投稿日:2026年9月30日

病院経営の赤字要因をどう把握する?税務・財務会計だけでは見えにくい管理会計の活用ポイント

病院経営では、経営会議で「赤字の主な原因は何か」と問われても、決算書の数字だけでは明確に答えられないことがあります。

その背景には、病院特有の収益・費用構造があります。医業収益の中心となる保険診療の収益は診療報酬制度に基づいて算定される一方、費用は診療科や病棟だけでなく、検査・手術・事務など複数の部門にまたがって発生します。そのため、病院全体の損益計算書だけを見ても、「どの診療科・部門で、なぜ利益または損失が生じているのか」までは把握しにくいのが実情です。

赤字要因を具体的に把握するには、病院全体の損益を示す財務会計に加えて、部門別・診療科別に収益と費用を捉える管理会計の視点が重要となります。

本レポートでは、病院経営の赤字要因を把握するために必要な管理会計の考え方と、主要な経営指標をどのように読み解けばよいのかを整理します。

この記事でわかること

  • 病院経営の赤字要因は、決算書の数字を眺めるだけでは特定できないことが多い。
  • 税務会計や財務会計とは別に、部門別・診療科別に数字を見る管理会計の視点が求められる。
  • 経営指標は単独の数値だけで判断せず、病院の機能や規模などの背景を踏まえて読み解く必要がある。

病院経営で赤字要因の把握が難しい理由

病院経営の赤字要因が見えにくくなる背景には、医業収益の決まり方と、病院特有の費用の発生構造があります。

医業収益は診療報酬の点数でほぼ決まる

多くの病院で医業収益の中心となる保険診療の収益は、診療報酬制度に基づいて算定されます。個々の診療行為などの価格を病院が任意に設定することはできません。

一方で、実際の医業収益は、患者数や病床稼働率、症例構成、施設基準の届出状況、各種加算の算定状況などによって変動します。そのため赤字要因を分析する際は、単価だけではなく、患者数や稼働状況などの収益要因と費用構造の両面を確認する必要があります。

また、診療報酬は原則として2年に1度改定されるため、直近の改定によって自院の収益構造がどのような影響を受けているかを確認することも重要です。なお、自由診療など保険適用外の診療については、診療報酬制度による価格設定の制約を受けないため、分けて考える必要があります。

費用は複数の部門にまたがって発生し、原因が分散する

病院で発生する費用には、診療科や病棟に直接ひも付けられる費用だけでなく、検査部門、手術部門、薬剤部門、事務部門など、複数の診療科や部門に関連して発生する費用があります。

給与費、材料費、委託費といった費用区分ごとの総額は損益計算書から把握できます。しかし、病院全体の財務諸表だけでは、それらの費用が「どの部門で、どの程度発生しているのか」までは通常把握できません。

したがって、赤字の原因を具体的に特定するには、病院全体の費用総額を見るだけでなく、部門別・診療科別に費用を分解して捉える必要があります。

税務会計・財務会計だけでは見えにくい病院経営の課題

病院経営には、「税務会計」「財務会計」「管理会計」という大きく分けて三つの会計の視点があり、それぞれ目的が異なります。

税務会計・財務会計・管理会計は目的が異なる

税務会計は、法人税などの課税所得や税額を適切に計算することを主な目的とします。財務会計は、病院の経営成績や財政状態を一定のルールに基づいて記録・報告し、金融機関や行政などの外部関係者への説明にも用いられます。

これらに対して管理会計は、組織内部の意思決定や業績管理を目的とするものです。病院全体の損益だけではなく、部門別・診療科別の収益や費用を把握し、「どこで利益が生まれ、どこで費用が発生しているのか」を分析するために活用されます。

会計の種類 主な目的 主な利用者
税務会計 課税所得・税額の計算 税務当局、経営者、経理・税務担当者、税理士など
財務会計 経営成績・財政状態の記録・外部報告 経営者、金融機関、行政、その他の外部利害関係者
管理会計 組織内部の意思決定と業績管理 経営層、各部門・診療科の責任者など

