理想的なチーム状態とその作り方/チームパフォーマンスを高める組織強化の方法論vol.06
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業種
病院・診療所・歯科
介護福祉施設
企業経営
- 種別 レポート
理想的なチーム状態とその作り方
株式会社日本経営 / 取締役 橋本 竜也
本稿は、株式会社ビジネスパブリッシング「月間人事マネジメント10月号」に「チームパフォーマンスを高める組織強化の方法論<6>理想的なチーム状態とその作り方」として掲載されたものです。
「心理的安全性」誤解と危険性に注意
2015年に米Google社が、生産性が高いチームは心理的安全性が高いと発表し、「心理的安全性」という言葉が一気に注目された。
「心理的安全性」は、意見が言いやすい職場、相談しやすい人間関係、批判を受けないコミュニケーションなど、“居心地の良さ”をイメージさせるため、日本においても急速に広まった。
ただ、本来「心理的安全性」は、居心地の良さを意味しているのではないことに注意が必要である。
心理的安全性とは、「自分の考えや意見を偽りなく伝えることができ、それによって人格否定や不利益な扱いを受けることがないと信じられる状態」である。
つまり、人格否定や不利益な扱いはされないが、おかしいことはおかしい、ダメなことはダメだという意見が率直に自分にも飛んでくる状態を指す。
一般的に、心理的安全性と聞くと「意見の言いやすさ」という、自分が伝える側のポジションから見てしまうことが多い。これが誤解を生む。
相手の考えや意見が率直に、遠慮なしに自分に向かってくるということが想像できていないケースが多いのだ。意見の受け手側から捉えたとき、果たしてどれだけの人がそれを歓迎できるだろうか。
心理的安全性の高いチームを作ることは非常に重要である。
ただ、居心地のいい状態を作ることだとメンバーを誤解させてはいけない。
なぜ、多くの人が心理的安全性を「自分が意見を言う側」という視点から捉えてしまうのか。
それは、上司が意見を聞く側、部下が意見を言う側という構図を無意識に作っているからだ。この構図がある限り、心理的安全性の高いチームを作るのは困難である。
心理的安全性の高いチームを作るために
この構図を壊すシンプルな方法は、メンバーの誰もが「遠慮なしの意見を言われる側」に立って、どのような態度や考え方を持つべきかを考えることである。自分で考えてもらうのが一番だが、次のようなことがポイントになる。
- 相手が話しやすい態度で話を聞くこと
- 自分から「意見をください」と伝えること、フィードバックを求めること
- 自分が批判されているのではなく、意見が批判されていると捉えること(人と事を分ける)
- プロとして自分自身の力を高め、自信をつけること
心理的安全性の高いチームとは、いわばプロのチームだ。
アマチュアの集まりでは、心理的安全性の高いチームは作れない。
この認識をメンバー全員が持つこと、これが重要である。
我々の研究では、リーダーからメンバーへの1対1のアプローチで心理的安全性を高めようとすると、そのメンバーがリーダーに依存してしまいがちになるが、チーム全体で心理的安全性の向上に取り組んだ場合は、メンバーの積極的な行動の発揮につながることが分かっている。
つまり、心理的安全性は、上司・部下の1対1の関係性ではなく、チーム全体で高めるアプローチが重要なのである。
簡単に言うと、「“この人”なら本音をさらけ出せる」ではなく、「“このチーム”なら、本音をさらけ出せる」という状態を作らなければ、チーム内でのメンバーの主体的行動の促進につながらないのである。
従って、面談等を通じて、リーダーとメンバーの個別関係性をたくさん張り巡らすよりも、チーム全体で誰もが当事者意識を持って課題に向き合うようにすることのほうがチームパフォーマンス(TP)にとっては重要なのである。
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理想のチームを作るワークショップの展開
チームパフォーマンス(TP)の高い理想のチームとは、チームの成果や抱えている問題に対して、誰もが自分事と捉えているチームである。
このような状態になっていれば、メンバーは主体的に行動し、チームに何かが起きても一体となって事態を解決し、乗り越えていこうとする。
