なぜ、いま病院経営者の中で「組織文化づくり」が注目されるのか?/組織開発のアプローチ
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業種
病院・診療所・歯科
- 種別 レポート
病院の内部で起きている問題症状
12月12日(木)に「新年度に向けた組織文化の再構築(1)」というタイトルでWEBセミナーを開催しました。今回のテーマは「組織文化」という一見抽象的で捉えどころのない内容でしたが、結果として130名強の方々にお申し込みをいただきました。参加者の中心は経営者や経営幹部の方々であり、その関心の高さに驚かされました。アンケートの満足度も99%強と非常に高い評価をいただき、改めて多くの病院経営者が組織文化というテーマに強い関心を持っていることがうかがえました。
セミナー後のアンケートからは、以下のような意見が多数寄せられました(一部抜粋・加工)。
「組織運営に苦労しているなかで、どこに重点を置くべきかが明確になった。自分の中のモヤモヤを言語化してもらえ、すっきりとすると同時に確信が得られた。」 「今の組織文化では今後さらに厳しくなると感じており、何とかして変えなければならないと悩んでいたところに、非常にタイムリーな内容を聞くことができた。」 「外部環境の変化に対応するために何をすべきかを模索していたが、今回のセミナーがそのヒントとなった。内容が深く刺さった。」 |
これらの声から浮き彫りになったのは、多くの医療機関が組織内部に不安や不満を抱えているという現状です。具体的には、以下のような問題が見られます。
・組織全体に活気がなく、目標に対して前向きに取り組む姿勢が希薄である
・経営層と現場の間に歪みが生まれやすくなっている
・現場からの不満や対立が顕在化しつつある
・職員一人ひとりの意識が受動的になり、主体性ややる気が低下している
つまり、組織全体が「不健全な状態」にあるということです。組織文化を見直すことなく、このまま放置すれば、内部崩壊につながる可能性もあると感じています。
強くしなやかな組織文化を創ることの必要性
セミナーでは、以下の点についてお伝えしました。
1. 医療機関の組織課題は自然発生的に起きている
全国の医療機関では、経営者や現場の管理職が日々、組織運営の課題に直面しています。しかし、これらの問題は単に「人」や「組織」の質が低いから生じているのではなく、激しく複雑化する外部環境の変化の影響で自然発生的に引き起こされているものです。そして、この外部環境の変化は今後さらに悪化し、過去の人類が経験したことのないレベルに達しつつあります。
2. 従来のマネジメントでは限界がある
数値や成果、役割や責任を追求する従来型の「経営の論理」だけでは、変化の激しい現代に対応することは困難です。特に医療機関では、現場の「論理」や人の「感情」と向き合い、組織文化そのものを見直す必要があります。
3. 100年以上前の組織運営思想からの脱却
私たちがいま行っている組織運営の思想は、実は100年以上前に提唱された考え方がベースとなっています。経営者が一方的に目標や指示を示し、従業員がそれに従うというトップダウン型のマネジメントは、環境が比較的安定していた時代には機能しました。しかし、現代のように変化が激しく、予測が難しい時代には、その運営方法は時代遅れとなりつつあります。
そこで重要になるのが、組織運営の思想に以下の要素を取り入れることです。
- 目的の共有(共有ビジョン)
- 当事者意識(リーダーシップ)
- 協働と支え合い(コミュニティ)
このように、新たな組織文化を形成することで、強くしなやかな組織体質をつくり、変化に柔軟に対応できる病院経営が可能となります。
組織文化はどのようにして磨かれていくのか?