損益計算書だけでは診療科別の採算が見えない

病院会計準則に基づく損益計算書では、医業収益や医業費用などを通じて病院全体の経営成績を把握できます。材料費、給与費、委託費など、費用の種類ごとの金額も確認できます。

しかし、病院全体の損益計算書だけでは、「どの診療科がどれだけ収益を上げ、そこにどれだけの費用がかかり、最終的にどの程度の利益または損失が生じているのか」までは通常把握できません。

診療科別・部門別の採算を把握するには、財務会計のデータを基礎としながら、収益や費用を管理目的に応じて分類・配賦する管理会計の仕組みが必要となります(※01)。

病院経営で確認したい主な経営指標

続いて、病院が赤字に陥る要因を把握するために確認したい主な経営指標を整理します。なお、指標の算定式や集計範囲は調査主体や医療機関によって異なる場合があります。他院との比較や自院の時系列比較に用いる際は、指標の定義や集計条件を揃えて確認することが重要です。

指標 主に確認できること
医業利益率 医業活動そのものの収益性
給与費率 医業収益に対する給与費の重さ
材料費率・委託費率 診療材料や外部委託にかかる費用の重さ
平均単価 入院・外来それぞれの患者1人1日当たりの収益
病床稼働率 病床がどれだけ活用されているか
1床当たりの固定費 1床に対する固定費の重さ
損益分岐点 収支が均衡する売上水準

医業利益率

医業利益率は、医業収益に対する医業利益の割合を示す指標です。医業利益は、医業収益から医業費用を差し引いて算出します。

病院本来の医業活動によってどの程度の利益を確保できているかを見る指標であるため、医業外収益・医業外費用を含む経常利益率とは分けて確認することが重要です。

2025年に公表された厚生労働省の資料では、病院の医業利益率は平均値・中央値ともにマイナスとなっており、医業利益が赤字となった病院の割合は55.2%と過半数を占めています(※02)。

給与費率

給与費比率は、医業収益に対する給与費の割合を示す指標です。病院会計準則では、職員の給与や賞与、法定福利費など、人件費に相当する費用が「給与費」として区分されています。

病院は医師、看護師をはじめとする多くの職種によって医療サービスを提供するため、給与費が費用構造に与える影響は大きくなります。そのため、給与費比率は病院の収益性を分析するうえで重要な指標の一つです。

2025年に公表された厚生労働省の集計資料では、一般病院の給与費比率は2023年度から2024年度にかけて、おおむね55%から57%前後の水準となっています(※02)。

材料費率・委託費率

材料費比率は医業収益に対する材料費の割合、委託費比率は医業収益に対する委託費の割合を示す指標です。

材料費には医薬品費や診療材料費などが含まれ、委託費には検査、給食、清掃など、院外の事業者へ委託している業務に関する費用が含まれます。

これらの比率が自院の過去実績や類似する病院と比べて高い場合、病院全体の比率を見るだけでは原因を特定できません。診療科別・部門別に分解し、どこで材料費や委託費が増加しているのか、その背景まで確認することが重要です。

平均単価

平均単価は、入院と外来に分けて確認します。

入院単価は、入院診療収益を入院患者延数で割って算出する、入院患者1人1日当たりの平均収益です。外来単価も同様に、外来診療収益を外来患者延数で割って算出します。

単価の変化を見ることで、患者数の増減だけでは説明できない収益構造の変化を把握しやすくなります。例えば、症例構成や診療内容、施設基準・加算の算定状況などと併せて分析することで、単価が上昇・低下した背景を検討できます。

病床稼働率

病床稼働率は、病床が実際の入院診療にどの程度活用されているかを示すための指標です。

近い概念として病床利用率がありますが、「病床稼働率」「病床利用率」という用語や算定方法は、調査主体や医療機関によって異なる場合があります。そのため、他院との比較や時系列分析を行う際は、分子となる患者数や分母となる病床数など、算定式の定義を確認することが重要です。

1床当たりの固定費

1床あたりの固定費は、病院が内部管理のために設定できる管理会計上の指標です。

給与費や減価償却費など、患者数や診療量の短期的な増減にかかわらず発生する費用のうち、何を固定費として扱うかを明確にしたうえで、病床数など一定の基準で除して算出します。

