現場の部長や師長が主体性を発揮せず、どんな判断も経営層にお伺いを立ててくることに頭を悩ませていないでしょうか。管理職の当事者意識が足りないと感じる場面は多いものですが、原因は個人の資質や能力だけではありません。
根本的な原因は、「責任や目標だけを負わせ、決定権(権限)を与えていない」組織構造にあるケースが少なくありません。第3回では、現場が自ら判断しスピーディーに動くための「役割」と「権限」の設計方法を解説します。
1. 「権限なき責任」が管理職を保身に走らせる

現場のリーダーに対して「部門目標の達成」や「業務改善」といった重要な役割(責任)を課しながら、少額の費用決裁権や採用・配置に関する裁量権をまったく与えていないケースが多くの病院で見られます。
権限がない状態で結果責任だけを追及されると、人間は本能的に「余計な判断をして失敗するより、経営層の指示を仰ぐのが一番安全だ」という防衛反応を働かせます。これが「指示待ち管理職」が生まれる構造です。自律的に動く管理職を育てるには、役割を課すと同時に、それを遂行するために必要な「裁量(権限)」をセットで与える必要があります。
2. 「職務志向」から「役割志向」へのマインドシフト
管理職や現場スタッフの動きを変えるには、「何をするか(DO)」ではなく「何を実現するか(OUTCOME)」に目を向けさせることが重要です。
- 職務志向(DO)
- 視点: 決められた業務を消化する(何をしたか)
- 行動: 「自分の担当業務ではない」と線引きする
- 組織状態: 担当が曖昧な業務がこぼれ落ち、他部署と衝突する
- 役割志向(OUTCOME)
- 視点: 目的や価値を実現する(何を成し遂げたか)
- 行動: 目的達成のために領域を超えて連携・工夫する
- 組織状態: 全体最適で自発的にフォローし合う

例えば、部門目標の達成や人材育成といった「実現すべき役割」を明確にし、その手段は現場リーダー自身が考えて決めてよいという環境を作ることで、初めて当事者意識が芽生えます。
3. 権限委譲の基準(権限マトリクス)の可視化
現場が迷わずに判断を下せるようにするには、「何をどこまで現場で決めてよいか」の境界線を明確にすることが不可欠です。
- 物品の購入・設備投資: ○万円以下の業務改善費用は部長決裁で即実施可能
- 採用・配置: 現場スタッフの面接や選考・採否の判断に部門長が直接関与できる
- 業務フロー改善: 部門内の合意があれば、経営会議を通さずに即座にフローを変更できる
このように権限の範囲を明確に定義して渡すことで、意思決定のスピードが劇的に上がり、経営層が細かな現場の判断に追われる状況から脱却できます。
また、権限を渡した初期段階で発生する判断ミスや失敗に対して、経営層は結果だけを咎めるのではなく「なぜその判断に至ったのか」というプロセスについて対話し、学習の機会に変える姿勢(心理的安全性の確保)を持つことが、自律型組織の成長を支えます。
【まとめ】現場が自ら動く組織をつくるカギ
「指示待ち管理職」が生まれる原因は、個人の資質や当事者意識の欠如ではありません。責任だけを負わせて決定権を与えていない「組織構造」にあります。
管理職を保身から解放し、現場主導で自律的に動く病院をつくるためには、次の3つのステップで組織を整えることが不可欠です。
- 管理職の資質を疑う前に、「役割(責任)」に見合った「権限(裁量)」が渡されているか点検する
権限のない状態で責任だけを問われると、職員は保身(指示待ち)に走ります。目標達成に必要な決裁権や配置の裁量をセットで渡すことが第一歩です。 - 「何をするか(職務)」ではなく「何を実現するか(役割)」で評価・管理する
作業(DO)を細かく管理するのではなく、達成すべき目的(OUTCOME)を明確に定義し、そこに至る手段や工夫は現場リーダーに委ねます。 - 決裁や変更の「権限の境界線」を明確にし、失敗を学習に変える組織風土をつくる
「どこまで現場で決めてよいか」の基準を可視化します。また、初期の判断ミスに対して結果だけを咎めず、プロセスの対話を通じて学習機会に変える姿勢が自律性を育てます。
「パーパス」「戦略」「権限」が整っても、組織に本当に貢献している職員が正しく報われなければ組織は疲弊します。次回最終回である第4回では、「貢献に報いる評価・処遇の設計と、そこに至る組織改善のロードマップ」 について解説します。
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本稿の監修者

橋本 竜也(はしもと たつや)
株式会社日本経営 代表取締役社長
1999年入社以来、人事コンサルティング部門にて、一貫して病院・企業の人事制度改革に携わるほか、不採算病院の経営再建にも従事。病院のコンサルティング実績は100病院を超え、全国の医師会、金融機関、各種団体等での講演も多数。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 医業経営コンサルタント第7437号
第21回日本医業経営コンサルタント学会 最優秀賞(2018年11月)
第25回日本医業経営コンサルタント学会 最優秀賞(2022年10月)
■著書
「チームパフォーマンスの科学」幻冬舎2021年12月
「中小企業の未来戦略を具現化する!組織マネジメント実践論」プレジデント社2022年10月
本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。
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