医師労働時間短縮計画と医師の勤務への影響・労務マネジメント(まとめ)
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
医師労働時間短縮計画と医師の勤務への影響・労務マネジメント(まとめ)
各レポートはレポート掲載時の情報に拠っていますので、ご了承ください。意思決定にあたっては最新の情報をご確認ください。
1. 医師労働時間短縮計画の概要と提出に向けたポイント
株式会社日本経営 /チームリーダー 植田 なつき
2021年4月21日
医師労働時間短縮計画とは
医師時間外労働の上限規制適用に向けて、さまざまな議論が展開されてきました。
令和6年度(2024年)から全ての勤務医に時間外労働の上限規制が適用となります。各病院では、年間960時間以下の「A水準」を原則とし、地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる「B・連携B水準」、集中的な技能向上のため認められる「C水準」として、年間 1,860 時間・月 100 時間未満(例外あり)の上限時間の枠組みが適用されます。
また、令和17年度(2035年)までにはB水準を廃止することを目標に、各医療機関には一層の労働時間短縮が求められています。
医師労働時間短縮計画は、こういった背景の中で、時間短縮に向けたPDCAサイクルをしっかりと回し、その取組みを確実に推進していくことが狙いとなっています。
そこで、今回は、医師労働時間短縮計画の概要と提出に向けたポイントを解説します。
※当初レポートに記載誤りがあり、4月27日に全面的に訂正いたしました。
計画提出が求められる医療機関
- (B・C水準を受けなくても)令和2年度~令和5年度までに年間時間外・休日時間数が960時間を超える医師がいる医療機関(※令和6年度以降はB・連携B/C水準の指定を受けている医療機関限定)
- 令和3年度中に係る36協定の届出において、年間時間外・休日時間数が960時間を超える36協定を締結する医療機関
計画期間
令和5年度までの計画期間は以下のとおり。
計画始期:令和3年10月~令和4年9月(P)
計画終期:令和6年3月末日
- 計画策定は、令和3年10月~令和4年9月(P)までに必要
- 都道府県に提出後は、実績を踏まえて見直し行い、毎年提出
医師労働時間短縮計画の記載事項
医師労働時間短縮計画は、労働時間の状況の適切な把握と労働時間短縮の取組を促すため、各医療機関に共通して記載が求められる事項と、医療機関の多様性を踏まえた独自の取組の双方から構成されることが重要であるとされています。
このため、「必須記載事項」と「任意事項」に分け、医療機関の判断により計画の内容を検討することができます。
任意記載事項に関しては、4つの項目のうち最低1つの取組の実績と目標を計画に記載する必要があります。
(1)必須記載事項
①労働時間
以下の全ての項目について、前年度実績及び当年度目標並びに計画期間終了年度の目標を記載することが求められています。
- 年間の時間外の・休日労働時間数の平均
- 年間の時間外の・休日労働時間数の最長
- 年間の時間外の・休日労働時間数960時間超~1,860時間の人数・割合
- 年間の時間外の・休日労働時間数1,860時間超の人数・割合
※集計単位は、医療機関全体及び診療科又はプログラム/カリキュラム単位。
※対象職種は医師に限る。
また、目標値は医師労働時間短縮目標ラインを目安に設定する必要があります。医師労働時間短縮目標ラインとは、地域医療確保暫定特例水準を解消するために段階的に設けられた目標ラインで、以下のように設定されています。
2027 年:X-(X-960)/4
2030 年:X-2(X-960)/4
2033 年:X-3(X-960)/4
2036 年:960
(X:2024年4月時点の年間時間外・休日労働時間数)
②労務管理・健康管理
以下の全ての項目について、「前年度取組内容」及び「当年度目標」並びに「計画期間終了年度の目標」を記載します。
- 労働時間管理方法
- 宿日直基準に沿った運用
- 医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続き等
- 労使の話し合い、36協定の締結
- 衛生委員会、産業医等の活用、面接指導の実施体制
- 追加的健康確保措置の実施(令和6年3月以前は任意)
③意識改革・啓発
以下の項目のうち、最低1つの取組の実績と目標を記載します。
- 管理者マネジメント研修
- 働き方に改革に関する医師の意識改革
- 医療を受ける者やその家族等への医師の働き方改革に関する説明
上記の通り、医師の労働時間短縮には、管理者のマネジメント能力や働き方改革に関する医師の意識改革などが求められます。
しかし、医師への研修は簡単ではありません。そこで、弊社では、医師の働き方改革に必要なポイントを凝縮させた2種類(全医師向け、管理者向け)の研修プログラムをご用意しました。
④策定プロセス