ただし、固定費の範囲や分母となる病床数の定義によって結果が変わるため、全国一律の基準値と単純比較するのではなく、自院の時系列比較や病床規模に対する固定費負担の変化を把握するための活用に適しています。

損益分岐点

損益分岐点は、収益と費用がちょうど等しくなり、利益がゼロとなる売上高の水準を示します。損益分岐点売上高は、固定費を限界利益率で割って算出します。

また、損益分岐点比率は「損益分岐点売上高÷実際の売上高」で算出し、実際の収益に対して損益分岐点がどの程度の水準にあるかを示します。一般に、この比率が低いほど損益分岐点を上回る余裕が大きく、収益減少に対する耐性が高いと考えられます。

損益分岐点を引き下げるには、固定費を削減するほか、変動費率を引き下げて限界利益率を高めることが基本的な方向性となります。ただし、病院では費用を固定費と変動費に明確に分けにくい項目もあるため、分析目的に応じて費用区分のルールを定めることが重要です。

病院が赤字に陥る要因を把握するには「背景理解」が重要

経営指標は、数値そのものだけで判断するのではなく、その数値が生じた背景まで掘り下げて読むことで、赤字要因の把握に役立ちます。

指標の数値だけでは良し悪しを判断できない

経営指標は、単独の数値だけを見ても良し悪しを判断できません。

例えば、給与費比率が高い場合でも、その原因が過剰な人員配置にあるのか、時間外労働の増加にあるのか、あるいは診療科構成や提供している医療機能の違いにあるのかによって、必要な対応は変わります。

そのため、「給与費比率が高いから人員を削減する」とすぐに結論付けるのではなく、自院の過去実績や類似する病院との比較を起点として、数値が高くなっている背景まで掘り下げることが重要です。

自院の機能や規模を踏まえて指標を読む

同じ経営指標でも、急性期、回復期、慢性期といった病院・病床の機能や、病床規模、診療科構成などによって適正水準は異なります。

例えば、入院と外来の収益構成や必要となる職員配置が異なれば、給与費比率をはじめとする費用構造にも違いが生じます。

そのため、他院と比較する場合は、単純な平均値だけを基準にするのではなく、自院と近い医療機能や病床規模などの条件を持つ病院を比較対象とすることが重要です。比較条件が大きく異なる病院を基準にすると、自院の経営状態を見誤る可能性があります。

他院比較に使う基準データの選び方

他院との比較に使用する基準データは、調査対象となる病院の属性や集計方法、調査時点によって数値が異なります。

例えば、医療法人が運営する病院と自治体が運営する病院では、担っている医療機能や費用構造、経営上の前提条件が異なる場合があります。そのため、設置主体の異なる病院を単純に同じ基準で比較すると、数値の意味を誤って捉える可能性があります。

ベンチマークとなるデータを選ぶ際は、設置主体だけでなく、医療機能、病床規模、診療科構成、地域性、調査年度などを確認し、可能な限り自院と近い条件の病院群と比較することが重要です。

管理会計で見える化できること

管理会計を整備すると、財務会計だけでは把握しにくかった収益や費用の発生状況を、部門別・診療科別などの単位で確認できるようになります。

部門別損益で費用の発生元を特定する

部門別損益を作成すると、給与費や材料費、委託費などが、どの部門でどれだけ発生しているのかを把握できます。

病院全体の損益計算書では費用区分ごとの総額は確認できますが、その費用がどの部門で発生しているのかまでは把握しにくい場合があります。部門別に費用を分解することで、費用増加の要因となっている部門を絞り込み、より具体的な改善策の検討につなげることができます。

診療科別損益で採算の差を把握する

診療科別損益を作成すると、収益と費用を一定の基準に基づいて診療科ごとに集計・配賦し、診療科ごとの採算を把握できます。

病院全体では黒字であっても、診療科ごとに見ると採算には差が生じることがあります。ただし、診療科単独の損益だけで良し悪しを判断するのではなく、病院全体における役割や他部門への貢献も踏まえて評価することが重要です。