チームの成果につながる主体的行動は、これまでの連載で紹介してきた「顧客貢献行動」「最善行動」「プロセス改善行動」「クリエイティブ行動」「チーム力活用行動」「チーム運営向上行動」「メンバー支援行動」「発信行動」である。
それを引き出すには9つの心理要因が重要である。逆にいえば、TPに課題がある場合、心理要因に問題を抱えている可能性がある。
そこで、理想のチームを作るためには、チームの心理要因の状態を可視化し、メンバー全員が同時にその結果を共有し、自分たちがどうすべきかを話し合うワークショップが効果的である。
リーダーにだけ結果を見せて改善策を考えさせたり、リーダーからメンバーに説明したりするような方法では、結局リーダーに責任があるというメッセージになり、その他のメンバーの当事者意識を奪ってしまう。
できる限り同時にメンバー全員が結果を共有するほうがよいし、ワークショップも効果的だろう。
チームによっては、人事部門がファシリテーターとして介入する必要もある。
ファシリテーターは、効果的な問いを提供する役割に徹する。
例えば、心理的安全性に課題があれば、「他の人が率直に意見を言えるために、自分ができることは何だと思いますか?」といった問いを出す。付箋に書いてもらって、張り出していく方法も効果的だろう。
重要なのは、「何が問題ですか?」とか「どうしたらいいですか?」といった、本人以外に原因や解決策を求めるような問いをしないこと。
あくまで、「あなたは?」「自分ができることは?」と、本人にベクトルを向けた問いをすることで、メンバーの主体性を引き出していくのである。
筆者の経験では、こうした効果的な問いを継続すれば、時間がかかったとしても、チームは自分たちで問題を認識し、対応策を考え始める。
チームの心理要因を可視化する方法
心理要因を可視化するには、匿名アンケートが基本である。
9つの心理要因について簡易的にアンケートを実施するとすれば、図表のような問いがよいだろう。
図表 心理要因を可視化する問いの構成例
心理的安全性 | 私のチームは、本音を話すことを受け入れる雰囲気がある |
チームへの愛着 | このチームの一員としての誇りがある |
目標共有 | チームの目標を理解している |
メンバー信頼 | 私のチームメンバーは、私が仕事上問題に直面したとき 親身に対応してくれる |
チャレンジ精神 | チャンスに恵まれていると思う |
仕事のやりがい | 現在の仕事はやりがいを感じられる仕事だと思う |
プロセス重視 | 私のチームは結果だけでなく、プロセスや取り組み姿勢も 大事にしている |
顧客重視 | 顧客が誰か(どのような人たちか)を意識して行動している |
チーム貢献への自信 | メンバーに仕事上役に立つ情報を提供する自信がある |
当社では、チームパフォーマンス(TP)と心理要因を可視化するツール(NaviLight)を提供しているので、より確実に把握したい場合は、ぜひご利用いただきたい。
どんな結果であっても前向きに捉えられる工夫もしてあるので有用である。
アンケートの設問をオリジナルで作成する場合、留意する点は2つ。1つは、特定の個人に向けた質問(例「上司は~してくれますか?」)を作らないこと。
もう1つは、本人がどう感じているかを質問することである。
この2つのポイントを踏まえると、評論家思考を抑えることができる。
いずれにしても、本人の主体性を削がず、引き出すことが重要だ。
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このレポートの解説者
橋本竜也
株式会社 日本経営 代表取締役社長
組織人事コンサルタント
1999年入社以来、人事コンサルティング部門にて、クライアントの人事制度改革に携わるほか、不採算企業の経営再建にも従事。コンサルティング実績は上場企業から中堅・中小企業まで150社を超える。「良い経営は人を幸せにする、悪い経営は人を不幸にする」を基本スタンスに、人事コンサルティングや経営顧問を行っている。
<著書>
「チームパフォーマンスの科学」幻冬舎2021年12月
「中小企業の未来戦略を具現化する!組織マネジメント実践論」プレジデント社2022年10月
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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