各職種が参加する委員会や会議、チーム等において計画の検討を行い策定されているか、また、計画内容が医師に周知されているか等を記載します。
(2)任意記載事項
各医療機関の状況によって、実施可否が異なることから、最低一つの取組の実績と目標を記載します。
- タスク・シフト/シェア
- 医師の業務の見直し
- 副業・兼業を行う医師の労働時間の管理
提出に向けたポイント
今後、B、連携B・C水準の対象となる医療機関は、都道府県より指定を受けるため、評価機能による受審が必要となります。
評価機能の評価は、短縮計画に記載された目標項目に基づいて行われる予定であり、そういった意味でも医師労働時間短縮計画策定は重要です。
また、B、連携B・C水準を受けなくても、現時点で960時間を超える労働をする医師が一人でもいる医療機関では、その改善に向けた取組が求められます。
短縮計画の作成においては、作成支援のため雛形が示されることも検討されていますが、「計画をつくればいい」といった簡単な話ではありません。
なぜ、これまで医師の労働時間に関する問題は「パンドラの箱」とされてきたのか。
そこには、医師が高度な専門能力を必要とする職種であることや、医師不足、医師の給与設定の問題など様々な課題が複雑に絡んでいるのです。
特に医師の働き方改革に関しては、「客観的で正しい情報」を伝えていくことが重要で、病院側は法改正・国の方針に従って実施していることでも、伝わり方次第では、「病院は給与を減らそうとしている」といった誤解による不信感が、現場医師の間で募ってしまうケースもあります。
そういった意味では、第三者機関が関わった中での体制構築を行うため、弊社へのお問合せが増えていることも事実です。
今、「医師の働き方」というテーマは大きな過渡期を迎えようとしています。分かっていることは、いずれにせよ、あと数年で逃げ道は無くなるということです。
そのため、現場医師に納得してもらいつつ、法令遵守によって病院経営を守るため、各医療機関の対応が問われています。
このレポートの解説者
植田なつき(うえだ なつき)
株式会社 日本経営 組織人事コンサルティング
2. 医師労働時間短縮計画の作成の時期等の変更
株式会社日本経営 /取締役 橋本竜也
2021年7月7日
計画策定が努力義務に
7月1日に行われた「 第12回医師の働き方改革の推進に関する検討会」において、「年間の時間外・休日労働時間数が 960 時間を超える医師」が勤務する医療機関に義務付けられる予定だった「2023年度末までの計画策定」が努力義務になることが発表されました。
A水準を取得する場合
これにより、2024年度から始まる医師の労働時間の上限規制において、A水準(時間外・休日労働が年960時間以内)を取得する予定の医療機関では、医師労働時間短縮計画を作成しなくてもよいことになりました。
連携B・B・C-1,C-2水準を取得する場合
A水準以外の特例水準の認定を受ける医療機関は、2023年度末までに第三者評価を受けて認められなければなりませんが、この評価を受けるまでに医師労働時間短縮計画を作成しなければなりません。
しかも、この第三者評価を受けるために必要な計画は、それまでの実績と2024年度からの取り組み目標が必要とされています。
そのため、特例水準の認定を受ける医療機関は、計画策定の準備を進めなければならない状況となっていますので、ご注意ください。
連時短計画では意識改革・啓発の取り組みが必要
同日の検討会で示された「医師の労働時間短縮計画ガイドライン(案)」では、「意識改革・啓発」の取り組みとして、次のうち最低一つの取り組みが必要とされています
管理者マネジメント研修 | 病院長や診療科長等が管理者のマネジメント研修を受講しているか等 |
働き方改革に関する医師の意識改革 | 働き方改革について医師の意見を聴く仕組みを設けているか、医療機関が進める働き方改革の内容について医師にきちんと周知する仕組みが整っているか等 |
医療を受ける者やその家族等への医師の働き方改革に関する説明 | 医療を受ける者やその家族等に対し、医師の働き方改革を進めていること、そ れにより、外来等の場面で影響があることについて、理解を求める旨の掲示を 行っているか等 |
これらの中でも管理者マネジメント研修や医師の意識改革は、働き方改革を進めていくうえで非常に重要と言われていますが、院内で実施することは難しいという声も少なくありません。
そこで、管理者マネジメント研修や勤務医の意識改革にご活用いただける動画をご提供しているのですが、大変な反響をいただいております。
特例水準の取得をお考えの医療機関様はもちろん、医師の働き方改革はすべての医療機関様にとって死活問題となる取り組みだと考えております。ぜひご活用いただければと思います。
このレポートの解説者
橋本竜也(はしもと たつや)
株式会社 日本経営 取締役
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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