こうした情報を把握することで、人員配置や設備投資などの資源配分について、数字を根拠として検討しやすくなります。

また、弊社の原価計算では、配賦費用を段階的に反映することで、診療科・部門がどの段階で利益を確保できているかまで分析できます。

診療科別・部門別のクロス分析で赤字要因を掘り下げる

部門別損益や診療科別損益だけでは、赤字となっている場所は把握できても、その原因まで十分に特定できない場合があります。

そこで、診療科と部門を組み合わせて損益を分析することで、診療科ごとにどの部門で収益や費用が発生しているのか、また、特定の部門においてどの診療科との関係で収益や費用が生じているのかを、より詳細に確認できます。

例えば、ある診療科の採算が悪化している場合でも、診療科全体の損益だけを見るのではなく、病棟、外来、手術、検査などの部門別に分解することで、どの部門が損益に影響しているのかを掘り下げることができます。

このように、診療科別・部門別の二つの軸を組み合わせて分析することで、病院全体から診療科、部門、さらに診療科と部門の組み合わせへと段階的に赤字要因を絞り込むことができます。

固定費と変動費を分けて打ち手につなげる

費用を固定費と変動費に分けて管理すると、患者数や診療量の変化が利益にどのような影響を与えるのかを把握しやすくなります。

例えば、診療量の増減に応じて変動する材料費などを変動費として捉え、それ以外の費用と分けて分析することで、費用構造の特徴を把握しやすくなります。

変動費の負担が大きい場合には、その内訳や推移を確認し、診療量との関係や調達条件などを分析することで、改善可能な要因がないかを検討します。

一方、固定費の負担が大きい場合には、単純に費用を削減するだけでなく、人員配置や勤務体制などの構成を見直すことも改善策の一つです。また、患者数や病床稼働率を高めるなど、現在の経営資源をより有効に活用し、固定費に対して十分な収益を確保するという視点も重要です。

このように、費用を固定費と変動費に分けて捉えることで、費用構造のどこに赤字要因があるのかを整理し、改善策の優先順位を検討しやすくなります。

病院で管理会計を始めるときのポイント

管理会計は、最初から精緻な仕組みを構築する必要はありません。まずは経営判断に必要な数字を明確にし、既存のデータを活用しながら段階的に整備していくことが重要です。

目的を「説明できる状態にすること」に定める

管理会計を始める際は、まず「何を把握し、どのような意思決定に活用するのか」という目的を明確にすることが大切です。

例えば、診療科別の採算を把握したいのか、給与費が増加している原因を特定したいのかによって、必要なデータや集計単位は異なります。

優先すべきなのは、最初から完璧な制度を構築することではなく、経営会議や現場に対して「なぜこの数字になっているのか」を説明できる状態をつくることです。まずは目的に必要な範囲から着手し、運用しながら精度を高めていくとよいでしょう。

既存の会計データと部門データを棚卸しする

管理会計の整備は、すでに院内に存在する会計データや部門別データを棚卸しすることから始めます。

例えば、会計システムの仕訳データ、給与データ、患者数、病床稼働状況、診療実績など、院内には管理会計に利用できるデータがすでに蓄積されている場合があります。

ゼロから新しい仕組みをつくるのではなく、「どのデータが存在するのか」「どの単位まで取得できるのか」「どのデータ同士をひも付けられるのか」を整理することで、導入時の負担を抑えつつスムーズに管理会計をスタートできます。

配賦基準を関係者が納得できる形で決める

管理会計を始める段階で、自院に最適な配賦基準をすべて決めようとすると、関係者との調整やデータ収集に時間がかかり、実際の運用を始めるまでのハードルが高くなります。

そのため、まずは他院での運用実績やこれまでに蓄積されたノウハウをもとに設定された標準的な配賦基準を使用し、実際のデータから部門別・診療科別の損益を算出する方法があります。

算出された結果を経営会議や現場で確認すると、「実際の診療実態と数字が合わない」「この費用は別の基準で配賦した方が実態を表せる」といった具体的な意見が生まれます。

こうしたフィードバックをもとに配賦基準を見直すことで、最初から関係者全員で基準を決めるよりも、実際の数字を共通材料として、自院の実態に合った配賦基準を検討しやすくなります。