組織文化を変えることは簡単ではありません。なぜなら、それはこれまでの思想や価値観、行動を根本から見直し、変えていくことに他ならないからです。
経営幹部の信頼関係の質、経営幹部と現場との距離感、理念やビジョンに対する共感・共鳴度、管理職同士の絆と協働精神、全役職者の当事者意識、組織に対する愛着・帰属意識・・・、これらに共通するのは、目には見えない意識・感情です。
そのため、組織文化を育むには、行動や態度の源にある内面的な部分に着目し、丁寧に育んでいくアプローチが欠かせません。
そして、その活動に求められる共通点は、交流の場を設けてオープンに対話し、今起きていることやこれからの未来をどうしていきたいのかについて、様々な問いやワークを通して言語化し、それを実践して振り返るという機会を設けることにあります。
内面領域は、上から与える、指示して動かすという外発的アプローチでは磨かれません。これは、効率性という側面では効果があるものの、自発性、主体性、創造性といった人間が備える前向きな精神を抑制させてしまい、受身体質、やらされ意識を強化させるリスクも備えています。環境変化が緩やかな時代では、トップが中心となる外発的アプローチによる組織運営が効果を生み出しやすかったのですが、現代のような環境変化の激しい時代においては、従来型のマネジメントが通用しづらくなっています。
今後大切になってくることは、現場職員一人ひとりが、己の内側を見つめ、思考や意志を整え、未来を描いていくという内発的な気付き、発見を遂げていくプロセスです。少なくとも管理職以上には、そうした気付きや発見が得られるような機会を定期的に設けていかないといけないでしょう。
これを可能にするためには、組織が定期的にリーダーを集め、立ち止まって己を見つめたり、リーダー同士で対話したりして、一人ひとりの内側のエネルギーを整え、育む場が不可欠となります。このような場づくりを通して目標や事業計画を作成すると、リーダーは志を持ってチャレンジに踏み込み、多くの職員を力づけ、導いていくことが可能になります。
リーダーの意識改革を通して、組織全体の意識に火をつけ、環境変化に負けない組織体質を作ること、このような取り組みがこれからの病院運営に求められてくるでしょう。
1月16日(木)に開催する次回のセミナーでは、上記の考え方や進め方を具体的な事例を交えてご紹介します。
実際の事例を通じて、組織文化を変えるプロセスやリーダーの意識改革の重要性について、さらに深くお伝えする予定です。ご興味のある方は、ぜひご参加ください。
病院幹部のための組織開発講座 第19弾
『新年度に向けた組織文化の再構築(2)』
ミライバ組織開発ラジオ
好きな時間に気軽に聴いて学べる音声番組です!
組織開発・人材開発の株式会社ミライバから、 江畑直樹と田中梨央がお届けする音声番組『ミライバ組織開発ラジオ』です。
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組織開発というアプローチ
- 医療経営の未来を支える組織文化
- リーダーを本気で育てる病院が増加している
- 医療業界に組織変革の時代が到来する~医療マネジメント学会、日本病院協会のランチョンセミナーを経て~
- 組織内の分断が進む時代に求められる病院の組織づくり
- 病院内部をいかに立て直すか ~新年度を迎えるにあたって~
- 新年度からはじめる組織改革
- 病院の組織に未来はあるのか?/組織開発のアプローチ
- 生き生きとした職場を築くための鍵
- 人づくりは「環境」が鍵を握る
- 長引くコロナ禍による医療現場の士気低迷の後遺症をどう脱却するか?
- あなたが求めているリーダーシップ研修はどのレベル?
- 新年度から「力強く前進の流れを創り出す」
- 成果を出すために創意工夫を凝らす
- 管理職の志に火をつけ、部署の活動力を高める「効果的な」目標管理制度とは何か?
- 病院組織に「生気」を取り戻すにはどうすればよいのか?
- 事業計画と目標は、事業の進化と人材の団結・成長を生み出す鍵となるか?
- これからどのようにして病院組織の士気を高め、リーダー人材を育てるか?
- 管理職、監督職のポテンシャルを引き出す
- ファミリー経営の「強み」を活かす
- 管理職なら誰もが直面する“自己超越”という壁
- 管理職の主体性・リーダーシップをいかに高めるか
- 戦略・目標を実現するための組織づくり
本稿の執筆者
江畑直樹(えばた なおき)
株式会社ミライバ 取締役
2003年日本経営入社。主に医療機関、福祉施設の組織創りや幹部・管理職・監督職の研修に従事。2018年に株式会社ミライバを設立し、組織開発コンサルティングや人材開発研修の支援を行う。成人発達理論、学習する組織、U理論、インテグラル理論、NVC等の理論をベースとし、首都大学東京専門職大学院や日本社会事業大学専門職大学院では、これら理論を軸とした組織創りやサービス開発等について看護管理者、福祉管理者を対象に授業を行う。
株式会社ミライバ/株式会社日本経営
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