投稿日:2026年9月30日

  • 患者と地域に選ばれる病院をつくる組織マネジメント

【患者と地域に選ばれる病院をつくる組織マネジメント:第1回】なぜKPIを詰めるほど職員は冷めるのか? 選ばれる病院をつくる「パーパス」の腹落ちと経営方針

「病床稼働率を上げろ」「診療報酬の加算を取れ」——。経営会議で数字を叫び、進捗を徹底管理するほど、現場の心は離れ、指示待ち職員が増えていく……。多くの病院経営者が直面するこの問題の根本原因は、職員のモチベーションではなく「目標の伝え方」にありました。選ばれる病院をつくるために、いま経営トップが伝えるべき「パーパス(存在意義)」と経営方針の腹落ちプロセスを解説します。

1. 数字を詰めるほど「組織が冷え切る」メカニズム

「経営目標(KPI)を達成するために数値管理を強化しなければならない」と考え、徹底した進捗管理や具体的な指示出しに躍起になっていないでしょうか? 実は、この「目的の共有を欠いたKPIマネジメント」こそが、職員の主体性や参画意識を奪う最大の要因になっています。

医療現場で働く医師、看護師、その他のメディカルスタッフにとって、黒字化や病床稼働率はあくまで「経営の結果」であり、「働く目的」ではありません。

目的(Why)が共有されないまま「加算を取れ」「目標未達だ」と手段(How)ばかり詰められる現場では、職員の中に「やらされ感」が蔓延します。結果として、「指示されたことだけやればいい」「どうせ誰がやっても同じ」という思考停止に陥り、離職やセクショナリズムを引き起こしてしまうのです。

【やらされ感を生む組織の負のループ】

1. 数字(KPI)の管理・指示出しを強化
↓
2. 働く「目的」や「意義」が見えなくなる
↓
3. 「言われたことだけやる」指示待ち文化が蔓延
↓
4. 結果が出ず、さらに数字で詰められる

2. レンガ積み職人に学ぶ「手段」から「目的」への転換

組織マネジメントにおいて、人間が自律的に動き出すための基本原則は非常にシンプルです。

【主体性が育つ組織の基本原則】

  1. 自分の取り組みに「意義や価値」があると思える(理念・パーパスへの共感)
  2. 周囲から「必要とされている」と実感できる(役割と期待)
  3. 貢献すれば「報われる」と信じられる(適切な評価と承認)

これらを語るうえで有名なのが「3人のレンガ積み職人」の物語です。

「何をしているのか?」と問われた際、

  • Aさん:「レンガを積んでいるのさ」(職務・作業)
  • Bさん:「家を建てているのさ」(手段・目標)
  • Cさん:「ここに住む家族の幸せをつくっているのさ」(目的・パーパス)

3人の中で、最も自発的に工夫し、丁寧に質の高い仕事をするのは間違いなくCさんです。

病院経営も全く同じです。「病床稼働率を上げるために動く」のはAさん・Bさんの仕事です。いま現場に必要なのは、「自分たちの医療が、地域の患者さんや家族のどんな幸せ(パーパス)をつくっているのか」という目的の再定義なのです。

3. 「お飾りビジョン」を脱し、現場が共感するパーパスをつくる

自律型組織をつくっている病院に共通するのは、トップが「存在意義(パーパス)」を熱量高く語り続けている点です。

ただし、「最高の医療で地域に貢献する」「日本一の病院を目指す」といった抽象的すぎるスローガンでは、現場の心は動きません。魅力的なビジョンやパーパスには、「誰(何)を、どう幸せにするのか」という具体的な価値提供が組み込まれています。

  • マネジメント効果を発揮しにくい例:
    • 「最新の医療を最高の技術で提供する」
    • 「地域から必要とされる病院になる」
  • 職員の心を動かす魅力的な例:
    • 「患者さんを一日でも早く家庭・社会復帰させる」
    • 「どんな病を抱えても、自分らしく生きられる地域づくりに貢献する」

「この地域をどう変えたいのか」「自分たちはどんな医療体験を届けたいのか」。トップが描く理想の世界観(Why)が明確になって初めて、現場は「どう貢献するか(How)」を主体的に考え始めます。

4. 経営方針を現場に「腹落ち」させる3つの仕掛け

どれほど素晴らしいパーパスや経営方針を掲げても、額縁に入れて壁に飾っておくだけでは意味がありません。トップの想いを現場の「自分ごと」に変えるためには、組織的な仕掛けが必要です。

① トップ自らが思考と情報を「オープン化」する

トップが何を考え、どこを目指しているのかが見えない状態では、職員はベクトルを合わせようがありません。決算数値などの「透明化」だけでなく、経営陣の意図や葛藤、未来への展望といった「思考のオープン化」をして継続的に発信・共有することが、相互信頼の土台となります。

② 現場に「問いかけ」と「考える余白」を残す

具体的な指示(DOリスト)を上から与えすぎると、現場は指示待ちになります。「患者さんから選ばれる病院になるために、私たちの部署でできることは何か?」といった抽象的な問いを投げかけ、現場に考える余白をつくることが、当事者意識を育みます。

③ 対話型グループワークによる「自分ごと化」

「方針を浸透させよう」と上から経営方針を押し付けられても腹落ちはしません。年に1回でも「当院のパーパスは、自分自身の仕事やキャリアとどう繋がっているか?」を職員同士で語り合うグループワークの場を設けると、理念が自分の言葉へと変わります。

【まとめ】最高の自律型組織をつくる第一歩

職員の主体性を引き出し、「患者さんや地域から選ばれる病院」をつくるスタート地点は、数字による管理ではありません。

  1. 「手段(KPI・加算)」の提示をやめ、「目的(存在意義)」を語る
  2. 「誰をどう幸せにするか」というビジョンを明確にする
  3. 現場がパーパスを自分ごと化できる対話と共有の場をつくる

トップが目指すべき世界を示し、現場がそれに共感したとき、組織は指示を出さずとも自律的に動き出します。

次回、第2回【戦略・計画 編】では、このパーパスを一過性の想いで終わらせず、部門間の壁(セクショナリズム)を打ち破って「全員で動く具体的な戦略共有手法」について解説します。

指示待ち組織から「自律型組織」へ。現場主導の変革に成功した事例を見る

関連セミナー


【大阪開催】
病院トップマネジメントセミナー2026

病院経営の「次の一手」を探求する特別プログラム。特別講師として、データサイエンス×ヘルスケア分野のトップランナー・宮田裕章氏が登壇

本稿の監修者

橋本 竜也(はしもと たつや)
株式会社日本経営 代表取締役社長

1999年入社以来、人事コンサルティング部門にて、一貫して病院・企業の人事制度改革に携わるほか、不採算病院の経営再建にも従事。病院のコンサルティング実績は100病院を超え、全国の医師会、金融機関、各種団体等での講演も多数。

公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 医業経営コンサルタント第7437号
第21回日本医業経営コンサルタント学会 最優秀賞(2018年11月)
第25回日本医業経営コンサルタント学会 最優秀賞(2022年10月)

■著書
「チームパフォーマンスの科学」幻冬舎2021年12月
「中小企業の未来戦略を具現化する!組織マネジメント実践論」プレジデント社2022年10月

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

関連レポート


お問い合わせ

どんな小さな疑問や不安にも、
私たちは耳を傾けます。
まずはお気軽にご相談ください

ページを表示できません。
このサイトは、最新のブラウザでご覧ください。