最初から精緻さを求めず運用を回す

管理会計は、最初から完成された仕組みをつくるのではなく、実際に運用しながら自院に合った形へ改善していくことが重要です。

まず標準的な設定で損益を算出し、その結果を経営会議や現場で確認します。そこで得られたフィードバックをもとに配賦基準を見直し、再び結果を確認するというPDCAを繰り返します。

このプロセスを複数回繰り返すことで、病院ごとの診療体制や部門構成、費用の発生実態などが配賦基準に反映され、徐々に自院の経営実態を捉えやすい管理会計へと精度を高めることができます。

重要なのは、最初の結果を「完成した数字」と考えるのではなく、経営層や現場との対話を始めるための材料として活用することです。実際の数字を見ながら検証と改善を繰り返すことで、自院の経営判断に活用できる管理会計の仕組みを構築していきます。自院のデータを使って進め方を確認したい場合は、1日で病院の原価計算ができるセミナーで具体的な流れを確認できます。

病院の経営判断に使えるレポートを整備するには

管理会計の数字を経営判断に活かすには、正確に集計するだけでなく、経営層や現場が判断に使える形でレポートを作成し、継続的に更新できる仕組みを整えることが重要です。

経営会議の意思決定に使える要素を揃える

経営会議で使用するレポートには、当月の実績だけでなく、前月や前年同月との比較、予算や目標との差異など、数値の変化や乖離がわかる情報を盛り込むことが重要です。

さらに、単に数字を並べるだけではなく、「どの指標が変化したのか」「なぜ変化したのか」「今後どのような対応が必要なのか」という順序で確認できるようにすると、具体的な意思決定につながりやすくなります。

経営会議で優先的に確認する指標をあらかじめ定め、異常値や大きな変化が生じた項目を掘り下げられるレポートにしておくことが重要です。

医師や現場に説明するための見せ方を工夫する

診療科別・部門別の数字を医師や現場に共有する際は、経理・事務部門向けの資料をそのまま提示しても、数字の意味や改善すべきポイントが十分に伝わらない場合があります。

そのため、数字だけを提示するのではなく、前年同月や目標との比較、患者数や単価などの関連指標を併せて示し、「なぜこの結果になったのか」を現場が理解できる形で説明することが重要です。

また、管理会計上の数値や指標をそのまま伝えるのではなく、現場の診療や業務と結び付けて理解できる言葉に置き換えることも重要です。例えば、収益や費用の増減を示すだけでなく、「患者数の変化によるものなのか」「1人当たりの単価が変化したのか」「人員配置や材料の使用状況が影響しているのか」といった、現場が日々の業務と関連付けて考えられる形に整理します。

グラフや推移表などで見える化し、数字が意味することを現場に伝わる言葉で表現することで、経営上の数字を現場の具体的な行動と結び付けやすくなります。こうした「数字の見える化」と「意味の言語化」の両方を行うことが、部門を越えて改善に取り組むための土台となります。

月次で更新できる運用体制をつくる

レポートは一度作成して終わりではなく、同じ基準で月次更新を継続できる体制を整えることが重要です。

担当者が変わっても同じ結果を再現できるよう、データの取得元、集計方法、計算式、配賦基準、更新手順などを明文化しておくことで、属人化を防ぎやすくなります。

また、毎月の更新作業に過度な負担がかかると運用そのものが継続しにくくなります。そのため、既存データの活用や集計作業の標準化・自動化なども検討し、継続して経営判断に利用できる仕組みにすることが重要です。

自院の経営指標をどのように見える化すればよいか整理したい場合は、原価計算統計調査で具体的な流れを確認できます。

よくある質問

Q. 配賦基準はどのように決めればよいですか?

A. 配賦基準は、事務部門だけで決めるのではなく、関係する診療科や部門の責任者と基準の考え方を共有し、合意を得ながら決めることが重要です。

配賦基準の設定によって各部門・診療科の損益は変わるため、「なぜこの基準を採用しているのか」を説明できる状態にしておきます。現場から疑問が出た際にも根拠を示せるようにすることで、管理会計の数字に対する納得感を得やすくなります。

