医療経営の未来を支える組織文化/組織開発のアプローチ
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
はじめに
現代の医療機関を取り巻く環境は、これまで以上に厳しさを増しています。診療報酬の改定やコストの増加に加え、団塊の世代が大量に定年退職を迎え、人材採用も年々難しくなっています。さらに、働き方改革やハラスメントへの対応も求められ、現場の管理職を含めたマネジメントの負担も増大しています。
このような環境下で、病院経営者として「どう組織を舵取りしていくべきか」「健全な利益を維持しつつ、未来に希望を持てる組織をどう創っていくべきか」に悩まれている方も多いことでしょう。
組織運営の現状と成果主義の導入
現在、多くの病院で中央集権的な管理体制から脱却し、部門別の目標管理や実力主義を採用する流れが進んでいます。AIなどのテクノロジーの発展も追い風となり、経営管理の効率化や業務の「見える化」が加速しています。この結果、診療科や部門ごとに成果に応じた評価が行われ、業績向上が期待されています。
しかし、成果主義や効率化を追求する体制には、思わぬ落とし穴も存在します。管理職や現場スタッフが成果達成に追われすぎると、現場の負担が増し、精神的な疲弊が蓄積しやすくなるのです。特に医療の現場では、人材不足やメンタルヘルスの問題が生じやすく、組織内に不安や不信感が広がるリスクがあります。
成果至上主義がもたらす組織崩壊リスク
成果を求める体制そのものは、効率性や収益性の観点から望ましいものです。しかし、成果至上主義に過度に偏ると、管理職が目標達成に追われ、チームの指導やサポートが十分に行き届かなくなり、次第に組織全体が分裂していく恐れがあります。
管理職が部下を支える時間を持てなくなると、主任クラスは迷走し「自分が何をすれば良いのか分からない」と「上司、部下の調整にストレスがかかる」と不満を溜め込み、スタッフは「上司が忙しすぎて話ができない」「評価ばかりで自分が見られていない」といった不信感を抱くようになります。こうした状況が続けば、リーダーを希望する職員は減少し、意欲ある職員が次々に離職し、組織全体の士気が低下するリスクが高まります。いかに目に見える成果を上げても、職場に不安が広がれば、その効果は一時的なものになりかねません。
組織文化を育む意義と経営者の役割
このような中で、経営者にとって重要な役割のひとつが「組織文化」の育成です。単なる成果主義を超えて、現場のスタッフが一人ひとり誇りを持って働けるような環境を築き上げることが、持続可能な医療経営にとっての鍵となります。
組織文化は、すぐに目に見える成果をもたらすものではありません。しかし、職員が「やりがい」や「仲間と共に成長する喜び」を感じられる環境は、長期的に見て病院全体の信頼性や安定性に大きく寄与します。組織の結束を強め、職員一人ひとりのエンゲージメントを高めることが、現場の主体性と協働意識を引き出すために欠かせないのです。
組織文化づくりをどう進めるか
まず、経営者から「職員から選ばれる組織」を目指す方針を全職員に伝えることが重要です。職員の目線に立ち、現状の士気や雰囲気に強い問題意識と関心を持ち、「現場が抱える課題に本気で向き合う」という姿勢を伝えることが、職員の変化を促すきっかけになります。
次に、管理職との対話の場を増やし、彼らの葛藤や悩みに耳を傾けることです。管理職が日々抱えるプレッシャーや不満を共有し、心理的安全性を確保することが大切です。具体的には管理職を集めた場づくりを発足することが必要でしょう。時間がかかる取り組みではありますが、月に1回程度の機会を持つことが求められます。ここで経営層と信頼関係を築いたうえで、「理想のチーム像」「新しい一歩」を共に考え、少しずつ改善を進めていくことが組織文化づくりの第一歩となります。
新年度は絶好のチャンス
新年度のスタートは、経営方針を職員に伝え、組織文化づくりを開始する好機です。年度の始まりに経営者としての思いを全職員に発信し、新しい方針に向けて管理職との対話セッションを実施することで、少しずつ組織の空気を変えていくことができます。
ぜひ、新年度を契機に、健全で力強い組織文化づくりに一歩を踏み出してみてください。
病院幹部のための組織開発講座 第18弾
『新年度に向けた組織文化の再構築(1)』
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組織開発というアプローチ
- リーダーを本気で育てる病院が増加している
- 医療業界に組織変革の時代が到来する~医療マネジメント学会、日本病院協会のランチョンセミナーを経て~
- 組織内の分断が進む時代に求められる病院の組織づくり
- 病院内部をいかに立て直すか ~新年度を迎えるにあたって~
- 新年度からはじめる組織改革
- 病院の組織に未来はあるのか?/組織開発のアプローチ
- 生き生きとした職場を築くための鍵
- 人づくりは「環境」が鍵を握る
- 長引くコロナ禍による医療現場の士気低迷の後遺症をどう脱却するか?
- あなたが求めているリーダーシップ研修はどのレベル?
- 新年度から「力強く前進の流れを創り出す」
- 成果を出すために創意工夫を凝らす
- 管理職の志に火をつけ、部署の活動力を高める「効果的な」目標管理制度とは何か?
- 病院組織に「生気」を取り戻すにはどうすればよいのか?
- 事業計画と目標は、事業の進化と人材の団結・成長を生み出す鍵となるか?
- これからどのようにして病院組織の士気を高め、リーダー人材を育てるか?
- 管理職、監督職のポテンシャルを引き出す
- ファミリー経営の「強み」を活かす
- 管理職なら誰もが直面する“自己超越”という壁
- 管理職の主体性・リーダーシップをいかに高めるか
- 戦略・目標を実現するための組織づくり
本稿の執筆者
江畑直樹(えばた なおき)
株式会社ミライバ 取締役
2003年日本経営入社。主に医療機関、福祉施設の組織創りや幹部・管理職・監督職の研修に従事。2018年に株式会社ミライバを設立し、組織開発コンサルティングや人材開発研修の支援を行う。成人発達理論、学習する組織、U理論、インテグラル理論、NVC等の理論をベースとし、首都大学東京専門職大学院や日本社会事業大学専門職大学院では、これら理論を軸とした組織創りやサービス開発等について看護管理者、福祉管理者を対象に授業を行う。
株式会社ミライバ/株式会社日本経営
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