職員のモチベーション・満足度・生産性を高めるために、いま何をしなければいけないのか?」マイナビ, 2024年.
- コラム「なぜ今、外来改革なのか」NKリーンコンサルティング, 2026年5月.
- 対談:飯塚病院「効率化を超えて―看護現場の“想いと働きがい”を支える組織論」特別対談(2026年)。
- プロフィール
鄭 廷宇 [株式会社日本経営 Research & Intelligence部 主査]
- 台湾出身。東北大学大学院農学研究科にて食品化学を専攻し、博士号を取得。同大学の特任助教として、食品成分の免疫機能性に関する研究に従事。
- 株式会社日本経営に入社後は、医療経営に関する研究開発、日台医療連携、新規事業の企画・推進を担当。
- 本研究では、研究設計とアンケート・インタビュー結果の分析を担当。
- 専門領域:医療経営研究、リサーチ・データ分析、日台医療連携、食品化学(博士)。
中野 敬太 [株式会社日本経営 戦略コンサルティング部 課長代理]
- 「中小規模の病院から大規模のグループ病院まで、規模や機能を問わず、戦略策定、経営改善、建替え、経営管理体制の構築など、多岐に渡るコンサルティングを実施。特に、経営改善支援では、データ分析と現場の業務プロセス改善に強みを持つ」(日本経営 お役立ち情報 執筆者プロフィール)。
- 第24回北海道病院学会 共催ランチョンセミナー登壇(2026年7月11日)「データが示す北海道の岐路 ― 全国二次医療圏データから読み解く機能分化と経営改善の可能性 ―」。
- 株式会社JMDC共催オンラインセミナー「報酬改定後のデータを読む 病院経営」登壇(2026年)。
- 執筆:全2回「令和8年度診療報酬改定:急性期一般入院料」(日本経営 お役立ち情報)
- 専門領域:病院戦略策定、DPCデータ・二次医療圏分析、経営改善、建替え支援、経営管理体制構築。
杉田 将大 [株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部 課長代理]
- 入社以来、医療機関のクライアントを中心とした人事制度コンサルティング業務(給与・評価制度・労務体系など)に幅広く従事。
- 医師人事マネジメントおよび人事制度構築支援を担当。
- セミナー講師:「1ヶ月で病院の人事評価制度を構築する方法」「『ここで働き続けたい』と思う組織づくり」ほか。
- プロフィール
- 専門領域:医師人事制度、人事制度(等級・評価・報酬)構築、労務体系整備。
福田 洸 [株式会社日本経営 組織人事コンサルティング部 課長代理]
- 2019年株式会社日本経営入社、福岡支社勤務。
- これまで100床〜300床規模の病院の人事制度改革に携わる。人事制度を単なる管理のツールではなく、組織が期待する職員を引き上げ、更なる貢献を引き出す仕組みとするコンサルティングを行っている。また、研修など職員教育の領域では、それぞれの組織に合わせた研修を設計し、再現性と実効性を重視した研修を行っている。
- 執筆:「一律昇給はもうムリ! では、何を評価する?どう管理する?」(2025年)
- 執筆:「『今年の賞与、どうする?』従業員のモチベーションと定着率を劇的に変える賞与設計」(2025年)
- 医師人事マネジメントおよび人事制度構築支援を担当
- 専門領域:病院・介護施設の人事制度改革、評価制度設計、職員教育・研修設計。
太田 昇蔵(おおた しょうぞう)[株式会社日本経営 部長]
- 本稿の執筆者。本研究ではプロジェクト統括を担当(詳細は次頁「本稿の執筆者」を参照)。

本稿の執筆者
太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長
【略歴】
大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007年入社。
電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012年病院経営コンサルティング部門に異動。
医師人事制度と他院ベンチマークデータ・診療科別原価計算を組み合わせて「医師マネジメントシステム」と定義し高次化。現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。
また、医療情報システム導入支援および組織人事コンサルティング経験を踏まえて、「DX=D×CX」(デジタル化×組織変革)と定義して真の病院DX支援も推進。その他、優良病院とヘルスケアスタートアップの共創イベント『病院経営イノベーションピッチ』を発案し、その企画・運営責任者としても取り組んでいる。
・第1回病院経営イノベーションピッチ
・第2回病院経営イノベーションピッチ
専門領域:医師マネジメント(医師人事制度・診療科別原価計算・他院ベンチマーク)/病院DX(DX=D×CX)/病院経営戦略/幹部・経営人材育成
【学位・登録】
・2005年 西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了
・2017年 グロービス経営大学院MBAコース修了
・2023年~ 総務省:経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー
【論文・寄稿】
・『病院』掲載「データドリブンアプローチのための病院DX人材育成」(2025年/CiNii Research)
・『病院』掲載「建築費高騰時代に、建て替えを実現するための病院DXの活用」(2025年/CiNii Research)
・『月刊保険診療』掲載「タスクシフティングのための事務作業効率化」(2020年/CiNii Research)
・『月刊新医療』掲載「事務長は病院IT化を幹部職員育成の場に活かすべき」(2014年/CiNii Research)
・『月刊新医療』掲載「中小規模病院での組織マネジメントの脆弱性がHIS導入への障壁となる」(2012年/CiNii Research)
・連載「ならば、病院はどうする!?」第1回 連載の始めに ― 改めて、病院が抱える課題を振り返る(2025年/J-GLOBAL収録)
・連載「ならば、病院はどうする!?」第11回 院内DX整備の進め方 〜真に優先されるべきDX化セクション〜(2026年/J-GLOBAL収録)
・連載「ならば、病院はどうする!?」第12回(最終回)選ばれる病院経営の答え:実践総まとめ(2026年/J-GLOBAL収録)
【講演等】
・産経新聞社主催「地域医療DX戦略フォーラム」基調講演(2026年)
・第67回全日本病院学会in埼玉ランチョンセミナー(2026年)
・第22回 日本医療マネジメント学会高知県支部学術集会ランチョンセミナー(2026年)
・第10回JCHO地域医療総合医学会 ランチョンセミナー(2025年)
・第75回 日本病院学会 ランチョンセミナー(2025年)講演抄録(J-GLOBAL収録)
【主宰イベント】
・『病院経営イノベーションピッチ』(優良病院とヘルスケアスタートアップの共創イベント)第1回・第2回 発案者/企画・運営責任者
出典・参考リンク
| 区分 | 内容・URL |
|---|---|
| 本研究の発表 | 第67回全日本病院学会in埼玉 プログラム(一般演題1-8-9) |
| 関連レポート | 病院も事業ポートフォリオを多層化し“経常利益”目線で考える時代へ(2026年1月5日) |
| 関連レポート | “7S”で考える病院経営のトップ方針 〜“4つの経営機能”で整理する病院経営の具体策〜(2024年11月19日) |
| 関連プログラム | 病院経営後継者塾 |
| 関連サイト | 医師マネジメントの実務専門サイト |
| 関連サイト | NKリーンコンサルティング(コンサルタント紹介) |
| 社外アドバイザー | 田久保善彦『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』(学校法人グロービス経営大学院 特任副学長) |
※ⅱ)グロービス経営大学院 MBA用語集「7S Seven S Mode」
株式会社日本経営
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