Q. 院内独自の経営管理資料がありますが、形骸化しており経営状況が正しく理解できているか不安です。

A. 経営指標は、出力された数値だけを見て良し悪しを判断するのではなく、その数値が生じた背景まで確認することが重要です。

まず自院の過去実績や予算との比較によって変化を把握し、そのうえで医療機能、病床規模、診療科構成などが近い病院と比較すると、数値を評価しやすくなります。

また、管理会計システムによって費用の集計範囲や配賦方法が異なる場合があるため、他院との比較を行う前に、出力されている指標の定義や算定方法を確認することも重要です。

Q. 按分の仕方によって診療科別の損益が変わってしまい、現場への説得力が持てません。どうすればよいですか?

A. 按分や配賦の方法によって診療科別損益が変わること自体は、管理会計上避けられない部分があります。そのため、「唯一の正しい配賦基準」を求めるのではなく、経営管理の目的に照らして合理的であり、関係者に説明できる基準を設定することが重要です。

配賦基準を変更する場合には、変更理由と診療科別損益への影響を明示し、過去の数値との比較可能性にも配慮します。基準とその考え方を継続的に共有することで、現場が数字を改善活動のための情報として受け止めやすくなります。

病院の経営に管理会計の視点を取り入れる

病院経営の赤字要因は、決算書の数字を見るだけでは具体的に特定することが難しい場合があります。

医業収益の中心となる保険診療の収益は診療報酬制度に基づいて算定される一方、費用は診療科や病棟だけでなく、検査、手術、事務など複数の部門にまたがって発生します。そのため、病院全体の損益だけでは、「どこで、なぜ赤字が生じているのか」まで把握することは容易ではありません。

部門別・診療科別の採算が見えず、赤字要因を経営層や現場に説明しにくい場合には、税務会計や財務会計に加えて、管理会計の視点を取り入れることが解決の糸口となります。

管理会計によって収益や費用を部門別・診療科別に捉え、患者数や単価、病床稼働率、給与費比率などの経営指標と組み合わせて分析することで、赤字が生じている場所だけでなく、その背景にある要因まで掘り下げやすくなります。

重要なのは、最初から精緻な仕組みを構築することではありません。まずは自院にあるデータを整理し、経営上の課題を説明できる範囲から管理会計を始め、実際の意思決定に活用しながら継続的に精度を高めていくことが重要です。

自院の経営指標をどのように整理し、経営判断に活用すればよいか検討したい場合は、経営指標の見える化をサポートしているKEYbirdサポート窓口から相談できます。

この記事のまとめ

  • 病院経営の赤字要因は、病院全体の決算書だけでは具体的に特定することが難しい。
  • 管理会計の視点を取り入れることで、部門別・診療科別に収益と費用を把握し、採算の違いを分析できる。
  • 経営指標は単独の数値だけで判断せず、自院の医療機能や病床規模、診療科構成などを踏まえて読み解くことが重要である。
  • 部門別・診療科別損益を活用する際は、合理的な配賦基準を設定し、関係者に説明できる状態をつくることが重要である。
  • まずは概算値であっても算出し、既存のデータを活用して運用を始め、継続的に改善していくことが重要である。

※出典01:厚生労働省「病院又は老人保健施設等を開設する医療法人の運営管理指導要綱について(医政発第0819001号 平成16年8月19日)」

※出典02:厚生労働省「医療機関を取り巻く状況について」(第623回中央社会保険医療協議会総会 資料、令和6年10月29日)


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本稿の監修者

鬼頭 沙希(きとう さき)
税理士法人日本経営

看護師・保健師として医療現場に従事した後、新規事業コンサルティングや医療機器システムの導入を経験。経営分野の専門性を高めるため海外MBAで経営管理を学ぶ。現在は病院向け管理会計システムKEYbirdの運用支援を中心に、原価計算、病院経営に関する情報発信に携わっている。医療現場と経営の双方の視点を活かし、病院経営の課題整理や数値の見える化を支援している。

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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